異世界から来た少女を拾ったら追跡者に狙われました   作:たけのこ教徒

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第六話 守るということ

 

 

 金属がぶつかるような、鋭い音が響いた。

 

「っ……!」

 

 重い。分かっていた。

 ガルシアの剣は、見た目以上に重い。

 それでも、下がらない。

 レイピアを滑らせるようにして剣を受け流し、身体を横へずらす。

 

「はっ!」

 

 そのまま踏み込み胸元を狙う。

 --けれど。

 

 ガンッ!

 

 大きな盾が割って入った。

 

「くっ……!」

 

 切っ先が盾の表面を滑る。

 硬い。ただの金属じゃない。

 魔力そのものが、何層にも重なっているような感覚。

 

「お退きください、お嬢様」

「嫌です!」

 

 盾越しに押し返される。

 足が地面を滑った。

 

「わっ……!」

 

 距離が開く。

 ガルシアがこちらではなく、わたしの横を見る。

 

「……!」

 

 嫌な予感。

 

「獅童殿」

 

 ガルシアが踏み込む。

 狙いはショーゴさん。

 

「ショーゴさん!」

「分かってる!」

 

 乾いた銃声。

 黒い弾丸がガルシアへ飛ぶ。

 ガルシアは盾で受ける。

 鈍い衝撃音。

 ガルシアの身体がほんの少しだけ揺れた。

 けれど、止まらない。

 

「貴殿が退けば」

 

 盾を構えたまま前へ。

 

「この戦いは不要です」

「本人が退かねぇって言ってんだろ!」

 

 ショーゴさんが今度は赤い拳銃を上げる。

 光の弾丸がガルシアの盾へ向かう。

 

「……!」

 

 当たる直前。

 ガルシアが盾を傾ける。

 赤い弾が表面を掠めた。

 

 バチィッ!

 

 盾を覆っていた魔力が一瞬だけ乱れる。

 

「やっぱ効く!」

「ショーゴさん!」

「おう!」

 

 その隙を狙いわたしはガルシアの懐へ走った。

 

「――っ!」

 

 レイピアを突き出す。

 ガルシアが剣で払う。

 一合。二合。三合。

 速い。

 わたしが打ち込むより早く、次の剣が来る。

 

「くっ!」

 

 受ける。逸らす。踏み込む。また受ける。

 昔、何度も稽古をつけてもらった。

 だから。分かる。剣の振り方。足運び。呼吸。

 全部。知っている。

 でも、だからこそ怖い。

 昔よりずっと、ガルシアが強く見える。

 

「お嬢様」

 

 剣が横薙ぎ。しゃがむ。

 髪の上を風が抜ける。

 

「これ以上は」

 

 盾が前へ突き出される。

 

「危険です!」

「決めるのは!」

 

 盾の端へレイピアを当てる。

 力では勝てない。

 なら、流す。

 

「わたしです!」

 

 盾の力を外へ逃がす。

 身体を回し横へ抜ける。

 背後。

 

「……!」

 

 ガルシアが振り返る。

 切っ先が肩へ届く。

 その直前。

 魔力と空気が膨らんだ。

 

「レイチェル!」

 

 ショーゴさんの声。

 反射的に飛び退く。

 直後。

 地面から巨大な腕が突き出した。

 

「……!」

 

 以前。

 ショーゴさんを襲った。

 あの魔力の腕。

 レイピアで切り払う。

 でも、一本じゃない。

 二本。三本。

 

「こんなに……!」

「お嬢様」

 

 ガルシアはその向こうにいる。

 

「どうか」

「お退きください」

「嫌です!」

 

 一本目を避ける。

 二本目はレイピアで逸らす。

 三本目。間に合わない。

 

「っ――」

 

 パンッ!

