●
「ゼット・ライト! ウイルウィプスは何処だ!」
「あんな物騒なもん、和平交渉に持って来るわきゃねえだろ」
現れたズワウスは通信でゼット・ライトに尋ねて来た。
通信相手はバーン・バニングス。ドレイク軍から放逐されており、ゼットへ頭越しに尋ねる権限は無いはずだが、何の疑いも無く高圧的に言葉を並べ立てた。
「馬鹿な、この好機だぞ! ドレイク閣下は何をしているのだ!」
「諸王を一気に討ち取る好機ってか? アホ抜かせ。ここで戦争を終わらせる好機なんだよ。だからあの船は必要ねえ」
ドレイク・ルフトの居場所を聞く内容であったが違和感がある。
バーンの言葉は恣意的で、大戦力を用いて戦うべきだとでも言う主張をしているかに聞こえる。おそらくは二種類の意味があるのだろう。バーンが信じていた頃の覇王ならば、ここで諸王を討ち取って中央諸国を平定するチャンスだと考えるのだと。そしてもう一つは、この会話を聞いた者が『やはりドレイクは悪人なのだ』と思ってしまいそうになる誘導であろう。
「何を腑抜けたことを言っている! そこをどけ直訴させてもらう!」
「戦いには始める時の機運と収める時の機運ってのがあるんだよ」
「貴様が! 貴様が余計な事を吹き込んだのか! ゼットォォ!!」
「両方の意見を聞いて、どっちが有益か判断して受け入れる器量があったって事だろうがよ。逆にてめえはガワばっか見過ぎなんだ。上に立つってのは、何でもやって良いってことじゃねえぞ!」
ドレイクは決して綺麗事や弱気で和平を決めたわけではない。
今の流れならば、ここで戦争を終わらせて仕切り直した方が利益が大きいと判断しただけだ。その折に覇王として世界を征服する夢を捨てたのは、現実的に不可能だと判断したからである。出来もしない夢を追い掛けるよりも、アの国の国主として国力を何倍にも高めた方が良いと判断しただけであった。そして豪放磊落に見えて情報収集や警戒を怠らず、厳しい人事をしたとしてもフォローしている部分をバーンは見ていないのだ。
「とりあえず、てめえをこれ以上行かせる訳にゃあ行かねえよ!」
「馬鹿め! その動きは見えて居るぞ! 後ろを突くなどさもしい真似を!」
ゼットは高速で敵の左斜め上に移動しながらハルバードを叩き込んだ。
400メット近い速度で飛べるグアザングの性能を、あえて360から370リル程度で斬りつけている。そのために下から上に移動することでエネルギーを使ったが、それでもポールウェポンだることもあって死角を突いた筈であった。だがバーンは僅かに下がって右手の大剣を軽く上げただけ。巨大なグレートシャムシールでありながら、片手で扱って見せる膂力は凄まじい。
(あっさり受けやがったか。だが、重要なのはそんな事じゃねえ。腕の広い稼働範囲に死角を補うセンサー。恐ろしい程のパワーと揺るぎもしない体幹……間違いねえ、想像通りの基礎力重視型だ。という事は肩から腕に掛けて武器はねえ。警戒すべきは股間のオーラキャノンだが、前に立たなきゃ問題ねえよな)
ゼットのフェイントをバーンは簡単に防御したが腕前を考えれば当然だ。
技術者に過ぎないゼットが彼を上回って居たらバーンの立つ瀬はあるまい。ただし速力の高いこちらよりも相手の方が先に攻撃できたわけではない。動きを予測して最低限の動きを対応しつつ、様子を伺っていたに過ぎないのだ。ゆえに重要なのは死角に回られても全体を把握できるセンサーの性能と、問題無く動いた肩周りの関節にある。そしてそれらの用法上、どこにどんな装備があるのか、おおよそを見極めていた。バーンには剣の腕があり、ゼットには製造者の目があるということだろう。
「その程度の腕で私は倒せん!」
「そう言うてめえは空中戦が苦手なままだな!」
ズワウスは相対距離を保ったまま剣を振ろうとするが届かない。
その前にグアザングは通り抜けているからだ。最初の選択で受け止めずに受け流しているか、その先を予測して移動して居たら話は別だったろう。ハルバードのダメージは受けれても勢いまでは消せてないし、移動方向とその速度を活かした空中戦にバーンが対応できていないことを示していた。あくまでズワウスの強靭さが衝撃すら吸収しているだけで、本当の意味でダメージを殺せてないのである。
「これは強者の余裕というのだよ!」
「それが腕を磨かねえ理由にはなんねえよ!」
今度は上から下へ斜めに通り抜ける素直な斬撃。
