ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
「いや~、大きな町ですねぇ~」
王都トリスタニア、すなわちトリステイン王城の城下町を歩きながら、アバンはそう感想を漏らした。
「あら。ゲルマニアのヴィンドボナやガリアのリュティスに比べたら、大した大きさじゃないわよ」
キュルケは自国や他の大国の首都を引き合いに出して、ふっと鼻で笑う。
トリステインは始祖ブリミルからつながる伝統ある王国だが、国土は小さいし現在では国力も落ち目で弱小国家の類なのだ。
「これでは、さすがに全員とお話をするのは難しそうですかねぇ……」
「当たり前でしょ。百人や千人じゃないんだから、そんなことしてたら日が暮れるわよ」
ルイズは呆れたようにそう言うと、タバサのほうを見る。
「ところで、武器を買うってことだったけど。武器屋の場所は知ってるの?」
「こっち」
タバサは頷くと、そう言って歩き出した。
「前に、本屋と薬屋を回った時に見かけた」
「それなら、わたしの見かけた店と同じね。ピエモンの秘薬屋の近くでしょ」
「本屋に薬屋ねえ。たまには服やアクセサリーも買いなさいな。少しは着飾った方が、絶対かわいいわよ?」
女性陣がそんなふうに雑談を交わす中、アバンは興味津々な様子で通っていく町のあちこちを見回した。
全体的に白い石造りの町並みで、魔法学院と違ってマントをつけてもったいぶった歩き方をする貴族の姿はなく、質素な身なりの人々が多い。
声を上げて客引きをする露店が道沿いに並び、大勢の人が行きかっている。
王都というだけあって、活気のある町だった。
「お店がたくさんあるところからすると、大通りですかね?」
アバンがそう呟いたのを聞いて、ルイズが答える。
「そうよ、ブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りね。この先にトリステインの王宮があるの」
「ほほう。せっかく来たのですし、ご挨拶に伺いたいところですねえ」
「はあ? 女王陛下に拝謁してどうするのよ?」
「いえ、世間話でもと」
「そんな理由で、会ってくださるわけないでしょうが」
ルイズは呆れた。
「そうですか。私の故郷では、国によっては割と誰にでも、気軽に会ってくださる王様も多いンですが……」
「トリステインは、そんなのんびりしたド田舎の国とは違うの。それよりも、やたらにきょろきょろしてないで、スリに気を付けておきなさいよ?」
そんな話をしているうちに、一行の先頭に立つタバサが大通りをそれて、脇道に入った。
狭い路地裏で、ゴミや汚物が道端に転がっており、悪臭が漂っている。
「こんなところ、あんまり来たくないわね」
キュルケはハンカチで鼻を押さえて、顔をしかめた。
「あった」
タバサは四つ辻に出ると、少し周囲を見回して、剣の形をした銅製の看板を見つけ出した。
「なるほど、あれが武器屋ですか」
こんな路地裏にあるあたり、やはりこの世界では武器の扱いは軽いらしい。
そんなふうに考察していたアバンの袖を、タバサが引っ張った。
「見立てをお願いする」
そう言うと、石段を上って羽扉を開け、店の中に入っていく。
アバン、ルイズ、キュルケが、彼女の後に続いた。
窓を閉め切っており、店の中は昼間だというのに薄暗くて、ランプの灯りがともっている。
(……日光で商品が痛むのを防ぐため。あるいは、明るい光の下で商品の細部を観察されて、粗が目立つのを防ぐため。……か?)
