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「ゼット・ライトよ、頼みがある」
「自分に可能な事でしたら何なりと」
「ビアレスの完成前に、ビランビーを一機新造してくれぬか?」
「可能です。仕上がりを確認するために余裕を持たせましたので」
策の話が出た時、ゼット・ライトは原作とかけ離れた事を理解できなかった。
原作では『似たような策』を使っているので存在しない行動であり、似たような行動ゆえにゲームでも行われない『策』だからだ。そもそも、この時期に追加で策を練る事は少なかった。ドレイク・ルフトがその策に言及した時、ゼットは気がつかなかったのだ。
「そうか。ではアの国の紋章を刻んでくれ。贈り物にするのでな」
「……閣下! いけません! 仇に敵戦力を増やすだけです!」
「良いのだショット。しょせんは一機、それで最後の蟠りが解けるのであればな」
ドレイクが提案した意匠に関してショット・ウェポンが口を挟んだ。
彼は戦略を練るために軍師のような事もしており、ドレイクが何をするかも理解しているのだろう。もしかしたら過去にも相談したことがあったのかもしれない。
「遥かに性能が向上し、射撃武器まで付いております。危険ですぞ」
「だからこそだ。そこまでの機体を献上されて、時代の変化を見抜けぬのならばフラオン・エルフに未来は無い。重臣たちもその事を理解しよう。ワシが提供せずとも、遠からず他の国も用意できるようになるのだからな」
ドレイクは主君であるフラオン・エルフに反旗を翻す気であった。
その事は何人もの人間が知っているし、教えられずとも想像の翼を巡らせるだけで思いつく者は沢山いただろう。ゼットは量産が始まった段階でドレイクから聞かされていたし、もっと前にショットから『行けるところまで行ってみたい』と野心を仄めかされたことがある。原作知識が無かったとしても、察するなという方が嘘であろう。
「今なら最新型のオーラバトラーを献上する事になる。それは嘘では無い」
「ビアレスならば圧倒しましょう。ビランビーやドラムロも居りますが……」
(ふ~ん。油断させる為と最後の一押しで『今の』最新型を献上すんのか。謀反をするドレイクはともかく、他の領主の中にはギブン家みたいに忠臣も居るだろうしな。ここで『最新型を献上し、その機会に最後の諫言を行う』とでも言えばグラつく奴も出るかもな。陰謀家のビショットは甘さを笑うだろうが、他の国の連中には効くかもしれねえ。特にフォイゾン王が援軍を出さなかったらそれで十分だ)
原作では容易く信じたフラオンだが、愚かなので益々信じる事になるだろう。
ただ反乱を起こす気ならば、旧型のゲドのみ持たせた今の状況で攻撃を仕掛けるべきなのだ。原作では実際にそうしたし、直前に聖戦士を三人追加で召喚してもいる。確実に勝てる状況まで追い込んでから謀反を起こしたと言える。そこをあえて危険を背負う行為を、他国への牽制と見た。
「それにゼラーナも沈みかけておる。彼奴等が手を出さぬならば問題は無い」
「確かに報告にはありました。ですがだからこそ何をするか判りませんぞ!」
(あー。なるほどねえ。原作と違ったのはゼラーナが撃沈とは言わずとも大破でもしたのかねえ。そうなりゃあ良くてラウの国に辿り着くので精一杯、こっちに手を出す余裕はねえよな。聖戦士も召喚してねえし、かなり有利な状況なんだろうな。だからこそドレイクも土壇場でこんな策を打とうとしてんのか)
ゼットは原作とずれ始めた理由をようやく理解した。
彼は機密を守りゼラーナ隊に情報が渡らないようにしたし、新型の為にビランビーを調整して派生型や試験型も作った。ガラリアを始めとして演習で戦術を身に着けるように誘導したし、機械の館の量産性を上げたことで中間戦力自体が増えているのだ。そして、原作でもドレイクは善人ぶりたい部分と、覇王として冷徹な部分の二面性を持っていた。ここでフラオンに翻意させるキッカケを与えつつ、他国からの援軍を足止めする案にもなり得ると思えば、確かに実行を考えてしまうのも仕方なのかもしれない。
「では機械の館の警備を減らし、こちらに誘導するのはいかがでしょうか?」
「ゼット、君まで何を言う! だいたい機械の館に誘導して何の意味が……」
「相手の考え方を誘導して分断するんだよ。今動けるのはどう頑張ってもダンバインとウイングキャリバーだけだろ? なら奴らが狙えるのはラース・ワウそのものか、閣下かリムル様のような要人、あるいは機械の館にある生産設備くらいだ。このまま放置したらエルフ城に援軍として向かっうって選択肢が増えちまうわな。だが、その前に機械の館が手薄になるって知ったらどうよ」
