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(ダンバインもこれで完成か。再設計とはいえ俺一人で何とか出来た)
ゼット・ライトは駐機場にある三機のオーラバトラーを見上げていた。
そこには原作に登場したダンバインが存在していた。思い返せば、殆ど完成していたドロ。オーラコンバーターを手伝っただけのケド。そしてショットに言われるがまま、素材とパーツの吟味に明け暮れたサーバイン。そこまでは胸を張って自分の仕事とは言えない物であった。しかし、このダンバインは違う。過剰スペックで碌に動かせないサーバインをゼットが再設計し、現実的な範囲で製造したのだ。感無量であり、同時に一つの節目が終わったと言える。
(これで先に進めるぜ。とはいえ……俺が果たすべき役目もこなさねえとな)
ゼットは視線を駐機場の向こうにある機械の館へと移していく。
その位置からは見えてはいないが組上げ中のドラムロが三機、細部調整の状態で鎮座している筈だった。そしてビランビーが骨格標本のような状態で飾られ、どんな素材で作ったパーツを適用するか吟味中である。それは彼が手掛けた機体であると同時に、ショットの指示で作っている最中だ。工房の主としてはアレを完成させる必要があるだろう。つまり現在は自分の企画を立ち上げつつも、残りの仕事を片付ける段階であった。
「工場長。月例の会議を始めたいと思います」
「おう。こっちからの告知は二つ。それが終わったらおめえらの提案を聞く」
ダンバインを見上げるゼットの元に鍛冶師の一人がやって来る。
ゼットは機械の館の運営に際して月例会議を持ち込んだのだ。上意下達で延々と同じことを繰り返すのは好まなかった。もちろん会議で無理に何かを提案する必要も無いので、あくまで意見があれば吸い上げるし、上位の鍛冶師だけでも風通しを良くしたいというものだった。それらは自分の権限を一部譲る事で、剛腕を振う事は難しくなるが、自由時間を増やすことが出来る改革でもあったと言えるだろう。
「一つ目は先月にあった襲撃に関する対策だな。何か思う事は?」
「あれはオーラバトラーを破壊しようとしたのでしょうか?」
「あるいは秘密の一つでも持ち出そうとしたのかもですね」
「ガロウ・ランを雇ってましたし、何でも良かったんでしょう」
ゼットが尋ねると鍛冶師の中でも若い者が手を挙げた。
年嵩の鍛冶師は頑固で自分の持ち分だけをする者が多いが、若い鍛冶師やオーラバトラー量産のために付けられた徒弟たちは活発な意見を出す。少しでも功績を挙げたり、重要な仕事を任されたいのだろう。
「囮と本命に分かれてたかもしれねえが、そんなところだろうよ。ひとまず俺の方針としては、秘密を守れりゃあいい。次がてめえらの無事で、そん次になってオーラバトラーだな。今は貴重な代物だが、その内に数を作ることになるからだ。欲張って捕まえようとすんじゃねえぞ」
「ということはドラムロの量産が決まったんですね! いつから……」
「工場長! 一番重要な秘密は頭ん中です。決して喋りやせん」
「御館さまの恩にも、工場長への借りも返してませんからね」
若い鍛冶師の言葉に、年嵩の鍛冶師たちが不快そうに被せた。
抜擢されただけの若者に対する不快感がそうさせたとも言えるが、荒くれ者でカ・オス側の住人とされるガロウ・ランに立ち向かわなくていい。そう保証してくれるゼットの配慮へ礼を言うのが先だと言うところだろう。若い者と年寄りの軋轢が生じ始めているが、それはゼットの配慮によってどうにでもなるものであった。
