ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
「では……。この私が秘蔵する、スペシャルなアイテムをお目にかけましょうっ!」
そう言って懐をごそごそとまさぐるアバンに、全員の注目が集まる。
ややあって、彼が取り出したのは……。
「じゃーんっ!」
……打撃面の縁にトゲの装飾が付いている、大きな木製の槌であった。
持ち手こそ短めだが、打撃部分は人の頭ほどもあろうか。
とりあえず見た目は、高価で高性能な武器のようには見えない。
「おっと。間違えましたね」
アバンはそれをぶんぶんと二、三度振り回して見せた後で、そう言ってさっとしまい直した。
これは一体何なのかと身を乗り出していた面々が、がくっとなる。
わざと間違えたのか、アバンはにかっと笑っていたが、そんなにこの木槌を見せびらかしたかったのだろうか。
「いやあ、失礼を。この『罠つぶしのハンマー』は、貴重品ではあるンですがねえ。手放すのはちょっと困りますので……こちらでどうでしょうかっ!」
あらためて取り出したそれは、一本の杖であった。
タバサの持っているものほどではないが、ルイズやキュルケのワンドに比べるとかなり長い。
先端に赤い大きな宝玉が飾られており、それを手を模した柄の端の部分が掴んでいるような意匠になっている。
さっきの木槌といい、こんな大きな物を懐のどこに入れていたのか……などと、不思議がるには及ばない。
彼は懐に入るとは思えないサイズのピクニック用弁当セット、大量のフェザーなどを、戦場でどこからともなく取り出せる男である。
勇者特権の不思議な袋を持っているのだとしか、説明のしようがあるまい。
「……はあ? 杖?」
店主が怪訝そうに顔をしかめた。
少女らも、一様にきょとんとしたような顔になる。
「……いや、まあ。そりゃあメイジにとっては、杖が命だってこたあ知ってますがね? そいつは本人にとっての話でしょう。平民には無用の長物で。高そうな宝石もついとるが、武器屋に持ち込まれても困りまさあ」
そう言って手を広げる店主に、アバンはノンノン、と指を振った。
「これは、メイジの杖ではないンですよねえ」
コホンと咳払いをして、タバサの方に向き直る。
「すみませんが。ちょっとそちらの方に、魔法で大きめの水の塊を作っていただけますか?」
彼女は怪訝そうにしながらも、呪文を唱え、店内の少し開けたスペースに人間を丸ごと吞み込めそうな大きさの水球を浮かべた。
アバンは礼を言ってその水球に向き直ると、杖をアバンストラッシュのような体勢で構える。
別にそんな構え方をする必要は微塵もないのだが、「ちょっとしたアバンストラッシュ気分」というやつだ。
「……放て。炎弾っ!」
そう言いながら斬り付けるように杖を振るうと、先端の赤い魔宝玉から
ジュウッという音を立てて水蒸気が噴き上がり、水球の一部を蒸発させる。
その様子を見ていた一同の顔に、驚いたような表情が浮かんだ。
「今のは、『ファイヤーボール』……じゃないわよね。何をしたのかしら?」
「……口語。でも、コモンマジックでも、先住魔法でもない」
「今のが、あんたの世界の魔法なの? 『火』の魔法が使えるの?」
アバンは彼女らの疑問に、順に答える。
「はい。私の故郷の方で使われている火炎系呪文の系統の初歩で、『メラ』というものですね。私も使えますが、今のは自分で唱えたものじゃあありません」
そう言って、アバンは店主に杖を差し出した。
「試しに、あなたも使ってみてください」
「へっ? ……お、俺が?」
「はい。私と同じようにコマンドワードを唱えながら、飛ばしたい方向に杖を向けるだけです。……ああ、構えは真似しなくても大丈夫ですンで」
店主は戸惑いためらいながらも、杖を握って、小声で言われたとおりに唱えてみる。
すると、アバンの時と同様に火球が出て、水球の一部を蒸発させた。