ここでゼットはドレイクの賭けに乗り、策を提案する事にした。
これまでは原作への介入は余計な事だと避けており、戦力を増やすような小さな改良などは別にして、流れを大きく変えることには口を出さなかったのだ。処世術であるとも言えるが、明確に原作と変わってきており、それもドレイクが漢気を出したということで影響されたというのもあった。
「確かにな。ダンバインさえおらねばエルフ城などひとたまりもあるまい」
「閣下! 確実に勝てる戦いに博打要素を持ち込む必要などありません」
「そうかあ? ここで閣下が忠臣として最後の仕事をまっとうすれば、今回の件は『アの国の事情』ってことになる。他国は動き難くなるし、特にミの国と縁戚のあったラウの国は援軍出すの躊躇うんじゃねえか? 勝つのは同じだが、その後に連戦するのと余裕を持って生産できるんじゃ随分と違うぜ」
ドレイクはゼットの言葉を自論に組み入れ、そこにショットは反論を返す。
だが改めてゼットが口を挟むと、正論としての重みがショットではなくドレイク側に移った。ショットが言うように確実に勝てる戦いなのに敵に塩を送る必要はない、騎士用であるビランビーを与え謀反の気配を悟らせる必要など無いのだ。だが、どうやっても勝てるならばどうだろうか? 『アの国の事情』であれば他国が動く理由など無い。『ドレイクの野心ゆえに、阻むために援軍を出す』という名目では動き難くなるのだ。特にラウのフォイゾン王は微妙な立場に立たされることになる。娘を浚ったピネガン・ハンムが憎らしかったのは分かるが、『ミの国が落ちる時に援軍を出さず、どうしてアの国には出すのか?』という事になる訳だ。ミの国を落したのはフラオンの命令であり、ドレイクはそれに従っただけ。その事を諫めるというのだから、このタイミングでドレイクの野望うんぬんを口出すのはおかしいという事になってしまうのである。
「だが! 機械の館が焼ければ戦力が落ちるのは同じだろうに!」
「だ、そうだが? ゼット、貴様には何か腹案があるのであろうな?」
「幸いというわけではありませんが、修理用の工房艦が完成間際。ビアレスの一機目さえ完成させれば問題はありません。更に先日、聞かされました例の件に人員と資材を回せば、一度空にしても問題はありませんぜ。どうせ次の強獣は輸送中でさあ」
ショットは効率的ではないと語るが二人は顔を見合わせて笑って返した。
全ての計画を知っているドレイクはゼットに対し、戦力が落ちることに対する問題がないかを確認。これに対してゼットは工房艦であるスキーズブラズニルが調整段階にあると返した。どうせクレーンや作業台の調整くらいだし、戦闘になったら戦場でゆっくり調整すれば良いと思っていたのを修正して、前段階から人員を送るという。そして最大の機密ゆえに口には出さないが、総旗艦オーラバトルシップ『ウイルウィプス』の建造計画があるから、機械の館の一部と残りの人員を移動させても受け入れ先はあると告げたのである
「だとしても本当に来るか怪しい上に、減らし過ぎれば焼き払われかねん」
「俺とトッドが居れば問題ねえよ。俺がいりゃあ、再整備って事に出来る」
「ゼット! お前死ぬ気か!? 今までオーラが高くとも戦わなかったろう」
「地位に興味が無かっただけさ。それに勝つんじゃなくて時間を稼ぐだけだ」
段々とショットの言葉が白熱化し周囲はそれを興味深そうに見守っている。
普段冷静な彼が熱くなるのは良い見世物だが、それ以上に今回の件は誰にも関心がある事だからだ。ショットがいう効率は確かに重要だし、自分がやられ役には成りたくないものである。勝ち馬に乗れる状況なのに危険な策を取りたくない。だが同時に、ドレイクが大義名分にこだわり騎士的な浪漫を踏襲しようとするのも分かるのだ。この場に居る多くの者は中世世界観で暮らしており、ドレイクが『アの国の重臣』として動き、それでも駄目だから国を奪って糺す。それは何よりも甘美で、これまでの常識に合わせたものであるがゆえに抗いがたい誘惑なのである。
「ゼット・ライト。地位に興味が無いと言ったな。ではどうして命を懸ける」
「閣下はこのままでも天下を奪った覇王には成れます。保証しますぜ」
「ふむ。並の物ならば阿諛追従と切って捨てるところだがな。それで?」
