ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
「失礼します。ルイズ、ちゃんと起きてますか? 二度寝してないですか?」
アバンはあらかじめ約束しておいた時間に、彼女の私室のドアをこんこんとノックした。
今日はルイズに、彼女の魔法関係で調べたことを報告したいと伝えてある。
じとっとした顔のルイズが、扉を開けた。
「二度寝なんかしないわよ、……入って」
アバンは首を横に振る。
「申し訳ないですが、試してみたいことの関係上、室内ではマズいこともあるかもしれませんので。まずは、場所を移しましょう」
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「それで。この間は、わたしが『虚無』じゃないかとかなんとか言ってたけど……」
人目のない学院の外縁部に場所を移すと、ルイズはさっそく話を切り出した。
「最近はずっと図書館とかで勉強してるみたいだし。いい加減にそんな突飛な話じゃなくて、なにか現実的なことがわかってきたのかしら?」
「ええ、まあ。その結論を出す前に、少し実験してみたいことがあるので。ルイズの協力をお願いしたいンですよ」
「協力って、何をすればいいの?」
「まず、大変不躾にはなるのですが。あなたの杖を、少しの間だけ貸していただけませんか?」
アバンのその言葉に、ルイズは目を瞬かせる。
「杖? ……まあ、ちょっとの間なら別にいいけど。なんに使うの?」
「モチロン、呪文を唱えるためです」
それを聞いたルイズは、内心でやや呆れて、肩をすくめた。
杖だけあっても、ハルケギニアのメイジの血を引かない者には系統魔法は使えないのだ。
(勉強熱心なのは認めるけど。系統魔法について、まだよくわかってないみたいね)
それに、たとえメイジであっても、どんな杖でもいいというものじゃない。
メイジは何日間もかけて、自分の杖と『契約』を交わすもの。
握って、祈りの言葉と共に呪文を唱え続けるのだが、メイジと杖との相性は本人にしかわからない。
初めは失敗ばかりだが、相性がいい杖なら、そのうちに自分の身体の一部のように思えてきて、呪文が成功するようになる。
物心つく頃にメイジの子はさまざまな杖を握らされ、その中から呪文がうまく唱えられる杖を見つけ出すのだ。
中には、好みや使い勝手の問題から別の杖に変える者もいるが、通常はその杖が生涯の伴侶となる。
他人の杖を借りたところで、そうやすやすと使えるようにはならない。
それでも、使い魔の頼みであるし、自分で気が済むようにやってみるのもいいだろうと考え、ルイズはアバンに杖を貸し出した。
「ありがとうございます。二つ目は、さらに不躾なお願いになるかと思いますので、気を悪くされたら申し訳ないのですが……」
「なによ、もったいぶって」
「ルイズの姿を、しばらくの間貸していただきたい。試したいことに、どうしても必要なのです」
それを聞いて、彼女は怪訝そうな顔をする。
「姿を、借りる? ……意味が分からないわ。どういうことよ?」
アバンは、もっともなことですと言って頷くと、説明を加えた。
「許可をいただけるなら、私がこれから
「……はあ? わたしの姿に、変化する??」
「ええ。外見を真似るだけなら比較的簡単なのですが、中身まで真似ようとすると詳しい知識や高い魔力が必要になってきます。先人の書物からメイジに必要な要素、素養等についてはある程度理解できましたので、それを模倣して実験してみるのです。完全な変身は難しいでしょうが、メイジはかなり数が多く、したがって割とありふれた特性なわけですから、その要素の再現程度なら可能かと。系統魔法の行使に必要な特性さえあれば、魔法力自体は私にもありますので……」
ルイズは、驚いたような、胡散臭そうな顔で、そんなアバンをじろじろと見た。
この間はただの『錬金』で驚いていたような田舎者のくせに、そんな高度な魔法が使えるというのか?
