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「私はショット・ウェポンという機械工学系の研究者だ。差し支えなければ尋ねたいのだが、ゼット殿はプログラマーなのかな?」
「いんや。どっちも出来るが得意なのはパーツから組み上げる方だな」
ショット・ウェポンはこの世界でオーラバトラーというロボットを作った。
そのインパクトと計画性、そしていずれは世界を征服してやろうという野望は凄まじい。設定によれば恵まれない身の上など色々な事情の反動らしいが、その才能と政治力は大したものだろう。この世界にやって来た地上人……異世界転移者の第一号であり、この時点で野心溢れる地方領主のドレイク・ルフトと手を組んでいるなど、才覚の面でも運の面でも相当な男だった。ついでに言うとイケメンなのが悔しい。
「なんと! それは素晴らしい。この世界の文明は見ての通り中世でね。何かを再現するだけでも苦労していたのだよ」
「ふ~ん。てーことはショットさんには作りてえもんがあるのかよ?」
「勿論だとも! 私の専門は機械は機械でもロボット工学でね」
冷静なタイプであるショットの顔が目に見えて興奮する。
それも仕方あるまい。ロボットを研究しようにも中世の技術レベルで相当に苦労していたはずだ。それがコンピューター分野の専門家を捕まえた上、パーツを用意するところから出来る技術者がやって来たのだ。苦労の半分以上を『肩代わりさせられる』相手が見つかったのだ。手間からいっても、手の届く技術レベル的にも段違いになるのだ。これで興奮しないという方がおかしいだろう。
「二足歩行……せめて多脚戦車くらいは目途が立ってねえと話にならねえぞ」
「そうだ! その通り! 実に話が早い! この世界には強獣というモンスターが存在していてね。生態パーツとして置き換えて行けば代用が可能なんだ。だが、私一人ではどうしても限界がある。主に反応やら限界的な問題でね。私一人ではどうしても大味になってしまうし、正しいのか遠ざかっているのか迷ってしまうのだ」
ゼットの言葉にショットは早口でまくしたて始めた。
こんな話をして議論をしたかったとずっと思っていたのだろう。だがロボット工学どころか、機械を説明するのに水車やポンプの説明から始めないといけないのだ。当然彼以外にこんな話が出来るはずもなく、賢者と呼ばれる古老ですらショットの影すら踏めなかったはずだ。彼が興奮するのも、ベラベラと研究内容を口にする理由も分かった気がした。
「するって―と何か? 俺らの世界でいうと太陽の紫外線すら遮る絹糸や、凄まじい耐久性を誇る蜂の巣形状、糸以上の強靭さと粘着性を持つ蜘蛛の糸みたいな生態由来のパーツで、金属加工の重量問題の大半を置き換えていくと。要するに強獣とやらの筋肉やら神経を繋げて、そこに別の強獣の触覚や爪を繋げ、必要なら鉱石を挟んで伝達速度が上がるかを見りゃあいいのか?」
「それで間違いないが、訂正するならば次の段階に入っているのだよ」
「ほう……。てえことは、多脚を終えて二足のオートバランスってとこか?」
「ふふふ。当たらずと言えど遠からず。別のアプローチで代用した」
ゼットが比喩を挙げて尋ねるとショットは少しずつ興奮を抑えて行った。
それはショットが辿った道筋であり、彼の思案を後追いしているに過ぎない。そしてSF小説において定番の多脚戦車から、実現が難しいと思われる二足歩行のオートバランスに言及したところで再び興奮して身を乗り出して来る。そこから更にゼットに推測させるよりも、自分で解説したいのだろう。
「この世界にはオーラと言う力が満ち溢れている。我々の体にも満ちているし、それらを操って僅かながらも強化が可能らしい。だが、その真骨頂は電気信号のような伝達システムでありながら、同時にエントロピーの限界を遥かに超えるエネルギーであるという事なのだ。私はこれを用いた機械をオーラマシンと命名した」
「胡散臭いというにゃあ自信に満ちているな。つまり実機がもうあるわけだ」
「そうだとも。先の言葉に加えて言うならば、オートバランサーは不要だよ」
(「おおよそ原作やゲーム通りか……」)
ショットの語るオーラマシンについてゼットは考え込んだ。
正確にはゼットに憑依した転生者が、生前の記憶と照合している。そこから何かを考えたり導き出すというよりは、エーム世界であるのか、よく似たパラレルワールドなのかを計っているというところだ。そしてゼットが持つであろう知識の延長線上で口に出して良い言葉と悪い言葉を並べ直していった。
「なんだそれ? と言いたいとこだが、サイズの違う妖精さん達を見たな」
「そうだ。小さい方をミ・フェラリオと言って悪戯好きのティンカーベルのようなものだな。彼女たちから着想を得て、浮遊するシステムをひとまず完成させた。飛翔するシステムを開発中だが、途中で起動時に重量が変化していることに気が付いて戸惑っているところだ。おそらくオーラの力が果汁を減らしているのだろうな」
