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「亡き陛下よ。このバイストンウェルと地上は影響し合っております。過去に起きた地上の戦火はこのバイスンウェルに影響をもたらすでしょう。その名を世界大戦とか」
ドレイク・ルフトは先王の墓所に詣で、反乱の説明を行った。
カ・オスの躍動であるとか強獣の暴走、あるいは諸王の行動。それらは地上の影響、バイストンウェルが戦火に包まれる。そしてその影響は地上にも揺り返すのだと告げたのだ。それを確かめる術はないが、不思議としっくりくる言い訳である。
「それが真かは分かりませぬ。しかし諸王が戦いの準備を行っているのは確か。このアの国を守るため、フラオン様を討たせていただく。お恨みなされても文句は申しませぬ」
そして各国の王たちが軍備を拡大しているのは事実である。
だがアの国のフラオン・エルフは楽観主義と享楽的な行動で出遅れている。人々へ課す税金は他国と比べてむしろ多い方であるというのが、国民感情を刺激していた。バイストン・ウェルに民の権利など存在しないが、民と兵の垣根が低い中世世界観であることを考えれば危険な行為であろう。兵が夜盗となって町を焼く事は多いし、それを制する意味でも騎士とその規範は重要なのだ。残念ながらアの国においてその規範は崩れてしまっている。
「この地に集いし諸卿よ。王が王足り得ぬならば臣もまた臣足らず。儂はフラオン・エルフを討ち、この国の王と成る。儂はこの国を救い導くつもりでおるが、儂もまた悪と成れば構わず討つが良い」
「「おお!」」
ドレイクの言葉に兵も騎士も従った。その言葉を真実だと思った。
兵士は槍を掲げ、騎士は剣を捧げて列を作る。勇ましいオーラバトラーが片膝を着き、腕を曲げた機体の上からバーンやガラリアたちも剣を掲げていた。今、幻想の中に居る。騎士道の幻想の中でアの国を、バイストンウェルを導く為の戦いが始まるのだと誰もが自覚していた。
「これよりエルフ城へと出陣する! バーン・バニングスよ、精鋭のみを率い先陣と成れ!」
「はっ! 必ずや我が隊だけで城門を落してみせましょうぞ」
先鋒はビアレスに乗ったバーン・バニングス。
エルフ城に籠るフラオンの軍勢より遥かに少なく、味方になった重臣や領主たちの手前もあり、あえてドレイクは数を用意せずに機体の性能差だけで押し切る構えを見せていた。とはいえ相手はゲドの集団であり、贈呈したビランビーを騎士団長が習熟しているところである。恐れる必要はまったくなかった。
「ゼット殿。本当にダンバインは来ぬのかな?」
「無理だな。損傷を直すのは難しい。直せる距離から飛んだんじゃ気力が持たねえ。俺は損傷が残る戦い方をしたし、おそらくはミの国でゼラーナを叩いたガラリアもそうだろうぜ」
念のために放ったバーンの質問にゼット・ライトが答えた。
ダンバインの全体を撫でるように大型バルカンを発射。腕のオーラショットも強引に千切っているし、クローの損傷を考えれば簡単に直せるものではない。そう言う確実なやり方をしたと証言したのだ。
「ふん。ならば負けるはずはない。私の手並みを見ているのだな」
「ちっ。バーンめ。良い気になって……言わせてよいのかゼット殿」
「構やしねえさ。誰かが任務を果たせればな。そういうもんだろう」
原作と違い、確実な戦い方をしているのでゼラーナ隊を追い詰めている。
そのおかげもあって指揮しているバーンは連戦連勝というところであった。ラウの国まで追いかけてあちらの軍勢と接触した時は別だが、その時はラウが庇うと思わなかったので仕方が無いだろう(万が一の越境を伝えてなかったバーンも悪いが)。ただ個人の手柄でもないのに誇る彼を、ガラリア・ニャムヒー達が面白く持っていないのは確かであった。
「城門如き私の機体ならばすぐに落としてくれる。何を誇るのだ」
「昔はそれが手柄だった。僅かな間に世界は変わった。フラオン・エルフはそれを理解しなかった。バーンは勝ち馬に乗り、ドレイクの後釜を狙ってリムル様の尻を追い掛けている。それだけのことだろうよ」
功績争いをしているというか、功名を上げたいガラリアとゼットは違う。
裏方でありそれを支えるのが仕事なのだ。バーンに機体を提供するし、ガラリアにも提供する。試験型の運用に付き合ってくれるガラリアにほんの少しサービスをするし、尊大な口を利くバーンに特にサービスはしない。それだけの間柄であった。バーンが領主也国王に成れば格上扱いするしかないし、こちらを迫害するなら出ていくだけのことであろう。バーンはドレイクではないのだから。
「それにな、どのみち城門は向こうに残った重臣が開く事になってんだよ」
「だからと言って、自分の奮戦の結果だというぞあいつは!」
「もう少し待てよ。時代についていけないのはあいつもだからな」
「なに? 何かあるのか?」
