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「ゼット様。ドラムロの調子が悪いのですか? 完成したと聞きましたが」
「剣や鎧でも造った職人によってバラツキがあるだろ? あれを同じくらいに調整しているだけだ」
ある日ゼット・ライトの元に、バーン・バニングスが質問に訪れた。
最終調整中のドラムロに対するもので、バーンは難しそうな顔をしている。三機ある機体全てが開けてあり、三機を見渡してからもう一度ゼットの顔を眺めた。
「差が出たとしてもそれを使いこなすのが騎士なのでは? ましてオーラバトラーほど強大となれば、その差は小さくなりましょう」
「そりゃそうなんだが、バーンの旦那が動かすと力が強くてガラリヤなら素早いが、機械を弄ると何故か逆にも出来る。やろうと思えば力が強くて素早くも出来るが、それをやっちまうとコモンじゃ操縦できない時もある。逆に力も素早さも低くすると、コモンの中で弱い者も操縦できることがある。その辺りを調べてる途中なのさ。全部判れば次回から意図的に造れるからな」
職人が作った物にバラツキがあるなら使いこなして当たり前。
そう主張するのが中世社会の常識である。ゼットは丁寧に説明した。これが鉄砲のような大量生産品ならまだしも、ロボットであるオーラバトラー。しかも製造が始まったばかりというならば、研究して当然だと口にしたのである。
「分かりませんな。オーラバトラーがあれば全て片付くのです。問題ない筈」
「今はそうだろうな。だがオーラバトラーが増えていけばどうよ? それにオーラの増幅器を作ってるところだ。こいつがあれば誰でもオーラバトラーを動かせるようになるし、全てが強くなって動かせなくなる調整でも、お前さんや聖戦士なら何とか動かせるようになるさ。要するに、数が増えた頃の為、一騎打ちに勝てるより強い機体が必要になった時の為の研究ってとこだな」
ゼットはある種の勘違いをしていた。
バーンもオーラバトラーの能力に興味があると思っていたのだ。しかし彼の視点からするとオーラバトラーは貴重品であり、それだけで戦いを良い方向に回天させる存在だ。そんな物を使えない状態で放っておくよりも、一刻でも早く動かして強獣を倒しにいくなり、領民や商人たちに見せつけるべきだと思っていたのである。
「それに意味があるかは別にして、数日後には新しい地上人を連れ出します。一機なりとドラムロを動かせるようにしていただきたい」
「一機くらいなら間に合わせるぜ。ダンバインの方は三機とも動かせる」
「流石ですな。全てそうあって欲しい物ですが」
(コイツこんなに当たりきつかったっけ?)
何となくゼットはバーンの反応に違和感を覚えた。
原作での二人の交流に関してはそう覚えておらず、どちらかと言えばビッショット陣営あたりで二線級として扱われ始めた頃の方が印象深い。その頃は度重なる失態で解雇されたり、クの国への協力として飛ばされたりしていたのだ。ゼラーナ隊への恨み重なる愚痴で相哀れんでいたイメージしかなかった。
「あん? ドラムロを置いてったあ? そいつはどういうことでい」
「ギブン家が襲撃する可能性を考慮して残しておくと言っておられました」
「なるへそ。どっちに来るか分からねえし、その可能性も無くはねえなあ」
二日後の朝、頑張って仕上げた筈のドラムロは持ち出されてなかった。
理由というのがドレイクの城である『ラース・ワウ』を襲ったギブン家のダーナー・オーシーが再び来襲する可能性らしい。警護の減った城を再び襲うというテロ行為を警戒したからだというから納得できる話ではあった。ゼットに憑依した男としても、ゼット本人の転生前の記憶などある筈もなく、放映当初の記憶など詮索にある筈もない。ゲームや書籍で若干の記述もあるだろうから、特には気にせずにいた。『攻撃側の利点』というのは好きな位置を狙えることにあり、防御態勢を見てから襲う場所を変更できるのは確かだからだ。騎士団長であり警備責任者でもあるバーンが警戒するのも分かった。