 黒い弾丸が魔力の腕の側面へ当たり、軌道が逸れた。

 わたしのすぐ横を腕が通り過ぎる。

 

「レイチェル!」

「大丈夫です!」

 

 答える。

 ショーゴさんが、少し離れた場所から両手の銃を構えている。

 今まで裏山で何度も見た姿。

 訓練を始めたばかりの頃とは。

 全然違う。

 構えも、狙いも。動きも。

 

「前!」

「はい!」

 

 ショーゴさんの声。

 ガルシアが盾を突き出して突進する。

 それを避ける。

 その瞬間。銃声。

 赤い弾が盾を覆っていた魔力が揺らぐ。

 

「今!」

 

 踏み込みレイピアを盾へ突く。

 今度は入る。

 表面に僅かな傷。

 

「……!」

 

 ガルシアが目を見開いた。

 

「届いた……!」

 

 初めて、この盾にわたしの剣が届いた。

 

「まだ!」

 

 もう一度、突く。

 でも、今度は剣で弾かれる。

 

 ガキン!

 

 腕が痺れる。

 

「甘い!」

 

 ガルシアの盾が真正面にある。

 

「っ!」

 

 受けられない。

 後ろへ飛ぶ。それでも、衝撃が襲う。

 

「きゃっ!」

 

 地面へ転がる。

 

「レイチェル!」

 

 ショーゴさんの声。

 

「大丈夫!」

 

 すぐに起き上がる。

 膝が少し痛い。

 でも、動ける。

 

「……」

 

 ガルシアが止まっていた。

 わたしを見る。

 さっきまでより、明らかに顔が険しい。

 

「お嬢様」

「……何ですか」

「お強くなられましたね」

「え?」

 

 思っていなかった言葉だった。

 

「以前より」

 

 剣を構え直す。

 

「遥かに」

「……」

「ですが」

 

 盾を前へ。

 

「それでも、私を越えるには」

 

 魔力が一気に膨れ上がった。

 

「まだ足りません」

 

 床が震える。

 

「……っ」

 

 ガルシアの背後に。

 魔力の腕。

 今度は四本。

 さらにその腕には剣が握られる。

 

「さすがに多すぎだろ……!」

 

 ショーゴさんの声。

 

「ショーゴ!」

 

 ミィルが叫ぶ。

 

「結界が揺れてる!」

「オレに言われても!」

「できるだけ威力抑えて!」

「この状況でか!?」

「外に漏れたらもっと面倒なの!」

「分かったよ!」

 

 礼拝堂の中央にいるミィルを見る。。

 額の赤い宝石が強く光っている。

 前足が震えている。

 結界。壁。天井。全部が細かく揺れていた。

 

「ミィル!」

「私は大丈夫!」

 

 すぐに返ってくる。

 

「こっちは気にしないで!」

「でも!」

「レイチェル!」

 

 いつもより強い声。

 

「今は前を見なさい!」

「……」

「あなたが決めたんでしょう!」

 

 その言葉。

 

「……うん!」

 

 ガルシアを見る。

 そう、わたしが決めた。

 

 ここに残ると。

 

 自分で、なら。

 最後まで、自分で。

 

「いきます!」

 

 走る。

 五本の腕が襲い来る。

 

 一本目を避ける。

 

 二本目は剣で切る。

 

 三本目--

 

「右!」

 

 ショーゴさんの声に反応し身体を捻る。

 腕が横を通る。

 

「上!」

 

 見ると四本目の振り下ろし。

 避けられない。

 パンッ!

 赤い弾で魔力の腕が崩れる。

 

「ありがとうございます!」

「まだ来るぞ!」

 

 五本目。低く足を狙っているのが分かったから跳ぶ。

 それを読んでいたガルシアが空中で待ち構えていた。

 剣をこちらへ振り下ろす。

 

「……!」

 

 空中で受ける。

 踏ん張りが出来ないから力が入らない。

 押される。

 

「くっ……!」

 

 地面へ落ち着地。

 転がるもすぐに起き上がり、そのまま後ろへ。

 距離を取る。

 

「レイチェル!」

 

 ショーゴさんが左に立つ。

 

「行けるか!?」

「はい!」

「三秒作る!」

「え?」

「いいから!」

 

 黒の連射をガルシアの盾が全部受ける。

 でも、衝撃で足が少しずつ止まる。

 

「獅童殿!」

「こっちを見ろ!」

 

