第一節:開戦
「さぁぁぁーっ!! コロシアム特別大会、開幕の火ぶたが切って落とされた『Aブロック』予選大会ぁぁぁーっ!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
「殺せぇぇぇーっ!!」
「血を見せろ!!!」
実況ギャッツの絶叫に応えるように、すり鉢状の観客席を埋め尽くした数万人の群衆から、耳を聾するほどの怒号と大歓声が巻き起こった。リングを囲む水路からは巨大な水柱が立ち上がり、血の匂いに狂った凶暴な「闘魚」たちが、バシャバシャと水面を叩いて跳ね上がる。
ゴォォォォンッ!!
「ガハハハハ! メラメラの実は俺がいただく!」
「死ねぇぇっ、雑魚ども!!」
開始のドラが鳴り響いた瞬間、100名を超える猛者たちが一斉に武器を振りかざし、乱戦の火蓋が切って落とされた。
――だが。
「ウィーッハッハッハ! 邪魔だ雑魚どもぉぉぉーっ!!」
ズドォォォォォォォンッ!!!!!
「「「ひあぁぁぁぁぁぁっ!???」」」
爆発音のような衝撃波。 腰にチャンピオンベルトを巻き、レスラー覆面をかぶった巨漢『Mr.ストア』が右腕を振り抜いただけで、凄まじい「波動」がリング上を薙ぎ払う。 群がっていた数十人の剣士や槍兵が、一瞬で泡を吹いて宙を舞い、闘魚の泳ぐ水路へと次々と落とされていった。
「な……なんだあの怪力はぁぁぁーっ!? Mr.ストアの一撃で、数十人の猛者が一瞬にして全滅だぁぁーっ!!」
観客席が狂喜の叫びに包まれる。だが、観客たちがその破壊力に酔いしれたのも束の間――リングの反対側で、さらに異常な「惨劇」が巻き起こっていた。
――シュパッ!!
音すら置き去りにする、一筋の黒い閃光。
「ぐぁっ……!?」
「な、なにおっ……!?」
黒槍を手に滑り込んだ青年――アルバーン。 彼の動きは、もはや人間の目では視認不可能だった。 六式『剃』による超高速移動から繰り出されるのは、一切の無駄を削ぎ落とした精密極まる槍撃。
突く、払う、穿つ。アルバーンの槍先が空を切り裂くたび、重厚な筋肉の鎧を身にまとう巨漢たちが、まるで紙屑のように次々と崩れ落ちていく。血飛沫すら上がらない。ただ、急所を正確無比に穿たれ、意識を刈り取られた強者たちが、バタバタと物言わぬ肉塊となって転がっていく。
「で、出たぁぁぁーっ!! 当コロシアムが誇る孤高の修羅、囚人剣闘士アルバーンだぁぁぁーっ!!」
ギャッツがマイクにしがみつき、熱情を込めて叫び声を張り上げる!
「ドフラミンゴ様に仇なし、あの幻の王女レベッカの味方をするとして忌み嫌われながらも……! 敗北の淵から這い上がり、2000を超える死闘を生き抜いてきた当コロシアム屈指の強者! 外からやってきた強豪海賊どもを、まるで仔犬のように一蹴していくぅぅぅーっ!!」
「くそっ、あのドフラミンゴ様に逆らった裏切り者が!」
「レベッカの犬め! 落ちろ! 水路に落ちて死にやがれ!!」
観客の多くからは容赦のない罵声やブーイングが飛ぶ。しかし、その怒号に混ざって、一部の狂熱的な観客たちからは割れんばかりの叫びが上がっていた!
