ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
図書館での勉強も終わり、放課後になる。
夕食を終え、夜も更けて、約束したレクチャーの時間が迫ってきていた。
「では。そろそろ、行ってみるとしましょうかっ」
アバンは軽く体をほぐすと、待ち合わせ場所に向かうことにした。
昨日、ギーシュとの一件のあった、学院の中庭だ。
ルイズも立ち会いということで、また自分の使い魔が心配だからということで、同行している。
現地に到着すると、タバサはもう既に待機していた。
彼女の後ろに座っている青白い体色の巨体を見て、アバンはおぉ、と声を上げた。
全長は、六メートルほどもあろうか。
「あなたの使い魔ですね。ドラゴンの一種ですか?」
知識にはない生物だったが、全体的なフォルムからみてそう判断する。
自分の世界の一般的なドラゴンと比べると小柄だ。
そういう種なだけかもしれないが、アバンは感じられる生気や雰囲気などから、まだ若く未成熟な個体なのではないかと考えた。
「シルフィード。
タバサはこくりと頷いて、そう答える。
前の部分が名前で、後ろの部分が種族名だろう。
「私のいた場所では、こういうドラゴンは見ませんでしたね」
「惚れ惚れするでしょ? 風竜はドラゴンの中でも一番速く空を飛べるのよ。まだ幼生だけど、『火』のサラマンダーにも並ぶ、『風』のメイジにとっては最高の使い魔ね!」
そう言いながらシルフィードの後ろから出てきたのは、キュルケだった。
「何が並ぶよ。『火』で最高の使い魔は、
ルイズはそう口を挟んで、じろっと彼女を睨む。
「なんで、あんたがここにいるのよ?」
「立ち会いに決まってるでしょ。あなたと同じよ」
実際のところは野次馬である。
タバサが使い魔のドラゴンに乗って中庭に降り立ったのにたまたま気が付き、何してるのかと声をかけに行ったところ、これからアバンのレクチャーを受けるというから、面白そうだから見させてと言って断られなかった。
それだけの話だ。
「私としましては、見学は大歓迎です。どーぞどーぞ。お気に召されたら、指導の用命をご検討ください。さて、それでは始めましょうか?」
アバンはキュルケにそう言ってにかっと笑うと、タバサの方に向き直る。
タバサは首を横に振ると、シルフィードを杖で指し示した。
「場所を変える。乗って」
・
・
・
「ここで」
そう言ってタバサが降り立ったのは、学院から少し離れたところにある、開けた広場のような場所だった。
ここなら、誰かに見られて要らぬ注目を浴びたり、邪魔が入ったりする心配はない。
「ふむ。遮蔽物などはないようですね」
ではそういったものの利用法に関するレクチャーはまたの機会に、などと呟きながら、アバンはシルフィードの背から降りて、距離を取ってタバサと向かい合う。
その距離は、二十メイル足らずといったところか。
剣士が一気に切り込むには遠く、しかしメイジにとっても魔法で確実に相手を捉えるには遠い。
お互いに相手の出方を伺いながら勝負の方針を決めていくにはいい間合いだ。
「ギーシュくんが受けたのと同じようなレクチャーを、ということでしたが。つまり、実戦形式でやりたいということでいいのですかね?」
タバサはこくりと頷いた。
「でも、命のやり取りまでするつもりはない」
頭に血が上り、自分の負けなど考えてもいなかったギーシュは、命をかけた決闘だなどと言っていたが。
今の時代の「決闘」は、建前はともかくとしても、実際の内容はそんなものではない。
止めを刺すのが貴族の作法だなどと言われた英傑豪雄の時代は、歴史の彼方に消えて久しい。
互いに致死性の低い呪文を使用し合い、傷の一つでもついたらそこで立ち会いが勝負ありと宣言するのが、現代においては一般的だ。
たまに腕の一本ぐらいは折れるが、めったなことでは死人は出ない。
現代においては、相手の杖を落とさせることが最も優雅な勝ち方だとされている。
杖がなければ呪文は詠唱できないので、それをもって「メイジの命を失った」とするわけだ。
彼女はそういったことをごく簡潔にアバンに説明し、その程度の「決闘」だと思ってやってもらえればいい、と伝える。
「お互いの合意のもとで行う。あなたの側がもう無理だと思ったら、それで終わりにしてもらっていい。わたしが降参した場合も、そこまでで終わりにしてもらいたい」
タバサとしては、アバンのレクチャーや訓練には大いに興味はあるものの、明日以降に支障が出るような負傷や過度の消耗は困るのだった。
いつ何時、「任務」が入るかもわからない身だから。
ルイズは、アバンがあまり危険な目にあう恐れはなさそうだと思って、少しほっとした。
一方キュルケは、やや意外そうに、そんなことを言い出した親友の方を見やる。
(そんな条件をつけたってことは、負ける場合もあるって考えなわけよね?)