彼はまず目を丸くし、次いで興奮した様子になった。
「お、俺が魔法を? ……こりゃあすげえ! 誰でもメイジみたいに火の魔法が出せる杖か!」
店主は浮かれてもう一発使おうかとした。
が、すぐに思い留まる。
「おっと、いけねえ。無駄遣いはもったいねえやな」
「はい? 無駄遣いといいますと?」
「そりゃあ。マジックアイテムのことはよく知りやせんが、火石だかなにかを使っておるんでしょう? 無駄撃ちで消耗させたら、価値が下がるんで」
アバンは首を傾げた。
「……いえ。その杖に使われている魔宝玉には、特に使用できる回数の制限とかはないはずです。あまりに無茶な魔力の酷使をしたら、焼き切れてしまうこともあるかもしれませんが。普通に使う分には、何百回でも何千回でも問題ないはずですよ」
それを聞いた店主は、目を丸くする。
少女らも驚いた様子だった。
「そ、そりゃあ、本当で?」
「やってみましょう」
アバンは店主から杖を返してもらうと、何度も立て続けにコマンドワードを唱え、メラを連射する。
やがて、タバサが作った水球は、完全に蒸発してなくなってしまった。
その様子を見て、キュルケがきらりと目を輝かせる。
「あなたのほうでも、まだまだ使ってみられても構いませんよ。一日中スライムとおおがらすを狩るのに使っても問題なかったという確認事例も、記録に残ってますンで」
「い、いや! それだけ見せていただければ、もう十分で!」
店主はぶんぶんと首を横に振った。
もし回数制限があるものなら、やはり買わないと言われた時のことを考えれば、あんなに気軽に乱発できるはずがないだろう。
アバンは頷いて、にかっとした笑みを浮かべる。
「では。ご覧いただいたとおりこの『魔道士の杖』は、何度でもメラの呪文を放てる優れモノなのです。さらに、打撃武器としても用いられるよう、しっかりしたつくりになってまして。先ほど折れた剣よりは、ずっと耐久性も高いはずなのでえ~す!」
得意げに、そう解説を加えた。
ちなみにこれは、破邪の洞窟の宝箱でたまたま発見した拾いモノである。
もちろんアバンは自力でメラを使えるし、この杖のメラは威力自体も彼が唱えたものより低い。
そもそも彼のレベルになると戦闘中にそんな初級呪文はまず使わないのもあって、武器としてはおおよそ用なしなのだが。
しかし、照明として周囲に気軽に放てる、着火に使う、通路の先の方に放ってその先にいるモンスターの反応を誘うなど、工夫次第で多用途に、何度でも使えるという点は便利である。
いざとなれば闘気を込めて遠隔武器として敵に投げつけるとかもできるので、とりあえず取っておいたのだ。
「いかがですか、ご主人。これと、先ほどのセットとの交換というのは」
店主が何か言う前に、横からルイズが慌てて口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと! やめときなさいよ! そんな貴重品、なにもあんなガラクタみたいなものの寄せ集めと交換することはないでしょ!?」
「もっと価値がある。絶対」
タバサも、こくこくと頷いて同意する。
「はあ。……そうなんですか?」
アバンは頬をかいて、やや意外そうな顔をした。
確かに彼の世界でも、道具として使うことで呪文の効果がある武具は概ね伝説の武具の類、という認識になってはいるのだが。
しかし、この魔道士の杖は発動できる呪文は攻撃呪文として最下級のものでその魔力も低く、純粋に武器としてみてもそれなりの戦闘用杖の範疇で、製造する難度はそこまで高くない。
そのため、ある程度の数が生産されていて、場所によっては店でも普通に売っていたりする。
以前にも、グノータの武器コレクションの一つとして手に取ったことがあった。
彼にとっては便利道具の一つという程度の認識だったし、ましてや魔法文明が大きく発展しているこの世界で、それほど高く評価される品とは思っていなかったのだ。
