ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
明くる召喚四日目も、アバンは精力的に活動していた。
使い魔としての雑務を済ませ、授業を聴講して、図書館で様々な本を読む。
様々な物の制作作業も行った。
そして、放課後になる。
早速、タバサがとことこと、アバンの座っている席までやってきた。
キュルケも一緒だ。
友人の訓練が気になるのだろう。
周囲の取り巻きたちは適当にあしらって追い払ったようで、他に同行者はいない。
アバンは彼女らの方を見て、朗らかに笑った。
「まず、夕食を摂りましょう。その後に運動がてら、訓練のご相談をさせていただければ」
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夕食後、少し広い場所の方が都合がいいと言われたタバサは、自分とアバン、キュルケ、ルイズをシルフィードに乗せて、学院の外縁部に場所を変えた。
このあたりは、普段からあまり人がいない。
休み時間に学生たちがよく使う中庭などと比べて、距離が遠すぎるからだ。
ましてや夕食後の日も落ちた時間帯では、人影は皆無である。
昨日も中庭ではなく学院の外でのレクチャーを希望していたし、どうやらタバサは余人から無暗に注目されたくないらしい。
「さて、生徒になられるわけですから。お嫌でなければこれからは敬称は略しまして、タバサと呼ばせていただきますが」
「構わない」
アバンは頷いて、一つ咳払いをした。
「お教えしたいことは多々ありますが。タバサはまず、風や火を切るような技に興味があるということでしたね」
そう言いながら、自分の腰に提げた剣を取り外して、彼女に差し出す。
「試しにこれで、ちょっと私に打ち込んでみてください。現時点でのあなたの身体能力や、武器を使った近接戦の心得のほどを確かめておきたいので」
タバサは頷いて、杖を手近の壁に立てかけると、それを受け取った。
「……!」
予想よりずっと重くて受け取った手ががくっと落ち、鞘の先が地面につく。
それでも両手でぐっと力を籠めると、どうにか持ち上がった。
しかし、本当にただ持ち上がったというだけだ。
相当に力を込めてやっとの状態で、自在に振り回すことなどできそうになかった。
全長一メイル近い肉厚な刃の金属剣は、彼女の細腕には重すぎるのだろう。
「うーん、無理なようですね」
アバンは苦笑して、そうなるとサブウェポンの短剣でも渡して……と、考えたが。
それを口にするよりも先に、タバサの側が申し出てきた。
「もし、杖そのものを武器にしてもいいのなら、そうする。そのほうが、扱いにも慣れている」
「杖ですか。……なるほど」
アバンは少し考えて、頷いた。
自分たちの世界では魔法使いは呪文の使用自体に杖が必要というわけではないので、呪文の補助になるような杖ではなく護身用にナイフとか毒針とか、あるいは鞭やブーメランとかを持つことも、特に珍しくはない。
しかし、この世界のメイジは、呪文の詠唱に杖が必須らしい。
そうなると、魔法と武器を同時に併用して戦おうと思ったら基本的に片手に武器、もう片手に杖というスタイルになるだろう。
それでは扱いにくいので、杖に加えて武器も持つよりは杖自体を近接戦でも用いる方が、より合理的な選択かもしれない。
「そうですねえ。では、心得がおありでしたら、ひとまずそちらの方でやってみてください」
「わかった」
タバサは頷くと、剣を返却し、両手で杖を構え直す。
本来は近接戦用の武器として作られたものではないメイジの杖を接近戦で使うには、魔法の補助が必要だ。
彼女は呪文を唱えた。
「イル・ラナ・デル・ウィンデ……」
詠唱に従って、己の身長の丈を超える杖が、鋭い真空の竜巻を纏って光りだす。
(なるほど、これが『ブレイド』の呪文か)
杖に魔力を絡みつかせて刃を形成し、得意な系統によってその刃の種類が変わる接近戦用の呪文だと、教本には書いてあった。
