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「これが実戦の空気……。試験飛行とは違う空……」
ミュージィ・ポウは三号機を操ってエルフ城の戦いに参加していた。
もはや勝利以外ありえない戦いであり、慣熟訓練を兼ねて包囲網に加わっている。攻撃目標は城の弱い部分を守るために展開する、オーラシップ・ナムワンとそれを支援するトーチカやゲドである。
「手柄を譲ってくれたガラリア殿には礼を言っている。無理をするな」
「分かっております父上。オールと共にビーブロスの操作を御願いしますね」
「姉上! ピピの分まで戦い抜きましょう!」
ミュージィ・ポウは試験型三号機で攻城戦に参加した。
専用のウイングキャリバーであるビーブロスとドッキングし、お互いにキャノピーを開いて計器を接続。シンセサイザーにも似たコントロールパネルでミュージィが直接コンバーターや増幅器などを操れるようになっていた。
「天に赤星! 戦じゃぞ!」
「姉上! 火矢の合図です、出撃いたします!」
(移動時は計器の振動が違うのはテスト飛行と同じ。この揺れ幅を抑えてくれるのは、父上とオールが私の家族だから。……でも不思議な物ね、ピピが居ない今の方がオーラは少なくとも分かり易い。人数や相性でオーラが変化するというのは本当みたい。きっと赤の他人であれば、もっと分かり難いのでしょう)
ミュージィが意識を計器に集中させると家族の声が雑事だと思えて来る。
どこか他人の言葉の様に感じられ、更に没入していくとソレも種類の違う音であると感じられてくる。カクテル・パーティー効果により重要な言葉だけは耳に残るのが不思議であった。家族を失った悲しみや怒りがあったはずなのに、以前よりもこの期待を把握していると感じて高揚する自分がいると自覚している。そして複数の計器を同時に表示すれば、重なり過ぎて揺れ幅が信じられなくなってくると、目を閉じて耳だけを済ませて指を操作パネルの上で動かしていった。
「主攻側。バーン様が出られました、騎士団長のビランビーと交戦!」
「ショット殿の手勢から連絡が……ワシの方でやっておく。存分にせよ」
(分かる。私には分かる。これがオーラの波動、そしてオーラを操るという事)
弟の声に対応する余裕はなく、その事に気がついたのか父が受け持った。
その事を申し訳なく思うミュージィであったが、機体の全てを掌握したという興奮が迷いを吹き飛ばしていた。明らかに以前よりもオーラの安定度が高まっており、そして機体に対する影響力が増しているのが分かった。浮遊に寄る機体の振動が収まるのではなく、むしろ波に乗るような動きへと変わっていくのが分かる。おそらくは周囲にオーラの燐光が漏れ始めているだろう。
「申し訳ありませんでした父上。掌握に時間が掛かりました、味方にとって厄介なトーチカを狙いましょう」
「む? 以前より速いくらいだが……導師としてはゼット殿の方が上なのか」
「姉上。移動を開始しますね」
ミュージィは計器の一部のみを動かし、移動用の補助に切り替えた。
掌握と判断の速さに父のペンチは驚いていたが、弟のオールは指示通りにビーブロスを移動させ始める。その動きに合わせてショットが付けたドラムロとドロが帯同するのだが、まるで女王に従う兵士のようであった。あまりにも強力なオーラの波動が、まるで伝説の聖戦士に仕える戦士に成ったのだと思わせているかのようだ。
「主砲のテストをします。トーチカの射程の外で待機を、発射後に突撃指示」
「その距離では火砲に……いや。それも含めてテストであったな。分かった」
「ドロから返信! 指示に従うとの事です」
ミュージィの言葉に父は戸惑っていたが、その間に弟は通信を終えたようだ。
その言葉を当然のようにミュージィは計器を切り替え、移動補助から出力安定へと必要な能力に合わせて設定を変えていく。その度に主・副のコンバーターが震え、次にワザと揺れ幅を大きく変えて出力を高く高く推移させていく。
「オール。飛翔用の調整はそちらに任せました」
「はい! 姉上は砲撃に専念なさってください!」
「儂は万が一に備えて対空砲を用意しておこう」
出力は高いが低くなる時も多い、不安定なコンバーターの挙動。
それを前提に主・副の両機を操り、集中させるためにウイングキャリバー側の操作を弟に委ねた。父は対空用の三連バルカンを操ろうとしたが、ミュージィの集中を削がないために指をボタンに掛けるだけで止めて置いた。これが家族のきずなであり、言わずとも分かってくれる有難い相手である。だが同時に、もっと相性の良い相手と組んでいたらもっと出力を上げられるのか? あるいは言葉を出さずとも瞬時に切り替えることが出来るのかと浅ましいことを考える自分を恥じた。ミュージィに取って残念なのは、それがショットではなかったことだろう。
「チャンバー内にオーラを充填開始。シアーで振動と逆流をロック」
「「……」」
戦いによる興奮がオーラの出力を上げていく。
