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「見慣れぬオーラバトラーだな」
「ギ・トールと言いましてビランビーの骨格に甲魚の鎧を着せた物です」
演習を行う準備中にドレイク・ルフトがやって来た。
一人だけではないのでゼット・ライトも普段の伝法な口調を控えて話し始めた。注目を浴びたのは新型のギ・トールであり、ウイング・キャリバーの「バラウ」に跨っていることから目立つ。ここでまずは大まかな概要を説明し、次いで必要な内容になる。
「欠点はビランビーほど飛翔速度が早くなく動きも鈍いこと。しかし二割ほど硬く三割ほど堅牢で、ビランビーと同じ早さで増やすことも出来るのが長所であります」
「ふむ。城や本陣を守らせるに向いておるな。使い方次第ということか」
「閣下のおっしゃる通りです」
ドレイクは正しくその性能を理解して見せた。
守りには問題なく使用できるし、攻めにも使い方次第で投入出来なくもない。相性が分かり易い機体であり、量産するようなものではないが、防衛戦などはあり得ることから使える局面のために何機か用意しておいて損はないと判断したのだろう。
「ゲドの方もいささか違って見えるが……ふむ。苦労せず動かしておるな」
「はい。新開発した増幅器を入れる実験を行っております。問題無ければ先行で量産したドラムロも入れ替えていくことになるでしょう。……必要ならば他のゲドにも」
ドレイクは既存の機体にも着目した。
旧式機であり欠点も多いゲドが二機ほど存在。ギ・トールを挟む形でこちらは片膝を着いてバラウなしで用意されていた。特徴的なのは従来機と違って、コンバーターに色々と加工がしてあったのである。
「必要ならば、か。それは心強いことだな」
「イザということは常に起こり得ますから。例えば敵に……」
「……そう言う事にしておこう。敵など居らんからな」
「失礼しました」
ドレイク軍にとって『ミの国攻め』と『その後の本命』は機密だった。
幹部格でもそれを知る者は少なく、何名か居る城主や代官ですらそれを知る者は居ない。ショット・ウェポンは当然知っているし、量産規模を考えたらゼットが推測していてもおかしくはないと思ったのだろう。その意味でドラムロの現地改修や、万が一本当に他国が介入した場合に備えて、旧式であるゲドが戦えるようになるのはありがたかった。だからこそドレイクは噂にならない段階で止めたのである。
「話は変えるが、演習とは言うが何を学ばせるのだ? 剣のみであろう」
「逆であります。ギ・トールを相手にドラムロ隊が戦いを学ぶのです」
「戦い方を学ぶだと? 組み手や剣の修練のように空で行うのか?」
「いいえ。ダンバインを含むゼラーナ達に見立てて攻めさせます」
オーラバトラーの演習はあくまで飛び回ったり、火器を当てるものだ。
ドレイクはギ・トールもゲドも剣しか持っておらず、飛べることは既に分かっている。それゆえに何を学ぶのかと尋ねたが、ゼットは地上式の『仮想演習』をするのだと語った。ゼラーナ隊に見立てた構成で三機を動かし、そこをドラムロ隊が襲って経験を積むのだと説明したのだ。
「言われてみればギ・トールとやらはショウ・ザマのダンバインの色だな」
「そうなのかショット? ワシはそこまで実物を確認をしておらぬが」
「はい。薄い青をしておりまして……見ればバラウも緑だな。フォウ役か」
「そう言う事になりますな。増幅器の実験があるのと、城の近くですので『逃げるゼラーナ一味が貴人を誘拐、あるいは重要機密を奪った』として火器は使わずに行います。こうした演習に慣れて信頼がおけるようになれば、離れた場所で火器も試すべきでしょう。その時は火薬を減らして行いますが……。失礼を承知で言えば、オーラバトラーは新しい兵器ということもあり、こういった練習の戦いはこちらには無いと感じました」
この段階で今まで黙っていたショットが口を挟んだ。
