第一節:いつかあなたの役に
――王の台地・第三階層
「ハハハハハ! 逃げ場などどこにもないぞ! この台地の壁も地盤も、すべて俺が破裂させる!!」
乾いた高笑いが、硝煙の立ち込める第三階層に響き渡る。 ドンキホーテファミリー幹部グラディウスの全身から、狂気に満ちた覇気が溢れ出していた。『パムパムの実』の能力により、周囲の巨大な岩壁が不気味に膨張を繰り返し、風船のようにパンパンに膨らみ上がっている。
(レベッカ、ごめんなさい。一刻も早く……第四階層『ひまわり畑』へ行かなければ……!)
ニコ・ロビンは緊迫した面持ちで、先を急いでいた。 王宮最上階でドフラミンゴとの死闘に挑んでいる男――アルバーン。かつてコロシアムの地獄をレベッカと共に生き抜き、黒槍を掲げて王宮へ走った彼と交わした約束。
『‥‥‥サボ、麦わらの一味、レベッカを頼みたい‥‥‥!』
アルバーンから託された想いを胸に、ロビンは自身の能力で階段を作り、足を進める。だがその時、空間の密度が激変した。
「ウフフフフ……」
倒れ伏していたキャベンディッシュの瞳が真っ白に染まり、顔面が凄惨な鬼の形相へと変貌する。ロンメル王国の悪夢『ハクバ』の発動。 爆発の予兆を瞬く間に切り刻んだハクバは、次の瞬間、狂気の刃を一直線にロビンの首元へと向けた。
「ヒヒ……殺ス……切り刻ム……!」
超高速で迫る死の閃光。しかし、ロビンは冷静に両腕を交差させる。
「『万紫千紅』……!!」
バッ!!
ハクバの全身から無数の腕が咲き乱れ、その両腕、首、脚を完璧なタイミングで強固に拘束する。ロビンの細く美しい首を裂くはずだったハクバの刃が、ロビンの目の前でピタリと止まる。
「な……ッ! あの速さを捕まえただと!?」
グラディウスが目を見張る。だが、彼はすぐに残忍な笑みを浮かべた。
「フハハ! 互いに身動きが取れんようだな! ならば纏めて吹き飛べ!」
グラディウスは二人と隣接する巨大な壁に手を触れ、膨張を開始させる。さらに、不測の事態に備えて自らの全身をも爆破体勢に入らせ、体内の毒針を全方位へ撒き散らそうする。
「死ねぇぇぇっ!」
「しまっ……! ロビン先輩が危ねぇぇぇっ!!」
バルトロメオの瞳に血が走る。爆破を起こされたらロビンも自分たちも全滅する。躊躇う時間など一秒もなかった。
「うおおおぉぉぉっ! させねぇべバカ野郎ーッ!!」
バルトロメオはナイフを握り締め、爆発寸前のグラディウス目掛けて決死の特攻を仕掛けた。
「『バリアボール』!!」
ガシュゥゥゥンッ!
透明な球状のバリアで、自分とグラディウスの二人だけを完全密閉。閉じ込められた狭いバリアの中で、グラディウスの全身が凄まじい爆風とともに破裂した。
「全身破裂ッ!!!」
ドガァァァァンッッッ!!!!
密閉空間での爆発の衝撃が、バルトロメオの肉体を極限まで痛めつける。血反吐をぶちまけ、全身の骨が悲鳴を上げる中、バルトロメオは激痛に狂いながらナイフを振り下ろした。グラディウスの首を狙い、その命を絶って爆破を止めるために。
「喰らえっ!!」
ドスッ……!!