 さらに、赤を連射。

 一発で盾の魔力が揺れるそれを連射している。

 

「……っ!」

 

 ガルシアが初めて。ショーゴさんへ完全に意識を向けた。

 

「一!」

 

 ショーゴさんが数える。

 それを合図に走る。

 

「二!」

 

 距離が縮まる。

 

「三!」

 

「はぁっ!」

 

 レイピア。狙いはガルシアの脇腹。

 

「……!」

 

 届く。

 でも、直前。盾が割り込む。

 

「くっ!」

 

 切っ先が盾を擦る。

 

「惜しい!」

 

 ショーゴさん。

 

「まだです!」

 

 止まらない。

 

 盾が上を守るなら下。足元を狙う。

 ガルシアが身体を引く。

 剣が迫り来る。

 

「甘い!」

 

 剣が振り下ろされる。

 レイピアで受ける。重い。

 

「……っ!」

 

 片膝をつく。

 ガルシアの剣が押し込まれる。

 

「お嬢様」

 

 顔が近いからその表情がよく見える。

 

「もう、おやめください……」

 

「嫌……です」

 

「なぜ」

 

 剣がさらに重くなる。

 

「なぜそこまで、この世界に拘られるのです?」

「……」

 

 押し負けないように、力を入れる。

 

「拘ってるんじゃ」

 

 息が苦しい。

 

「ありません!」

 

 剣を横へ滑らせ、身体を回す。

 つばぜり合いから抜ける。

 

「わたしは!」

 

 もう一度、レイピアを向ける。

 

「ここで!」

 

 一撃。

 

「生きたいって!」

 

 二撃。

 

「自分で!」

 

 三撃。

 

「決めたんです!」

 

 ガルシアが全部受ける。

 でも、少しずつ後ろへ下がる。

 

「……!」

 

 初めてガルシアの顔に驚き。

 

「お嬢様……」

「だから!」

 

 最後に突く。

 ガルシアはそれを盾で受ける。

 

「わたしの気持ちを!」

 

 力を込める。

 

「勝手に!」

 

 盾が僅かに下がる。

 

「決めないでください!」

 

 衝撃。わたしもガルシアも離れる。

 

「……」

 

 息が苦しい。腕が重い。

 でも、まだ立てる。やれる。

 ガルシアも剣を下ろさない。

 

「……お嬢様」

「まだやります」

「……」

「ガルシアが」

 

 呼吸を整える。

 

「わたしの話を聞いてくれるまで、何度でも」

 

 わたしもレイピアを構える。

 

「立ちます」

 

 ガルシアの目が揺れた。

 その時。

 

「なあ!」

 

 ショーゴさんの声に、ガルシアが視線を向ける。

 

「お前!」

 

 黒い銃を構えたまま。

 

「レイチェルのこと大事なんだろ!」

「当然です!」

 

 即答。

 

「だったら!」

 

 銃声。ガルシアが盾で防ぐ。

 

「なんで話聞かねぇんだよ!」

「お嬢様を!」

 

 ガルシアが弾を受けながら。

 

「危険から遠ざけることが!私の役目です!」

「それ!」

 

 ショーゴさんが走る。

 横へ射線を変える。

 

「お前が守りたいって思ってるだけだろ!」

「何を!」

「レイチェルが!」

 

 赤を撃つ。

 魔力の腕が一つ崩れる。

 

「どうしたいかは!」

 

 もう一発。

 

「どこに入ってんだよ!」

「私の意思は!」

 

 ガルシアが盾で弾き飛ばす。

 

「必要ありません!」

「お前の意思の話じゃねぇ!」

 

 ショーゴさんが怒鳴った。

 あんな声初めて聞いた。

 

「レイチェルの意思の話してんだよ!」

「……!」

 

 ほんの一瞬。ガルシアが止まる。

 

「本人が!」

 

 ショーゴさんが続ける。

 

「帰らないって言ってんだろ!それを無視して!