アバンはひとまず、ざっと店内を見渡してみた。
壁や棚に剣や槍、その他の武器類が乱雑に並べられ、見栄えのいい甲冑が飾ってあった。
品揃えは豊富なようだが、見る限り、手入れはあまりよくない。
(『固定化』があるから、手入れを怠って埃をかぶっていても、錆びたりすることはないのだろうが……)
それにしたって見栄えは悪いし、あまり質のいい武器屋には思えなかった。
とはいえ、文化圏が大きく違うのだし、端から決めつけるのもよくないか。
「あん……?」
店の奥に座ってパイプをくわえていた五十がらみの店主らしい男が、入ってきた一行を胡散臭げに見つめる。
女性陣のマントと紐タイ留めに描かれた五芒星に気付くと一瞬ぎくりとしたような顔になったが、すぐにパイプを置いて、ドスの利いた声を出した。
「これはまた、貴族の皆さま方。今日はまたお揃いで、どういったご用向きで。うちは至極真っ当な商売でして、お上に目をつけられるような覚えはこれっぽっちもありゃあせんのですがね?」
「客」
タバサは一歩進み出て、短く最低限の言葉で伝える。
「武器。わたしが使う」
「貴族が剣を? それも、そちらの方が?」
店主は怪訝そうな顔をして、そんなタバサをまじまじと見つめた。
どう見たって、剣なんか振れそうにない小娘だ。
「……こりゃあおったまげた。お似合いとは思えませんな。剣は兵隊の振るもの、貴族は杖を振るもの、女王陛下はバルコニーから手をお振りになるものと、こう相場は決まっておりますんで」
そこで、朗らかな微笑みを浮かべたアバンが進み出る。
「いえ、剣とは限らないんですがね。僭越ながら、私は今度、彼女の武芸指南をさせていただくことになりましたアバンという者でして。あなたの言われるとおり、普通の兵士が持つような剣や槍はあまり彼女の体に合いそうにないので、まずは武器を選別しようということになったンですよ」
「ほほお……?」
店主はアバンの姿をじろじろと眺めて……、軽く鼻を鳴らした。
「あんたが武芸指南、ねえ?」
いちおう腰に剣を下げてはいるが、とても強そうには見えない。
眼鏡なぞかけていて、どちらかと言えば学問の徒という感じだ。
(……貴族家の小娘が起こした酔狂に付き合わされてる、執事か何かってとこか)
だとしたら気の毒な話ではあるが、こちらにとってはカモがネギを背負ってやってきたようなもの。
せいぜい見てくれのいい適当ながらくたを高く売りつけてやろうかなどと、さっそく頭の中で皮算用を始める。
そんな店主の内心を知ってか知らずか、アバンはにこやかに言葉を続けた。
「ええ。ですので、何を買うか考えがてら、売り物をいろいろと拝見させていただいてもよろしいですかね?」
かつてアバンがポップの父ジャンクが営む武器屋を初めて訪れた時、彼はアバンが腰に提げた剣を鞘に収まったままの状態で一目見ただけで、それが良質なカール製の武器であることを見抜き、それよりもいい武器はうちには置いてないと教えてくれた。
さすがにそれほどまでの域ではないが、アバンとて十数年前にグノータという武器コレクターの老人に出会い、彼が世界中から集めたありとあらゆる武器を試させてもらうことで各種のアバン流殺法を完成させていった経験があり、武器を見る目はある。
そうとは知らない店主は、快く頷いた。
「どうぞどうぞ。もちろんお好きに。こちらでも、お勧めを見繕いやすんで」
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「う~ん……」
アバンは店内の武器類を一つ一つ眺めたり、手に取ってみたりしながら、困ったような顔をする。
(……中古屋で十ゴールドくらいで売ってそうな武器が多いな……)
魔法が非常に重視される反面武技の類はかなり軽視されている世界のようなので、来る前からもしかしたらとは思っていたのだが。
案の定、品揃えこそ多いものの出来の悪い、低質な武器しかないようだった。
一番マシな部類のものでも、平均以下の品質の鋼鉄の剣や、鉄の槍くらいのものがせいぜい。
ギーシュが作ったのと大差ない、銅の剣程度だろう品もゴロゴロある。
ひどいものになると溶かした金属を金型に流し込んで固めただけとしか思えない、武器とも呼べない脆い金属棒に過ぎないような代物さえ混じっていた。