「どうでしょうか?」
「……できるっていうのなら、いいわよ。どんなものか見てあげるから、やってみせなさいよ」
「ありがとうございます。それではっ……」
アバンは目を閉じて、精神を集中させた。
変身する姿、再現するべき特性を、頭の中に思い描く。
「『モシャス』!」
唱えると同時に、アバンの周囲にぶわっと、魔力の靄のようなものが湧き出した。
それは彼の体を包み、形を変え、変化させていく。
靄が晴れた時には、そこにはもう一人のルイズが立っていた。
服装なども、本物の彼女とまったく同じになっている。
「……よし。こんなものでしょうっ」
自分の体を見下ろし、手を閉じたり開いたりして確かめてから、アバンは満足そうに頷いた。
その声も、ルイズとまったく同じだ。
「な……」
ルイズは目を丸くして、口をぱくぱくさせた。
アバンに近寄ると、手を伸ばし、体のあちこちを触って確かめる。
その触感も女の子の体そのものだった。
系統魔法にも自分、あるいは他人の姿を変える『フェイス・チェンジ』という魔法があるが、『風』と『水』を複合した高度な魔法で、スクウェア・スペルである。
しかも、変えられるのは顔立ちだけで、体つきなどは変化しないのだ。
先住魔法には体全体を完全に別人に変化させる、より高度な『変化』の術があるともいうが、この魔法はそれに匹敵するかもしれない。
そんなことを考えながらぺたぺたと体をまさぐる彼女に、アバンは苦笑する。
「ルイズ。お姿をお借りしておいてなんですが、女の子同士のお触りみたいなことはやめてください。中身は三十過ぎで既婚者のおっさんだとゆーことをお忘れですか?」
「……あ」
指摘されて、彼女はかーっと顔を赤らめると、慌てて飛び退いた。
アバンはそれ以上のことは言わず、借りた杖を構える。
「それではひとつ、やってみましょう」
そう言って杖を掲げ、目を閉じて精神を集中させ、ルーンを唱えようとする姿も、ルイズにそっくりだった。
(……でも、わたしを真似るっていっても……)
もし、アバンの言うようにしっかり再現できているのなら、自分がやった時と同じように爆発するだろう。
そうでないのなら、何も起こらないはずだ。
ルイズはそう予想して、念のため爆発に備えて身構えた。
「ウル・カーノ!」
アバンは借りた杖を少し離れた場所にある岩に向け、『火』系統の初歩である『発火』の呪文を完成させた。
途端に、杖の先から断続的に炎が噴き出して、岩の表面を焦がす。
「……えっ?」
予想外な結果に、ルイズは目を見開く。
当のアバンは特に驚くでもなく、小さく頷いた。
「ふむ、これは使えますか。ならば……」
アバンは続けて、もっと高度な呪文を詠唱してみることにした。
「ユビキタス・デル・ウィンデ!」
唱えたのは風系統の奥義ともいうべきスクウェア・スペル、『偏在』である。
自分とそっくり同じ分身体を一体、またはそれ以上の数作り出すという、驚異的な呪文だ。
しかし、今度は呪文は発動しなかった。
かといって爆発するでもなく、何も起こらない。
「……うん。こちらは無理なようですね」
今のところ、彼にとっては予想外な事態は何も起こっていない。
事前に予想していたいくつかのありうる結果の、その一つに当てはまる。
とはいえ、その予想が正しいかどうか、まだ断定はできないが。
アバンはルイズの方に向き直ると、あらためて礼を言って、杖を返却した。
「よければ、あなたもあの岩に向かって、同じ呪文を唱えてみてください」
「え。でも……」
「一つ一つ、順番に調べていくのが大切です」
ルイズは躊躇いながらも、促されるままに杖を手に取って、ルーンを唱えた。
何か変化があるわけでもなく、いつも通りに岩が爆発する。
アバンはそれを見て、大きく頷いた。
「なるほど。よくわかりました」
ルイズは恨めしげな顔をして、そんなアバンを睨む。
「……ええ、よくわかったでしょうよ。同じ体でもあんたは成功するのにわたしはできない。要するに、やっぱり才能がないんだってことでしょ!」
「ノンノンノン」
アバンは、ちっちっと指を振ってみせた。
「ダメですねぇ~、ルイズ。あなたの魔法の才能云々はともかく、今の回答は落第点ですよ。ネガティブな考えに発想が支配されてしまっています。バッドですねぇ~」
顔や声はそっくりだが、口調や態度は明らかに違う。
双子の妹をたしなめる姉か何かのようだ。
「なによ。そうじゃなきゃ、なんだって言うの?」
不機嫌そうにするルイズに対して、アバンは振っていた指を止めると、順に説明し始めた。
「まず、第一に。才能、つまり魔法を使う素養自体がないという考えは、今の実験で完全に否定されました。私はメイジが魔法を使うのに必要な、血統によって遺伝する肉体的性質について調べ、ルイズのそれを可能な限り忠実に再現したのです。実際に発火の呪文が使えたのですから、その再現は誤っていないはずです。あなたには通常の系統魔法、少なくとも火系統の魔法を使える素養がちゃんと備わっているということになる」
アバンは指をもう一本立てる。
「第二に。素養はともかく実際に魔法を使うためのレベルや魔法力が足りないのではないか、という考えについてですが。以前にもお話しした通り、失敗時に起きている爆発現象を見る限りある程度以上の魔法力が備わっていることは確実ですし、発火はドット・スペルなのでレベルが足りないから使えないということも考え難い。よって、この線も却下となります」
そう言うと、三本目の指を立てた。
