初恋の検事   作:桂ヒナギク

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3.異動

 朝。

 カーテンの隙間から差し込む太陽光。

 目を覚ます奏。

 だが元気があまりない。

 それもそうだ。

 昨日、散々怒られた上に、監察対象にもなってしまったからだ。

 就寝前、携帯に監察官から呼び出しのメッセージが入っていた。

 奏は朝食を食べ、準備をして警視庁本部へと登庁し、監察官室を訪ねた。

「溝口巡査部長。あなたは、街で見かけた乾弁護士に好意を抱き、尾行を行い、その者の自宅を特定して留守中を狙って不法侵入をし、盗聴器を仕掛けた。間違いないね?」

「間違い。私、彼好き」

 監察官は咳払いをする。

「次に、あなたは勤務を終え、保管庫にしまうはずの拳銃を勝手に持ち出し、護身用として携帯していた。重大な規律違反とともに、銃刀法違反でもある」

「私、怖かったです。ストーカー」

「溝口巡査部長、正式な処分が下るまで、自宅謹慎を言い渡す。貸与している警察手帳と手錠を預かる」

「手帳と手錠。私の。大切」

「いいからとっとと置いて消えろ!」

 奏は警察手帳と手錠を取り出し、監察官の前に置くと、廊下へと追い出されてしまった。

(私、悪いことしたのかな……。乾さん)

 奏は翔一を思い浮かべながら、トボトボと廊下を歩く。

(乾さん、私の弁護人。私、無罪)

 トン。

 下を向いて歩いていため、曲がり角から出てきた職員に気づかずぶつかってしまった。

 50代の男性職員だろうか。

 職員は奏を数秒見つめる。

「あ、ごめんなさい」

 奏は頭を下げると、恥ずかしそうに職員を避けて歩き出す。

 職員は奏の方を振り返ってから、監察官室へと入った。

 

 

 翔一は弁護士会の除籍手続きをしていた。

「あなたのような方がどうして?」

「検事に復職しようと思いまして」

「そうですか。やはり、捜査官の方が板についてますか?」

「それもあります。それと、もう一つ理由も」

「なんですか?」

「個人的なことなので」

「除籍、承りました」

 翔一は事務員にお礼を言うと、弁護士会を出た。

(あの子、どうしてるのかな)

 翔一は車を運転しながら、奏のことを考えていた。

(あれ? なんで俺、あの子のことばかり気にしてるんだろう?)

 車は東京地検の駐車場に。

 建物内に入り、人事へと向かう。

「すいません」

「何でしょうか?」

「検事に復職したいのですが。階級引き継ぎで」

「えっと……」

「ああ、乾です」

「ああ! 乾さんですか! 噂は聞いてます! 確か冤罪率0、検挙率ナンバーワンの!」

「一号検事だった」

「すごいですね! 戻ってくるんですか?」

「はい」

「わかりました。ポストご用意しときます」

「ありがとう」

 翔一は車に戻り、奏の家に向かう。

(今頃、謹慎にでもなってるんじゃないかな。それかクビか)

 奏の自宅前に車を停める。

 インターホンを押す。

 奏が扉を開けた。

「乾さん……」

 不安そうだった彼女が、安堵の表情を浮かべる。

「監察官になんて言われた?」

「仕事。休み」

(謹慎か)

「一人、いるの。心細い」

「上がってもいい?」

「はい!」

 奏は翔一を招き入れた。

「お茶入れますね」

 部屋中の壁に貼られた写真は未だに残っていた。

「溝口さん、いつ俺のことを知ったの?」

「二週間くらい前です」

 業務説明会より後のことだった。

「その前に会ってるんだよ」

「え?」

「警察署内でね」

 疑問符を浮かべて首を傾げる奏。

「乾さん、初めて。会うの、二週間前」

「俺、警察官に採用されたんだけどさ……」

「働ける。一緒に」

「いや、辞退するよ」

「やめちゃう?」

「十ヶ月の研修がネック」

「難しくない、学校」

「検事に戻ろうと思って」

「検事!?」

「そうすればすぐにでも捜査に復帰できるからね」

「よかった」

 笑みを浮かべる奏。

 と、奏の携帯が鳴る。

 画面には警視庁の文字が。

「はい!」

「溝口巡査部長の携帯ですか?」

「はい」

「溝口、至急、監察官室に来い」

 疑問符を浮かべる奏。

「わかりました」

 電話をしまう。

「どうしたの?」

「監察官、呼ばれました」

「送ってくよ」

「いいんですか!?」

 奏は嬉しそうに翔一の運転する車に乗った。

 

 

 警視庁本部地下駐車場。

「行ってきな」

「はい!」

 車から降りると、奏は小走りで監察官室へ向かった。

 扉を開けて入る。

「溝口巡査部長、君の処分が決まった」

 一瞬の静寂。辺りに緊張が走る。

「本部の捜査一課に異動だ」

「捜査一課。刑事!?」

 監察官は不思議に思っていた。

 クビにしようとした相手が、なぜか上層部の判断で刑事課への異動になる。

 圧力がかかった以上、それに従うのが部下の仕事である。

「ありがとうございます」

 奏は嬉しそうに廊下へ出る。

(念願の刑事。乾さんと一緒!)

 ご機嫌な奏だった。

 

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