とはいえ、彼が目を惹かれた品も、ないではない。
「おや。これはもしや、銃なのでは?」
商品ケースに展示されているマスケット銃を見て、アバンは軽く目を見開いた。
「そうよ。まあ、旧式っぽいけど」
キュルケは、ゲルマニアにはもっと性能のいい型があるわね、などと、自慢げに語っていたが。
アバンにとっては銃というだけで非常に珍しいものだ。
書物で読んだことがあるだけで、実物を見たのはこれが初めてだった。
(銃が市販されているとは。それも、こんな店で)
どうやらこの世界は魔法が発達しているだけでなく、その他の技術面でも自分たちの世界より進んでいるようだと、アバンは感心した。
まあ、その他の武器の低質さを見る限りではすべてにおいてというわけではなく、分野にもよるのだろうが。
「なによ。あんた、銃なんかがほしいの?」
アバンが興味津々な様子なのを見て、ルイズは眉をひそめた。
「銃なんて大した威力もないし、弾を込めるのに時間がかかるわちょっと離れたらまともに当たらないわで、いいことないって聞いてるけど」
「そうなんですか? でも、私は実物を見たことがないものですから。構造なんかを解析してみたいンですよ」
「銃も見たことないって? はぁ……」
ルイズは溜息を吐いた。
こいつは本当に、相当なド田舎から来たらしい。
まあ、そんな世界から来たせいで、やたらと体だけは鍛えてるのかもしれないが。
考えてみれば銃だって、火薬の生成に火の秘薬を使ってるわけだから作るのには魔法が必要だし、剣にしても、普通は『土』メイジが金属を加工するものだ。
魔法技術がダメなら、それらの技術もダメということになる。
そうなると、人間自身が体を鍛えて強くなるくらいしか、危険な亜人や幻獣に対抗する手段がないのだろう。
ルイズの視点では、それはごくもっともらしい結論に思えた。
「……まあ、いいでしょ。もう剣は持ってるんだし。解析だかをしてどうなるとも思えないけど、その銃に興味があるっていうんだったら、買ってあげてもいいわ」
買ってやらないことにしたら、ならあたしがとかキュルケが言ってきそうで嫌だし。
それに対してアバンが何か言おうかとしたところで、店の奥の方に行っていた店主が戻ってきた。
どうやら、倉庫からお勧めの武器を持ってきたらしい。
「お待たせしやした。なにせ、貴族の方にお勧めする武器ですからな。秘蔵の品の中から選んでおったんで」
もったいぶって、手にした武器を差し出す。
「そちらのお嬢さまの手に合う武器でしたら、このようなものはいかがで」
「ありがとうございます。どれどれ?」
アバンはルイズにその話はあとでまたと伝えると、店主から剣を受け取って、少し調べてみた。
店内の武器はどれも今ひとつだが、秘蔵の品とやらなら、また違うかもしれない。
タバサもアバンの手元を覗き込んで、彼が品定めをする様子を見守った。
(……ハンドガード付きの、短い刺突用剣か。柄の長さから見ても、片手持ち専用だな)
側面には刃がついていない。
正真正銘、突くことだけしかできないような武器だ。
小柄で素早いタイプのタバサには相性的には突き主体の武器も悪くはないが、しかし、突きしかできないというのでは困る。
細く脆いので敵の攻撃を受け止めたり受け流したりするのにも不向きで、訓練や競技で使うのならいざ知らず、明らかに実戦的な武器ではなかった。
別に魔力が込められているわけでもなさそうな、やたらときらびやかな装飾が施されているあたりからしても、それは明らかだ。
アバンは困ったように笑いながら、その剣を返した。
「ご主人、彼女は貴族の令嬢ではありますが実戦向けの鍛え方を希望してまして。もう少し作りのしっかりした、実用性の高い武器はありませんかね?」
「はあ。しかし、男と女のように剣と人にも相性が、つまり合う合わないってもんがございましてね。見たところそちらのお嬢さまのお体には、この程度が無難なように思うんですがねえ」
「いえいえ。何も、より大きな剣でなくてもいいのです。実用性の高いしっかりしたつくりの物であれば、ダガーなどでも構いませんよ。それに応じた鍛え方をいたしますので」
「さようで……」
店主は肩をすくめて会釈すると、もう一度奥に戻る。
(ケッ。お高くとまった貴族の道楽ってのは、無駄なこだわりがあってかなわねえや!)