タバサが使っているような長杖はもちろん、ルイズやキュルケが使っているワンドでも、ギーシュが使っている造花のような奇抜な杖でさえも、一時的に鋭い近接武器と化すらしい。
魔力には自信があるが腕力の方は、というメイジにとっては、最適な近接武器なのだろう。
(自分の杖に、一時的に『理力の杖』のような力を与える呪文だと考えるのがよさそうか)
もしくは、十年あまり前に戦ったあの『ベルクス』の一員、魔鎖のタークスが使っていた『凱輪』の方が、より近いかもしれない。
魔力によって鎖の先端から超高速で回転し続ける円輪状の真空波のようなものを生み出す魔鎖奥義で、タバサの杖が纏っている真空の竜巻と似た部分があった。
かの大魔王バーンの『光魔の杖』とも似た部分があるが、アバンは直接見たことはない。
彼がそんな分析をしている間に、タバサはその杖を槍のように構えた。
そのまま素早く飛び込んで、薙ぐように振るう。
「むっ……」
アバンはそれを鞘に納めたままの剣で受けたが、先ほど見た彼女の非力さに似合わない意外なほどに強い衝撃があって、少し驚いた。
(なるほど、岩を切り裂ける程度の威力はあるかもしれないな。ひのきの棒や棍棒などの木製の武器くらいなら、おそらく敵の体ごと両断できるのだろう)
もちろん、闘気などによる強化がなされていなければ、だが。
さすがにバスタードソードや魔法の盾やモーニングスターといった業物の武具を削り取ったあの『凱輪』ほどの破壊力はないが、それでもタバサの非力さから考えれば、これだけの威力が出せるのはなかなかである。
アバンは受け止めた状態からぐっと力を込めてタバサを押し戻し、仕切り直させた。
「そのまま続けてください。遠慮はいりません」
そうして、一心に打ち込み続ける彼女の武器の構え方、足運びや振り、突きなどの基本動作をチェックする。
普通の打ち込み方は一通り見た、と思ったあたりで、指示を変えた。
「もし、他の魔法を併用する近接戦の戦術があれば、それも試してみてくださいね」
タバサは即座に、言われた通り、他の魔法も使用し始めた。
体を軽くする『ライトネス』の呪文をかけて素早く相手の懐に飛び込もうとしたり、アクロバティックな動きを織り交ぜて幻惑しようとしたりする。
「いい動きですね。あなたが近接戦闘についても、しっかりと学んでいるのがわかりますよ」
そう言いながらも、アバンはそれらの攻撃をすべてかわすか、鞘に納めたままの剣で受け流していた。
タバサの『ライトネス』を用いた素早い駆動を見て、(
「……よし」
アバンは一つ頷くと、打ち合わせた鞘に少し強めに力を込めて、彼女を押し返した。
「ここまでにしましょう。お疲れさまでした」
そう言って会釈をし、剣を腰に戻して、あらかじめ用意しておいた冷たい薬草茶入りの水筒と砂糖菓子をタバサに差し出す。
彼女の側も杖をおさめると、会釈を返してそれを受け取った。
横の方で見学していたルイズとキュルケも、終わったとみて近付いてくる。
「それでは、今後の訓練の方針ですが」
アバンがぴっと指を立ててそう切り出すと、全員の注目が集まった。
「当面は、基礎体力作りのトレーニングを中心にしましょう。特に時間は指定しませンので、空いた時間を使って自主的に行えば大丈夫です。毎日続けるように。トレーニングのメニューはこちらのノートにまとめておきましたので、またご確認ください」
「もったいぶらないで、早く技を教えてあげればいいんじゃないの?」
ルイズがそう口を挟んだが、アバンは首を横に振る。
「あの技は概ねは技術の問題ではありますが、そうは言っても基礎身体能力はある程度必要ですし、最低限あればそれでいいというものでもありません。高ければ高いほどよいのです」
そう言って、咳払いをした。