「だが、そう言う事なら警備を兼ねて、経験豊富な奴に教導の騎士として配備してもらうのがいいかもな。俺がテストパイロットを務められるとはいえ、引退間際の爺さんの方が経験はあるだろうしよ」
「そうですね。やはり騎士様でなければ実際の使い勝手は分からないかと」
「頑固者にオーラバトラーが乗りこなせやすかね?」
「ドロでも嫌がる方は多いですからのう」
意外な話であるが、ドレイク軍に置いても操縦できるものは貴重だった。
これは候補者がいないのではなく、騎士こそが戦う存在だからだ。ゆえにオーラバトラーを割り当てられるのは、騎士身分にある者とそれに準ずる従士。おおよそ定数枠があり、その中でも昔ながらに馬で戦うことを好む者もいる為、人材が余っているわけではなかった。これは改革が進んでいないのではなく、単純にオーラバトラーの数が少ないので、改革する理由が無いからであるとも言えた。戦士や傭兵のみならず適性がある者を訓練してとにかく数を増やすのは、もっと量産体制が進んでからの話である。
「まあオーラバトラーの数が増えりゃあ、騎士以外も乗せていくさ。オーラを増幅する装置も作ってるわけだし、訓練を施す奴は必要だと思うね。騎士が嫌がるなら、他の誰かがやるようにドレイク閣下が指示なさるさ」
そう言ってゼットは相談案件の中にテストパイロットと教導官の役を記した。
原作を覚えて居れば当然であるし、ここには量産体制の確立を知って居る物ばかりである。自分たちが気楽に話していることが問題になることもあり、ちょっとした違和感が大きな問題に繋がるとは思っても居なかったのであった。
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「キブツ・キッスであります。機械の館でゼット様に協力せよとのこと」
(キッス……? ニー・ギブンの部下に居なかったか? 確か女の子だった気がするんだが……。こいつはいい歳こいたオッサンだよな)
それから日が経過しテロが判明するとギブン家は没落した。
新規に雇われに来たという騎士の紹介を受けたゼットは、下手に中途半端な原作知識があるだけに戸惑った。訪れた騎士たちが困惑した顔をしており、それを引き締めて無理やり厳つい顔をしていたからだ。キブツと名乗った男は何やら使命感を抱いて苦労していそうだし、その側近というか従者たちは鍛えられてこそいるが、悲壮感たっぷりの顔をしていた。
「……ゼット殿?」
「ああ、悪りぃ。僭越ながら尋ねるんだが、キッスって女の子じゃあ……」
「それは娘ですな。……そう言えばニー様に付き従って、この城で行儀見習いをしたこともありましたか。ですが袂を分かちましたので、お気になさらず。キッス家はルフト家に忠義を尽くすことに相成りました」
訝しがるキブツにゼットは頭を掻きながら答えた。
するとキブツは恐縮して、どうしてゼットが娘であるキーンの事を知っているか勝手に推測してくれた。主家である貴族家のギブン家は、ドレイクのルフト家と交流があったからだ。その時にニーに連れられて滞在したことがあり、その時にニーがドレイクの娘であるリムルと交流を持ち、恋仲になったという。その話をかいつまんで話す中で、周囲の側近たちは益々申し訳なさそうな顔をした。
(あー。戦国大名的なあれこれか。食って行かなくちゃなんねえしなあ。……だが、要するに寝返り組ってことだよな? そいつを教導官にするのはともかく、機密であるオーラバトラーに関わらせるだって? そりゃあマズイ以外の何物でもねえぞ)
話を聞けば何となくゼットも背景を理解することが出来た。
