ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
「あんたの世界の、魔法?」
予想もしていなかったことを言われて、ルイズは目を瞬かせた。
アバンはにかっと笑いながら、頷く。
「ハイ、そうです。以前にもお話ししたと思いますが、私の故郷の方では魔法は契約して使うものでして。契約さえ済めばすぐ使えるようになることもあるので、そんなにお時間は取らせません」
「あんたさっき、わたしは『虚無』以外使えないとか言ってなかった?」
「それはあくまでも予想の一つですし、系統魔法に関しての話です。私の世界の魔法に関しては干渉しないかもしれません。使うためのシステムが全く別ですから。もちろん契約できないとか、契約しても使えない、あるいはやはり爆発するということも考えられますが、試してみる価値はあるかと思いますよ」
そう言われても、ルイズはあまり気乗りしない様子だった。
「……わたしは普通のメイジになりたいんであって、あんたの世界の魔法が使えても仕方ないんだけど……」
「そうかもしれませんが、少なくとも便利です。誰かを、あるいは自分自身を助けなくてはならないときに、それが役に立つこともある。よしんば使えるようにはならなかったとしても、何かの参考にはなるかもしれませんよ」
そのように勧めてみても、ルイズは曖昧に頷きはしたものの、いまいち反応が鈍い。
「もちろん、あなたは私の生徒というわけではないですから、無理強いはできませんが……」
アバンはそこで、コホンと咳払いをして、ルイズの顔を見つめる。
「……あえて助言させていただくなら、失敗を恐れないでください。ルイズはもしかして、『また爆発したらどうしよう、期待しておいてがっかりするのはもう嫌だ』と思っているのでは?」
「なっ……!」
ルイズの頬に、さっと赤みが差した。
侮辱されたと思ったからか、あるいは事実だったからか。
「な、なによ! そんな負け犬みたいなこと、わたしが思ってるわけないでしょうが! 大して期待もしてないってだけよ! そんなに試してほしいなら、付き合ってあげるわ!」
「的外れでお気に障ったのなら、すみません」
アバンは軽く謝罪するように頭を下げると、にっこりと笑った。
「それでは、失敗を恐れずに試してみるとしましょう」
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「杖じゃなくて、個別に呪文と契約するなんて、変わってるわ。精霊と契約する先住魔法とは違うの?」
「私は先住魔法について詳しくは知らないので何とも言えませんが、おそらく別物ですね」
先住魔法というのはメイジ側の呼び方で、使用する亜人などの側では精霊魔法と呼んでいるらしい。
その場の自然の力を『理』に沿って利用する魔法で、個人の力で『理』を変化させる系統魔法とは原理が大きく違うということだった。
「本当に? ……そういえば、この間あんたが買った剣は、あんたが実は人間に化けた韻竜なんじゃないか、とか言ってたけど」
あの
「別に、そういうことは……?」
「ありませんよ。私はドラゴンでも竜の騎士でもなんでもない。臆病で弱っちいただの人間です、ハイ」
「……そう」
話しながらも、アバンは地面に丁寧に五芒星形の魔法陣を描いていく。
「これが、契約の魔法陣になります。ルイズ、マントを外して、この星の中央あたりに立ってください」
「契約をするのに、マントが邪魔になるの?」
「マントがどうとかではないンですが、契約はなるべくその妨げとなるような着衣の少ない姿で行うのが望ましいとされています。男であれば上半身裸で行うことが多いんですが、ある程度以上肌の露出部位があれば大丈夫ですので、覆いとなりうるマントを外して軽く腕を捲るとかするのがいいでしょう」
「ふうん……」
ルイズは言われた通りにして、魔法陣の中央部に立った。
それから、躊躇いながらも、アバンに教えられたとおりの手順を踏んで、契約を進めていく。