「それは、あの技だけに限りません。先ほどの『ブレイド』はなかなかの切れ味でしたが、タバサは私と打ち合うたびに押し返されていました。ベースとなる膂力が低いからです。肉体的に鍛えられていないメイジでもある程度までは近接戦で渡り合えるという点では素晴らしい魔法だし、動きの補助をする『ライトネス』もそうでしょう。ですが、そうした優秀な魔法に依存するあまり、基礎的な身体能力が十分に鍛えられていないのです」
それを聞いて、タバサがはっとしたような顔になる。
「別に、それが間違った方針だとは思いません。体を鍛え技術を磨くのには時間がかかるもの。メイジにとって、近接戦の技巧など所詮は余技の類、そのために多大な時間や労力を割くのは非効率である。魔法に頼ればある程度以上は接近戦でも戦えるのだからそれで十分だろう……、というのは、確かに、一般的には正論でしょう」
そう言いながらルイズの方をちらっと見て、それから言葉を続けた。
「ですが、それは目指す頂の高さによる。目的が非常時の護身だけならよいですが、魔法だけを鍛えても届かない高みを目指したい、そのために武技についても学びたいというのであれば、基礎体力が必要です。『ブレイド』や『ライトネス』を弱点を補うための魔法から、強みをより伸ばすための魔法に変えなくてはならないのです」
「…………」
タバサは真剣な目でアバンの顔を見つめ、話に耳を傾ける。
「あなただけのことではありません。私は弟子の志望が戦士であれ、魔法使いであれ、基礎体力作りのメニューは必ず入れるようにしています。遠回りに思えるかもしれませんが、騙されたと思ってやってごらんなさい」
「わかった」
タバサはこくりと頷くと、アバンが差し出したノートを大事そうに受け取った。
「毎日、続ける。約束する」
「オーケーです。ベリーベリーグッドですねぇ~」
アバンはにっこりと笑って、頷きを返す。
ただ、その心の中には、彼女が素直に受け入れてくれたことへの満足以外の感情もあった。
(……この子は、ただの学生としてみるなら、もう十分に強いはず)
なのになぜ、そんなに力を求めたがるのだろうか。
同じ学生であるルイズやキュルケは、あまり気乗りもしない様子だというのに。
(少し気を配っておくべきか。力を悪用するような子ではない、とは思うが……)
疑念はあるものの、今の段階ではまだ、彼女にそれを問い質すべきではないだろう。
まだ人柄などについてもよくわかっていない今の段階で不躾に内面的な事情に踏み込んでは、心に壁を作られてしまうだけかもしれない。
後々、訓練などで接しながら様子をみていこうと、心に留めておく。
「体力づくりをしながら武器の扱いの訓練も、少しずつ進めていきましょう。毎日は難しいですが、学校がお休みの日にでも、指導をさせていただきますよ」
「なら、明日がそう」
ここハルケギニアでは、八日に一度、『虚無の曜日』と呼ばれる休日がやってくる。
ちょうど明日が、その日にあたるのだ。
「おや、そうでしたか。それでは……」
アバンは少し考えた。
「実戦では、杖を武器にすることがもちろんメインになるでしょうが、サブウェポンの扱いも少し鍛えておくと、隠し玉や非常時の頼みの綱として有用です。あなたは、何かそういったものを持っていますか?」
タバサは首を横に振った。
杖以外の武器を携帯するメイジはあまりいない。
アバンは頷く。
「では、明日はまず、あなたに合う武器を用意するところからにしましょう。当面はギーシュくんに頼んでみて、それで間に合わせるという手もありますが……」
「なまくら」
「……ですね。適当なもので間に合わせるよりも、早めにいいものを用意して手に馴染ませた方がいいでしょう」
そう言って苦笑する。
「それでは明日は、どこか手近の町へ、あなたに合いそうな武器を見繕いに行きましょうかっ!」
まだ、学院外の町や村へは行ったことがないから、自分自身が行ってみたいというのもあるのだが。
少し打ち合わせをした結果、明日は四人で王都トリスタニアへ出かけようということで話がまとまって、その日は解散となった。