ミュージィ一人ならばショットが甘い言葉でも囁ければ上昇するだろう。だが家族はそうもいかないし、周囲に居る兵士たちも無理だ。その意味で戦いは全員を興奮させる祭であった、エルフ城を攻略しフラオン・エルフという愚王を抹殺。それをもってアの国を盛り上げる祀りであったのだ。この一撃はソレに対する先駆けとなるだろう。実験の成功失敗に関わらず、そうなる事をミュージィはショットより聞かされていた。
「音が聞こえる……」
「音が? 計器のか?」
「聞こえるのです。機体の、私の、みんなの……。リン? リーン……何処かで聞いた言葉……それとも音。ふふふ。ショット様の成果とピピの活躍。それをこのバイストン・ウェルに届けましょう」
ゼットの指示通り、無数の振動をミュージィは音楽として捉えた。
オーラの波長による変化を不安定化させ、複数の波動が高い位置に重なるのを待った。その間もオーラが少しずつ高まっていき、ウイングキャリバー側に備えたオーラキャノンへの圧力が高まるのを感じる。もはや計器を見る必要もない程で……。軋むような感覚を、痛いというよりも心地よく感じてすらいた。もしこの実験が失敗になるとしたら、計器を高めるためのオーラや、威力を高めるためのオーラだけではなく、守る為のオーラを忘れた事だろう。
「最大稼働状態に突入。トリガーの入力と共にシアーを解放、カウントダウン開始。10、9、8、7、6、5、4、3……? シアー崩壊!? 勝手に発射を……!」
「ほ、砲が大きく……巨大に!? 光が……眩しい……」
「いかん。オーラを集中させ過ぎたのじゃ。速く撃て!」
その時、オーラキャノンの一部が巨大化し、大きく破損した。
エネルギーを抑えていたシアー機構が破損、逆流したのである。機体側が無事であったのは、予めこういう時は自動で射撃するようになっていたからの話だ。超過駆動状態になる前であったため、オーラキャノンは本来の射程を越えてトーチカに設置された火砲を吹き飛ばすだけで終わった。オーラキャノンの破損を考えれば、実験そのものは失敗に近いと言ってもよいだろう。
「ミュージィ! 無事か?」
「姉上!! 無事ですか!? 姉上!」
「ふふふ。……超過駆動に至っていない、ただの最大稼働でこの力。最高位の聖戦士の力に至った……この私が……ふふふ」
父と弟の声が聞こえる中、ミュージィは失敗した実験に興奮していた。
確かに失敗はした、だが次の段階に進む為の失敗だ。工房で調整し、射撃練習で撃っていただけでは分からなかった失敗。それは次の成功への大きな一歩であり、同時に、最大稼働状態だけで良いならば次は必ず成功させる事が可能だという自信を得ていたのである。必要なのは次の機会と、超過駆動に至るために足りなかった『守るためのオ-ラ』である。ショットとの絆を思えば、その力を自分が得られないとは思わない。それゆえに、この失敗は成功も同時であることを理解していた。
「私は無事です、ドロとドラムロに指示を。今度は剣でナムワンを落します」
「姉上!? ご無事なのですか? 良かった……」
「機体の様子を見んでも良いのか? ならば良いが」
ミュージィの言葉に対する家族の反応は微妙に違っていた。
オールは姉の無事を喜び無条件に信頼している。だが父の方は本当に無事なのかを疑い、ドラムロだけでもナムワンを落とせることで無理やり自分を納得させた。これは興奮状態にあるミュージィの良い部分と悪い部分、その影響なのであろう。ペンチ・ポウは飛翔して分離する三号機を見ながら、オーラキャノンのように破損している部分が無い事に安堵するのであった。
「これが……オーラで斬るという事ですわ!」
そして三号機はオーラシップであるナムワンを容易く切り伏せた。
対空砲火を潜り抜けて艦橋へとオーラソードを突き刺し、そのまま指揮官も操舵手も巻き込んで破壊していく。それだけで済ませて生き乗った対空バルカンを数発喰らったのは迂闊だが、装置よりもオーラの影響度が高い指揮官のみに夢中となったせいかもしれない。それはオーラ操作が確立した瞬間であると同時に、まだまだ制御技術その他が未成熟である証左であった。特にトランス……興奮状態になると注意すべき事に気が付けなくなるのは致命的であろう。
「姉上! あれをご覧ください! 城が落ちました!」
「ミュージィ。もうよいのじゃ、ゼット殿の所に……いや、ショット殿の元へ!」
「ああ、そうですわね。あの方の元に報告に上がらねばなりませんから……」
いずれにせよエルフ城は横槍を受ける前に陥落した。
この事が戦乱を呼ぶのか、それとも争いを起きなくさせるのか? それはこの時点では知る由もない。ただ分かるのは、オーラを操作する技術がまた一歩進歩した事である。
●コラム。ゼット・ライト視点
『統治者の権利と責務』
アの国の内乱は王であるフラオン・エルフが暗君であることから始まった。
国内の領主たちのみならず、エルフ家の重臣たちの諫言を退け続けた結果、大領主であるドレイク・ルフトとロムン・ギブンという、カ・オスの勢力を退けた英雄たちが乱を起こす事となった。
「王が王に足り得なければ、臣下はどうするべきなのか?」