どうせ護衛なしじゃあ安全な屋敷から出もしないんだろうに、何が実戦向けだ。
内心でそう毒づきながら、別の武器を見繕った。
ダガーもあるが、少しでも長物の方が、高く売りつけやすい……。
「お待たせしやした。ダガーでもいいって話でしたが、それじゃあ実戦では、ちと頼りないかと思いますんでね」
ややあって戻ってきた店主はそう言うと、五十サントほどの長さのショートソードを差し出した。
「これはいかがで? この程度ならそちらのお嬢さまにも、どうにか使えるかと」
刀身は相応に肉厚で鏡のように輝いていて、いかにも切れそうな剣だ。
柄や鍔、鞘などには象眼が施されたり、ところどころに小さな宝石が飾られたりしている。
一見したところでは、いかにも貴族らしい豪奢さと実用性とを兼ね備えた武器という感じだった。
「ははあ。きれいな武器ですねえ」
アバンは呟きながら、その剣を受け取り、検分する。
真剣に武器を調べている彼に、店主が得意げに講釈した。
「そいつはこの店でも有数の業物でしてね。高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の作で。魔法がかかってるから、鉄板だってすっぱり切れまさあ。ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう?」
そう言いながら、絵に刻まれた文字を指差す。
キュルケとルイズも近付いてきて、興味を示した。
「ゲルマニアのシュペー卿は有名な人よ。様々な芸術的作品を生み出してきた、ベテランの錬金魔術師ね」
「そうね。立派な感じだし、これでいいんじゃないの?」
「タバサの使うものなんだし、持ち合わせが乏しいならあたしが出すわよ?」
そんな二人をよそに、タバサはアバンの顔を伺う。
「……どう?」
刀身を指でとんとんと叩いて確かめたりしていた彼は、やがて渋い顔をして、首を横に振った。
「魔法がかかっているということですから、切れ味はいいのかもしれませんが。この剣は、実戦で使ったら長持ちしませんね」
「なっ……!?」
その言葉に店主が絶句し、次いで気色ばむ。
「ちょっと待った! そりゃあ一体、どういう意味で?」
全員の注目が集まる。
アバンは、困ったように頭を掻いた。
「ええと、ですね。確か、これを作ったシュペー卿という方は、『錬金』魔術師だと言われましたよね?」
「おうよ。ゲルマニアの名高い術師さ。その作に、一体なんの文句があるってんだ」
「つまり、その方は錬金でいろいろな物を作ることで有名な方である、ということだと思うンですが……」
「ええ、そうよ。腕は確かだって聞いてるけど」
ゲルマニアの出身であるキュルケが、そう口を挟む。
「つまり、この剣は錬金の呪文で生成されているわけですね。今の話からすると、その方はあくまでも錬金での物作りで有名な方で、剣などの武器を専門に作っているわけではなく、普通の武器の製造法や構造については詳しくないのでしょう」
アバンはそう言うと、剣の先の方、中ほど、根元などを、指でとんとんと叩く。
「こうやってみるとよくわかるンですが、切れ味のほどはいざ知らず、中身がちゃんと炉で作った剣とは明らかに違うんですよ。性質の異なる鋼材を組み合わせるとか浸炭処理や熱処理をするとかいった工程を経て作られたものとは違う、柔軟さがない一様でただ固いだけの塊なんです」
「『錬金』は、術者のイメージしたものを作る。詳しくない物については正確なイメージを描けないから、正確に作ることもできない」
タバサが頷きながら、そう説明する。
錬金の精度にはどんな素材をもとに変成させるかとか、術者のランクとか、いろいろな要素が関わってくるが、最も大切なのは作ろうとする対象をよく知り、正確に思い浮かべることだと言われている。
つまり、対象に対する思い入れ、情熱が強ければ、それだけよいものが作れるのだ。
あのギーシュが自分の使うゴーレムのデザインに凝り、『ワルキューレ』などと名付けていたのも、単なる趣味だけではないだろう。
それによって愛着や思い入れが生まれ、よりよいものを作れるようになるからでもあるはずだ。
「そうか。シュペー卿は確かに武闘派でもなんでもないし、武器製作の専門家でもない。なんでも作るけど、特に芸術的なデザインの家具や装飾品で有名な錬金魔術師だわ」
「それだったら、武器なんかに思い入れがあるとは思えないし、あんまり詳しくもなさそうね」
キュルケとルイズの言葉に、アバンは頷いた。
もっとも、この剣が本当にそのシュペー卿という人物の作かどうかということ自体、怪しいような気もするが。
銘が刻まれていると言っても、そんなものはいくらでも偽造できるのだし、この店主からはどうもいかがわしい商売をしているような気配がするから。
とはいえ、それはただの勘繰りなので口には出さず、そのシュペー卿の真作であるものとして話を進める。
