ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~ 作:アバン流口殺法はご遠慮ください
(あの、動物を模した仮面は……やはり)
アバンはフーケの顔がシャチの覆面でおおわれているのを見て、かねてから抱いていた疑念を確信に変えた。
こいつはやはり、あの『ベルクス』の一員だ、と。
(ロン・ベルクは、ベルクスは十数年前のあの日に全滅したと言っていたが。魔界と地上よりも隔たった異世界へ移動したがゆえに、探知を免れていたのか……)
少女たちの方も、それは同じ。
「……あの女、なにかおかしなマスクをつけてない?」
「シャチ」
「動物の覆面! じゃあ、『破壊の杖』はやっぱり、アバンの言ってた……」
「ベルクス、ってやつだったみたいね」
アバンはオスマンの話からその可能性を考え、出発の前に、あらかじめ少女らにざっとした説明を済ませていたのだ。
昨夜のフーケが使った
もしかすると、昔自分が戦ったことのある、ベルクスと呼ばれる連中の生き残りかもしれない。
使い手を乗っ取るある種のインテリジェンスウェポンで、操られている者の頭が動物を模した覆面でおおわれるのが特徴だ、と。
『もしそうだったとすれば、「破壊の杖」はフーケの体を既に乗っ取っているか、もしくは何らかの手段でフーケの手元から逃れて、ロングビルさんの体を乗っ取っているかしている可能性が高いでしょう。盗賊が自分の意思で私を指名して呼びつけるというのは、どうにも不自然に思えますから』
彼がそう言っていたことを、ルイズは思い返す。
「じゃ、じゃあ、あの体はミス・ロングビルのものかもしれないってこと? それじゃ、迂闊に攻撃もできないじゃないの!」
「それはないと思うわよ。あいつはフーケのものと同じ、巨大ゴーレムを作ってるんだから。ミス・ロングビルのランクは知らないけど、仮にトライアングル以上だったとしても、あれだけそっくり同じなゴーレムを作れるとは思えないわ」
「ミス・ロングビル自身が、フーケでないとすればの話」
タバサの指摘に、残る二人の少女らははっとした。
「……そうか。そう考えれば、フーケがいつの間に彼女を攫ったのかって問題も解決するわね。確かに、ありそうな話だわ」
キュルケが頷く。
だとしても、それならどのみち盗賊の体なわけだから、遠慮する必要はないが。
「だけど、確定じゃないし……」
「そうね。少なくともアバンは、いくらか遠慮してるみたい」
「彼なら、たとえ相手がフーケでもそうする。と思う」
ルイズは焦った。
「アバンを手助けしないと!」
「無暗に近付けば、彼の邪魔になる」
そう答えるタバサの声には、かすかな口惜しさがにじんでいた。
彼女とて何かしたいのだ。
しかし、戦況を見極めて動かなくては、昨夜のようにアバンが自分たちを庇わねばならなくなり、彼の負担を増やすだけの結果になる……。
「ちっ、うっとおしい……!」
ゴーレムの上で、『破壊の杖』こと魔杖のオルカは忌々しげに悪態をついた。
あれからしばらくの間、アバンとの撃ち合いが続いている。
こちらが放てるのは単発のイオがせいぜいで、それよりも大きいのを撃とうとしても、すかさずアバンが海波斬で妨害してくるために霧散してしまうのだ。
距離的な余裕があるから難なく杖で防げてはいるが、こちらも有効打を撃ち込めない。
「効かないってのがわからないのかい? どうやらあんたは、それより強いのは撃てないようだね!」
オルカは、挑発するようにそう言ってみた。
アバンがより強いのを撃とうとして速射をやめてくれれば、こちらもデカいのを放つことができる。
「……それより強いのを撃てないのは、お前の方だろう」
アバンはそう返した。
オルカがぴくりと眉を動かす。
覆面越しなので、傍目にはわからないが。
「……は! なんだって? ボケたのかい。あたしは、遊ぶのをやめてその気になれば」
「先ほどの
アバンは話の間にも海波斬を放って、オルカに時間の余裕を与えない。
「呪文を強化するのに十分な『溜め』の時間が取れない限り、それは不可能なはずだ」
「なっ……!?」
オルカは絶句した。
なぜ、こいつがそんなことを知っているんだ?