この乱の初動に際して、英雄たちの意見は真っ二つに分かれた。
ロムンが王に相応しくなくとも可能な範囲で国を支えるべきと説いたと
『封建領主の長としての王』
フラオンの言葉に『貢物を送っている内は恐れている』というものがある。
ドレイクに叛意があると忠言されて笑い飛ばした際の反論である。これはフラオン・エルフは暗君ではあっても、必ずしも愚王ではないことを示している。中世社会では封建領主の中で最も強大な者が王者であることが多い。それゆえにフラオンはパワーゲームで有利なうちは、ドレイクも仕掛けてこないのではないかと多寡を括っていた可能性がある。それまでの価値観で『何か起きてからでも対処できる』とか、『力関係的にドレイクのルフト領では自分に叶わない』と考えていたのだろう。実際、経済力も戦力もエルフ家の方がはるか上であり、協力する領主も多かった筈だ。しかし『オーラバトラーが数機あれば城など落とせる』という事実を軽く見たことが、反乱を成功させた遠因ではないかと思われる。要するにそれらの情報をフラオンに伝えなかったことがドレイク最大の策略であり、反旗を翻した直前に最後の諫言としたことが続く一手であろう。
「絶対君主ならざる王家の不慮」
ある種当然であるが、バイストン・ウェルでは王は絶対の存在ではない。
だからこそ反乱もされるし、ドレイクのような領主が王の掣肘を恐れてはいないと言える。領主は幾らでも取り換え可能であり、また王家も親族(縁戚のある重臣や領主)からの養子や婿取りで何とかなってしまうものなのだ。だからこそバイストン・ウェルの王族や上級貴族は側室のような身分の高い妾を持っておらず、後継者の数が意外と少ないのである。その証拠にアの国のフラオンやドレイクに後継者がいないだけではなく、リの国やラウの国も後継者が存在していないとされる。また、まだ若いシーラ女王やビショット王にも子供が居ない事から、この時代は例外的に王族の数が相当に少なかったものと想像された。
「クの国の強大化と、リの国の従属」
ドレイクの反乱を受けて、運命が変わった国が二つ存在する。
リの国は国王が不慮の事態で死亡した。同時にクの国が戦力を拡大した事と、周辺へ影響力を増したことで大きな軍事的圧力を受けることとなった。リの国ではこのため、何処かの傘下に収まった方が良いのではないかとなった。ドレイクがただ反乱を起こすのではなく筋道を立ててからアの国を奪った事や、ドレイク自身にも後継者がいない事もあり、『エルフ家の者をリの王に衰退しても良い』と緩やかに傘下入りすることを打診したのである。フラオンを討ちはしてもエルフ家の者を皆殺しにしていなかったドレイクは、これを受け容れてリへ大きな援助を約束したという事である。
だが、これに不満を持ったのはクの国であった。
オーラバトラーを中心に戦力を増し、リの国に居る親クの国派の貴族を通じて影響を増していた。更には他の国への伝手も利用していたとされ、せっかく勢力下におけそうな状況であったのだ。それがタナボタ(地上の表現)でドレイクが手に入れてしまい、水面下で強烈な抗議を行ったとされる。内乱で勝利出来たのは、ビショットがフラオンではなくドレイクを見込んだから。そう言われてしまえば大きく出る訳にはいかなかったのだ。しかし、リの国が頼って来た以上は見放す訳にもいかない。その時にビショットが打って来た手は絶妙であった。
「ミの再興と婚姻政策」
ビショットが持ちかけたのはクの国によるミの国再興である。
キロン城の失陥後、『隠棲して姿を隠していた』エレ・ハンム王女を保護
そしてクの国の王族でエレとも相性の良い者を婿養子に送り込む事になった。
だが、この事をラウの国のフォイゾン王が面白く思わなかった。エレがフォイゾンの孫であることもあるが、それ以上にエレが隠棲しながら霊力の修行をしていた場所はラウにあるのだ。クの手勢にエレを浚われて面白い筈も無かった。フォイゾン王はクの国がラウに攻め込んだも同じとして戦力を派遣。これに対してビショットは『重要なのはエレ殿の気持ちであろう』と延べると堂々と受けて立ち、ドレイクに対して援軍を要請する事になったのである。
こうして戦いは予期せぬ第二幕へと突入する。
という訳でエルフ城は落ちました。援軍なければこんなものでしょう。
それはそれとしてミュージィがオーラに酔っぱらってますが無事に帰還。
ジェリルのレプラカーンと違って三号機は限界オーラが上がってるのと、臨界越えたら即射撃になっている為ですね。
「コラム」
なんでこうなったの? という部分をゼット視点で記載しています。
リの国はゲーム的都合としても、みんな後継者がいないのはおかしいよね。
実際には無名の男子が居たのかもしれないけど、ゼット視点では知らなかったので居ない扱いで記載しています。
リの国が何故かドレイクの傘下になったのはゲーム版の影響と、銀河群雄伝ライ見て思いついたことから。クの国がエレ様捕まえた件に関しては、「御姫様を捕まえることが出来たらヤるよね? グヘヘ」というネタからの連想です(強制ではないけど、政治的に承諾を強要させてる)