「かませ! アルバーン!!」
「あの強さ……やっぱり本物だ! 雑魚どもを蹴散らせぇっ!!」
幾多のブーイングと一部の熱狂的な声援。 だが、交差する視線と声を浴びながら、アルバーンはただ冷徹な瞳で周囲を見下ろしていた。
(……クソ共が。反吐が出る)
ドフラミンゴの欺瞞に酔い痴れ、他人の血と死を娯楽として貪るこのドレスローザという国そのものへ、腹の底からの厭悪感を抱きながら、アルバーンは黒槍を一閃。波寄せる波涛のように押し寄せていた剣闘士たちを、わずか数十秒の間に全滅させた。
「Aブロック予選、開始からわずか1分足らず! 100名を超えていた猛者たちが……Mr.ストアと、我らがコロシアムの黒き槍使いアルバーンによって、一瞬にして掃除されていくぅぅぅーっ!!」
第二節:驚愕と応援
選手用の観覧場。初めて会った剣闘士の少女に買ってもらったコロシアム弁当をモグモグと頬張りながら、ルーシー(ルフィ)は手すりから身を乗り出してリングを見下ろしていた。その隣には、彼にお弁当を買い与えた『無敗の女剣闘士』レベッカが並んで立っている。
「うょーっ!? あの黒い槍の奴、めちゃくちゃ強ぇぞ!」
ルフィが目を輝かせ、肉を咥えたまま叫ぶ。
「おいレベッカ! あのアルバーンって奴、動きが全然見えねぇ! 面白ぇなぁ!」
「アル……っ!」
小さな手で胸当てを強く握りしめ、レベッカは祈るようにリング上のアルバーンを見つめていた。 観客席から飛ぶ「裏切り者」「レベッカの犬」という心ない罵声に胸を痛めながらも、彼女の眦に涙が滲んでいた。
先刻、アルバーンが自分に掛けてくれた言葉が頭を駆け巡る。
『言ったはずだ。俺がお前の無茶に付き合ってやる』 『俺はAブロックだ。お前はDブロック。……助けてはやれない。だが、俺が真っ先に決勝へ上がり、ファミリーの幹部どもを一人残らず倒す。決勝では、お前が戦う前に……すべて終わらせてやる』
不器用で、冷酷で、だけど誰よりも優しい彼の誓い。
そして、その異様な光景に驚愕していたのは、ルフィやレベッカだけではなかった。 選手控え室や観戦エリアからリングを見下ろす、新世界の名だたる「世界の強豪たち」の空気もまた、一変していた。
「ふん……ドレスローザの見世物小屋の囚人など、雑魚の集まりだと思っていたが……」
美しき海賊団船長『白馬』のキャベンディッシュは、愛刀デュランダルの柄に手をかけたまま、息を呑んで目を見開いていた。
(……なんだあの槍撃の精度は……!? 剣筋どころか踏み込みに一切の無駄がない。……ただの見世物剣闘士が身につけられる域ではないぞ……!)
さらに、その横で巨大な巨体を折り曲げ、腕組みをしてモニターを睨みつけていた八宝水軍第12代棟梁『首領』・チンジャオもまた、深く刻まれた額のシワを寄せて身を乗り出した。
「ぬううう……見事な槍撃よ。あの小僧……武装色の覇気を極限まで圧縮し、槍の先端一点に集中させておる……! 2000の死闘を生き抜いたというのは、どうやら伊達ではないようじゃな」
新世界の海の猛者たちが、「たかが囚人」と高を括っていたアルバーンという男の実力に、戦慄の表情を浮かべていた。
ルフィは、隣で震えるレベッカの横顔と、観客たちの罵声を完全に無視して圧倒的な強さを見せるアルバーンの凄まじい「闘気」を感じ取り、ニンマリと不敵に笑った。
「ヘッ……あいつ、お前の友達か? 凄い気合いだな!」
「うん……! 私の……大切な人! ……私の、恩人なの……っ!」
レベッカは唇を噛み締めながら、目の前のリングで自分たちのために戦う彼の勝利をただひたすらに祈り続けていた。
第三節:一騎打ち
リングの上に残ったのは、たったの二人。
山のように巨大な肉体を誇る仮面の男『Mr.ストア』。 探るような目線で黒槍を静かに構える囚人剣闘士『アルバーン』。
二人の周りには、意識を失って倒れ伏す数十人の猛者たちが転がり、文字通りの「死屍累々」の場と化していた。
「ウィーッハッハッハ! 雑魚どもは片付いたようだな、アルバーンとやら!」
Mr.ストアが極太の腕を叩き合わせ、ガツンと重厚な金属音を響かせる。
「良い槍捌きだ! だが、俺の肉体と力の前には、そんな細い鉄くずなど針突きの戯れに過ぎねえぞ!」
「……試してみるか?」
アルバーンは冷ややかな瞳で男を見据え、すっと踏み込みの姿勢をとった。
「一騎打ちだぁぁぁーっ!!」
ギャッツの咆哮とともに、数万人の観客が一斉に総立ちになる。
「Aブロックの決勝進出枠はただ一つ! 圧倒的怪力のMr.ストアか! それとも観客の罵声を跳ね返す孤高の槍使い、アルバーンかぁぁーっ!!」
「死ねぇ!! 『波動エルボー』!!」
ズガァァァァンッ!!