「おう。てめえらが裏切るなんて思っても居ねえよ。とはいえ知識のあるもんが顔を出したら、今の館じゃ一発で分かっちまう。ひとまず全部を扱う場所と、専門の物だけ作ったり研究する場所に分けるぞ。一人前の鍛冶師は全部覚えるが、作るのはあくまで得意な物。徒弟は専門の一つに習熟する者と、いつか鍛冶師になる目利きの徒弟に分けろ」
「腕利きじゃなくて目利きの徒弟でやすか? 分ける必要がありやすか?」
「一つのもんを作る専門の方が早いってことだろうよ。昔はそうだった」
ゼットは密偵対策に、分業制手工業の概念を持ち込む事にした。
この当時の技術者は二つのパターンがあり、一つはゼネラリストとして村や町で必要な全てを作る者。もう一つは十年一日の如く、まったく同じ物だけを作るスペシャリストという差があるのだ。オーラバトラーを作る過程で、どうしても両者をまとめて扱っていたが、熟練工を増やしつつ秘密を守るために情報と作業工程を分割することにしたのである。
「理由としては、その内に機械の館が大型化するか、さもなければ複数の館を構えるかのどっちかになるだろうって予測だ。一つのパーツを作るのが上手い職人も必要だし、全ての工程を分かってる親方も必要になる。てめえらまとめて引き立ててやるから、腕を磨いておくんだな」
「「へい」」
ゼットは年齢に寄らず得意分野の差に関わらず能力次第で引き立てる気だ。
秘密をバラすことなく、生産数がそれなりに確保できていれば問題ない。あくせく大量生産する気はないし、大規模工場化してスパイを抱え込む気は無かった。
「秘密の管理やオーラバトラーの量産に関して、機械の館を大きくする方が良いのか、それとも複数用意する方が良いのかはこれから時間をかけて話し合っていく。ひとまず例えリムル様だろうがバーンの旦那だろうが喋らねえし、羊皮紙の持ち出しも許さねえ。それが一つ目の話だな」
「分かりましたが……御屋形さまやショット様はよろしいので?」
「馬鹿野郎。その二人が持ちだしたら、アレよ。国策ってやつよ」
「他国に売り込んで金に換える為だろうしなあ」
ゼットは秘密の管理とオーラバトラーの量産に関してまとめた。
既に原作の聖戦士召喚がいつ始まってもおかしくない時期だし、それでなくとも謎の連中(ギブン家)による襲撃が始まっている。リムルによる機密持ち出しは少しくらい歴史が変わっても行われるだろうし、今の内から対処しておくことにした。雇ったガロウ・ランによる機密持ち出し含めて防げば、今後にゼラーナ隊との戦いで有利になる可能性はあった。歴史が変わり過ぎて早期にフォイゾン王の元へ合流する可能性は考えない事にする。
「もう一つもオーラバトラーの量産と機械の館に関わる話だ。とある小型のオーラマシンを作って、オーラバトラーやオーラシップを組み上げ易くしてえ」
「と、言いますとクレーンみたいなやつですか? 重いの運べますね」
「ポンプみてえのじゃねえか? 井戸が楽になるみたいな感じでよ」
「どんなんでも構わねえ。オーラバトラー増やせるならそれでいい」
ゼットの案に職人たちは次々と意見を口にした。
それはまっとうな意見であり、もし機械の進歩を自分でコントロールできるならば、それらが本来の開発品なのであろう。思えば地上でもクレーンやポンプは地域によって紀元前から存在しているのである。発想というのは似ているのだろう。
「近けえが少しばかり違う。俺が作りたいのは着れるオーラマシーンだよ」
「「着れるオーラマシーン!?」」
先ほどと違いゼットの言葉に皆が驚いた。
色々と提案して来る若い鍛冶師も同様で、ベテランや老鍛冶師に混ざって驚いたような顔をしている。まさかそんなことを言い出すとは思っても見なかったのだろう。
「工場長。流石にそれは無理がありませんか? 機械の館に入りませんよ」
「館の中で何するんですかい? そりゃオーラシップ作るのにはいいですが」
「それにオーラバトラーほどじゃねえにしても、工具もロクに持てませんぜ」