バーンは当て馬に過ぎない、苦労と危険を背負う役だ。
憤慨するガラリアへゼットが説明した。もちろんそれで収まる訳はないので、もう少し説明してやる事にした。酒など出せないので茶を持ってこさせながら解説していく。
「バーンが何かやったのか? いや、これから起こすから待てと?」
「酒を許して町を焼いても多めにみるなど、今までの延長で兵を動かしてる」
「それが普通ではないのか? どこの軍も同じだぞ。命を懸けた報酬なのだ」
「時と場合によるって事さ。実際、最初の頃の襲撃や情報漏洩は酒や賄賂のせいだ。それでなくとも大義名分にこだわってるのがドレイク閣下だし、今はルーザ様の意見が強い。女の身で略奪を許せるかって話しよ。ミの国でこっちに従わないゼラーナの連中をかくまってんのは、町を焼かれたからだ。つまりは今の繋がる問題はバーンのせいでもある、閣下はそれを忘れてはいない」
バイストンウェルは封建社会であり、別に理想郷ではないのだ。
兵士の息抜きに酒を呑ませるのは『出来た上司』であるし、順番待ちの調整や情報を売って小銭を稼ぐのは当然のことだ。戦いで勝利すれば町で略奪を働くのは多めに見てもらえることもある。その辺りの塩梅を見るのも上司の役目である。中世世界観としてはバーンの行動はなにも間違っておらず、目くじらを立てるゼットの方がおかしいと言えた。だが中世ならではの慣例を立てて、ゼラーナ隊が活躍したのはバーンのせいであり、ドレイクやルーザが快く思っていないと言われたら否定の仕様もなかった。
「突撃隊長であるお前やトッドが失敗しても、それもまた経験だ。だが奴は違う、全軍を預かる騎士団長でもあるからな。そして上に立つ者にとって、功績と失態ってのは増えたり減ったりするもんじゃねえ。右手と左手、同時に評価するもんなんだぜ。ついでにいうと、ショットは身分のある家柄を嫌ってるからな。バーンを兵士として囲う事はあっても庇う事はねえだろうよ」
「上に立つ者の功績と失態は増えたり減ったりしない……」
「そうだ。足したり引いたりしない。見比べてるだけだ」
そこまで言うとガラリアも現状を理解した。
軽く右手と左手を掲げて見せて、何が起きているかを理解しようとした。だがこれまで正しいと思っていることを、急に犯罪まがいの行為だと言われても納得できるはずがない。ただバーンの立場が言う程に盤石ではなく、何かあれば失態を追及されかねない事は分かった。そして唯一庇いそうなショットでさえも、ミの国を焼いて機械の館を増やす計画を邪魔したバーンを庇わないだろう。そう言われてしまえば、納得してしまうのであった。
「あいつは他人の功績も自分の功績だといってるわりに、功績を挙げそうな奴は露骨に警戒する。なら『ドレイク軍がやらかしてる』事は全部あいつの責任って事だよな」
「言われてみればそうだな。私の時もそうだし、キブツ殿もそうだった」
「今はそれだけ覚えときゃいい。功績上げるならみんなで協力な」
「ああ……全員で我が軍の勝利に貢献するとしよう」
原作では勝利が少ないので、バーンは早い段階で処罰された。
このエルフ城攻略時点で既に処罰対象となっているのだ。この世界では勝利を重ねているから問題になっていないが、他人の功績を含めてドレイク軍全体で追い詰めていることを、まるで我が事のように誇っているのが腹が立つのである。騎士団長という物はそういうものだと言われたらそうだと言うしかないが、逆に言えばこれまでの常識では問題だと言われたら騎士団長が責任を取るべきであろう。『いっそのこと抜け駆けしてやろうか?』などと思っていたガラリアも落ち着きを取り戻したのであった。
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「条件を蹴った? 馬鹿じゃねえのか」
「とはいえ父祖の城だ。開城など認められる筈もあるまい」
「それならそれで、別の条件を出して収めるのが貴族ってもんだろうに」
「それはそうだが……フラオン王が許さなかったと聞く。あれでは駄目だな」
交戦初日、バーンが敵騎士団長のビランビーを打ち破った。
それによくしたバーン隊が城門に迫り、オーラシップからの降下強襲作戦も含めてエルフ城の中庭での戦いに移行する。ドレイク軍はこの段階で降伏勧告と、受け入れられないならば条件調整としての交渉を申し入れたのだ。フラオンがエルフ城を出るか、さもなければ戦闘継続か。戦うならば何らかの条件でドレイク軍が数を制限するなり、あるいは援軍を待つ期間などを話し合おうとしたのである。だがガラリアから聞く限り、フラオン王はどの条件もまともに取り合ってないように思われる。
「他国の手前、相当に甘めの条件にしてる筈だぞ。そいつを蹴るなら馬鹿だ」
「バーンが自分を讃えさせるために騎士団長を討ち取らなかったのもあるな」