「学院長から聞いた話を元に考えれば、すぐにわかる。彼の話では、『破壊の杖』にはイオ系の呪文を発動できる効果と、自分の意思があるようだった。彼の助手が杖を副葬品として墓に埋めようとした途端に、爆死させられたことから明らかだ」
アバンはオルカの動向に気を配りながら、説明をする。
「お前は先ほどからゴーレムの上に立っているだけで、爆撃とゴーレムとの同時操作ができていない。昨夜の動きとは明らかに違う。それは、お前がフーケではなく杖の方だからだ。お前には所有者を操る力がある。肉体の習得している魔法を使うことはできるようだが、明らかに扱いに慣れていない」
「……それもお見通しかい」
「それに、お前は『魔道士の杖』のように無尽蔵に呪文を放てる能力を持っているわけではない。それなら自力で収納ケースを砕いて脱出できるはずだ。お前はおそらく、手に取った者の魔法力をイオ系呪文に変換しているな」
「ふん。なかなかの当て推量じゃないか。他には?」
「先ほどイオナズンを外した時、お前に焦りはなかった。所有者の魔法力によほどの余裕があるのかと思ったが、その後は単発のイオしか撃ってこない。昨夜は同じイオの散弾を雨霰のように撃ってきたというのにだ」
「……何が言いたいのさ」
「お前がイオナズンを放つ際、杖の先の宝石に宿る光が時間が経つにつれて強くなっていったことが気にかかっていた。お前には所有者の注いだ魔法力をイオ系呪文に変換する以外にも能力がある。それは、その宝石の中に込められた呪文の威力を増幅させることだ」
ロン・ベルクから聞いた話では、彼が作ったダイの剣の鞘には剣に込められた魔法を増幅して、魔法剣の威力を高める能力があるということだった。
つまり、ベルク一族は魔法の威力を増幅できる魔道具を作り出す技術を持っているということで、それなら同じ一族の作ったベルクスの中に、類似の能力を持つ者がいてもおかしくない。
「だが、その増幅には時間がかかる。これまでのお前の攻撃から見て、イオからイオラや複数のイオの散弾に変化させるのに数秒から十数秒程度。イオナズンにまで増幅するには一分以上というところだろう」
アバンはそう話しながら、また一発、海波斬を放った。
「ぐっ……!」
オルカはその攻撃をかろうじて杖身で防ぎながらも、驚愕する。
(こっ、こいつ。あたしの正体が武器だと見破ったうえに、そんな手掛かりだけでそこまでこっちの能力を見抜いたってのか!?)