地上での軍事訓練を思い出しながら、仮想敵として色彩を調整しているのだろうと判断したのだろう。ゼットもそれに合わせて地上式の訓練だと説明する。そして剣のみしか武装していないのは、キッス家が担当しているからではなく、増幅器の実験中であるからだとも答えた。キブツたちがここで機体の持ち出しをしなければ、いずれは信用して火器付きの標準機も任せると暗に練り込んだのである。
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「戸惑うておったドラムロの動きがよくなったな。アレは?」
「今回は重要機密であり、貴人の誘拐ではないと気が付いたのでしょう」
「なるほど。近づけばどちらか分かるな。重要機密ならば破壊しても良いか」
「はい。我らで作った物ならば構わぬとしました。友邦であれば別ですが」
軍事演習が始まりギ・トール率いるゲドをドラムロ三機が追いかけ回した。
最初は戸惑いつつ包囲しようとしていたドラムロが、一定距離でギ・トールの抱えていた箱に気が付いた時点で動きを変える。突っ込みをかけて直接破壊しようとしたり、進路を妨害し始めたのだ。
「む、ギ・トールが前に出たな。判断が早い」
「あれはキブツ・キッスとその郎党です。連携に対する信頼度が違います」
「ほう……言われてみればゲドの配置も見事だな。初見でこうはいかぬ」
「ドラムロ側はガラリアを除いて、いずれもオーラに恵まれた兵士あがり達です。新型に乗り、個々に才能は有ってもフォローする気がありません。その辺りが出たのでしょう」
戦いは一方的であったが、勝利条件を満たしつつあるのは教導側だ。
攻め手とあってガラリアのドラムロのツッコミは激しく、重要機密を抱えるゲドは壊されぬように戦力外の動きでしかない。だがもう一機のゲドがフォローに回ったり、ギ・ト-ルがカットインする際に別のドラムロを止めに向かっている。到達目標として定めた小屋に、ジリジリと接近出来ていた。もう少し近づけば、一気にタッチダウン可能な距離になるだろう。指揮官である筈のガラリアは、夢中になって連携がおろそかになっているようだ。
「時間を置いて同じ条件でもう一度やって慣れるか、重要機密から人質に変える代わりに、火器の使用を許可すればドラムロ側が有利になるんじゃないですかね。勝てるようになるのはその次くらいだと思いますが、ガラリアが頭を冷やして討議を重ねて挑む余裕があれば、直ぐにでも勝てるかもしれません。そうなればまた別の戦場を想定してまったく違う条件で戦わせます」
「ふむ。繰り返すほどにオーラバトラーの動きも連携も良くなるわけだな」
「然様です」
流石にドレイクは頭が切れる。ゼットの説明でも意義を理解していた。
どんな動きをすれば良いのか、訓練で学ぶための場が演習である。それは個人の動きもさることながら、部隊としての連携訓練に意味がある。全く同じ行動を採るにせよ、その都度に別の行動を採るにせよ、作戦ごとに集められた者と互いに信頼し合って連携を重ねた者ではまるで違う。そして幾多の戦いの乗り越えれば、判断の速さも行動の素早さも比較にならないだろう。そして悠長に訓練を詰めるとしたら今だけであり、ショウ達ゼラーナ隊は実戦で訓練しているとも言えた。
「腕を磨くだけではなく勝つための訓練か……。ニー・ギブンとショウ・ザマに勝ちきれぬわけだな。とはいえ王宮の飾り人形よりはマシだと思いたいところだがな。ショット、どう思う?」
「実戦どころか動かしても居らぬ者とでは比較対象が間違っておりましょう」
(やっぱ原作通りになんのね。ま、そこはしょうがねえか)
先ほどは暗喩を避けたドレイクだが、演習を見て興が乗ったようだ。
ショットと二人で意味深な会話を始め、この後も暫くは同じような会話が続いた。ゼットはそれを眺めながらあえて口は挟まず、演習の様子を確認しておく。
「ギ・トールとやらの動きがもう少し見たい。どうにかならないか?」