「逆だよ逆。凄い力なんて必要ねえんだ。てめえら人の何倍もの力を持つオーラバトラーを基準にしたろう? 3メット(メートル)か4メットくらいでデカイもんを無理やりぶん回す……。んなの要らねえんだよ。だいたい、それならクレーンでいいだろうがよ」
職人たちはオーラバトラーを半分ほどに縮めた存在を思い浮かべたようだ。
旧型のオーラバトラーの半分、大型化しつつあるビランビー以降の三分の一。そのくらいのサイズで、パワーだけはオーラバトラーと同じくらい出せるパワフルマシン。確かにそんな物があればオーラシップの建造も楽になるだろうが、それはクレーンで十分である。
「違うんですか? そんな物を何に使うんです?」
「サイズは2メットくれえか……。必要なのは人と同じくらいの大きさで、人よりは力が強い程度だな。クレーンで運ぶにゃ小さくて、数人がかりで運んでるパーツを一人か二人で輸送出来る程度でいい。そうすりゃあクレーンは大物を扱う場所に移すことが出来るし、そこで最後の組み立てを済ませればいい。それが出来るようになれば、これまでの何倍もオーラマシンを作れるようになんぞ。強獣から素材を分けるのもグっと楽になるしな」
ゼットの作りたい物は作業用パワードスーツだ。
それほど大きくなくていいし、力はそれなりに強ければいい。最小値の強化幅から始めて、可能な強化を少しずつ上げていけば良いというものだ。言われてみればクレーンで運ぶには小され過ぎるが、数人がかりで運ぶには重かったり大きかったりするものは存在した。しかも今までは7m大のサイズであったが、これからは9m以上に拡張されていくのだ。作業を楽にするオーラマシンがあって損はないだろう。
「確かにそういう物があれば便利だとは思いますが……」
「着るオーラマシーンねえ……。見当もつきやせんよ」
「ひとまず俺が大枠を作ってみらあな。だけど別に人型じゃなくてもいいんだぜ。俺としちゃあ仕事が捗るならなんでもいい。馬の代わりに使ってるピグシーに、大きな爪とか小さなクレーンを付けるとかでも構わねえんだ。まっ、その場合は図体を少しでも小さくしねえと道を通る時に邪魔っけでしかねえけどよ」
反応が微妙な職人たちにゼットは頭を掻きながら絵を描いてみた。
人を覆う程度の大きさで、甲冑としては大きい程度。その中に強獣の肉で造った人工筋肉を入れたような形式である。それとは別に地上で見たフォークリフト(カウンター型)を描いていき……やがて当時は少数派であった小回りの利く形式のフォークリフト(リーチ型)を描き込んでいく。
「とにかく俺の案としてはこんなところだ。そんで、今度はお前らの提案だな」
「あ、はい。これまで三機で作ってきたけど一機ずつに変更しますよね?」
「パーツの能力を確かめるためで、もう必要ないからって話でやしたが……」
「そこ自体には文句ねえんですよ。もうワシらもアタリを出せやすからね」
ゼットが自分の話を終えると、今月の提案枠で職人たちが話し始めた。
現場からの意見を吸い上げるのは良い事だと思うので、これまでは良い意見があれば改善案として盛り込んで来たのだ。だが、今回は多少毛色が違うらしい。検証機のサーバインは除くとしても、ゲド・ダンバイン・ドラムロと三機毎で製造。試験的なパーツをそれぞれ試してみたり、調整幅の分からない場所を三か所に絞って調整して見たのだ。これは試作パーツのデータ検証には役立ったが、必要なパーツがおおよそ完成したこととドラムロの量産に舵を切る事から、ビランビー以降は完成したパーツで一機ずつ丁寧に作ることになっていたのだ。職人たちはそこに意見があるという。
「じゃあ何が問題だって言うんだよ」
「あー。検証じゃなくてですね。ビランビーは騎士様用ですよね?」