しかし――密閉された爆煙と刃の狂いにより、ナイフが突き刺さったのはグラディウスの首ではなく、その「肩」であった。
「グァッ……! 甘いぞ…………!」
血を吐きながらも、グラディウスの眼光は死んでいなかった。首を外した隙を逃さず、グラディウスはバリアの外――第三階層と第四階層を分かつ『台地の絶壁』そのものに意識を集中させる。
「あの女だけは行かせん! 絶壁ごと吹き飛べぇッ!!」
「やめろぉぉぉっ!!」
絶壁全体が不気味に脈打ち、崩落のカウントダウンが始まる。 ロビンはハクバを拘束したまま動けない。絶体絶命の危機に、拘束されたハクバの体内でキャベンディッシュの意識が激しく暴れ回った。
「ハクバ……!彼女を連れて向日葵畑まで跳べ!!」
キャベンディッシュが必死に命じるが、狂気の人格ハクバが言うことを聞くはずもない。「殺ス……殺ス……」と嘲笑い、ロビンを道連れに爆発へ巻き込もうと抗う。
「言うことを……聞けぇぇぇッ!!」
ミシ……ミシシッ!!
キャベンディッシュの魂の叫びとともに、ハクバの腕が凄まじく震え出した。キャベンディッシュは己の腕を力づくで制御し、ハクバが振るおうとする剣の刀身を、反対の自分の手で力任せに押さえつけたのだ。
「キャベツ君……!?」
顔の半分を鬼、半分を苦悶の美剣士に変えたキャベンディッシュが、歯を食いしばりながらロビンを見つめる。
「僕は……『美しき海賊団』船長キャベンディッシュ……! 女性を危険に晒し……仲間を裏切るなど……美しくないッ!!」
「スーパーアリーナッ!!!」
ドガァァァァァァンッッッ!!!!
ついに台地の絶壁が大爆破を起こし、広大な岩盤が崩落を始める。 土砂と爆風の嵐が襲いかかるその瞬間――キャベンディッシュはハクバの剣を完璧に封じ込め、その圧倒的な脚力でロビンの身体を抱え上空へと飛び上がる。
「正気カ……!?自分ノ身体ダゾ!?」
「じゃあ…少しは、言うこと聞けよ……!」
爆風の嵐を突き抜け、キャベンディッシュはロビンを抱え、崩れ去る絶壁を飛び越えて、第四階層「ひまわり畑」の台地へと美しく着地した。
「な……なにっ!? 爆破を免れた……!?」
絶壁の爆破に成功し、勝ちを確信していたグラディウスが、あまりの光景にあっけにとられて目を見開く。
その一瞬の隙を――命の残火を燃やす男が見逃すはずがなかった。
「おい……爆破野郎……!!」
バリアボールが解除され、血みどろのバルトロメオが瓦礫の中から立ち上がっていた。その胸に燃え上がるのは、己を信じて背中を託してくれたルフィへの絶対の崇拝と、仲間たちの意地に応える灼熱の情熱。
バルトロメオは右拳を大きく引き絞り、己の全存在をかけたバリアをその拳へと集中、圧縮させていく。
「ルフィ先輩……! 俺に力を……貸してくれだべぇぇっ!!」
かつてローグタウンの処刑台で笑い、ドレスローザで奇跡を起こし続ける憧れのヒーロー。その姿を脳裏に描き、敬意を込めた渾身の踏み込み。
「『オマージュ神拳』……!!」
「……!?」
「『バリバリの……銃』ぁぁぁぁっっ!!!!」
ズドォォォォォォンッッッ!!!!
