ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
「そろそろ、出発した方がいい」
しばし休息をとって英気を養った後で、タバサがそう言った。
指定の時刻まではまだかなりあるが、早めに行って現地の様子を確認し、潜む場所を決めておくべきだ。
「シルフィードは目立たないよう、高空で待機させておく」
十分高く昇れば、地上からは普通の鳥とほとんど区別がつかず、まず気取られない。
空に雲がかかっているなら、その間に隠れればなおさらのことだ。
緊張した様子で、ルイズとギーシュが、特に気負った様子もなく、キュルケが、それぞれ頷いた。
アバンも同様に頷いた、が。
「少々お待ちを。出発の前に、皆さんと共通理解を図っておきたいことがありまして――」
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「……さて、と」
しばらくの間現地で待機していたアバンは、軽く伸びをした。
もうすぐ、指定の時刻になるはずだ。
(もう、来ていてもおかしくないが……)
周囲を見渡す。
指示された場所は草原の真っただ中。
ところどころに木立や藪などはあるにもせよ、かなり遠くまで見渡せる。
しかし、フーケの姿はまだ見えない。
「フーケとやらは、こんな原っぱに相棒を呼び出すなんざ、どういうつもりかね?」
デルフリンガーがそう疑問を呈した。
「そうですね。隠れ潜む場所があまりないですから、向こうにしてみれば建物の中などよりも、安心と言えば安心でしょうね。それに、巨大ゴーレムを使うのにも向いているかと」
アバンが返事をしたあたりで、彼の推測を裏付けるかのように、遠くの方で巨大ゴーレムの姿が立ち上がるのが見えた。
肩には、フーケらしき人影がある。
そいつは視線を巡らせてアバンの姿を見つけたようで、巨大ゴーレムを動かし、ずんずんと足音を響かせながら彼の方へ向かってきた。
「最初からゴーレムを用意してきやがった。あれでも話し合いをするつもりなのかよ?」
「まあ、向こうは賊ですし、人質をとっているわけですからね。最初から、交渉とは名ばかりの脅迫ですよ」
「威圧的な態度で有利に話を進めるつもりってことか。しかしよお、相棒が昨夜あのゴーレムを倒したのを覚えてねえのかね」
デルフリンガーは、やや呆れたようにそう言った。
「さて。何か、策があるのかも……」
アバンはそう話しながら、ひとまずフーケを刺激しないよう、デルフリンガーを鞘に納めた。
頭の中では、いろいろと分析を進めている。
(身の丈三十メートルはあるゴーレムの肩に乗っている。地上からの射角やゴーレムの間合いも考えれば、まず、四十メートルかそれ以上は相手から離れることができる)
それだけの距離があれば、戦いになった時は上空から
距離が離れすぎているために、周囲に潜んでいるルイズらが側面や背後に回って奇襲をかけても上方から広範囲を見渡せるフーケには着弾の前に気取られ、防がれてしまう可能性が高いだろう。
無論、距離的な余裕があるのは互いに同じだが、広範囲爆撃できるイオは大きく避けねばならないために相手を消耗させやすい。
撃ち合いとなればゴーレムという護衛もある自分のほうが圧倒的に有利だというのが、フーケ側の計算か。
(空裂斬に対しても、何がしかの対策を講じていると見るべきだろう)
そうこう考えているうちに、巨大ゴーレムが近付いてくる。
フーケはアバンから十メートルあまりの距離をおいて、ゴーレムを停止させた。
話をするには開き過ぎなほどの距離だが、巨大ゴーレムにとっては軽く踏み込めば腕でアバンを薙ぎ払える程度の間合いだ。
「やあ、アバンさん。よく来てくれたねえ」
フーケが上方から、機嫌よさそうに挨拶をする。
女の声だった。
全身をローブで覆い、フードを目深に被っているので、顔は見えない。
手に持っている杖はデザインから見て、オスマンから聞いた『破壊の杖』のようだ。
「……人質を取っての脅迫では、応じないわけにはいかないでしょう」
アバンの側は、真顔でそう答えた。
「学院側は、まずロングビルさんを無事で帰すこと、次に『破壊の杖』を返却することを求めています。そちらの条件は?」
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ルイズらは少し離れた場所にある木立や藪の影、あるいはギーシュの使い魔が掘った穴の中などに身を潜めて、その様子を見守っていた。
「アバンがフーケと話し始めたわ。今のうちに奇襲を……」
「だめ。距離が離れすぎてる」
同じ木立の陰に隠れているルイズとタバサが、小声で話し合う。
数十メイルも上方から見下ろしているフーケはかなり視界が広いはずで、側面からでは気取られるだろう。
「……フーケが彼の話に注意を向けているうちに、遮蔽物伝いに背後に回って攻撃する」
タバサはそう指示を出し、少しずつ移動を始めた。
彼女はシュヴァリエとのことで、場数も踏んでいるのだろうから、ルイズも大人しく従う。
(……ここからだと、攻撃がバレそうね)
別の藪の陰に隠れていたキュルケもそう判断し、そっと移動を開始した。
(くそっ、あんな大きなゴーレムの上じゃ、手の出しようがない!)