「ここ手順を揃えて『攻めて来る他国を迎え討て』ば、どこかで妥協してたとしてもバイストン・ウェルの混乱を抑えた聖王ってところでしょう? なら、そんなお人に戦力を提供した俺の鼻も高いってところです。大義名分作りにワザワザ先王の墓に詣でるかまではお任せしますがね」
ゼットが命を懸ける理由はまさにそこであった。
原作の路線を引き継いだところで、原作の延長 根上に過ぎない。原作よりも戦力を整えスムーズに戦いを終わらせることが出来れば、原作よりもマシな状況になってその後のバイストン・ウェルも少しはマシな世界に成るだろう。だがドレイクが大義名分を得て、戦乱を治める方向に舵を切れば世界はもっとマシになるかもしれない。本当にゲーム世界ならば見た事のない未来は見てみたいし、何より転生者として『自分の手で関与して作り出した』という未来は大きな意義があるのだ。
「ふっ……ふははは! 覇王と聖王を天秤に掛けるか、悪くない」
「でしょう? ならこの首くらいは掛けてみる価値があると思いますぜ」
「よかろう! 我が意は決した。全ての大義をこの手に攻め登る!」
「「はっ!」」
ゼットは名誉欲を刺激していることを否定しなかった。
このままでもバイストンウェルを席巻した覇王には成れる、運が良ければ世界を制する覇王にまで到達できる。しかし大義名分を手にすれば、そのまま聖王として世界を牽引するリーダーになれるのだ。その単語に相当する敬称があるのかは分からないが、コモンの人々に刺激を与えているならば存在するのだろう。ドレイクが宣言すると家臣たちはうち揃って剣を掲げ、ドレイクに敬意を捧げるのであった。
「やってくれたなゼット……」
「おう。俺は満足してるぜ。それと以前の襲撃騒ぎ以降、万が一を考えて鍛冶師に指示は出してある。俺が居なくなっても機械の館は動くし、例の話が前倒しになっても問題ねえだろうよ。それと……バーンはともかくドレイクは無能じゃねえ。さらに上を目指すならガロウ・ランとフェラリオだけじゃなく、取るに足らない一般人にも気を付けとくんだな」
怒りを隠せないショットと対照的にゼットは笑って退出した。
自分死ぬことも計算に入れてやりたいことをやるゼットに対し、スパイが送り込まれている可能性へ今更ながらに気がつき驚くショット。自分はすでに死んだと思っているゼットと、夢や野心を叶える遊び場として考えるショットとの差であるのかもしれない。もちろんその精神性の差は地位獲得などには逆に働く、二人の扱いの差などはまさにその証左だ。だが、釈然としないものを抱えるショットであった。
(キブツの奴はサーバインのお守りだな。封印の前に張り付けておいて、戦闘が始まったら蓋として呼び戻すって事にしとけば問題がない。フォウを操ってるのが娘って可能性もあるしな、割り切ってるつもりなんだろうが懸念は少しでも無い方がいい。後は役目を終えた一号機と二号機でどこまでやれるか……だな)
ゼットは歩きながら適当に作戦と言い訳を考えておいた。
原作やゲーム通りだとダンバインがこちらに襲撃を掛けるかは分からないが、バーンやガラリアの奮戦でゼラーナが大破していたり、ドレイクの行動で相手の思惑が前後すれば話は異なって来る。次の予定の為に物資と警備をセットで動かせば、機械の館を襲撃する可能性は高まるだろう。その上で懸念事項であるキブツ・キッスを敵が奪うかもしれないサーバインに張り付けておき、時間をかけて守り抜いた場合に増援として役立つようにしておいた。問題はゲームと違って撃たれれば性能が低下するし、運が悪ければ撃墜されてしまう事だ。ダンバインのように限界オーラが無い機体と違い、所詮はビランビーの派生機である。勝ち切れるか悩み始めたのであった。
という訳で、ゼットも戦いに出る事になります。
>献上品の天丼
危険ばかり多い行為ですが、だからこそ形式が成り立つ感じですね。
前回の献上は油断させて旧式を掴ませる為、今回は他の重臣や諸外国にストップ掛ける為。
・ショットの思惑
1:確実に勝てる
2:なし崩しに他国が参戦し、そいつらを叩ける
3:大義名分が無いので、ドレイクを倒しても問題が出なくなる
・ゼットの思惑
4:ドレイクのアラメントがカ・オスからロウに近い状態になれば、世界がマシになる。
5:他国が一度止る可能性が高い。そうなると第三世代量産できる。
6:どうせ戦争したい勢力が戦争起こすので、ドレイク軍は迎え撃ったり、援軍出す立場で十分勝てる。しかも盟主として停戦合意取り付けるだけでいい。
だいたいこんな感じで思惑の差があります。
ダンバインが機械の館に来ない時は、大破したゼラーナと一緒にラウにでも留まってるから、どのみち勝てる。という感じですね。