自分と同じトライアングル・クラスで、確かな腕利きでもある彼女が、武器や素手で戦う相手に対してそれほどの評価を与えるとは。
いくら桁外れのパワーでも、最初から十分な距離を置いて近付かせずに戦えばある程度以上の腕前のメイジなら完封できそうに思えるが、タバサは別の見方をしているらしい。
(……面白そうじゃないの)
俄然、この勝負の行方やアバンという男に興味がわいてきた。
「なるほど。私もこちらの魔法にはまだまだ詳しくないので、レクチャーを受けさせていただく気でおりますし。では、双方の合意が得られたのなら、今夜のところはそのような形でいきましょうかっ!」
アバンはにかっと笑ってそう言うと、快く頷く。
「それじゃ、舞台の準備をしましょ」
合意が取れたとみて、キュルケは杖を掲げると、夜空に小さな炎の球を花火のように何発も打ち上げる。
それらが広場を、真昼のように明るく照らし出した。
一種の照明魔法である。
二つの月のおかげで夜間とはいえ視界に困るほどではないが、とはいえ対戦者も見物人も、明るいに越したことはないだろう。
「いや~、お世話になります。便利なものですねぇ~」
アバンは興味深そうに、上空で輝き続ける炎の球を観察した。
さっき読んだ本にもこの呪文のことは書いてあったが、本で読むのと実際に見るのとではまた別だ。
(
他にも、『水』の系統には『暗視』という、術者に暗闇での視界を与える呪文があるらしい。
そちらのほうは明かりで敵に気取られないので奇襲に向き、自分だけが有利な状況を容易に作り出せるだろう。
その反面、自分にしか効果が及ばず仲間に恩恵を与えることができないので、集団行動には向いていない。
そんなふうにいろいろと考えていると、タバサが声をかけてきた。
「始めたい」
「おっと、これは失礼を」
会釈をして、あらためて彼女と向き合う。
アバンは腰に剣をさげているがまだ抜いておらず、タバサも杖は片手で無造作に握ったまま、構えてはいない。
「合図を」
タバサにそう言われて、ルイズは慌てて手を掲げた。
いちおうは立ち会いということになっているので、レクチャーの形式が「決闘」なら、開始の合図は彼女の役目だ。
「それじゃ……始めっ!」
開始の合図があっても、アバンは動かない。
二十メートル弱の距離を置いて、まずは相手の出方を伺うことにする。
一方でタバサの側は、合図と同時に即座に動いた。
といっても、その場に立ったままで、動きも最低限。
遠目にはどちらも、ほとんど動いていないように見える。
「デル・ウィンデ」
小声で短く呟くようにして呪文を完成させ、何気ない仕草で杖を振る。
これから呪文を使うぞとわざわざ宣言したり、大仰な動きであからさまに放ったりするのは素人だ。
不意打ちが可能な状況なら、気取られないよう唱える。
使ったのは、『エア・カッター』のスペル。
不可視の風の刃を放つ、風系統の基本的な攻撃呪文だ。
彼女が最も得意とするのは『風』と『水』を組み合わせた氷の矢弾による攻撃だが、昨日のギーシュとの対戦における彼の動きからみてこの間合いでは難なくかわされ、精神力の無駄遣いとなる。
広範囲を薙ぎ払う『ウィンド・ブレイク』は、距離が開き過ぎていると拡散し、十分な効果が期待できない。
したがって、まずは悟られにくくかわしにくい不可視の風の刃による攻撃を選択したのだ。
威力こそ多少の切り傷を負わせる程度に加減されているが、速度は全力で放つときと変わらない。