Mr.ストアが地を蹴り、その巨体からは想像もつかないスピードで突進。装甲をも砕く肘打ちから、目に見えるほどの空気の歪み――「波動」が放たれる。
リングの石畳が爆破されたように弾け飛び、衝撃波がアルバーンを呑み込んだ。
「「「やったぁぁぁぁーっ!?」」」
「いや、消えたぞ!?」
観客が悲鳴と狂喜を上げる。だが――。
――紙一重。
アルバーンは六式『紙絵』を完璧に応用し、まるでひらひらと舞う木の葉のように波動の圧力を受け流していた。
「なっ……!?」
「遅い」
Mr.ストアが目を見開いた瞬間、アルバーンの姿が完全に消えた。 次の瞬間、Mr.ストアの死角――背後の頭上へと空間を跳んだアルバーンの影。
(魚人空手の応用……極小の衝撃を、槍先の一点に集中させる!)
「――死ぬのはお前だ!!」
シュパァァァンッ!!
「ぬぐぁっ!?」
アルバーンの放った超高速の槍突きが、Mr.ストアのガードを軽々と掻い潜り、その顔面へと寸分の狂いもなく叩き込まれた。
殺傷能力を極限まで高めた精密な衝撃波。 その槍先が捉えたのは――Mr.ストアが顔を隠していた、あの紙袋風の覆面だった。
第四節:チャンピオン
バリリリリリッ!!
凄まじい風切り音とともに、丈夫な生地で作られていた覆面が、十文字に切り裂かれて弾け飛ぶ。
「うおあぁぁぁっ!?」
巨漢が悲鳴を上げながら後方へと数メートル後退し、顔を覆っていた手が力なく離れた。 日光の下に晒されたのは――粗野で凶暴なプロレスマスク。そして、後頭部からなびく独特の長髪。
会場を埋め尽くしていた数万人の大歓声と罵声が、一瞬にして打ち震えるような「静寂」へと変わった。
「あ……あいつ……あの顔……!!」
実況席のギャッツが、手元のアナウンス用紙をボロボロと落とした。
「ま、まさか……! 冗談だろ……!? なぜ『あの男』がこんなところに……!!」
観覧場の手すりから身を乗り出していたルーシー(ルフィ)の目が、怒りと驚愕でカッと見開かれる。
「あいつ……!チャンピオンの奴!!」
「え……? ルーシー、あの男を知ってるの……!?」
隣で驚くレベッカの耳にも聞こえるほどの、ルフィの激しい怒りの覇気。
そう――Mr.ストアの正体。 それこそは、かつて兄エースを海軍に引き渡し、マリンフォード頂上戦争を引き起こした元凶――四皇『黒ひげ海賊団』一番船 船長、『チャンピオン』ジーザス・バージェスその人であった。
「「「う、うおあぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?!?」」」
「よ、四皇の大幹部だぁぁぁぁーっ!!!」
「なんで黒ひげの最高幹部がここに居やがるんだァァッ!!」
観客席全体が、本物の怪物に対する恐怖と狂乱で割れんばかりのパニックに陥る。
当のバージェスは、剥ぎ取られた覆面の破片を地面に叩きつけ、血管を浮き出させて狂暴に牙を剥いた。
「チッ……! まさか俺の覆面を剥ぎ取るとはな……! 面白え、めちゃくちゃ面白えぞ小僧ォ!!」