ルフィの『ピストル』を模した超圧縮バリアの拳が、あぜんとするグラディウスの顔面に真っ正面から炸裂した。顔面を粉砕し、グラディウスの身体は第三階層の瓦礫の底へと叩きつけられた。
静寂が戻った第三階層。 グラディウスは白目を剥き、二度と動き出すことはなかった。
「……ルフィ先輩……いつかあなたのお役にっ!」
バルトロメオは天を仰ぎ、満足そうな笑みを浮かべると、そのまま豪快に倒れ込んだ。
四階層外縁では、ハクバを抑え切ったキャベンディッシュも元の姿に戻り、穏やかな寝息を立てている。
そして――第四階層「ひまわり畑」。 風に揺れるひまわりの真ん中で、傷つきながらも立ち続けるキュロスと、怯えながらも剣を握るレベッカの元へ、ロビンが静かに舞い降りた。
「待たせたわね。これからは私があなたを守るわ」
男たちの意地と美学が繋いだバトンが、ついに因縁の決戦場へと到達した瞬間であった。
第二節:母の宿る手
――王の台地・第四階層『ひまわり畑』
風にそよぐ満開に咲くひまわりの花海に、血の匂いが立ち込めていた。 舞い降りたニコ・ロビンは、すぐさま背後のレベッカを引き寄せ、優しくその肩を抱く。
「待たせたわね。これからは私があなたを守るわ……彼との約束だもの」
「ロビンさん……っ!」
レベッカから、安堵の声が零れ出た。 その光景を背中で感じ取った片足の戦士――キュロスの全身から、膨れ上がっていた壮絶な覇気が一気に爆発した。
「おおお……おおおおおアアアアッッ!!!!」
咆哮。地響きのような咆哮とともに、キュロスの巨躯が地を蹴った。十年もの間、おもちゃの姿に変えられ、愛する娘に「父親」と認知されることも許されず、目の前で妻スカーレットを殺された怨嗟と怒り。その全てが、振るわれる大剣に乗って一気に爆発する。
「ハハハハハ! ようやくおもちゃの身体から戻れたと思ったら、片足で躍起になりやがって! 無様だぜキュロスぅ!!」
ドンキホーテファミリー最高幹部ディアマンテは、ゲスな笑みを浮かべながら『ヒラヒラの実』の能力で薄くヒラヒラにした長剣を振るい、キュロスの猛攻をいなそうとする。 しかし――怒りが限界を突破したキュロスの踏み込みは、ディアマンテの予想を遥かに超えていた。
ガァァァンッッッ!!!!
「グッ……!? なんという力……!」
叩きつけられたキュロスの大剣は、ディアマンテのガードごと彼の身体を数十メートル後方へ吹き飛ばした。ひまわりの花びらが嵐のように舞い散る。
「ハぁ……ハぁ……ッ! 十年だ……! 十年間、私はこの日を、この瞬間を夢にまで見てきた!! スカーレットの命を奪い、ドレスローザを地獄に変えた貴様を……私の手で打ち砕くこの時をっ!!」
「ケッ……つまらない男だぜ! 死んだ女のことなど忘れたかと思ったが、まだ執着してやがったか!」
ディアマンテは血を吐きながら立ち上がると、舌を伸ばしてキュロスを嘲笑した。
「スカーレットの最期を知っているか? 銃弾をぶち込まれて、助けを求めるように血を流して倒れたぜ! だがその時……お前はどうしてた? 一匹の惨めなおもちゃとして、何もできずに目の前で指を加えて見ていただけだろぉぉッ!?」
「黙れぇぇぇっ!!」
「ハハハ! 泣くなよ惨めな英雄! お前たち親子を纏めてあの世のスカーレットの元へ送ってやる! 喰らいやがれ……『死の星屑』!!」
ディアマンテが空へ向けて筒状の紙吹雪を放つ。上空で弾けたそれは、鋭い刺のついた無数の鉄球となり、雨の如く四方八方から降り注いだ!
「レベッカ、後ろへ!」
ロビンが咲かせた無数の腕で巨大なひまわりの花束を傘のように編み上げ、レベッカと自身の頭上を完璧に覆う。 一方、キュロスは降り注ぐ鉄球の雨を、一本の剣だけで真っ向から叩き落しながら前進していった。
ドガガガガガガッッ!!
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
無数の鉄球がキュロスを頭上から襲う。だが、彼は一歩も退かない。殺気の籠もった眼光でディアマンテを射抜き、着実に距離を詰めていく。
「ちっ……化け物め! だが、片足のテメェはこれが効くだろう!?」
ディアマンテの顔から嘲笑が消え、懐からもう一丁隠し持っていた短銃を引き抜いた。キュロスの前進する軌道を読み、その唯一の支えである「右脚」の膝へ向けて撃ち抜く。
パーンッ!!
「グガッ……!?」
膝を撃ち抜かれたキュロスはバランスを崩し、盛大に倒れ込んだ。そこへ、頭上から無数の鉄球の雨が容赦なく降り注ぐ。
ズドズドズドズドッ!!