杖の周囲に風の流れが生じ、形成された不可視の刃がアバンに向けて襲い掛かる。
タバサの動向に注意を払っていたアバンは、彼女が呪文を唱え始めたことにはすぐに気が付いた。
目と耳を研ぎ澄ませ、先ほど読んで暗記した本の知識から、彼女の唱えたスペルが何かを読み取ろうとする。
しかし……、判別できない。
(……唇の動きを見せないように小さく唱え、最小限の時間で完成させている。昨日のギーシュのような見栄えを気にした貴族のものではない。実戦的な詠唱法だ)
さすがに初学者のための教本には、こんな技術のことは書かれていなかった。
しかし、だからといって教本から得た知識が役立たずなわけではない。
呪文を唱えても目に見える現象は生じず、昨日のギーシュが使った『レビテーション』のように、体に直接影響が及ぼされてくるでもない。
そこから考えて、その多くが不可視だという、『風』の攻撃呪文の何かを使ったと推測できる。
「ほっ、……と」
アバンは
高く跳び過ぎて隙を作らないよう、それでいて余裕をもって確実に攻撃を回避できるような調整。
数瞬後、風の流れを感じたと思った直後に着弾音がして、自分のいたあたりの地面に剣で斬り付けたような浅い亀裂が入った。
「なるほど。これが『エア・カッター』ですか」
そう独り言ちたアバンを見ても、タバサは動じない。
もとより、彼がこれで決まるような相手だったなら、態々教わるほどのことはないのだ。
続けて攻撃を放つ。
「ラナ・デル・ウィンデ」
今度は、『エア・ハンマー』のスペル。
空気を固めた不可視の槌を放ち、敵を殴り飛ばす呪文だ。
放った後は回避されることを見越して、着弾を見届けないうちに、立て続けに次の呪文の詠唱に入る。
「おっとと」
アバンはしばらくの間、タバサから放たれる不可視の刃や槌を、横に後ろに跳んで回避し続けた。
途中、二度ほど拾っておいた石礫を投げつけてみたが、あっさりと避けられる。
(……強い。ギーシュよりもだいぶ年下のようだが、既に幾度もの実戦を経験した者の動きだ)
この子はどういった経歴の持ち主なのか、なぜ自分のレクチャーを希望してきたのか。
アバンは攻撃を避けながら、あれこれと思案を巡らせた。
「さっきから、防戦一方じゃないの」
ルイズははらはらしながら、戦いの行方を見守っている。
「もう! ケガをしないうちに、やめとけばいいのに……」
「そう思うの?」
キュルケは少し肩をすくめた。
「彼、ぜんぜん危なげなんかないわよ。むしろ、どんどん余裕になってきてるみたい」
タバサのように命懸けの実戦を経験したことこそないが、キュルケは幼少期から軍人としての教育を受けているので、ルイズに比べれば戦況を見る目はかなりある。
逆にタバサの方は命懸けの実戦経験を積んでいるがそれはここ数年以内のことであって、幼少期にはどちらかといえば箱入り娘的な育ち方をしていたので、正規の軍人教育などは受けていない。
唯一戦い方の指導を受けた経験のある相手は平民の狩人で、それもごく短期間だけのことだった。
あとは書物から学び、実戦を通して鍛えている。
(あの子は軍人の家系ってわけじゃなさそうだし。指導教官のいない子があんな動き方のできる達人を見たら、ご指導願いたくなるのもわからなくはないわね)
アバンは、最初こそ不慣れさもあってか、かなり大げさなかわし方をしていたが。