四皇の大幹部が放つ凄まじい威圧感が、リング全体を押し潰すように広がっていく。 だが、その絶望的な圧力を前にしても、アルバーンは一切顔色を変えなかった。
黒槍の先端をバージェスへ向け、冷徹な声で告げる。
「覆面など被ってコソコソと……海賊が」
「……あァ!?」
「‥‥‥おい、七武海と四皇の大幹部、どっちが強い?」
「ウィーハッハッハァ!!さあな、戦って確かめてみろや!!」
「‥‥‥そうしてやる!」
アルバーンを嘲笑していた観客たちすら息を呑み、一部のファンたちが「行けぇぇっ! アルバーン!」と悲鳴のような声援を送る。 観覧場で手すりを握りしめるレベッカの「アル……!」という悲痛な祈りと、ルフィの鋭い視線に見守られながら――。
武装色の覇気を長槍に纏わせ、黒く輝く槍を掲げるアルバーン。
正体を現した四皇の大幹部バージェスと、ドレスローザを憎み、大切なものと復讐のために修羅となった囚人剣闘士アルバーン。 Aブロックの真のクライマックス――無名の修羅と剛腕の破壊者の死闘が始まった。
第五節:死闘
「さあァァァーっ!! 正体を現した『黒ひげ海賊団』一番船船長、四皇の大幹部ジーザス・バージェス!! そして立ち向かうは我がコロシアムの死神アルバーン!! Aブロック最後の勝者を決める死闘が、今! 幕を開けたぁぁぁーっ!!」
実況ギャッツの喉が張り裂けんばかりの絶叫。 数万の観客席からは、もはや声援とも悲鳴ともつかぬ地鳴りのような怒号が渦巻いていた。
「殺せぇぇぇっ、バージェス! むかつく囚人を叩き潰せ!!」
「ひぃぃっ! 四皇の大幹部だぞ!? コロシアムごと吹っ飛ぶぞーッ!!」
「負けるなアルバーン! あのデカブツを仕留めろぉぉぉっ!!」
「ウィーッハッハッハ! 威勢だけは一人前だな、雑魚がぁぁーっ!!」
ズドォォォォォォォンッ!!!!!
バージェスが巨体を揺らし、地を蹴った。 ただの一歩でリングの石畳が爆発したように弾け飛び、闘魚の泳ぐ水路へ巨石が降り注ぐ! 繰り出されたのは、あまりにも単純、かつ絶対に防ぎようのない圧殺の拳――!
「『波動エルボォォォッ』!!」
空間そのものが歪むほどの衝撃波。直撃すれば巨大な軍艦すら真っ二つに叩き折る「波動」が、極彩色の嵐となってアルバーンを呑み込む。
「吹き飛べぇぇぇぇーっ!!」
「……」
爆風と土煙が吹き荒れる中心。 アルバーン、一切の動揺なし。
シュンッ――
超高速移動『剃』。 足裏で十数回以上地を爆発的に蹴りつけながら、その軌道を極限まで無駄なく、流れるような円運動へと変換する。
「なっ……!?」
バージェスの放った波動の直撃コースから、アルバーンは残像だけを残して消失していた。 次の瞬間、バージェスの巨躯の真脇――死角へと滑り込む。
全身の武装色の覇気を槍先に凝縮。 かつてコロシアムで倒した魚人空手の達人から奪った「空気中の水分を利用した衝撃の伝導」を極小の一点に集中させる技術。
――シュッ!!