「ここで注目すべきは、私が二度目に試みた偏在の呪文です。それが成功しなかったということ自体は、不思議なことではありません。最上級のスクウェア・スペルですから、素養はいざ知らず、使うには私のレベルや魔法力が足りていなかったということなのでしょう」
そう言うと、アバンは指を引っ込めて、背中の後ろで手を組んだ。
「問題は、爆発しなかったことです。ただ発動しなかっただけで、通常の失敗でした。私はあなたの特徴を可能な限り忠実に再現するようにしましたが、にもかかわらず、その部分の特徴は再現できていない……」
「だから、なにが言いたいのよ?」
ルイズはいらいらした様子でそう尋ねる。
アバンは軽く肩をすくめると、もう一度ぴっと指を立てて見せた。
「……つまり、ですね。私のモシャスでは再現できないような、何か非常に特殊な性質を、あなたはもっているということなんです。あなたの他の家族に同じ性質があらわれていないということは、単純に血筋によって遺伝する肉体的なものではないのかもしれません」
「特殊な、性質?」
「そうです。その性質が本来なら成功するはずの系統魔法の発動を妨げ、爆発現象に置き換えていると考えれば、一連の現象の説明がつきます」
たとえばだが、先に推測したように彼女の系統が『虚無』なのだとすれば、それを使用可能にするための特殊な魔法回路が、隔世遺伝か突然変異のようなものとして、彼女に発現したのかもしれない。
それは彼女の才能であると同時に通常の系統魔法を発動するための回路が機能する妨げとなり、誤作動を起こし爆発させる原因になっている、と考えられる。
その回路は非常に特殊性が強くかつ強力なものなので、アバンのモシャスでは再現ができないのだろう。
もちろん、あくまでも考えられる例の一つというだけであって、それが事実とは限らないが……。
「ともあれ、その場合は何らかの方法でその回路を除去しない限り、発動できるのは『虚無』の系統だけ、ということになりますね」
「ありがたくない推測ね……」
ルイズは苦々しげな顔でそう言った。
「まあ、そうとは限りませんし。そうだとしても、おそらく何かしらの解決方法は探せるかもしれません」
アバンは彼女を元気づけるように楽観的にそう言って、明るく微笑んだ。
ルイズの顔でそんな表情を浮かべていると、彼女の下の方の姉によく似て見える。
彼自身はまだ、会ったことのない女性だが。
「先天的に体に組み込まれた回路というようなものではなく、呪いか祝福のようなものだという可能性もあるかと思います。その場合は、それを解呪すればいいわけですね」
「……仮に、あんたの考えが正しいんだとして。解呪って、何かあてでもあるの?」
「ええと。それは……、ですね……」
アバンは口ごもる。
(今、ルイズに
もし、本当に呪いの一種で、極大化したシャナクで解呪できたとしたなら、おそらくルイズはすぐに通常の系統魔法が使えるようになる。
そうなれば、彼女は大いに喜ぶだろう。
だが、長い目で、あるいは広い視点で見た場合に、それは本当に彼女自身やこの世界にとっていいことなのか。
ルイズがこの特異な性質、才能を持っていることには、何らかの意味や意図があるのかもしれない。
もちろん、ただ偶然に発現しただけで、何の意図も意味もないものなのかもしれない。
後者であるなら取り除いてしまっても問題ないわけだが、前者だとしたら?
(……それは、取り返しのつかない結果を生むことになるかもしれない……)
ルイズ自身にとって。
あるいは、もしかしたら、この世界全体にとって。
たとえば、ダイが自分の持つ竜の紋章に早い段階で気が付き、そのあまりに強い力が人に迫害される原因になるものだと感じて取り除くことを望み、何かの方法でそれが叶ったとしたらどうだろう。
その時はよかったように思えても、それは後々、地上の滅亡につながることになったはずだ。
決して大げさな話ではなく、アバンは実際にルイズのもつ才能がダイのそれに匹敵するものであることも十分に考えられると思っている。
そうでなかったら、異なる世界から自分をここに召喚するなどということができるだろうか?
それは彼女一人の力ではなく、何らかの神や、運命そのものの意図による介入の結果だったのかもしれない。
だが、いずれにせよ、ルイズが非凡であることは間違いのない事実なのだ。
「……今すぐに何かできる、というわけではないんですが。私にできることがあるのか、あるとして、それをして大丈夫かは、引き続き考えていくとお約束しますよ」
結局、嘘ではないものの曖昧にぼかした答えを返し、すぐには解呪などの試みを行わないことに決める。
正直に伝えれば、ルイズは今すぐに試せと言うに決まっているだろうから。
「はあ……。そんなところよね。期待しないでおくわ」
結局、収穫無しと同じことだ、というような顔をするルイズに、アバンは隠し事をした罪悪感を覚えた。
同時に教育者として、何かしら彼女に成功体験を積ませ、自己肯定感を高めてやりたいものだという思いを強くする。
そのために考えてきたことが、もう一つあって……。
「今日のところは収穫無しだと、そう決めつけるのは早いですよ、ルイズ」
「なによ。まだ、何かあるの?」
アバンは頷いた。
「はい。本題の一つは終わりましたが、もう一つがまだ残っています」
「もう一つの本題?」
ルイズは怪訝そうな顔をした。
アバンはまた、ぴっと指を立てる。
「系統魔法の件は、すぐに解決というわけにはいきませんが。今日はあなたに、私の世界の魔法を少し、契約してもらうのはどうかと思っています」