ここでショットは意図的にエ・フェラリオの説明を省いた。
オーラロードを開くことのできる彼女たちについて秘匿しようとしたのか、単純に自分で体験したから説明不要と考えたのかは分からない。ゼットもその事には気がついたが、あえて突っ込むのは止めた。あくまで重要なのはミ・フェラリオが齎す飛行能力についてであるという姿勢に合わせたのである。
「……噴射型か吊り下げ型かは別にして、飛べば下半身で起つ必要はないと」
「そうなるな。無理にオートバランサーを開発せずとも、上へ遷移する力を主体にして後は重量バランスを取ってしまえば問題ない。乗り手である騎士の動きに追従させても良いしな。ともあれ、これでロボット工学におけるたいていの悩みは解決できた。ただし問題点としてオーラは置き換える事が出来る別系統の能力でしかないのだ。物理化学ではなく形而上科学で説明すべき存在なだけで、魔法的な便利さを有する不可思議な存在ではない」
ゼットが納得した所で早速、ショットは次の話題に移った。
強引にエ・フェラリオの話から逃れようとしているようにも見えるし、早く自分が得意とするロボット工学の話に移りたいという風にも見える。いや、オーラの説明自体を『今は明かされていない学問』と仮定して、自分が足りない物を説明するために後回しにすらしてしまった。
「待てよ……お前さん、さっきから効率が良いとは一言も言ってねえなあ。てーと、そもそも起動するためのエネルギーが足りてない。最大負荷を掛けて性能限界を見るどころの段階すらねえってとこか」
「言い難いがその通りだ。問題なく起動できるのは我々地上人くらいになる」
「となると増幅器……出来れば疑似的に発生させる触媒とかも要りそうだな」
「先に機体に充満させてから増幅に移るのか? それは面白いな」
ゼットが原作知識でこの時期に足りない物を口にするとショットは頷いた。
最初のオーラバトラー『ゲド』は現地人であるコモンには動かす事すら難しく、動かし易くすると量産型のドラムロどころか隊長騎であるビランビーですら早い段階で限界が生じている。その事を仄めかすと、ショットは地上人やそれに匹敵するバーンなど一部の人間だけなら動かせると修正。増幅器の存在を楽し気に議論し始めた。その姿は後にリッチ化する外伝アニメの姿などは欠片も見えず、この時期のショットは研究者としての面が使った事が伺えたのである。
「早速、現在開発中の浮遊戦車に疑似触媒と成り得る素材を組み込んでみるとしよう。複数人で動かす事を前提に設計しているからコモンでも問題なく動かせるし、上手くいけば専門の増幅器を開発できるかもしれん。伝達系や命令系統を頼めるか?」
「その辺は専門だからな。だけどよ、自動車系の技師が必要だと思うぜ」
「流石にその辺りは自在にはいかんよ。オーラ以外は偶然頼りだよ」
「俺は飛行機事故だからいいが、実質拉致だもんな。無茶するよ」
これらの議論を経てショットは開発中のオーラボム『ドロ』を決定付けた。
疑似的なオーラ力を発生させる『オーラコンバーター』の先駆けであり、リムル・ルフトが盗んでいくオーラ増幅器に繋がる技術でもある。満足げなショットにゼットはもっと便利な人物を呼べないのか尋ねると、『どうやら空を飛んでいて、何か大きな減少に巻き込まれた時に、偶然移動するらしい』と推測交じりでオーラロードに入る条件を口にしたのである。それに対してゼットは『だろう系小説』で出てくるようになった、『勇者召喚は殆ど拉致』という言葉を口にして皮肉ったのである。
「ゼット。いや、ゼット殿。ドレイク殿は話の分かる方ではある。だが……」
「お偉いさんの前では言わねえし、出ねえよ。礼儀作法とかも性に合わねえ」
「そうか。それならよかった。報告や資金の調達はこちらでやっておこう」
「任せるよ。それに、お前さんが技術者兼領主を目指すのは別に構わねえ」
召喚を拉致と言い換えるのは、小説の中でも禁句の一つだ。
だからゼットはショットが顔色を変えて釘を刺す事に理解を示した。あくまで地上人同士で英語を使って話す範囲の皮肉であると告げた。その上で、ショットが交渉窓口になると同時に、功績を独り占めする件に関して釘を刺し返すことにしたのだ。
「ゼット殿……それは……」
「何処の会社でもスポンサーと話が出来る奴は必要だ。そういう奴が出世するのも、重役の中で『顔』になるのも理解はできる。ただ不思議とそう言う奴が業界の第一人者で、何もかも『そいつが苦労したお陰って』なることもあるんだよな。まあ異世界に召喚されてご領主さまをスポンサーにして、ロボットを造りあげる。その苦労をしたあんたが、ライト兄弟役とボーイング役を兼ねるってのは別に構わねえんだ。最初から理解してれば、そういうもんだと納得がいくからな」
ゼットに転生した男は幾つかの有名会社を思い出しながら語った。