だがバーンはシールドで受けることを選択し、そのまま身をひねって反撃の為に曲刀のスイングに入った。高さを利用したハルバードによる攻撃は剣で受け止めきれないと判断しつつ、今度こそ攻撃すべく剣を振るう準備をしたのだ。だが一撃離脱で抜けていくグアザングを捉えきれない。もし回避しながらの斬撃であれば別だったろうし、そこまで読めているならばオーラキャノンを移動先に置くような予測射撃をしただろう。これはバーンが白兵戦が得意でも、射撃戦や機動戦闘に熟達していないことを示している。
(奴は移動力と行動半径に関して理解出来てねえ。それでいて射撃も得意じゃねえ。そりゃ素人である筈のショウと互角な訳だよな。だからオーラの差でいつも押し切られる。もう少しで焦れてきそうだが……ショットの野郎が入れ智慧してる可能性を考えとくか。まともにやったら剣じゃ削れそうにないしな)
ゼットは降下することで急加速しながらその場を離れていた。
グアザングの甲冑めいたデザインの上をグレートシャムシールが通過する。完全に出遅れた状態であり、相手がダンバインくらいの動きを想像しているのだろう。ゼットがトッド・ギネスの伝えた飛行知識や、ゲーム版ダンバインで見知った知識を元に空中戦を鍛えているとは思っても居ない。もっともゼットの方も白兵戦を鍛えていないので、足を止めて剣戟を交わし合ったら敗北するのは間違いなくゼットの方であるのだが。
「ちょろちょろとしおって! この小者が!」
「小者で悪うござんしたね! って、このタイミングで撃つか? 普通!」
バーンは追い掛けながらオーラキャノンを放った。
それが地上に到達して爆発しないように上へ避けながら、ゼットはひねる様に上方へ遷移した。ただ上方へ移動するだけでも真っ直ぐの移動・斜めの移動・ひねっての移動、ひねり方にしても後方へ頂上へ・前方へと差がある。どれが良いかは全て『次への繋ぎ』だ。太陽が無いのでそれを背にして隠れたり眩しくすることはできないが、それでも風や重力は有るので空戦の戦い方には意味があった。バーンはそれらを理解していないからことが、騎士である彼にゼットが優位に戦える理由であろう。
「おおお!」
「そーりゃっと!」
交錯するグレートシャムシールとハルバード。
煌めくオーラの輝きが尋常ではない力のスパークを発揮させる。それが続かないのは最初から横へ力を逃がすような移動を考えていたからで、バーンは尻尾を動かしゼットは左手のオーラショットを撃ちながら巴に移動していった。咄嗟にズワウスの顔をシールドが隠し、胴体に当たった弾はそれほど効いてはいないように思える。
「非力なのだよ! オーラショットではなあ!」
「かーっ。まるで散弾やバルカンの扱いじゃねえか。そりゃショットの自信作だもんなあ。て―ことは、効くのは三つだけだな。こりゃ」
顔をシールドで覆っているにも関わらず爪が正確に伸びて来る。
それをハルバードでは受けずに体をひねって回避すると、ゼットは自分の機体に付いている武器での攻撃を考えた。右手の試作兵器に、左手のバースト式オーラショット。そして主兵装であるハルバードとオーラソードだ。一応は投擲剣もあるが、腰の方はオマケであると考えていた。だがこの状態ではオーラショットも意味が無い。ハルバードとオーラソード……そして右手の武器が効くか効かないかというところだろう。
(今の動き……思わずやったってとこか、ただの連続攻撃だから助かったぜ。その上で狙ったのはコイツを取り上げて戦に決着付けたいってあたりだろうな。ハルバードが無くなりゃ怖いのはオーラソードのみ、防御気味に戦えばまず勝てるもんな。それを踏まえるとどうすっかな……)
ゼットは以前よりも単調な動きでターンを決めた。
ズワァースのように滑らかな横移動が出来ないのもあるが、直進性が強いオーラコンバーターになっているからだ。少しでも白兵戦での威力を上げる為、加速度を重視する造りになっている。横滑りして取り回しの良いオーラソードを使えば、確かに斬撃を浴びせられる回数は増えるだろうが軽めの連打が効くとは思えなかった。
「そこだ!」
「見え見えだぜ!」
離れて戻ってくる動き慣れたのか、バーンが合わせて突っ込んで来た。
グアザングが加速態勢に入る前に、ズワウスの方が加速して突っ込んで来る。あの巨体でどうやって……と思わせる速度であるが、長距離移動モードがあるのは分かって居る。外伝と違って飛び回っているのは全盛期のショットが作り、オーラを全身に漲らせているから。そして長距離移動する時に高速で移動できるのは、オーラを移動力に割いているからだろう。そのせいかハルバードで斬撃を受け流した時に、先ほどよりも軽い感触をイメージしたのだ。