「お父様ぁぁぁぁっ!!」
レベッカの悲鳴が響き渡る。鉄球の嵐に呑まれ、血の海に沈んでいく父親の姿。そして、それを見下ろして卑劣に嘲笑うディアマンテ。
「ハハハ! ざまぁみろ! 英雄だろうが何だろうが、脚を一発撃ち抜けばただの木偶の坊だ! なぁレベッカ、お前のお父様はまたお前を守れずに死んじまったぞぉッ!」
「貴様ぁぁぁっっ!!!!」
レベッカの怒りが破裂した。涙を拭い、背中の剣を引き抜くと、殺意をむき出しにしてディアマンテへ向かって突進しようとする。
「許さない……許さない……! お母様を奪い、お父様まで……!よくもッ!!」
「止まれッ!!……レベッカァァッ!!」
鉄球の嵐の中から、血塗れの手が地を掴んだ。 全身に無数の鉄球が突き刺さり、全身から血を流しながらも……キュロスは泥を這い、ゆっくりと立ち上がった。
「お……お父様……!?」
「剣を下ろせ……レベッカ……!」
キュロスは立ち上がり、肩で息をしながら、娘へ向かって強い眼差しを向けた。
「お前はっ…‥、あのコロシアムの地獄においても……誰一人傷つけなかった‥‥‥!不殺の誓いを……母の願いを胸に貫き通した……! お前の手はまだ美しいッ!!人を斬らぬその手……その手こそが……母スカーレットの魂が宿る手だ……!!」
「お父様……っ……!」
「お前の手を……こんな下種の血で汚させるわけにはいかん……! 私の命と引き換えにしてもッ!」
キュロスの言葉に、ディアマンテの顔が醜く歪む。
「ケッ! 説教垂れてんじゃねぇぞゴミクズが! ならばその綺麗な手を持つ娘の前で、お前を完全に粉砕してやる! 『旧・コロシアムの英雄』の最期だぁッ!」
ディアマンテは自らの能力で自身の服と剣を鋼鉄の傘のように硬化させ、絶対の防御体勢をとった。
「来いよキュロス!!」
キュロスはゆっくりと、撃たれた右足を踏みしめた。激痛が全身を駆け巡る。だが、彼の胸の中に渦巻く怒りは、激痛などとうに置き去りにしていた。
「痛みは……人間である証……! 愛する者に忘れ去られる絶望の深さ……! 触れ合うことすらできぬ虚しさ……! 痛みを分かち合えぬ悲しみ……!!」
キュロスの大剣に、漆黒の武装色の覇気が纏いつく。それは単なる覇気ではない。ドレスローザの虐げられた民たちの涙、10年間の怨嗟、そしてスカーレットへの愛が昇華した、圧倒的な漆黒の雷光。
「貴様らに……このドレスローザの痛みが解るかァァァッ!! 私は今……この国のすべての怒りの化身となって!!貴様を討つッ!!!」
「なに……!?何だコイツはっ!?」
ディアマンテの顔から余裕が消え失せる。キュロスの放つ絶対の存在感が、第四階層全体を激震させていた。
「ディアマンテぇぇぇっ!!」
片足で地を爆砕し、キュロスが空中へと跳躍した。 その姿はまるで、天から落ちる一閃の雷霆。
「私の全身全霊ッ!!そしてこれがこの国の受けた!!十年の痛みを込めた剣だ!!平穏を返してもらう!!」
キュロスとディアマンテが互いに剣を振りかぶる。
「『半月・グレイブ』ッッ!!!」
「『雷の破壊剣』ッッ!!!!」
ズバァァァァァァァァンッッッ!!!!