繰り返される攻撃に慣れてタイミングや範囲を見切ったのか、今では必要十分な動きで避けているのだ。
「でも、避けてるだけじゃジリ貧じゃないの。そのうちかわし損ねるわよ!」
「彼の体力や集中力と、自分の精神力と。どっちが尽きるのが先かっていうのは、あんまり分のいい賭けには思えないわね」
タバサも同じように分析していた。
(このまま続けていても、精神力が無駄になるだけ)
戦法を変える必要がある。
彼女はこれまでとは別の呪文を唱えると、その呪文を杖の中に待機させた状態で、ぴたりと攻撃を止めた。
そうしてひとつ息を吐いて、アバンの動きを待つ。
「どうしたのかしら……攻撃をやめたけど」
「たぶん、相手が焦れて距離を詰めてくるのを待つつもりね。自分にとって安全な距離は、相手にとっても安全な距離だから」
この間合いならアバンが投石で攻撃しても、タバサは魔法に頼らず余裕をもって回避できる。
つまり、彼女を仕留めるには距離を詰めるしかないのだ。
もしもアバン側が持久戦での消耗狙いで近づいてこないのなら、自分からじりじりと距離を詰めてもいい。
間合いを詰めれば詰めるほどに呪文の回避は困難になり、『ウィンド・ブレイク』のような呪文も十分な効果を発揮できるようになる。
回避困難な呪文で相手の体勢を崩させ、そこに追撃をかける狙いだ。
もちろん、その分だけアバン側からの投石や踏み込んでの接近戦のリスクも増すわけだが、ノーリスクでの勝利があり得ない相手なら、ある程度の危険は覚悟するしかない。
そんなタバサの狙いは、もちろん、アバンも理解している。
「いや~、いろいろな呪文を見せていただいて参考になりました。この距離でのレクチャーが十分でしたら、そろそろ近付いてみるとしましょうかっ」
にかっと笑ってそう言うと、剣も抜かずにのんびり歩いて、タバサとの距離をゆるゆると詰め始めた。
「あいつ、何を暢気に歩いてるのよ。お遊び気分なんじゃないでしょうね!」
いらいらした様子のルイズを、キュルケは鼻で笑う。
「素人ね、ルイズ。剣士だからって、せかせか走って間合いを詰めればいいってもんじゃないわよ」
「どういうことよ?」
「勢いの付いた体は急に止まれないし、小回りが利かなくなるでしょう。後先考えずに全力で駆け出して、もしも相手に斬り込むより先に呪文が飛んできたら、それで一巻の終わりじゃないの」
そう指摘して、ルイズを黙らせた。
「もちろん、最後の最後には走らなきゃダメよ。警戒しながら少しずつ間合いを詰めて、ここからなら相手が呪文を完成させるより早く踏み込めると確信したなら、その瞬間に一気に駆け出すの」
サバンナでライオンがガゼルのような草食獣ににじりより、捕らえられると確信した瞬間に加速して襲い掛かるようなものだ。
アバンは、まだタバサを確実に捕らえられる間合いに入っていない、この段階から駆け出すのは早すぎると判断しているのだろう。
「タバサの側は彼を確実に捉えられると判断した瞬間に、先に呪文を放つ狙い。もし見誤ってかわされたら、万事休す。次弾が間に合わずに斬り込まれる。だから、お互いの間合いの見切りの勝負になるわけよ」
キュルケは解説を続けながらも、この勝負はまずタバサの勝ちだろうと判断していた。
タバサはこれから呪文を詠唱するのではなく、既に詠唱を終えて杖の中に待機させているのだから。
その呪文が何であるのかまではキュルケにも確認できなかったが、おそらくは広範囲を薙ぎ払って突進してくる敵も放たれた矢弾もまとめて吹っ飛ばせる呪文、『ウィンド・ブレイク』だろう。