彼女が目を閉じて精神を集中すると、やがて魔法陣がほのかに光り輝き始め、その光が揺らめく炎のように立ち上って、ルイズの体を包んだ。
「――――っ」
契約が成功したことが感覚としてわかり、ルイズははっと目を見開いた。
頭の中に、直接、契約した呪文の使い方が流れ込んでくるような感覚があったのだ。
「グッドです。成功のようですね」
アバンは、ルイズの体が契約直後のほのかな光をまとっているのを見て、満足そうに頷いた。
「では。さっそく使ってみてください」
「う、うん……」
未知の感覚に戸惑いながらも、彼女は素直に頷いた。
『魔法を正しく唱えると、体の中に循環するリズムのようなものが生まれる。他にそのような感覚を覚えることはないから、経験すればすぐに、「これは魔法以外で感じることのない特別な何かだ」ということがわかるものだ』
ルイズはいつか、家族や教師から聞いた言葉を思い出していた。
系統魔法の『リズム』とは違うかもしれないが、これまでにない特別な感覚だということは確かだ。
なら、もしかして。
「……
強く精神を集中させ、頭の中に浮かんだ言葉を唱えながら、先ほどアバンが『発火』の魔法を放ったのと同じ岩に向けて右手を突き出す。
その掌から、一抱えほどの大きさのある炎の塊が飛び出した。
命中箇所を中心に、岩の表面が焦げる。
「! できた……?」
ルイズは茫然として、岩と、自分の掌とを交互に見比べる。
それから、アバンの方を振り向いた。
「……アバン! わたし、魔法が使えたわよね!?」
「はい、もちろんです。初めてとは思えない、見事なメラでしたよ」
彼はそう言って朗らかに笑い返し、拍手をする。
ルイズの顔が、ぱあっと輝いた。
系統魔法ではないのだしと、最初は気乗りがしなかったが。
こうして『サモン・サーヴァント』を除けば初めて、自分の力で魔法が使えたとなると、やはり嬉しい。
アバンの言うとおり、自分には魔法の素養がないわけじゃなかったんだと初めて実感できて、世界が明るくなり行く手に光が差したように感じた。
彼女の喜びようを見て取って、アバンは心から満足したような笑みを浮かべる。
「やはり、あなたには非常に高い魔法力があるようですね」
先ほど『発火』の系統魔法が成功したことから、同じ火を使う攻撃系の呪文に適性があるのではないかと考えたこと、および一般的に最初級の攻撃呪文とされていることから、まずメラを習得してもらったのだが。
予想に反せず、初級者の使ったものとは思えない、かなりの高威力だった。
駆け出しが使うメラはせいぜい松明の火程度の大きさや火力しかないことが多く、素養に乏しければろうそくの火と大差ない程度の場合もある。
ルイズのそれは、覚えたてで初めて試みた少女のものとは思えないほどだ。
アバンは、にかっと笑う。
「まあ、今回のはお試しで初級の呪文一つの契約を経験できる、体験入学だったと思っていただいて。この間は渋っておられましたが、きちっと家庭教師のご依頼をいただければ、もう少し先の学習にも入れるんですがねぇ~?」
もちろん、ルイズは熱心に同意した。
「使い魔の弟子っていうのも、変な感じだけど……」
「そのへんは、お気になさらず。呼び方も自由で構いませんよ」
アバンはそう言うと、もう一度魔法陣の中に入るよう、ルイズを促した。
「さて。さっそくですが、今日のうちにもう少し契約の試みをしてみましょうかっ」
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「……よし。今日はこんなところにしておきましょうっ」
メラの後も、アバンはいくつもの呪文についてルイズに指導し、契約の試みをさせた。
それらの中には契約できたものもあれば、できなかったものもあったが。
「トータルで見て、なかなかの成果でしたね」
「そう? 結局、メラも入れて二つしか使えるようにならなかったけど……」
契約できた呪文自体はもっとあったが、今の時点で発動できたのは、
「今日のところは、です。ルイズは魔法力はともかく、まだ全体的なレベルが足りない。契約できたものについては、これからあなたの総合的なレベルが上がっていけば、いずれ使えるようになるでしょう」