極限の一閃が、空間そのものを切り裂いた。 ディアマンテが誇る大地をも断つ剣が、まるで紙切れのように真っ二つに両断される。勢いは止まらず、大剣の刃がディアマンテの胴体を斜めに一直線に深く切り刻んだ。
「ギ……ギャアアアアアアアアアッッッ!!!?」
絶叫とともに、ディアマンテの身体が吹き飛ぶ。 ドガシャァァンッ!! と凄まじい音を立てて彼が頭を打ち付けた場所――それは、ひまわり畑にひっそりと佇む、「スカーレットの墓標」の先端であった。
「が……ハッ……」
白目を剥き、スカーレットの墓前で血を流して倒れ伏すディアマンテ。二度と立ち上がる気配はない。
静寂が、ひまわり畑を包み込んだ。 雨のように降り注いでいた鉄球の嵐も止み、空から暖かい光が差し込んでくる。
キュロスは大剣を地面に突き立て、撃たれた足でなんとか立ち尽くしていた。 息を荒げ、天を見上げるキュロスの頬を、静かに一筋の涙が伝い落ちる。
「お父様ぁぁぁぁっ!!」
レベッカが駆け寄り、血まみれのキュロスの胸へと飛び込んだ。キュロスはその太い腕で、今度は「おもちゃの体」ではなく、温かい「人間の体」で、しっかりと娘を抱きしめた。
風に揺れるひまわりたちが、十年の地獄を乗り越えた父娘の再会を、静かに祝福しているようだった。
第三節:大 千 世 界
――王の台地・第四階層『ひまわり畑』。
ディアマンテが倒れ、静寂が訪れたはずのひまわり畑の地盤が、突如として不気味に隆起した。巨大な岩の顔面が地面から浮かび上がり、甲高い不快な声を響かせる。
「……お前たちにとって、リク王とは何だ?」
ドンキホーテファミリー最高幹部ピーカであった。ピーカの瞳が、血まみれのキュロスとレベッカを冷酷に見下ろす。
「リク王さえいなければ、お前は足を失うこともなかった。娘が国中から罵声を浴びせられることもなかったはずだ」
「何を言っているの……っ!?」
レベッカが怒りで肩を震わせ、声を荒らげる。
「平和だったこの国を……地獄に陥れたのはあなたたちじゃない!!」
「そうだ……!」
キュロスは折れた足を踏みしめ、力強く言い放った。
「リク王様は私の恩人であり、誰よりも平和を尊ぶ素晴らしい王だ! 今やこの国中の人間が、リク王様の復権を望んでいる!!」
「……そうか」
ピーカは短く吐き捨てると、嘲笑うように再び岩の中へと姿を消した。
――数分後、王の台地・第二階層。
ゾロの目の前の岩壁から、再びピーカが姿を現した。その顔には不快感が満ちている。
「……リク王の復権を国中が望んでいるそうだ。目障りな虫ケラどもめ。この国はドフィのものだ!」
ピーカの『イシイシの実』の能力が解き放たれ、新・王の台地全体の岩石が不気味に蠢き始める。周囲の岩をすべて呑み込み、天を衝くほどの巨大な岩石の巨人――数百メートルに及ぶ巨像が完成していく。
「あの老いぼれごと、旧・王の台地を粉砕してやる!」
巨像はゾロを無視し、前国王リク・ドルド3世やウソップたちがいる『旧・王の台地』へと歩みを進め始めた。一歩踏み出すごとに地響きが轟く。
――旧・王の台地頂上。
「来ます! 巨大な岩の巨人がこちらへ向かって来ます!」
「逃げろ! 全員ここから離脱するんだ!」
ウソップたちが叫び、避難を促す。しかし、巨像の狙いが自分自身であると悟ったリク王は、一歩も動こうとはしなかった。
「……逃げはせん。狙いは私だ……!!」
「リク王様!?」
リク王が逃げぬと知るや、恐怖に震えていた国民たちが、一人、また一人とリク王の前に立ちふさがった。傷ついた身体で手を繋ぎ合い、巨大なピーカを見上げる。
「リク王様をお守りするんだ!」
「私たちの王は、あなた様だけです!!」
その光景を見下ろし、ピーカの甲高い高笑いが響く。
「ピッキャララララ! 人望が復活しようと、国を守れなかった無能な事実は変わらん! お前のような甘い善人はすぐに死ぬ! ゆえに歴史に名を残せないのだ!」
振り下ろされようとする巨像の拳。その死の影の中で、リク王は毅然と胸を張り、堂々と叫び返した。
「たしかに、国を守れなかった私は無能だ!もう、二度と王にはならん!! ……だが! 私は平和を望み、人間である努力をした!! 殺戮でしか治められぬ国家に、未来など絶対にないッ!!」
「死ねぇ、リク王ーッ!!」
容赦なく振り下ろされる巨拳。万事休すかと思われたその瞬間――。
ドガァァァァンッッッ!!!!
