ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
ギーシュとの決闘騒ぎ、放課後の短い説明、タバサとのレクチャーの約束……。
召喚されて以来、アバンは忙しくも新鮮な体験に満ちた、充実した時間を過ごしていた。
夕食のために厨房へ行けば、昼の決闘もどきの様子が伝わっていたらしく、使用人たちからもてはやされる。
特に、マルトーの賞賛ぶりはものすごいものだった。
「シエスタが言ってたぜ。お前、メイジの作ったゴーレムを槍で斬ったり、殴って壊したりしたのか?」
「ええ、まあ。ギーシュくんへのレクチャーの一環でして、決して乱暴をしようと思ったわけではないンですが」
アバンは自慢げというよりは、むしろきまり悪そうにそう答える。
「とんでもないやつだな! シエスタは魔法も使ってなかったって言ってたが、本当かい?」
「魔法、ですか? ええと……、はい。使っていませんね」
アバンは記憶を手繰って、首肯した。
「お貸しいただいた調理用品一式を使った、料理の魔法以外はですが。お礼に皆さんの分のフィナンシェもと思ったンですが、作っている時間がありませんで。申し訳ありませんが、またいずれ……」
「どこまでも礼儀正しいやつだな! そんなこと気にするな。それより、魔法を使ってないってんだったら、俺にもそんなことができるようになるのかい?」
「モチロンです。マルトーさんは体格もいいですし、訓練次第で青銅や岩くらいなら問題なく切れるようになることでしょう」
「本当か! ぜひ教えてくれよ!」
「訓練メニューを今度、まとめてきましょうか。ですが、言うまでもなく、訓練で身に着けた力というのはメイジと喧嘩をするためのものではありません。自分の身や信念や、大切な何かを守るため。いくら強くなっても決してみだりに人を傷つけるのに用いたりしないでください。それは、自分の身の破滅にもつながるでしょう」
ぴっと指を立てて、そう釘を刺す。
彼がそんなことをするとは思わないが、貴族を毛嫌いしているふうでもある。
万が一にもなまじの力を身に着けて増長したり、暴走したりすることだけはないようにという思いからだった。
力だけ与えて心を伝えないのは教育ではない。
それは、性質の悪い子供に刃物を配って回るようなものだ。
「私の尊敬する、ある老師は言っておられました。『武道は勝つために励むのではなく、己に負けぬためである』と。もし、私の教えを実践されるのであれば、それによって自分も周囲の人々も幸せになり、余裕を持った人生を送れるようになることを願っています」
マルトーは感極まった様子でアバンを称えたり、達人は誇らないものだと言って厨房中のコックに唱和させたりと、忙しかった。
アバンは、あまりもてはやされ過ぎるのに苦笑していたが。
シエスタはなどはうっとりした面持ちで見つめてきたりしたので、レディーに対しては紳士的に応対しつつも、妻帯者であることだけは明らかにしておいた。
夕食後は、今日の活動を終える前に学院長室へ向かい、オスマンに昼間の決闘騒ぎのお詫びを伝えた。
レクチャーの最中に『風』の塔の外壁にゴーレムを投げつけたりもしたので、もしかしたら学院の建物を、少し破損させてしまったかもしれないし。
オスマンは謝罪に対しては、そんなことは気にしなくていい、外壁の破損などは『錬金』で埋めるだけで済む、バカな生徒が迷惑をかけてすまなかったと笑って流したが、その後に少し真面目な顔になって、君は何者なのかというようなことを尋ねてきた。
どうやら遠隔視のできるマジックアイテムで、コルベール教諭と共に決闘の様子を見ていたらしい。
(またですか……)
おかげで、ついさっきルイズとタバサにしたような説明をもう一度繰り返させられる羽目になり、アバンは少し疲れた思いだった。
幸いオスマンは(なるほど、概ねコルベール君の予想に反しておらんし嘘はあるまい)と判断してすんなり納得してくれたので、そう長く拘束されることにはならなかったが。
ともあれ、そうしてようやく召喚二日目の、長い一日が終わったのだった。
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翌日も、アバンは精力的に動き回った。
約束した家事雑用をこなし、様々な授業を熱心に聞く。