アバンはそう言って、ぴっと指を立てた。
「そのために、基礎体力作りや瞑想など、魔法の詠唱や座学だけではない訓練が必要になってくるのです。先日はあまり気乗りがしない様子でしたが、そういったこともやってみてもらいますよ?」
「うーん。……まあ、あんたが必要だっていうなら……」
ルイズはやはり、あまり乗り気ではないようだったが、それでも受け入れて頷いた。
系統魔法ではないにもせよ、実際に魔法が使えるようになったことで、彼の指導に対する信頼が大いに高まったのだろう。
「ルイズは魔法の威力自体は、今の時点でもかなり高い。大きな魔法力が内在している証拠です。焦らず、地道に自分を磨いていけばいい。遠回りなように見えても、それが近道です」
アバンは満足げにそう言って、頷きを返した。
「バギは、メラに比べるとやや高度な呪文と考えられています。それを他系統の呪文に先駆けて習得できたということは、ルイズは真空系の呪文に対する適性が高いのでしょう。系統魔法と関連があるかはまだ不明ですが、仮にあるのだとしたら、本来の系統は『風』なのかもしれませんね」
「うーん……そうかも。母さまも、風系統だし……」
理想的には、優しくも病弱な下の姉を癒せるような、『水』のメイジがよかったのだが。
もちろん系統は生まれついてのものであり、文句を言っても始まらない。
というか、まずは使えるようになることが最優先である。
「まあ、それはあくまでも推測です。系統魔法に関しては今後も可能な限り調査を進めていくとして、ひとまずは今使える魔法の訓練をしていきましょう」
アバンはそう言うと、懐から小さな宝石が付いた金具のようなものを取り出した。
「あなたに、これをあげます。杖の先に取り付けてみてください」
「杖の先に……?」
ルイズは目を瞬かせながらも、言われたとおりにしてみる。
金具の爪はかちりと杖の先端を咥え込み、最初からそこにあったかのようにしっくりと馴染んだ。
「それは輝石というもので、使用する魔法の威力を増幅させることができます。杖を持ってメラやバギを唱えれば先端についたその宝石から魔法が放たれるので、系統魔法と同じような使用感で使えるでしょう。杖なしで魔法を使っているように見えると不信感を持たれるかもしれませんので、カモフラージュの意味でも有効かと思います」
アバンの説明を聞いて、ルイズはまじまじとその宝石を見つめる。
(わたしの杖にぴったり。ってことは、これ、わたしのために作っておいてくれたの?)
彼は使い魔として約束した雑用はしてくれているが、正直言って自分の勉強だの、調べ物だの、挨拶回りだの、タバサの訓練だので忙しく、名目上は使い魔でも、彼の中では自分は小さな存在だろうと思っていた。
「……お気に召しませんか?」
宝石をじっと見つめたまま何も言わないルイズに、アバンが首をかしげる。
彼女は慌てて、首を横に振った。
「そ、そんなことないわ! せっかく作ってくれたんだし、感謝してつけておいてあげるから」
メイジにとって、自分の大事な杖に自分が注文したわけでもない人が作ってきた飾りをつけるというのは、その相手とそれなりの関係にある場合でなければ受け入れることではないのだが。
彼は自分の使い魔、パートナーなのだから、もちろん特別な関係であり何ら問題ない、はずだ。
「それはよかった。では、これからは授業後の空き時間などに、ルイズにも少々指導をさせていただきますンで。その輝石の使用感は、また確かめておいてくださいね」
アバンはにかっと笑うと、ルイズと別れて立ち去った。
さて、これで二人への用事は済んだ。
今日の残りは自分の目的のために色々と調査をすることに費やそうと決めている。
「今日は、噂に聞いた魅惑の妖精亭というお店に行ってみましょうかね。居酒屋だそうですから、今から行けば、ぼちぼち営業していることでしょうし」
新しい土地に来たら、まず隅々まで一周するのが自分の主義だ。
アバンはさっそく