(今の軽さ……そうか。戦艦と同じで浮遊させてから飛ばすって寸法だな。考えてみればブブリィだって高速で飛び回ってる。ズワウスが飛べておかしい道理はねえよな。むしろ外伝は壊れてたり、素材が集まらないから飛べないだけと……いや。全力で起動したら搭乗者が死ぬからかな。その上で、ズワウスはここが
ゼットは受け流した衝撃を和らげると、身構えながら機体を移動させた。
反動で甲冑の一部が歪んでいるが動きを妨げる程ではないのが判る。突進して剣を振るっただけでこれだが、別に真空波が生まれたわけではない。余りの大威力に、受け流してさえ衝撃が殺しきれなかっただけだ。だが、これが最大級の攻撃であるとすれば、ズワウスとグアザングの性能差はそうないのだろう。おそらくは移動力にオーラを割いたこともあり、同時に威力へオーラを載せきれないことが原因であると思われた。
「ふはははは! 見たか。私の一撃を! このズワウスの力を!」
「そうかよ! んじゃあ、こっちはこのグアザングの力を見せてやらあ!」
連続攻撃を浴びせようとするズワウスをグアザングが跳ね飛ばした。
瞬間的な加速を行って、まだスイングが十分ではない状態ですれ違う。その際に攻防の準備をしていたゼットと、次の攻撃の為に振りかぶっていたバーンでは出せる勢いが違った。もちろんズワウスの方がパワーがあるので威力はあるが、速度の差は威力にも乗る。初速の差もあり双方不十分の状態ならば、グアザングの方に軍配が上がった。
「馬鹿な。何故その速度が。いや、速度と同時にオーラバリアを張れる!?」
「こいつは速度を出すためにオーラバリアを張る設計だからな! 後はそう、五枚目のコンバーターがオーラの補充用だからさ!」
バーンはオーラのやり繰りを苦労しながら速度を出しているのだろう。
モードを切り替えて移動に注力し、適度なところで切り替えて斬撃や防御に上乗せを行っていると思われた。その切り替えシステムのスムーズさは羨ましいくらいだし、充実したオーラバリアはたいていの攻撃を装甲と合わせて弾き返す。だが、それだけに併用しようとは考えても居ないのだろう。グアザングの方は設計的にオーラバリアを前面に展開するシステムになっているのと、本来は失敗作で速度追加が出来なかった五枚目をオーラバッテリーの代わりに使っている事が影響していた。最大400メットの壁を突破できなかったのは同じだが、強引に速度を上げるターボの様な使い道をしても、オーラが枯渇しないで済むのだ(無理やりなので壊れかけるが)。
(本当はエアロブースターみたいな物のほうが良かったんだろうな。とはいえ五枚目のサイズじゃ滑空砲は積めねえし。オーラを充実したまま戦えるだけでも御の字だ。もし相手がズワウスじゃなければ、ガーリオンやゲキガンガーみたいに体当たりで倒すことも出来たかもな)
これ以上は速度も上がらないし、威力も上がらない。
9メット9ルフトンで出せる最大の能力に達した以上は、五枚目のコンバーターを足しても能力が上がる筈はない。だが、オーラが発生しているのも事実なのだ。だからゼットはオーラを使ってもオーラが尽きない仕掛けとして無駄打ちさせることにした。どう考えても空回りしそうな時には起動しないが、いったん動き出すと並列して起動することで、使ったオーラを補充する様にさせたのである。
「それがどうした! 先ほどから動きは変わって居らんぞ! 次は無い!」
(だと思うよな。本当の最高速は後で使うとして……。次に奴が仕掛けて来た時がチャンスだ。ハルバードを何とかして落そうとするはず。そん時にこいつをくれてやらあ)
ゼットは苦労して移動方向を調整しながらターン。攻撃態勢に入った。
その動きを見てバーンはチャンスがまだ続いていると見ているようだ。同じような動きをした上で、連続攻撃でハルバードを狙って来るだろう。ゼットはその動きに対処するのではなく、あえて受けた上で、致命傷を避けながら右腕の武器で攻撃を浴びせることにしたのである。視線を向けると先ほどの攻撃を受け止めた衝撃でも手甲は歪んでおらず、そこに付けた火器も問題はない。特にその鈍く尖った先端が特徴的であったという。
「どうせ貴様では私は倒せん。では、そろそろ行くぞ!」
「来るかよ? じゃあ、こっちも本気でいくぜ。死んでも泣くなよ。騎士って奴は、一人が生きると一人が死ぬんだ!」