「儂らで騎士様の戦いについてちっともまとまらなかったんですわ」
「どんな大群が来ても果敢に耐えるのが騎士。誰よりも先に敵陣に突っ込んでいくのも騎士。『聖戦士様に準ずる強さ』という括りも騎士ですなあ。一体どれが良いのか、御屋形様やショット様たちが望まれているのか、ちっとも分からなくなりやして」
どうやら騎士用オーラバトラーの定義が分からなくなったらしい。
この問題はゼットが職人たちの意見を汲み上げたことによる。原作では上意下達の組織であったため、言われるがままに組み上げて来たはずだ。当初の設計ではダンバインと同じ射撃武装を用い、試験用と火力増強用にもう一種類別の武装を付ける程度の改装だった。本来の方針としては三つ目の、『聖戦士の準ずる強さのコモンでも扱える機体』だったのだ。それが意見を聞くようになったため、船頭多くして山に登っているというところだろう。
「それでビランビーも三機にして、それぞれ試しても良いのではないかと」
(なるほどなあ。まっとうな意見ではあるし、話を聞くようになった以上はある程度は受け入れてやるべきだよな。だが工場長としての威厳はともかく、一つビシっと方針を示さなきゃ話がまとまらねえ。その上でこいつらの意見を汲み上げつつ……俺のやりたいもんも混ぜるのが正解だな)
職人たちの意見が出そろったところでゼットは少し考えた。
プライトなど別にどうでも良いのだが、組織運営として上手くいっている以上はこのまま運用すべきだろう。その上で船頭が多くなって混迷している部分は、一貫した方針として打ち出すべきなのだ。だからこれはという機体案を一つ決めて、『これまで通り三機で試す』という案に、自分のやりたいことを混ぜ込むことにしたのである。
「そんじゃこうしよう。三機の案自体は採用するが、ちょびっと試すんじゃなくて、ドレイク閣下の意向である『聖騎士に準ずる騎士用』を先行して完成させる。その上で、残りは両極端に試しちまおうぜ。一つは城を守るために奮戦しその場で動かない戦い方の騎士用に、甲殻系の追加装甲の比重を大きくしてでっかい盾を持つ機体。もう一つはさっきとは逆に誰よりも早く敵の砦に突っ込んでいく身軽な機体で、こっちは蜂系のパーツだけにする」
「御屋形様の御意向……それを優先するのは当然ですね」
「んで残り二機で試すってのも了解でさあ」
「そんじゃあ頑張らねえとですな」
ビランビーを基準に派生型の機体として二機デザインすることにした。
あくまで要求水準を保った個体を先行して完成させ、ドレイクやショットの要望を組み込んだ機体として提示する。その上で重装甲のタンク型と、軽装甲の突撃型を設計すると告げたのである。職人たちもドレイクを重視すると言えば納得するし、明確な順序だてて自分たちの意見を聞いてくれるとなれば否応は無かった。
(重装甲の方はPS版のギトールで、軽装甲はバストールってとこかな。これをそのまま作ったんじゃ面白くねえし、原作よりも吹っ切れてねえ分だけ弱いか? 装備面とか少し弄ってみるとすっかな。やることが出来たのは嬉しいが……この様子だと、工房艦を作るのはまだまだ先になるかもなあ)
こうして本来の歴史とは異なる形で、二機のオーラバトラーが原作よりも早く登場するのであった。
という訳で原作開始時の、ギブン家襲撃が始まる頃と成ります。
ダンバインの完成、ドラムロの量産化視野、ビランビーのパーツ選定。
この段階でショットの指示がいったん終わり、憑依ゼットさんの行動が始まりまる、二重の意味での始動です。
本日もどうでも良い背景的な話がもう一本。
こちらは話の進行に関係ない、この後書きに書いても問題ない程度の話なので、無理に読まれる必要はありません。あくまでページの分割というか、整理するためですね。