王の台地二階層から、音速を超える砲弾が上空へと打ち出された。
提督オオロンブスの『提督・キラーボウリング』によって投げ飛ばされたロロノア・ゾロである。
「九山八海……一千集めて小千世界……三条結んで‥‥‥切れぬものなし!!!」
風を切り裂き、まっすぐにピーカの巨像へと一直線に飛翔するゾロ。三本の刀に漆黒の武装色の覇気が纏いつき、禍々しいオーラを放つ。
ピーカが驚愕した瞬間、ゾロの全身から天を衝くほどの凄絶な剣気が放たれた。
「三刀流奥義……!! 『大・千・世・界』!!!!」
ズバァァァァァァァァンッッッ!!!!
一閃。次の瞬間、数百メートルの巨大岩像が、胴体の真ん中から真っ二つに切り裂かれた。
「な……なにぃぃぃぃぃッ!?」
コロシアムの戦士たちも、ひまわり畑のキュロスとレベッカも、ドレスローザ中の人間が目を見開いて絶句する。
「巨像が……両断されたぁぁぁっ!?」
しかし、ゾロの斬撃は止まらない。意識を上半身へ逃がしたピーカの気配を察知し、空中での超高速の連撃で巨像をさらに縦、横、斜めへと細かく刻み込んでいく。
「出てこい!!ピーカ!!」
「くっ……! 許さん……許さんぞ、ロロノアァァッ!!」
ついに岩のシェルターを失ったピーカ本体が、全身に漆黒の武装色の覇気を纏わせて飛び出した。
「俺の覇気は完璧だ! 刀ごときでこの俺の覇気を破れると思うなァッ!!」
「お前の覇気が俺の覇気を上回っていればな!」
空中でのすれ違いざま、ゾロが静かに刃を振り抜く。
「『三・千・世・界』!!」
ガギンッッッ!!!!
重なり合う覇気。一瞬の交錯。 ゾロの圧倒的な覇気がピーカの全開の覇気を一瞬でぶった切り、その巨大な肉体を三条に切り刻んだ。
「ギ……ギャアアアアアアアアアッッッ!!」
絶叫とともに、白目を描いたピーカの本体が落ちていく。
「ハぁ……ハぁ……。堅気に迷惑かけんじゃねえよ! 」
だが、切断された巨大な岩石の残骸が、雨のようにリク王たちの頭上へ降り注ごうとしていた。
「しまっ……! 岩が降ってくるぞーッ!」
「全員離れ――」
「行くぞ!!」
声を張ったのは、プロデンス王国国王エリザベローII世。じっくりと温め続けていた伝家の宝刀を、天へ向けて突き出す。
「キング……パンチ』っっ!!!!」
ドォォォォォォォォンッッッ!!!!
凄まじい風圧の衝撃波が上空を駆け抜け、降り注ぐ巨大な岩塊の残骸を跡形もなく吹き飛ばした
煙幕が霧散する。 リク王と国民たちは、奇跡のように残された静寂のなかで、溢れでる涙をぬぐった。
「勝った……! ピーカが倒れたぞぉぉぉっ!!」
「「「やった~~~~~~~!!!」」」
歓喜の嵐がドレスローザ全域を包み込む。 刀を鞘に収めたゾロは、崩れ落ちる瓦礫の上に降り立ち、王宮最上階を見上げた。
残る敵はあとわずか。 すべての因縁を断ち切る最後の戦いへと、動き出していた。