バーンはズワウスを操ると高度を上げ始めた。
流石に急降下攻撃は速度が増すと知っているのだろう。だからこそ、ゼットが威力を出す時や、逃れる時に下へ移動して急加速しても不思議には思わなかったようだ。そこまで気がついて置いて、上昇しながらの攻撃で速度をワザと落していることに気がつかないのが不思議な物である。おそらくは手加減することで、フェイントを仕掛けるという考えが無いからだろう。
「これでトドメだ!」
「そうはいかねえよ!」
急降下するズワウスに対して、ゼットは右側面に回り込んだ。
切っ先を修正して振り下ろす斬撃に、斜めに受け流しながらの移動である。衝撃をまともには受けず、あえて最初と同じ方向へと動く事には意味がある。そう、ここであえてバーンの追撃を受けるためだ。
「馬鹿め! その手は最初に見せてもらった!」
「っ! ショットクローかよ! だが尻尾よりはマシだよな」
「そうかな? ふははは。その爪はオーラを阻害する。バリアは張れんぞ!」
「……だよなあ。だから欲しけりゃくれてやる! これでも……喰らえ!!」
相手の右側面に回り込むことで、シールドから遠い位置を占有する。
そこから攻撃しようとするゼットの思惑をバーンは見抜いたと確信していた。だからこそ、それが罠だとは気がついて居なかったのだ。バーンが二手を読んでいる間に、ゼットは三手を読んでいた。ハルバードに絡みつくクローを無視して、右手の手甲をズワウスに添えて爆発させたのである。
「その爪がある内はオーラの強化は……なにぃ!? どうして……」
「今打ち込んだ杭も同じ素材だからだよ! こいつにはオーラは使わねえ。パイルバンカーは火薬式だからなあ!」
急速にオーラによる強化を失っていくズワウス。
重量的に無理をしているのだから当然ながら制御が難しくなったのだろう。グアザングの右腕に付けた武器は短砲身のオーラキャノンを改造した激発式の杭である。火薬を爆発させて金属製の杭を打ち込むだけ。それも投擲剣の周囲を、同様の素材で覆った二重構造。仮に杭が衝撃で砕けても、中の投擲剣が突き刺さる仕組みになっていたのだ。
「これまでか!? だが一人では死なん。私は騎士なのだ! ぬおおお!」
「騎士がこの場に関係あるか! いくぜ。グアザングのパワーでなら!!」
落下するズワウスはクローの端を掴んでグアザングを逃がさないようにもがいていた。ゼットはフルパワーを発揮させ、すべての力を振り絞って脱出を図る。咄嗟の事で腕を切って逃げれば良いと思える筈も無く、当然ながら腰にある予備の投擲剣を抜く時間も無かったからである。
そして両機は和平会議の会場より離れた場所に墜落、炎上したということであった。
という訳で戦闘終了。後はその後の話を語って終わりになるでしょう。
『グアザング』ver3
緑の甲冑と青い内装を覗かせる騎士の様なデザイン。
9メット9ルフトンの到達点で、五枚のコンバーターの強力なマシン。
実質的に出渕裕デザインのヴェルヴィンであるが、追加装備があるのが特徴。
「パイルバンカー」
右腕に装着された激発式の金属杭。
オーラを阻害する材質で造られた投擲剣を、更に同じ金属で包んだ物。
大気中でオーラは軽減され、相手の内部でも軽減されるため、砲身の短いオーラキャノンを犠牲にして衝撃を伝え、杭を打ち込むシステムである。
「バースト式オーラショット」
左腕に内蔵された物でズワウスと同じ仕組み。
「五枚目のコンバーター」
追加で装着されたもので、四枚でバランスがとられた状態で完成。
そこへ後から補充する様になっており、基本的には無駄。
バッテリーのように使っているが、オーラバトラー戦記で登場するオーラバッテリーの方が有用であると思われる。
「ハルバード」「オーラソード」「投擲剣」
本機のメイン兵装と予備武器。投擲剣はオーラを阻害する素材で作られているが、オーラ斬りには使えないのでこのままでは非力。
『ズワウス二号機』バイロン
登場しなかったが、ショットが作っている本命機で白い竜に見える。
巨体の内部に圧搾空気砲を仕込んでおり、オーラを混ぜて砲撃を行う。
下手な火薬式攻撃よりも、オーラ前提ならばこの方が強力ではないかと判断したショットの切り札になる予定であった。
なお、構造上の問題で一号機ほどの防御力が無いので、ビルバイン以上の機体ならば普通に倒せる(ミュージィよりも戦いの才能が有ることが前提)。