「とはいえビランビーはバーンの元に送っちまったし……。しゃーねえ、擬装がまだだがアレを出すか。剣だけなら五分だろうよ」
やがて演習で見るべきものを見たところで変化が起きた。
新型の性能に興味を引かれたショットが、ドレイクが居る間に我儘を口にしたのだ。性能など暇な時に確認すれば良い筈だが、ここでオーラバトラー開発に弾みを付けたいのだろう。
「ガラリア! 部下と検討中のところを悪いが、新型に乗ってくれねえか?」
「本当か!? あともう少しで勝てそうなのだ。それを中断させる意味を分かっているのだな!」
ゼットは仕方なく休憩時間を兼ねて作戦を考えていたガラリアに声をかけた。
負け続きだが少しずつ動きが良くなっていたこともあり、勝気なガラリアは頭に血を登らせて熱中していた。そんなところで声をかけては反発しそうなところだが、新型機に乗れるとあって露骨に顔色を変えたのだ。
「武装がまだだが完成したらおめえにくれてやるよ。あの機体と逆で、素早さが身上の機体だ。お前さんなら十分いけると思うぜ」
「誰に物を言っている! ふふふ……新型か。私が……ははは」
ゼットが機体の説明をするのだがガラリアは既に乗り気だった。
新型に急遽乗ることになった不安などは無く、トッドが慣熟訓練なしには戦えないと言ったのとは対照的である。いや、騎士たちはその場限りの命令で命を懸けることがあり、常在戦場ということなのだろう。まして新型と言えばいつもバーン・バニングスが担当しており、自分の専用機が手に入る事が嬉しいのだろう。
「何が始まるのだ? 説明せよ」
「ショット殿の要望でギ・トールの性能を見ます。相手は同じくビランビーの骨格を元に、足の早さは上になる予定でした」
そのやり取りを見て城に戻るか検討中だったドレイクが話しかけて来た。
ショットの思惑通り新型のオーラバトラーに興味を覚えたようだ。この様子だと演習の成果だけではなく、新型の性能試験も同時にやることになるだろう。
「予定……か。元が同じであるのに未完成なのは理由が?」
「ギ・トールは守れば良いのですが、もう一機はバランスが問題でして。軽くて丈夫な蜂系の装甲だけを付けた身軽な機体です。満足できるだけの速さを出すと、ちょっとばかり柔らかいのが難点です。ひとまず今回は移動力とパワーを残してるんで、砦やオーラシップを落すための機体としちゃあアリなんですけどね」
同じ時期に開発したビランビーベースなのに開発段階に差がある。
これは設計思想の差であり、試すべきパーツがシンプルに収まるかどうかの差である。ギ・トールはとにかく硬くてタフにすればよく、足が遅いのも鈍い事にも最初から期待されなかった。パワーもそれなりにあったから何の問題も無く完成したのだ。対してもう一基の新型……バス・トールの方は全力に至るまでの初速と、移動力の早さ、そして回避性能につながる機動性。それらをコンスタントに上げつつ、できるだけ装甲やタフさにパワーを落さない事。これが意外と難しく、どれを上げても何かの性能が必要以上に落ちる日々だったのである。
「砦に対オーラシップか。悪くは無いな」
「諦めたのは加速するまでの速さと耐久性か。ならば単騎ではキツイな」
「だから連携訓練をやらしたんですよ。部下が居るなら幅が広がるんで」
ドレイクは話を聞いただけで有用性を見抜き、ショットは難点を見た。
ゼットは両者の見解に頷きつつ、今回の演習でガラリアに何をさせたかったのかを説いた。バス・トールが突っ込んで船を落すための機体だとすると、ゼラーナに到達するまでにダンバインに止められたら終わりなのだ。ギブン家にはダーナー・オーシだってあるし、他の国が支援しているかは別にして、場合によっては増産もするだろう。だからゲドを含めた三対三で経験を積ませたのである。
「おっと。言ってる間に来ましたぜ。あれがバス・トールでさあ」
「早いな。動きだけなら力強くはある……攻撃力は火器次第か」