待機中の呪文はほんのわずかな杖の動きだけで、一瞬で発動する。
彼がどんなに速くても、それより先には斬り込めまい。
今のタバサの側は、アバンが駆け出したのを確認してから呪文を解き放っても、十分に間に合う状況だ。
(まあ、あたしやタバサはともかく、学院のメイジのほとんどにはたぶん勝てるわね。剣士としては、間違いなく規格外の使い手だわ)
キュルケは早くも、そんな風に考え始めていたが。
手合わせの当事者であるタバサは、まだまだ予断の許される状況にはない。
「…………」
どんな急な動きに出るかもしれない足元と、いつ飛び道具を放ってくるかもしれない手元に警戒しながら、接近してくるアバンとの間合いを慎重に測っていく。
そして、時は来た。
(……もらった)
杖を薙ぐように振るい、事前に待機させておいた『ウィンド・ブレイク』を解き放つ。
放っただけで安心したりせず、直ちに追撃のための呪文詠唱に移る。
常人には到底かわせる距離ではないが、彼ならば横方向、あるいは縦方向への跳躍による回避もありうる。
それでも、この呪文の効果範囲から逃れるには相当大きく動かねばならず、体勢を崩すことは必定。
そこへ追撃をかけるのだ。
迫りくる不可視の風に気付いていないのか、アバンは避けようともしない。
だが、『ウィンド・ブレイク』が今まさに彼に襲い掛かろうとした、その時。
「はあっ!」
アバンは気合いと共に、腰に提げた剣を鞘ごと、薙ぎ払うように振るった。
眼前に迫っていた強烈な突風がその斬撃によって二つに切り裂かれ、彼の体を逸れて後方に流れていく。
「……!?」
予想もしなかった事態に、タバサは驚愕した。
(わたしの風を、切った?)
それも、魔法も使わずに、鞘に納めたままの剣を振るっただけで?
そんな馬鹿な……。
アバンは、一瞬頭の中が真っ白になって固まってしまったタバサに向けて、真っ直ぐに突っ込んでいく。
はっと我に返ったタバサは、咄嗟に後方に跳びながら唱えていた呪文を完成させ、解き放った。
水が一つ、そして風が二つ。
二つの系統が絡み合い、トライアングル・スペルが完成する。
空気中の水蒸気が凍り付いて何十本もの氷柱の矢となり、四方八方から襲い掛かる。
タバサの最も得意とする攻撃呪文、『ウィンディ・アイシクル』だ。
致命傷を避けるために矢の先を丸めて氷の礫にしているが、それでももろに受ければ全身に凍傷を伴う打撲傷を負い、普通の人間なら間違いなくダウンする。
しかし、アバンは前方に突っ込んでいくことで側面や後方からの礫の狙いを外させ、前方から迫る礫は立て続けに剣を振るって、すべて叩き落した。
「ひとまず、終わりにしましょう」
そのまま突進し、右手で鞘に納めたままの剣を振るう。
タバサは間一髪で魔法を唱え、バネ仕掛けの人形のように跳ねて、その攻撃をかわした。
しかし、そこにアバンの左手が伸び、彼女の襟首をつかんだ。
「ちょっと、失礼します」
そう断ってぐいと引き寄せ、彼女の小柄な体を抱えるようにして捕らえる。
タバサは一瞬、もがこうかとして……やめた。
青銅のゴーレムを殴り壊すような腕から逃げられるわけがない。
彼女は優しげに自分を見下ろすアバンの顔を見上げて、悔しそうに言った。
「……降参する」
アバンは、にかっと笑ってタバサの体を放し、頷いた。
「いやー。レディーにお怪我をさせずに済んでよかったですよ」