ただ、魔法重視で武芸は軽視されているようだから、特に魔法のかかっているわけでもない並みの武器との交換程度なら、十分に成立するだろうと思っただけである。
「おい、てめ! 何がガラクタだ、見る目のねえ娘っ子どもが! このデルフリンガーさまには、そんなちゃちな火起こし棒なんかとは比べ物にならんほどの価値があらあ!」
抗議の声が上がるが、アバン以外誰も聞いていない。
「わかっていますよ。あなたの価値を低く決めつけようなどというわけではないのですが、人間同士のこういった取り引きでは、お互いに満足できる条件だと考えるかどうかが重要ですからね」
彼は苦笑しながらそう言って、デルフリンガーをなだめた。
そこへ、キュルケがずいと進み出る。
「ねえアバン。あなたのその杖、あたしに売ってちょうだいな」
「え? キュルケさんに、ですか?」
「いつまでもあたしだけ、他人行儀にそんな呼び方をすることはないでしょう。キュルケでいいわ」
軽く流し目を送りながら微笑んでそう言うと、話を続ける。
「あなたには三百エキューのセットと交換なら、その杖を手放す気があるのよね? でも、タバサの言うとおり、それにはもっと価値があるわ。あたしがその五倍出しましょう」
そう言うと、アバンの返事も待たずにその額面の小切手を切って、彼に差し出した。
「ちょっと、なにを勝手に……」
「あたしはアバンと商談をしてるのよ、ヴァリエール。使い魔とはいえ人間なんだから、使い魔のお仕事と関係のないことにまで口を出すものじゃないわよね?」
ぴしゃりとそう言われて、ルイズは不服そうにしながらも口をつぐんだ。
「……いえ、しかし。お申し出はありがたいのですが。こちらのご店主に、先に話をしていましたので……」
利欲の薄いアバンは困ったようにしながらも、そう言って断ろうとする。
「でも、まだ話がまとまってはいなかったわよね?」
キュルケはそう言いながらもう一枚さらさらと小切手を書くと、困惑して手をこまねいている店主の鼻先に突きつけた。
「……ご、五百エキュー?」
「そう。譲っていただく迷惑料として、あたしから二百エキュー追加しておくわ。それで文句はないでしょう?」
そう言われても、店主はその小切手とアバンの持つ杖とを見比べながら、迷っている様子だった。
キュルケはそれを見て、彼に少し顔を寄せるようにして囁く。
「リスクの方が大きいわよ。あれをこの店で五百より高く売ろうにも、そんなに財布の中身が豊かな客はめったに来ないんじゃなくて? あたしたちみたいな貴族に売るにしても、この国の貴族は平民がメイジの真似事をできるような道具を、快くは思わないかもしれないわね?」
店主は、はっとしたような顔になった。
言われてみれば、それも一理ある。
五百エキュー以上の買い物をする客なんて、確かにこの店にはそうそう来るものではなかった。
それに、下手に貴族に目を付けられたくもない。
「この小切手を受け取れば、言い値の三百エキューで商品を売れて、その上わけなく二百エキューも追加で儲かるのよ。いつ売れるかもわからない高額商品の在庫を抱えておくよりも、ノーリスクで確実なリターンのほうがいいと思わないかしら?」
そう言いながら、ひらひらと小切手を振って見せる。
「ま。嫌なら、引っ込めるけど?」
「いえいえ! 確かに、ごもっともなことで。そちらが構わんのなら、それで手を打ちやしょう!」
キュルケは店主にその小切手をくれてやると、アバンの方を向いてにやっと笑った。
「ほら、話はついたわよ。これでも売ってくれない?」
「……いえ。商売がお上手ですね」
アバンは、苦笑して頷いた。
「では、キュルケにお譲りしましょう。ですが、あなたがそちらのご店主に支払われた分を差し引いた千エキューに、額面を直していただきませんと」
「欲のない人ねえ。あたしが自分の判断で払ったんだから、それはあなたへの支払いとは別よ。いいから、とっておいてちょうだいな」