 何が守るだよ!」

「私は!命令を!」

「だから!」

 

 黒の銃声。

 それを盾で防ぐ。

 

「命令命令って!」

 

 ショーゴさんが睨む。

 

「お前自身は!どうしたいんだよ!」

「……」

 

 ガルシアの口が、止まった。

 

「私は……」

 

 初めて、答えが続かない。

 

「……」

 

 剣が少し下がる。

 

「私は」

 

 もう一度。言おうとして止まる。

 

「……」

 

 その顔は見たことがない。

 ガルシアはいつも、迷わなかった。

 お祖父様に言われたから。

 ラディーナ家のためだから。

 それだけで、何でも決めていた。

 でも、今。初めて。何も言えない。

 

「ガルシア」

 

 呼ぶ。

 

「……」

 

 こちらを見る。

 

「わたし」

 

 一歩。前へ。

 

「ガルシアがわたしのことを、大切にしてくれてるのは知っています」

「……お嬢様」

「小さい頃から」

 

 思い出す。転んだ時に抱き起こしてくれた。

 剣の稽古で、何度も泣いた。

 厳しかった。

 でも、怪我をした時に一番心配してくれた。

 わたしが風邪を引けば、薬を持ってきてくれた。

 外へ出たいと言えば、いつも駄目だと言った。

 

「ずっと、守ってくれました。だから」

 

 レイピアを下げない。

 

「分かってほしいんです。守られるだけじゃ、嫌なんです」

「……」

「失敗するかもしれない。間違えるかもしれない。

 危ない目に、また遭うかもしれない。それでも」

 

 胸へ手をやる。

 

「わたしの人生だから、わたしが選びたい」

 

 ガルシアの盾が僅かに下がる。

 

「お嬢様」

「……」

「私は」

 

 少し、いつもと違う声。

 

「貴女様を失いたくないのです」

「……」

 

 初めて聞いた。

 ガルシア自身の言葉。

 

「お祖父様の命令だから?」

「……」

 

 ガルシアが目を伏せる。

 

「それだけでは」

 

 小さく。

 

「ありません」

 

 胸が痛んだ。やっぱり……

 

「だったら」

 

 わたしは、少し笑った。

 

「なおさら、わたしの話を聞いてください」

「……」

 

 長い沈黙。

 でも、次の瞬間。

 ゲートが大きく揺れた。

 

「……!」

 

 光の裂け目が歪む。

 

「まずい!」

 

 ミィルの焦る声。

 

「限界が近い!」

 

 結界が大きく揺れる。

 

「ガルシア!」

 

 ミィルが叫ぶ。

 

「ゲートが保たない!」

「……」

 

 ガルシアが振り返る。

 裂け目が小さく縮んでいる。

 

「時間が……」

 

 その表情が、また変わる。迷い。

 そして、任務。

 

「お嬢様」

 

 盾がもう一度上がる。

 

「……ガルシア?」

「申し訳ございません」

 

 剣を構える。

 

「やはり。私は任務を果たします」

「……」

 

 ショーゴさんが小さく舌打ちした。

 

「まだやるのかよ」

「はい」

 

 ガルシアの目にあった迷いは、もう消えていた。

 でも、さっきまでとは何かが違う。

 

「お嬢様。次で」

 

 盾を前に。剣を弓引くように後ろに。

 

「終わらせます」

 

 わたしも、レイピアを構える。

 

「……分かりました」

 

 息を吸う。

 

「なら」

 

 ショーゴさんを見ると目が合う。

 

「最後まで付き合ってください」

 

 ショーゴさんが、黒と赤の二丁を構え直した。

 

「最初からそのつもりだ」

 

 ミィルも結界の中央から。

 

「二人とも!」

 

 叫ぶ。

 

「本当に次で決めて!私も限界!」

「了解!」

「うん!」

 

 ガルシアの盾と剣。

 わたしのレイピア。

 ショーゴさんの黒と赤。

 ゲートの光が崩れ始める。

 もう、時間はない。

 それでも今度は。

 怖くなかった。

 わたしが選んだ事だから。

 この一歩は、誰かに押されたものじゃない。

 自分の足で踏み出す。

 

「いきます!」

 

 ガルシアへわたしは。

 最後の一歩を踏み込んだ。

 

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