静寂の刺突。 槍先が描いたのは、殺傷力のみを追求した精密無比な一閃。
ズババババババッッ!!!!
「グアァァッ!?」
分厚い武装色の防御を突き破り、皮膚と筋肉を通り抜けて内部の器官を直接揺さぶる不可避の衝撃。あの巨大なバージェスが、わずか一刺しで大きく体勢を崩した。
「入ったぁぁぁぁーっ!!」
ギャッツがマイクにしがみつき、目玉を飛び出させて叫ぶ
「アルバーン! 四皇大幹部の巨躯を、一瞬の槍撃と内側を揺さぶる凄まじい衝撃で穿ち抜いたぁぁぁーっ!!」
第六節:簒奪者
「ぬぅぅ……おのれ小僧ッ!!」
バージェスが狂暴に牙を剥き、激痛に歪む脇腹を無視して裏拳を振り回す。
ゴォォォォンッ!!
その振り回された拳が掠めただけで、コロシアムの分厚い外壁が崩壊し、瓦礫が観客席へ飛散する。
「ひあぁぁぁぁっ!?」
「化け物だ! 巻き込まれるぞ逃げろーッ!」
暴風に吹き晒されながら、観戦エリアの魚人空手の達人ハックが息を呑んでいた。
「……あの男、今……槍先に『衝撃』を完全に収束させただと……!? 人間の体でありながら、まるで魚人空手の奥義のような衝撃伝播を完璧にこなしている……一体いくつの技術を体に叩き込んでいるんだ……!?」
隣で腕組みをする首領・チンジャオが、重々しく白髭を揺らす。
「……盗んでおるのだ。あ奴、己の力だけではない。これまでに戦い、殺してきた猛者たちの術……六式、魚人空手、果ては各国の武術まで……人間が体一つで再現し得るあらゆる技術を、その目に焼き付け、己の『黒槍』の型へと昇華させておる。あれは……技の簒奪者じゃ……!」
リング上。 バージェスは凄まじい連打を繰り出していた。 一拳一拳が地響きを立て、リングの石畳はもはや原型を留めていない。
「逃げてばかりか小僧ォ! 誇り高き『チャンピオン』の前に平伏せぇぇっ!!」
しかし、アルバーンは当たらない。 『紙絵』で風の抵抗と受け流し、まるで『水の流れを読む』かのような見聞色で拳の軌道を予測し、ミリ単位で回避し続ける。
「強い」
初めて、アルバーンが短く呟いた。 その瞳は氷のように冷たく、バージェスの「体の使い方」――骨の角度、肩の筋肉の収縮、覇気の放流のタイミングを、恐ろしい精度で観察していた。
(肘の骨を軸に、全身の筋肉を一瞬で弛緩させ……直後に覇気を爆発させて空気を叩く。それが……お前の『波動』か)
「死ねぇぇっ!! 『ガレオンラリアット』!!」
バージェスが渾身の力で右腕を振り抜く。 リングの半分を吹き飛ばす、この日最大の破壊の波動。
だが――アルバーンは逃げなかった。
すっと踏み込み、黒槍の柄を短く持ち直す。 肘を固定し、全身の覇気と筋肉を極限まで弛緩――そして、バージェスがやったのと「全く同じ体の使い方」で、槍の柄を爆発的に叩きつけた
――ズゴォォォォォォォンッ!!!!