使い魔である
タバサやキュルケと違って、彼にはあまり長射程の飛び道具がない。
せいぜい石弾や石礫を飛ばす程度で、数十メイルも上方にいるフーケまでは、到底届くものではなかった。
(かといってゴーレムの方を倒そうにも、ドットの僕にそんな火力はないし……。ええい、なにか役に立てる方法はないのか!?)
ギーシュはじりじりした気持ちを努めて抑えながら、一心に考えた。
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「条件? ははっ! 条件ねえ?」
フーケは愉快そうに笑う。
彼女が手にした『破壊の杖』の先端にある宝石に黄白色の輝きが宿っているのに気付き、アバンは身構えた。
ただの脅しか、それとも本気で攻撃してくるつもりなのか。
「まあ、その前にだ。まずは、その辺でチョロチョロしてるネズミどもに出てきてもらおうしゃないか」
フーケがそう言って杖を掲げると、アバンの顔に緊張が走った。
彼女はその杖を、自分の後ろの方に向ける。
「小娘の三人くらいはどうでもいいが、コソコソと動き回られるのも目障りでねえ。それとも、あぶり出されたいかい?」
密かに移動しているつもりでも、オルカはフーケと本体の両方の目で、高所から周囲を見渡しているのだ。
ルイズらの存在は、既に気付かれていた。
痺れを切らしたフーケがルイズらへ攻撃を仕掛けだしたら、散開したままでは守れない。
ここは、「彼女らによる」奇襲は断念するべきだろう。
「……いるのなら出てきてあげてくれませんか。ルイズ、タバサ、キュルケ」
アバンがそう言ったので、彼女らは悔しげにしながらも大人しく隠れ場所から出てくると、彼と合流した。
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(……ぼ、僕だけ、バレなかった?)
ギーシュは緊張のあまり荒くなる息遣いを努めて押し殺しながら、穴に身を潜め続けていた。
おそらく、手をこまねいていたがためにタバサらのように移動せず、高所からでは特に見えにくい暗い穴の中に留まっていたことが幸いしたのだろう。
と、いうことは。
フーケを奇襲しうる者は今や、自分一人ということになる。
(う、うぅ……)
だが、しかし。
ゴーレムに有効打を与えることも、フーケに攻撃を届かせることもできそうにない自分に、一体何ができよう?
心細さのあまり、いっそのこと自分もここから出て、アバンらと合流したいとさえ思った。
だが、それはできない――。
『いるのなら出てきてあげてくれませんか。ルイズ、タバサ、キュルケ』
先のアバンの言葉は、明らかにギーシュの名を故意に除いたもの。
つまり、残る彼に大任を託したということだ。
その期待を裏切れようはずがなかった。
(……僕に何ができる? 考えろ。考えるんだ……!)
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「……それで。わざわざ私を呼び出したのは、何が目的ですか?」
「目的? ああ、『目的』ね。『金のため』とか『名声のため』とか、そういうやつかい?」
フーケは手にした杖を肩に担ぐようにしながら小首をかしげ、その肩をすくめた。
その間にも宝石の中の輝きは、どんどんと強くなっていく。
「いちいち仰々しいことだよ。戦うことに目的だのメリットだの、理由が必要かね? 強いて言うなら、あたしの『目的』は、あんたとの戦いそのものさ!」
それを聞いて、アバンは眉根を寄せた。
「それさえ済んだら、この女……学院長の秘書だっけ? だけならお望み通り、返してやるよ。もう用済みだからねえ!」
そんなことを話している間に、杖の輝きが最高潮に達する。
フーケはそれを横にして、突き出すように構えた。
先端の宝石と、尾びれを模した石突きとに、バチバチと弾ける大きな黄白色の光球が生じる。
アバンはそれを見て、はっと目を見開いた。
(あれは……!