キュルケはウインクをすると、軽くしなを作ってみせながら、杖と小切手とを交換した。
彼女の判断では、この杖はゲルマニアのしかるべきところで売れば、少なくとも三千エキューはくだらない。
大した威力ではないとはいえ、誰でも無尽蔵に『火』の魔法を使える杖となれば、そこそこの家格の貴族家でも家宝として扱われうる品だ。
競売にかければ五千か、それ以上にも届きうると踏んでいる。
二千エキューで仕入れられるなら安いものだ。
「さて……。それでは、そろそろお暇しましょうか。ご主人、お世話になりました」
アバンは買った荷物をまとめると、そう言って店主に会釈した。
「へえ、毎度。デル公がうるせえと思ったら、鞘に納めると大人しくなりますんで」
どうにか機嫌が持ち直した店主に見送られながら、一行は店を後にする。
「ちょっとおなかが空いたわね。せっかく王都まで来たんだから、なにか食べて帰りましょうか」
「あたしは、ついでに買い物もしていきたいわねえ」
ルイズとキュルケがそう言って、アバンとタバサも特に異論なく頷いた。
タバサはそれから、アバンの方を見上げる。
「さっき買ったナイフは、もらっても?」
アバンはにこやかな笑みを浮かべて、頷きを返す。
「モチロンです。が……、お渡しするのは、ちょっとお待ちを」
「……? なぜ?」
「悪い短剣ではないのですが、このままではちょっと、タバサが使うには物足りないかと思いますンで。私の方で少々手を入れてみましょう。お渡しするのはそれからということで、当面はまず基礎体力作りの方を進めておいてください」
「わかった。そうしておく」
タバサとしては、早く技術的な面を教わりたいのは山々だったが。
指導者であるアバンの力量を疑ってはいないので、彼の決めた方針に文句を言うつもりはない。
「じゃ、適当なお店に入って。それから買い物に行きましょうか」
アバンは個人的にいろいろと見て回りたい場所もあったので、落ち合う時間と場所を決めて、しばらく別行動にするのがでどうかと提案した。
キュルケとタバサは、すぐに賛同する。
親友同士の二人は、お互いの見て回りたい店がまるで別であること、したがって集団行動だと相手の用事に付き合う時間が退屈なものになるであろうことを知っているから。
ルイズだけは、出かけた先で使い魔と別行動というのには、多少の抵抗を示したが。
「私はこの町が初めてなので、あちこち挨拶して話を聞いて回ったり、いろいろと見て回ったりしてみたいンですよ。学院でも、私が挨拶回りをしているのを見ておられたかと思いますが、あんな感じで。ルイズに同行していただいてもまったく構わないのですが、おそらく退屈な時間になるでしょう」
アバンにそう言われ、タバサにも自分も使い魔を連れてきたが街中でまで一緒に行動はしていないと指摘されると、それで納得した。
ルイズにしてもうら若き少女なのだし、納得できる理由があるのなら、アバンのような三十過ぎの男の用向きに好んで付き合いたいわけではない。
「ありがとうございます。では、そういうことで」
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その後、一行は食事を済ませて思い思いに時間を過ごすと、夕方ごろにまた落ち合って学院へ戻った。
アバンとしてはまだまだ王都を見尽くせていないので、このまま夜遅くまで残って酒場などでの情報収集を続けたいところだったが、明日の授業もある少女らを長く付き合わせるのは申し訳ない。
別に今夜でなくても、一度訪れた以上は、いつでも
「いやー。実に有意義な一日でした!」
魔道士の杖:
DQ3基準。攻撃力15、道具使用でメラの効果。店頭価格1500G。
ちなみにクロコダインの「帰ってきた真空の斧MARK-II」は攻撃力50、道具使用でバギ系呪文(ランクは明記されてない)の効果。非売品。