これまで誰も、イオの爆撃が降り注ぐ戦いの中で、そんなことに気付けた敵はいなかった。
その上、こいつは頭脳だけじゃない。
先ほどからの斬撃は重く、受けるたびに杖身が軋んでいる。
伝説の金属オリハルコンに次ぐ強度を誇るはずのこの体が、このままでは耐え切れずに破損させられかねない。
「つまり、増幅の隙を与えない限り、お前からは単発のイオしか飛んでこないということだ」
オルカはアバンにそう指摘されて、ぎりぎりと歯ぎしりをした。
「お前の能力は明らかに、後方からの砲撃役に適している。前衛に時間を稼いでもらえれば、最小限の魔法力消費で弾幕を張ったり極大呪文を放ったりできる。だが、向かい合っての一対一の戦いには向いていない」
アバンはそう言うと、ふっと笑みを浮かべる。
「それに……、そうしてやたらに魔法を放つばかりでは、『武器』である意義が感じられないな。『砲台』がいいところだ」
「……!!」
その挑発的な物言いに、オルカは怒気をはらんだ。
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「なんだと!? 今、なんといった!」
ベルクスが初めてアバンと邂逅するより、何十年も前のこと。
当時の彼らの拠点では、オルカとリーダー気取りの『魔剣のライゼ』とが言い争っていた。
「侮辱は許さないよ、ライゼ!」
「別に侮辱はしてないさ、怒るなよ。お前さんのようなどっちつかずは難儀だと言ったんだ。本当のことだろ」
「なっ……!」
オルカが殺気立つが、周囲の他のベルクスは我関せずと傍観している。
互いに自分こそが最強の武器と自負するベルクスの中では、ちょっとした小競り合いや決闘騒ぎは大して珍しくもないのだ。
「あたしの何がどっちつかずだ!? あたしの火力は、ベルクスでも最強だ!」
「お前の火力は、じゃなくて、その宝石から出る呪文の火力は、だろ」
ライゼは相手の怒気にも動じず、からかって怒らせるのが愉快だというように笑いながら、そう指摘する。
「魔法戦士は近接戦では戦士に、遠距離戦では魔法使いに劣る。そこで、遠距離では少量の魔法力を増幅することで、近距離では打撃と同時に密着間合いからイオを炸裂させることで火力面を強化してやれば、遠近両方において最強の超戦士になるはずだ……、とかいうコンセプトで作られたのがお前さんだ」
「そうだ! あたしは武器の完成系さ。たかが剣なんかに、とやかく言われる筋合いはないよ!」
「机上の空論なんだよなあ。実際には、遠間ではやたらにイオをぶっ放しまくるだけの火力馬鹿の砲台野郎で本物の魔法使いのような柔軟性がない。近間では、結局近接専用の剣や槍には及ばない棒っきれ。どっちつかずの典型だろ」
「! この……!」
「実戦も知らん頭でっかちの鍛冶屋が作った武器さ。大体、魔法に頼るなんざ、武器として上等じゃない。己の刃で敵を貫く。それが武器ってもんだ」
そう言いながら、操っているボディにぽんぽんと自分の柄を叩かせるライゼを見て、オルカは激高した。
「なら、どっちがショボい武器か思い知らせてやるよ!」
そう言って、シャチの覆面で操ったボディに、自分を掲げさせる。
先端の宝石の中で黄白色の輝きがバチバチと弾け出す。
豹の覆面を被ったライゼのボディは、愉快そうに笑いながら、本体を構えた。
周囲のベルクスたちは、怒りで見境のなくなったオルカの爆発に自分の大事なボディを巻き込まれてはかなわんと、静かに距離を置く。
ベルクスの本体は極めて魔法耐性の高い魔界金属でできているから、たとえイオナズンの直撃であろうと物ともしないが、生身のボディのほうは別だ。
と、そこへ。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
一触即発のライゼとオルカとの間に、横合いからパンダの覆面を被った大柄なボディを操るベルクスが仲介に入った。
爪のついた一対の手甲の形状をしたベルクス、『魔甲のベアーチェ』だ。
「喧嘩はよくないよね、仲良くしようよ。同じベルクスの仲間同士なんだからさ」
「はいはい。別に本気で争おうなんて気はないさ、ただの暇潰しだよ」
ライゼは肩をすくめながらも、大人しく頷いて剣を引っ込める。
「誰が……」