最初は同じ志を持った技術者が集まって会社を立ち上げ、凄いプログラムであったりコンピューターやら果ては携帯電話などを開発していった。だが有名になり超大金持ちになったのはその内の一人で、しかもそいつが第一人者であると言われたりする。印象深い人物が有名になっているだけとも言えるし、そいつに開発面でも才能が有っただけとも言える。そして何より、他者を踏み越えて上に行こうという野心があるとも言えるのだ。だからゼットに転生した男は、原作で『どうしてショットばかり!』と嫉妬した事や、後にそういう気持ちよりも『技術屋として名前を為したい』とか『ゼラーナ隊を倒してすっきりしたい』と、気持ちが切り替わっていった事に理解を示せた。
「確かにそういう事を思わなかったとは言わない。私は何をすべきなのかな?」
「取引としちゃあ大したことじゃねえさ。俺にだって作りたい物が出来るかもしれねえ。オーラマシンって面白いもんを紹介したてめえが、他人が興味を示すのを邪魔すんじゃねえぞ。俺は俺の作品を作る、お前さんはそれを邪魔しないし自分の指示だとも言わねえ。俺は俺の責任で作り上げる。その代り、俺は理想と現実の区別を付けてやる。マシンを増やせと言われれば現実の範囲で増やすが、研究の為の時間は採たせてもらう。だが理想を追うとしても、何処かで現実的な数値でマシンを完成させる」
ゼットを協力者としたいが、同時に野心を叶えるための道具にもしたい。
それがショットの目的の一つであり、彼は今後にドレイクに取り入って領主どころか国を、最終的にはバイストン・ウェルを手に入れるという野心を抱くことになる。実際にはドレイクと語らいながら『可能なのでは?』と確信してからだろうが、この時点で不遇だった彼が上を目指そうとするのは分かるのだ。最強のオーラマシンを目指す過程で、それらをデザインできる自分はこの世界を手に入れることが可能なのではないか? そう思ってしまうのも分からなくもない。ゼットに転生した男は一度死んだこともあり、そこまでの野心を持てないだけで、理解だけなら出来るのである。
「自分だけのオーラマシンを作る。それを邪魔するな……か」
「そう言うこった。それ以外ならお前さんの思惑に乗ってやるよ。その代りにお前さんが一番時間を取られたくない、時間の経過って部分を俺が担ってやるさ。その時間を使ってそっちが作りたいマシンの設計をするなり、領地経営なり好きにしてくれ」
ショットはロボットの研究者だからか、何となく納得した表情をした。
研究者の中には自分が追い掛けたい物だけを追う者は少なくないし、スポンサーとの交渉が煩わしい者も居る。その上で研究分野が被った時に自分がやったことを否定されたくない者も多いのだ。実際、転生者であるゼットは貴族に成ったり国を奪ったりと言った野心は無いので、表情から伺えないのもあるだろう。
(一から海の物とも山の物とも知れないオーラバトラー作ったショットの方が名前が売れるのは間違いねえよな。ただ、ゼットが不満を持ってたのは便利に使われた挙句、自分が主体になって完成させたオーラバトラーまでショットの功績だったことだろうよ。最初からロードマップと研究成果の問題だと分かって居れば、折り合いをつけるのは問題ねえ。その上で、俺なりのオーラバトラーを作って評価されれば満足は出来るだろう」
原作ではドラムロもダンバインもゼットが作ったようなものである。
だがトッド・ギネスはショットに『オレにもダンバインを作ってくれ』と、限界オーラ力の高いダンバインに注目していたりする。ゼットが作っているのにショットへ声をかけているのは、生産面で指示を出すのも、どんなオーラマシンを作るのか計画するのも、ショットの担当であると思われているのだろう。場合によってはゼットはただの技術者で、一から十までショットが決めていたと思われている可能性もある。だからこそゼットは『自分も隙にオーラマシンをデザインする』と言ったのだ。
(結局、俺に出来ることはオーラマシンを作る事だけだしな。オーラ力が高いと言っても原作を見るに戦えなくはない程度だし、ゲームへの転生で強化されてるとしても限界があるもんな。ならここは素直に自分が造りてえ機体を作る方が楽しいだろうよ。バイストン・ウェルをどうにかするってのも、原作よりマシにするってくらいしか思いつかねえしなあ)
ゼットに憑依した男は己の目標をオーラマシンの開発に向けた。
ショット案の延長上にある概念を作り出す共同開発者ではなく、自分でもアイデアを出し独自のセンスを持つマシンを作り上げることで、デザイン面でも充実させて世間に広く周知させるのだ。その過程でショットへの嫉妬心は生まれなくなるだろうし、ゼラーナ隊に勝利し易くなる。バイストン・ウェルの混乱をどうにかするのは難しいが、それでも『浄化』後にどうなったか怪しい原作の状態よりマシにすれば良いだろうと思ったのであった。
というわけでショット・ウェポンとお話。
先に釘を刺しておくことで、「なんでショットばかりが!」対策。
「ダンバインも俺が作ったんだぞ」しない路線です。
この辺の話で今日はもう一本、他愛ない似非コラムを挙げる予定。
その次に数日後にUPするの、実際に何を作るかの話になると思います。