しかし、そこには大きな問題が存在した。キブツが有能そうなのは理解が出来る。年齢だけでなく周囲に慕われていることからも、下手するとバーンより優秀かもしれない。だが、寝返って来たキブツをそのまま信用してオーラバトラーを預ける訳にはいかないだろう。量産していればともかく、少数精鋭の今の段階で渡してしまうと、下手するとニーの元には知らせてゼラーナ隊の戦力を増やしかねないからだ。
「ちなみにここへは誰が推薦してくれたんだ?」
「バーン殿が地上部値であられるゼット様が、人材を求めていると」
(あの野郎! 目に見えた地雷を押し付けやがったな! そりゃそうだよなあ、あいつより経験があって部下から慕われてる騎士なんか邪魔だもんよお……。クソが、だからこそこいつをそのまま雇ったら俺が疑われるじゃねえか。しかこっちから人材を探しといて、ここで断ったりしたら俺の名前が廃れちまう。……少なくとも『今』はまずいぜ。どうすんべ)
いかなる偶然かそれともフェラリオかの悪戯か。キッス家がやって来た。
それを受け入れたのはドレイクであろうが、最初に預けられたのはバーンだったはずだ。しかし扱いの難しいこの男を、バーンはゼットに投げ渡したのだと思われる。それは裏切りの家系を信用できないだけでなく、露骨に左遷しては自分の名誉に傷がつきかねないからだ。ドレイクだって『使いこなして見せよ』とでも言っているはずであり、左遷しようが抹殺しようが問題になる筈である。ゼットもそうするわけにはいかないし、ここからさらに左遷させる場所がある筈もない。断ったら文句を言われるだけではなく、テストパイロットや教官役が紹介されないだろう。だが、雇ったら雇ったで何かの問題を引き起こしかねなかった。
「キブツ殿。貴殿には教導役を引き受けて欲しい。これからオーラバトラーに乗れる者は幾らでも必要だからな。数が増えれば増える程にギブン家の敵対戦力が増えるわけだから、貴殿が疑われることもなくなるだろう。ただし教導役というのは、何をしでかすか分からない奴と何度も戦うという事だ。名誉ではない事で命を懸ける事になるかもしれん」
「ギブン家に仕えていたキッス家が疑われるのは当然の事。むしろご配慮、感謝いたします」
ひとまずゼットは教導役の方を任せる事にした。
一言でいえば動き回る的であり、剣を教えるための動く人斬り棒なのだ。どこかで事故る可能性はあるし、危険度の割りに名誉は少ない。いや、地上と違ってアグレッサー隊などという風習の無いバイストン・ウェルである。役目が無いよりマシくらいかもしれない。工場長としてはともかく、政治家としての経験が無いゼットは直球でいくことにした。
「そう言ってくれるとありがたいぜ。ひとまず死なねえように防御に優れた機体を預けとく。使いこなしてくれ」
「まかせあれ! ドレイク閣下と、ゼット様の信に答えさせていただく」
(ギ・トールなら射撃武器はねえし丁度いい。後は実験専用機でも作るか)
苦心した挙句、ゼットは基本武装が剣と盾のみのギ・トールを与えた。
防御力に優れているから死に難いし、射撃武装は共通装備を追加しなければ良いのだ。それで暫く誤魔化して置いて、ドレイク陣営を裏切らないと分かった頃にでも、射撃武装を与えればよいと妥協したのであった。
というわけで原作の二話から九話の裏あたりまで。
裏方で長々とやっても仕方が無いので、一気に話が進みます。
ギブン家が潰れるまでは、お互いの尻尾を掴もうと暗闘しているのもありますね。
「遊ぶな! なにやってんだお前?」と黒ヤギさんが尋ねて来たので
「騎士が必要なくなる時代に備えてんのさ!」と白ヤギさんは返答。すると
「私の地位を脅かす気か! 貴様!」と黒ヤギさんが追伸しました。
「あいつ! 地雷を投げやがった!」と白ヤギさんは憤慨したという事です。
どっちが悪いのか分かりませんが、ギスギスしていますね。という回でした。