「おそらくですが、その方は武器づくりの注文を受けて、武器なら切れ味をよくすることが肝要だと考えたのではないかと思います。強度については知識の不足もあって、十分に配慮していなかったのでしょう。あるいは装飾としての意味合いが強い品で、実用性は重要ではなかったのかもしれません。いずれにせよ、試し切りをする分にはよく切れるかもしれませんが、実戦で強い衝撃を受けると刀身が折れるおそれがあります。長く使い続けることはできませんね」
固いだけで柔軟性のないものは、存外脆い。
アバンはかつて、大地斬を修得した直後に、キギロという魔王軍の幹部と戦った。
彼は全身を鋼鉄よりも硬くすることのできる能力を持っていたが、なまじ全身を硬くしたために大地斬の威力をまともに受け、一刀のもとに地面ごと切り裂かれた。
一方で、少し後に戦ったガンガディアという別の幹部は、その逞しい腕で大地斬を正面から受け止め、ほとんど傷も負わなかった。
単純な硬度ではキギロの方が上だったが、ただ動かぬ金属塊のように固めただけではない、強靭かつしなやかに相手の動きに対応できる筋肉と技巧を備えていたがゆえだ。
「……し、しかしだな! あんたには見ただけで、そんなことがはっきりと言いきれるってのかね!?」
店主はアバンの理路整然とした説明にぐっと怯んだ様子だったが、そう言って食い下がった。
「論より証拠とは申しますが、お店の品物を傷物にするわけにもいきませんので。証明することは難しいですね」
苦笑するアバンを見て、店主は「そうだぜ。使い続けたらいずれ折れるだの何だのと言っても、この場で証明は出来まいよ。むしろ好都合だぜ」と考え、居丈高に押して買わせようとし始める。
「構わねえ、こっちはちゃんとした商品を売ってんだ。ちょっとやそっとのことで傷物になるわけがねえ、試してもらおうじゃねえか。その代わり、証明ができなかったら割増価格で買い取ってもらうからな。それとも、今すぐに適正価格で買うか?」
そう、強気に出る店主に対して、アバンは困ったような顔になった。
「……本当に、傷物になっても構いませんか? 弁償はいたしかねるンですが」
「おうよ。やってみやがれってんだ」
「わかりました。では、その剣を構えて立っててください。それと、打ち合わせるための適当な武器を。あなたが選んだものでいいですよ」
動じた様子のないアバンに、店主は一瞬不安を覚えた。
しかし、ここで後には退けぬと、強気な姿勢を崩さないようにする。
(……へっ。何を心配する必要があるよ。好都合じゃねえか!)
彼とて武器を取り扱っている身、その扱いもまるきりの素人というわけではなかった。
打ち合うときに力加減や手のひねりなどで衝撃を逃がして受け流すようにすれば、たとえ相手が良質な武器でもこちらの出来が悪くても、そうそう折れるはずがない。
ましてや相手は、こちらの選んだ武器を使うというのだ。
(なまくらを渡して、刃が欠けたからそれも買い取れと言ってやるぜ!)
店主は展示されている武器の中から一本を選び、アバンに手渡した。
彼自身が持っているのと同じようなショートソードだが、見るからにみすぼらしい。
平民が作った、固定化もかかっていない安物の中古品だ。
「こいつでどうだ。これとほんの数回も打ち合ったらこっちの剣が折れるとでもいうのかね。試してみやがれ!」
「いえ、一回で結構です」
アバンはその剣を受け取ると、くるんとひっくり返して、刃の側を持った。
そのまま無造作に、しかし素早く振るい、店主が反応できない間に、彼の構えた剣の横腹を柄頭で叩く。
大して力を込めたようでもないのに、叩かれたショートソードはあっけなくぱきんと折れた。
「ぬわーーっっ!?」
店主が悲鳴を上げる。
「ささ、三百エキューも払って仕入れた、ブランドものがあぁ!」
「お気の毒様です。仕入れ先に、不良品だからリコールするよう伝えられるのがいいかと思いますよ?」
アバンは申し訳なさそうにしながら、貸してもらった剣を返した。
ちなみに、店主が選んで彼に渡したこの剣は、この店の武器の中では比較的マシなほうである。
固定化とやらはかかっていないようだが、いちおうの基本を押さえて、ちゃんと炉で作ってあるからだ。
まあ、今回は柄頭のほうで打ったのだから関係ないが、この店主に武器を見る目がないことは、これではっきりしたと言えよう。
「お詫びと言ってはなんですが、そちらに置いてある銃をいただきますよ。モチロン、お値段にもよりますがね」
アバンにはこのあたりの物価もわからないし、銃については見立てもできないので、妥当な価格かどうかは同行する少女らに判断してもらうしかないが。
それから、この銃を買う代金の支払いとか、タバサの武器をどうしようかとか、いろいろ考えていたところで。
「けっ。ちったあ目や腕の利く若僧かと思ったら、銃なんぞを買う気かよ! おめえみてえなのにゃあ、そっちの娘っ子と一緒に眼鏡かけて本でも読んでやがるのがお似合いだぜ!」
店の奥の方から、そんな声が聞こえてきた。