水からワインを作り出す演示や、秘薬を調合して特殊なポーションを作り出す手順の講義。
火球を出したり、空中に物を浮かべたり、それを窓の外に飛ばして使い魔に取りに行かせたりする実践演習。
(おお、秘薬ですか。私も、いろいろとお勉強して作ってみたいですねぇ)
どの授業も興味深くためになるものだったが、特に、水からワインを作ったのには目を丸くした。
「……なんと。魔法で飲食物を作れるとは……。するとハルケギニアでは、ワインはメイジが作るのですかね?」
「そうじゃないわ。『錬金』もそうだけど、魔法で作ったものにはどうしても不純物が混じるのよ。メイジの腕前にもよるけど、ちゃんとした食材から作ったものに比べたら大概ひどい味よ。そんなものを普段から口にするのは貧しい平民くらいのものね。時間と手間をかけて作った本物よりは、腕の悪いメイジが『錬金』で安い食材を変化させた紛い物の方が安いから」
「なるほど……。それにしても、いざとなれば土や水からでも滋養が得られるというのは、すごいものですねえ。人々が、飢えて死ぬ心配をしなくても済むわけですから……」
そんなふうにルイズに教えてもらったりしながら、この世界の魔法についての知識を深めていく。
(説明が理路整然としていて明瞭だ。知識がしっかりと頭の中で整理されている証拠。少し意固地なところもあるが、勉強熱心で頭のいい、秀才的な子だといえるか)
ついでに、ルイズに内心でそんな評価を与えたりもした。
「……ところで、話は変わるのですが。あのタバサという子は、何系統かわかりますか。メイジとしてのランクは?」
そう聞かれたルイズは、記憶を手繰る。
「確か、系統は『風』だったと思うわ。二つ名は『雪風』だったから、『水』も得意なんじゃないかしら。ランクは知らないけど、一年の頃にライン・クラスのヴィリエと決闘をして勝ったらしいから、あいつと同じラインか、もしかしたらトライアングルかも」
二年次では、まだ生徒の多くはドット、よくてラインであり、トライアングルは稀だ。
トライアングルまで行くと、メイジとしてのランクだけなら大方の教師と同等になる。
当然ながら授業でもトライアングル・スペルの詠唱など求められないので、ルイズは同級生らのランクについてすべては把握していない。
既にライン以上に到達している生徒は、ヴィリエもそうであるようによく誇らしげに自分のランクをひけらかしたりするのだが、タバサは非社交的で無口な性質らしく、そういう話をしているところを見たことはない。
というか、キュルケ以外、ほとんど誰とも話しているところを見た覚えがない。
「そんなことを聞くってことは、あの子とした今夜の約束のことを気にしてるのね?」
「モチロンです。お引き受けしたからには、いいレクチャーができるよう、いろいろと準備をしておきませんと」
アバンは昨日タバサからギーシュが受けたのと同じようなレクチャーをお願いしたいと言われて、それを承諾しているのだ。
約束した日時は、本日の夜。
タバサは早いほどいいということだったが、さすがに今日これからでは急すぎるし、他にやることもあるので、では翌日、授業が終わったら……ということで合意したのである。
「……まあ、ギーシュみたいなのが相手ならともかく。頼まれたのに昨日の料理ついでみたいなレクチャーとやらじゃ、タバサに失礼よね」
それに、さすがにタバサが相手では、そんなことをしている余裕はないだろう。
ドットとラインでは大きな開きがある。
ましてトライアングルだとしたら、比較にもならない。
昨日のアバンはドットのメイジを片手間のように負かしたが、タバサにだってギーシュを負かすのは同じくらい簡単なことのはずだ。
ルイズとしては、内容によってはアバンがタバサにレクチャーできることもあるのかもしれないが、もし本気で決闘したなら、さすがにアバンの側が勝てるとは思っていなかった。
魔法も使えるらしいが、戦いには使っていないようだし、ほぼ平民の戦士と同じだろう。
あり得ないくらいにものすごいパワーや見事な身のこなしをもっていることは確かだし、すごいと認めている。
だがそれでも、平民では高位のメイジには勝てない。
ただ単にルイズがこの世界の常識を妄信しているだけ、というわけではない。