「さしずめ『手を抜いたのだろうお前は解任だ』とでも言ったのか、『次は許さん』とでも言ったか……。まあどっちみち終わりだな。今ごろはエルフ家の体面が保たれるだけの日数を裏で交渉してるだろうよ。それを過ぎたら落城、フラオン陛下が全責任を取って自決ってとこだろうさ」
この件で分かったのは、本当にフラオンが馬鹿殿だということである。
どう考えても勝てない戦いであり、ドレイクは甘めの条件で降伏勧告や条件設定をした筈だ。降伏すれば何処かの領主として名を残し、条件を受け入れた場合は名誉ある戦いをしたということになって、数代後には上級貴族として家を再興できるかもしれない『誉』を得た筈だった。そういった温情を投げ捨てたのである、残る重臣たちもフラオンを見捨てたであろうし、エルフ家存続のために行動するのが精々であろう。
「なあゼット殿……私はどうすれば良いと思う?」
「好きにすればいいと思うが、こんな戦いじゃあなあ」
「バーンが目を付けられている話を聞いたのもあって自信が無くてな」
「お前さんは気にする事は無いと思うがね……。条件を設定しなかった以上は総攻撃、やらなきゃ他の国に舐められる。ここまでは確定として問題なのは二つだな」
古い時代の戦争には条件設定というものが存在する。
見渡す限りの大地の中で、出逢う事すら難しい時代には戦場向きの場所で戦おうと決めたのだ。それが古戦場というものであり、勝ったり負けたりして賠償が勝者に支払われる。時にはソレを不満として戦争が起きるのだが、時には勝敗がどうでも良くなるような彼方で戦争が起きるので、何でも人は戦争してしまうわけだ。『コレをしないから、お前もアレをするな』と互いが満足できる条件で戦うのが大昔の戦争。それを設定しないという事は、『何でもやっていい』ということであり、そんな馬鹿な事を言い出した者を叩き潰せない時点で対戦相手も多寡が知れる存在ということになってしまう。
「一つ目は間違いなく援軍が駆けつけてフラオンを浚って脱出しちまう事。ギブン家に文句を付けた王様も、今ごろはダンバインを呼べとか言ってそうだかんな」
「フラオン王は敗北を認めていない。だから内乱を続けると。確かに困るな」
「それを避けるために、ダンバインに備えて第二陣へ控えるとでも言っとけ」
「功を焦るような戦力でもないか。了解した、そうしておこう」
ガラリアは功績を挙げたがっているが、どんな戦いでも良いわけではない。
義理の父親の不名誉を払拭し、ガラリア・ニャムヒー此処に在りと喧伝したいのだ。獣がお互いの肉を奪い合う様な戦いには参加したいが、死体漁りに近い状況で何が何でも名前を広めたいというわけではない。ビランビーを修理したとしても一機、ゲドしかいない上に、士気が下がっている敵をなぶり殺しにしてまで得たい功績では無かった。
「それで、もう一つは?」
「明日からの戦いは勝って当然なんだ。城を燃やされたら困るだろ?」
「なるほどな。我々の城を無為に燃やす訳にはいかんか。隊の兵を回そう」
「頼む。俺がそれを言ったら戦場の事を何も知らん気楽な発言とでも言われかねん。だが、お前さんやトッドが言ってくれれば歴戦の戦士が『次』に備えるってことになるからな。ま、会議でどれほどのゲドと大砲が残ってるか次第だがね」
勝つか負けるかの戦いと、勝って当然の戦いはまるで違う。
その後の施設に対する配慮があってもよいし、そのことは上に立つ者として相応しい態度になるだろう。だからガラリアは反対しなかったし、最前線で突入の速さを競わないならば歩兵など不要なのだ。火事に備えて兵を動かしても別に構うまい。そしてその事を知ったエルフ家の重臣たちは、保護を求めて略奪から避けるために従ってくれるだろう。隊長が女性であるガラリアであれば猶更であろう。
(とはいえショットの奴なら、ミュージィと三号機の能力を見るために手持ちの兵をバーンへ付けるだろうな。多少ゲドが残ったところで問題ねえだろうよ。面倒くせえがその辺りを調整しとくか)
ゼットはこの後のことを軽く想像してみた。
ショット・ウェポンがミュージィ・ポウを前に出したいというならば、ガラリアが第二陣に下がってダンバインに備えるというのは好都合なのだ。何も言わなくても上手く回る可能性が高い。だが同時にその辺りの話を聞いて、『勝手な事をする』と思う可能性もあった。機械の館を無傷で抑えたいという思いもショットとゼットは共通で思っているが、何も言わなければ勢力争いに見える可能性だってある。ここは『三号機の力が見たいからガラリアに下がってもらった』と言う流れにして話し合うべきであろう。少なくともそれが出来る知恵と口があるのだから。
という訳でエルフ城は早速ピンチです。面倒くさいので次回陥ちます。
理由? フラオン・エルフが馬鹿だからです。そこそこ頭が良ければ命乞いか脱出の準備でもしたでしょう。
次回はミュージィが戦闘という名前の試射をしたら終わり。
アの国攻略戦は終わった……くらいの事後報告になります。