「「「な……なんだとぉぉぉぉっ!???」」」
空気が跳ね返り、バージェスの放った波動と、アルバーンが槍先から放った「波動」が真正面から激突。凄まじい衝撃波が相殺し合い、リング中央に巨大なクレーターが穿たれた。
「なっ……!?」
バージェスが、人生で初めてするような「絶望の表情」で目を見開く。
「俺の……波動だと……!? どこでそれを……!?」
アルバーンは冷ややかに答えず、ただ槍を構え直した。
(今、お前から奪った)
――言葉にせずとも、その冷酷な瞳がそう語っていた。
第七節:決着
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァァーッ!!」
ギャッツの叫びも、観客のヤジも、すべてが掻き消えた。 あの四皇の大幹部・バージェスの「十八番」である波動の原理を、見様見真似の一瞬で完璧に盗み出し、打ち破ってみせたのだ。
観覧場で手すりを握りしめるレベッカの目が、驚愕と歓喜に見開かれる。
「アル……! 凄い……凄いよ……っ!」
隣のルーシー(ルフィ)が、肉を食う手を完全に止め、全身の毛穴を立ちあがらせて笑っていた。
「ひははは! すっげぇ! あいつ、戦いながら強くなってやがる!!」
「ガァァァァァッ!! ふざけるな小僧ぉぉぉぉッ!!」
正気を失ったバージェスが、全身の覇気を腕に集中させ、死に物狂いで飛びかかる。無防備な全開の突撃。
「‥‥‥ハァァ。」
アルバーンは静かに息を吐いた。
腰を深く落とし、黒槍を背後に引く。 六式の『脚力』、魚人空手の『衝撃伝播』、そしてバージェスの『波動』――人間が鍛え上げられる極限の技術を、すべて槍先の一点、針の穴ほどの点へと融合・収束させる。
言葉はなく。 ただ静かに、刺し穿つのみ。
――ドドッ!!
空間が割れる音。
「ウィっ……!?」
すれ違いざま。 一筋の漆黒の閃光が、バージェスの巨躯を突き抜けた。
……静寂。
バージェスの巨大な腕が、力なくダラリと垂れ下がった。 その極太の胸板の真ん中には、十文字に穿たれた拳大の穴。内部の覇気と波動の全てを打ち砕かれた『チャンピオン』の目が、ゆっくりと白目を剥いていく。
ズゥゥゥゥゥォォォォン……!!
山のような巨体が、物言わぬ肉塊となって石畳へ倒れ伏した。
「ひ……」
ギャッツがマイクを握りしめたまま、ガタガタと膝を震わせた。 観客席を埋め尽くす数万の群衆も、誰一人として声を出すことができない。
四皇の大幹部。高額懸賞金首。新世界の怪物。 それが――たった一人の、無名の囚人剣闘士である男によって、完膚なきまでに叩き潰されたのだ。
「し……勝者ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ギャッツが涙と汗を撒き散らしながら、全身全霊で叫んだ。
「Aブロック予選通過!! 勝者は……我らがコロシアムの死神! 2000の死闘を勝ち抜きし孤高の修羅!! アルバーンだぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」
罵声は消え去っていた。
そこにあるのは、圧倒的な「強さ」に対する狂気じみた大歓声と、地鳴りのような拍手。
血と泥に塗れたリングの中央で、アルバーンは倒れたバージェスに視線すら向けず、静かに黒槍を背に収めた。 熱狂する観客を見上げる瞳には、相変わらず「反吐が出る」と言わんばかりの深い冷淡さだけが宿っていた。
そして、ゆっくりと顔を上げ――選手観戦エリアで涙を拭うレベッカと視線を合わせる。
言葉はない。 だが、その冷徹な瞳には確かな優しさが込められていた。
(約束通り……まずは一勝だ)
ドレスローザの歪んだ空気を切り裂き、孤高の修羅アルバーンが、メラメラの実を巡る決勝戦へと一番乗りを果たしたのだった。
補足
アルバーンはドレスローザではレベッカ同様、嫌われ者側の人間です。理由はドフラミンゴに逆らい、レベッカにも味方するからです。
しかし、陰ながら応援する者もいます。ギャッツなんかがその一人です。また幾度も敗北しながら立ち上がり、2000を超える戦いを乗り越えてきた実績から、彼の強さに憧れる者も少なからずいます。