彼女なりに、そう判断する理由があるのだ。
(そりゃあ、ギーシュのゴーレム程度の相手なら、平民の戦士でも同じ土俵で斬り合うことくらいはできるだろうけど……)
今度のタバサは、『風』のメイジ。
この系統は、こと戦闘においては最強とも言われている。
なぜならば、『風』は敵からの攻撃も敵自身もまとめて薙ぎ払う、強大な盾と矛の役割を兼ねるからだ。
ワルキューレの攻撃ならかわせても、広範囲を一気に薙ぎ払う不可視の風はかわせない。
ライン・クラス以上のメイジともなれば、人間の体など『ウィンド・ブレイク』一発で簡単に、何メイルも後方まで吹き飛ばせる。
いくらアバンにパワーがあっても接近さえままならないだろうし、剣や拳の届く間合いにそもそも近づけないというのでは、ただの戦士にはどうにもできまい。
吹き飛ばされて倒れたところに『エア・ハンマー』や『エア・カッター』で追撃をかけられれば、手も足も出ずに完封されてしまうはず。
昨日のように石礫か何かを投げつけたところで、それも一緒に吹き飛ばされてしまうだけだし……。
もちろん、他の属性のメイジにならランクが高くても勝てる、というものではない。
たとえば『火』であれば、熱波はかわしようがないし、ホーミングして敵を狙う『フレイム・ボール』のような魔法もある。
『水』なら、空気中から集めた水球の中に閉じ込めたり、『スリープ・クラウド』で眠らせたり。
ギーシュと同じ『土』のメイジでも、ラインになれば身の丈数メイル、トライアングルともなれば十メイルを優に越えるほどの大きさのゴーレムを作ることが可能になる。
さすがにそんなサイズのゴーレム相手には、いくら馬鹿力でも生身の人間では到底対抗できまい。
高ランクのメイジは、ドットとはまるで別物なのだ。
(……ま。タバサもまさか、本気でやるつもりなんかないでしょ)
アバンもそれなりに強者なのであれば、真剣勝負とまでいかなくても、戦えば相手の実力くらいは感じ取れるのだろうし。
ランクの高いメイジの強さを実感したことであまりレクチャーがどうとか大きなことを言わないようになれば、いい薬というものだろう。
それにしても、『風』のメイジであるタバサが、一体なんだって武器や素手を使って戦うのを見て、自分もレクチャーを受けたいなどと言い出したのだろうか。
あまり見事な戦いぶりだったから強さにあこがれて、とかは、まあ男の子なら、わからないでもないが……。
(何を考えてるのか、よくわからない子だし。人それぞれなんだから、詮索しても仕方ないわ)
ルイズはそう結論すると、いらぬ考えを振り払って、授業に注意を戻した。
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「『初学者のための教養魔法大全』ですか。これがよさそうですかね?」
昼休みなど、授業の合間の空き時間を利用して、アバンは図書館へ向かった。
例によって司書の女性に挨拶をすると自分の求めている本のありそうな場所を聞いて、そこに向かう。
今度の本は魔法関係ということもあって、比較的閲覧しやすい下の方の棚に置いてあった。
「『風』系統……っと。ああ、一般的な呪文のランク別一覧が乗っていますね」
それに、ランクによってメイジの力がどう変わるかの解説もある。
さすがに初学者向けだけあって基本的なところから教えてくれているようで、今の自分にはありがたい。
アバンはさっそく、今夜のレクチャーに向けた予習を始めた。
初等的な本くらいなら、もう十分に読み通せるようになっている。
昨日のギーシュとの一件の折には、何も調べておく時間はなかったので概ねアドリブでレクチャーをしたが。
今回は事前にわかっているのだから、彼女に何ができて、何を教えたらよさそうか、予習くらいはしていくのが当然だ。
もちろん、一般的な教養書を読んだくらいで、彼女の手の内がわかった気になるつもりはない。
これはあくまでも、「魔法使いと戦うのなら最低限一般的な魔法使い系呪文の名前や大まかな性質くらいは事前に知っておくべき」という程度のレベルの話である。
(『風』系統の呪文の多くは不可視で、敵を吹き飛ばし、その性質は防御にも活かせる……。
アバンは熱心に本を読み込んでいった。
決闘までに、この本の内容を丸暗記するくらいの時間は、まだ十分にある――。