こんな奴と仲間なもんか、と言いかけて、オルカは口をつぐんだ。
このパンダ野郎は一見穏やかそうに見えてキレやすく、激高すると暴れまわって手が付けられなくなるのだ。
ライゼは委縮したオルカを一瞥して、くっくっと含み笑いをしながらベアーチェの腕を叩いた。
「そもそも、ベルクス最強の火力はこいつだろ。お互いに、冗談はほどほどにしようや」
「……っ!」
態々そんなことを言い捨てるライゼに、オルカはぎりぎりと歯軋りをした。
このベアーチェは押しつけがましく仲間意識を強要してくるのもいけ好かないが、ベルクス最強の火力を自分と争う存在という点でも、彼女にとっては疎ましい存在だった。
おまけに、もしこいつとの戦いとなったら、正直自分の方が相性が悪い。
ベルクスはただでさえ操るボディの苦痛に対して無頓着な傾向があるために多少の被弾を無視して向かってこられるのだが、こいつの両手の魔甲は防御面積が広いので正面からイオを撃ち込んでもことごとく弾かれてしまうし、イオナズンでさえ決定打にならない。
おまけに、こいつの技はライゼも言ったとおり、間違いなくベルクス最強の近接火力を誇る。
強引に間合いを詰められたら、一撃で粉砕されてしまうだろう。
自分のことは見下してくるライゼが、こいつには明らかに一目置いているらしいのも気に食わない。
「お世辞を言っても何も出ないよ?」
「ま。お前さんはどっちつかずな肉体の選び方をやめて、適当な魔法使いの肉体を手に入れて砲台をやるんだな。悪いことは言わん。そのほうが合ってるぜ」
のほほんとそんなことを言いながら去っていくベアーチェとライゼの背中を、オルカは睨み続けていた。
(馬鹿にしやがって! 今に見てな……!)
自分はただの砲台でも、ただの棒っきれでもない。
武器としてのポテンシャルは、あんな単純な武器でしかない連中よりも自分の方が圧倒的に高いはずだ。
いずれ遠近両方において申し分のない、自分の性能を十全に発揮することのできる肉体を手に入れさえすれば、他のベルクスどもなど――。
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「……知ったふうな口を叩きやがって! どいつもこいつも!!」
オルカは激高してそう叫ぶと、尾びれ状の石突きを苛立ったように自分の立つゴーレムの肩に打ち付けた。
「あたしがただの砲台かどうか、教えてやるよ!」
一見、単に怒りに任せて、物にあたっただけのように見える。
だがアバンは、その瞬間に杖の宝石に宿っていた黄白色の輝きがすっと消えたことに気が付いた。
(なんだ? 今の動作は……)
しかし、オルカが続けてまたイオを放ってきたので、深く考えている余裕はなかった。
呪文を切り払い、こちらからも海波斬で攻撃をかけて牽制する。
その時、アバンは足元のあたりに違和感を感じた。
「……っ!?」
咄嗟に飛び退くが、上方のフーケの動向に注意の大部分が向いていたために、若干回避が遅れた。
足元から吹き上がった爆発が彼の足を不完全ながらも捉え、負傷させる。
「ぐっ!」
「相棒っ!?」
苦痛に呻くアバンを見て、オルカは嗤った。
「ははは、これでわかったかい。あたしがただイオを撃つだけじゃないってことが!」
「……イオの爆発を地中に伝わせ、足元から奇襲攻撃をかけることもできるのか」
「そうさ。これがあたしの
傷は浅いが、足へのダメージはしばらく機動力に影響してくる。
不慣れながらもゴーレムを操って攻撃や防御をどうにかし、アバンがそれに対処している間に増幅の余裕を得たオルカは、複数のイオの光球を宙に浮かべた。
「食らいなッ!」
オルカはそう叫んで、イオの光球をアバン目掛けて立て続けに降り注がせた。
同時に、再び石突きをゴーレムの肩に打ち付け、ゴーレムの体伝いに爆発を地中に送り込んで足元からアバンを襲わせようとする。
上方の攻撃に注意を向けさせておいての、本命を地中に潜ませての奇襲攻撃。
回避に必死な敵の足を地中から噴き上がる牙が捉え、体勢を崩したところに爆撃の雨が降り注ぐという寸法だ。
かつて『天空王』と呼ばれた男が編み出したとされる天地双方からのコンビネーション攻撃を模倣したもので、彼女の必勝戦法の一つである。