「オーラバトラーに関しては二人に及ばぬが、使えるなら増やして悪くはなかろう。元がビランビーと同じであり、同時に増やせるならば猶更だな」
言い終わる前に蜂のような顔のバス・トールが現れた。
ビランビーは『悪の蜂』という意味で名付けられたらしいが、こちらの方がよほど蜂らしく感じる。この辺りは甲殻・甲魚系で装甲を用意したビランビーやギ・トールと、蜂系だけで構成したバス・トールとの差であろう。あえていうならば、原作のバストールと違って、ビランビーベースにした分だけ思い切った能力になっていないと言える程度である。
『この速さ! ビランビー以上だと感じる! バラウも必要あるまい!』
『だが読める。悪いが私もドレイク閣下の手前、手は抜けぬのでな!』
高速で突っ込むバス・トールにギ・トールが何とか食らいついた。
同じビランビーベースで移動力を伸ばした前者と、落して重装甲に振り切った後者ではその機動性が違った。とはいえ移動力こそ高い物の、機敏さはそれほどでもないので喰らいつけなくはない。もし剣での切り合いに終始した場合、盾を装備したギ・トールにもチャンスがあるというところであろう。
「はしゃぐなガラリア! バス・トールは読み易い、突っ込みを工夫しろ! キブツ、内側に移動する様にしてみろ。動きを誘導するんだ」
『分かっている! 貴様はどちらの味方だ!』
『心得た! 誘導して盾を活かす!』
ゼットが両者にアドバイスを送ると、立場の分だけキブツが素直だった。
ギ・トールが内向きに移動しながら防御を固めると、さしものバス・トールも剣による突撃だけでは攻めきれない。盾で弾かれると威力が出せるような機体ではない事もあり、仕方なく距離を空けて八の字であったりジグザグであったり、不格好ながら振り回すための動きに変えたのである。
「見事だゼット・ライト。後日、何かの褒美を出そう。その時にはキブツにも武器を持たせてやれ。オーラショットやフレイボムを交えた訓練が見たい」
「バレてやしたか? キブツたちに関しては了解です。それと報酬は要らねえんで、修理用のオーラシップを作らせてくださいよ。前線に工房を持って行きたいんでさあ」
戦いを見ながらドレイクは満足したように声をかけた。
だがキッス家の郎党たちが火器を持っていない理由を察し、彼らを信用したのだから武器を与えてやれと示唆する。ゼットは頭をかきながら、以前からの計画を打ち明けたのである。
「修理用のオーラシップだと? 何の意味がある?」
「そんなものを何に使うのだ。言ってみよ、それ次第で与えてもよい」
「戦争が起きれば城と遠くなるでしょう? そうなりゃ前線に近い場所で修理が出来れば復帰がダンチだ。十機のオーラバトラーを御互いに用意したとして、片方は七・五と減りっぱなし。もう片方は幾らかでも復活する。そうなりゃあどっちが有利かは言うまでもねえでしょうよ。もし百機以上の戦争なら、猶更ですぜ」
工房機能を持たせた戦艦が作りたい。
そんな意見に対してショットとドライクでは反応が違った。設計者でありデザイナーであるショットは期待感が薄く、逆に為政者であり戦略家であるドレイクは内容次第だと捉えたのだ。ゼットはその反応を見て好感触を感じたのである。
という訳で訓練と新型機のお披露目になります。
やってることはむしろガンダムっぽい内容ですが、背景はダンバイン風味で。
「ゲド改」
オーラコンバーターに増幅器を仕込む為の試験機。
コモンでも動かせるようになった以上の差はない。
しかしこれを奪って参考にすれば旧式機でも戦えるので、キッス家の裏切りを確認する事は出来る。
「バス・トール先行試作型」
同じビランビーベースのギ・トールと違って製造が難航中。
オーラマルス関連が定まっておらず、被せる擬装が固定されていない。
これはビランビーの骨格に着せていることもあり、原作のバストールのように一から組み上げ、職人のカンで完成させた場合よりも総合能力が低いためである(その代り量産性・再現性は高い)。