昨夜はイオを雨霰のように降らせてきたが、よりランクの高い呪文を発動することもできるらしい。
しかし、まさか極大呪文まで使えるとは。
「……っ!」
「な、なによ、あの呪文は?」
タバサとキュルケも、狼狽えている。
トライアングル・クラスの優秀なメイジである彼女らは、その尋常でない魔力を感じ取ったようだ。
アバンは背後にいる少女たちを見て、フーケに向き直った。
「よせ! 彼女らは関係ないだろう。巻き込むな!」
「知ったことか。あんた以外の使い道のない小娘どもなんざ、どうでもいいさ」
フーケは、いやその体を操る魔杖のオルカは、そう言って嘲笑う。
「大体ねえ、わざわざこんなところまで来ておいて、無関係で通るかい。死ぬのが嫌な奴は、戦場に出てくるんじゃないよ!」
「くっ……!」
アバンは咄嗟にストラッシュで相討ちを狙うことを考えたが、すぐに思い直した。
それでは、あの女性……先の物言いからすると、おそらくはロングビル……が、死んでしまうかもしれない。
相手は強靭な魔族の肉体を持つハドラーとは違うのだ。
「なんだか知らないけど、先に潰してやるわ!」
キュルケがそう叫び、フーケの呪文の出掛かりを牽制しようと火球を放つ。
ほぼ同時にルイズも
しかし、フーケは動じもしない。
「その体なら、一発くらいで台無しにゃならないだろ。あんたは死なない程度に。小娘どもは、完全にくたばっちまいな!」
そう叫びながら、キュルケらの攻撃を無視して呪文を完成させる。
膨れ上がった光球が杖の両端を離れて中央部あたりの前で合わさり、まばゆい閃光の奔流が放たれた。
少女たちの放った攻撃呪文はことごとくその激流に呑み込まれ、瞬時にかき消される。
「なっ……」
想像以上の威力に、彼女らは目を見開いた。
あんなもの、とても防御や相殺はできない。
かといって退避するにしても、爆発に呑まれずに避けきれるかどうか。
「失礼!」
「きゃあ!?」
アバンは即座にルイズらの体をつかみ、引き寄せる。
そして、呪文を唱えた。
「
全員の体を魔法力で包み込み、超高速で背後に飛翔する。
その直後にイオナズンが先ほどまで立っていたあたりの地面に着弾し、大爆発を起こしたが、ルーラによる飛翔のほうが爆風よりも速い。
アバンは爆発によってダメージを受けないだけの距離を飛び下がって、ルイズらを地面に下ろした。
「な、なにが起こったの?」
「……!」
キュルケは呆然とし、タバサは目を見開く。
先の爆発が炸裂したあたりの地面は、クレーター状に抉れていた。
直径は、優に十メイル以上はあろうか。
フーケ自身が乗っている巨大ゴーレムさえも一撃のもとに吹き飛ばせそうな、凄まじい威力の呪文だった。
「い、今のは?」
ルイズはへたり込んでいる。
「あれはイオナズンという、イオ系の極大呪文です。私が使ったのの方でしたら、ルーラという移動呪文です」
アバンはそう説明しながら厳しい目をしてデルフリンガーに手をかけ、フーケの方に向き直った。
「交渉決裂ってやつか?」
「向こうは最初から、交渉の気などなかったようですがね」
そう言いながら、刀身に光の闘気を込める。
「おおっ、また来やがった! 相変わらず、すげえパワーだぜ!」
昨夜と同じように、ゴーレムの核に向けて空裂斬を放つ。
しかし、今度はその光線は、ゴーレムの体を貫き切れなかった。
「……やはり、対策をしてきたか」
アバンはそう呟いて、デルフリンガーを下ろした。
おそらくはゴーレムの核の周囲を、強固な鋼の防壁で覆うか何かして守っているようだ。
物理破壊力に劣る空裂斬で、しかもこの距離からでは、その防壁を貫ききれない。
「ふん。その技なら、昨夜見せてもらったよ。二番煎じなんざ通じないね」
フーケはゴーレムの上で、悠然と杖を掲げた。
「それが通じないんじゃあ、このデカいのの上で地の利を得ているあたしには太刀打ちできないだろうさ!」
宝石に、また黄白色のイオの輝きが宿り始めている。
また、話しながら大呪文を練り上げていこうという腹のようだが、アバンも当然、同じ轍は踏まない。
デルフリンガーを斬り上げるように振るって海波斬を飛ばし、即座に妨害にかかる。
「うっ!?」
フーケは咄嗟に、飛来した斬撃を手にした杖で受け止めた。
がきぃんという金属音がして、斬撃が弾かれる。
鉄の鎧でも輪切りにするほどの威力だったが、超高度の魔界金属でできた杖身は無傷だ。
「……勝ち誇るのは、まだ早い」
「ちっ、そうか。そんな飛び道具もあったかい……」
弾かれて逸れた斬撃がフードをかすめ、布地を切り裂いて、悪態をつくフーケの顔を露出させた。
その顔は、シャチの頭部にそっくりな、白黒二色の奇怪な覆面で覆われていた……。