第一節: あと二人。
――旧・王の台地。
キングパンチによって吹き飛ばされた巨岩の煙幕が、暖かな風とともにゆっくりと霧散していく。
そこに残されていたのは、かつてドンキホーテファミリーの圧倒的な暴力に震え、絶望の底にいた民たちの姿ではなかった。手を取り合い、誇りを守り抜いた王を囲む、歓喜と涙に濡れた顔、顔、顔――。
ドスッ……!
その台地の縁に、瓦礫を跳ね飛ばしながら一人の男が舞い降りた。 三本の刀を腰に差した剣士――ロロノア・ゾロ。
「ゾ……ゾロ!!」
ウソップが涙と鼻水を撒き散らしながら駆け寄り、台地にいた民衆が一斉に群がった。
「す……すげぇ……! あの巨大な岩塊を、空中で一瞬にして……!」
「助けてくれてありがとう!!」
「ロロノア・ゾロ!!」
地鳴りのような称賛と感謝の声が、ゾロの全身に降り注ぐ。リク王もまた、静かにゾロの前へと歩み寄り、深く頭を下げた。
「心から感謝する、ありがとう!!」
だが、怒濤の称賛を浴びながらも、ゾロの表情は一切崩れなかった。 彼は三本の刀の鞘をカチャリと収め直すと、ニヤリともせず、ただ空を見上げた。
「……喜ぶのはまだ早ぇぞ」
冷淡とも取れるゾロの低い一言に、その場の歓声が一瞬で静まり返る。 ゾロが鋭い眼光で指し示したのは、ドレスローザの空を今なお覆い尽くしている、鋭利な刃の檻であった。
「あの『鳥カゴ』が消えてねぇだろ。……つまり、肝心の男がまだ元気にピンピンしてやがるって証拠だ」
その言葉に、民たちの肩がピクリと震える。 そうだ、まだ終わっていない。この国を十年間支配し、今まさに『鳥かご』で閉じ込めて国民全員を殺戮しようとしている元凶――ドンキホーテ・ドフラミンゴが生きているのだ。
緊張が再び走りかけたその時、台地の奥から一人の女性が前に進み出た。 かつてファミリーの幹部『ヴァイオレット』として潜入し、誰よりもこの国の裏と表を見続けてきた王女――ヴィオラであった。
彼女は自身の能力『ギロギロの実』で王宮およびドレスローザ全域を千里眼で見渡し、ハッキリとした、それでいて力強い声を響かせた。
「ええ、彼の言う通りよ。でも……絶望する必要はないわ!」
ヴィオラはリク王と国民たちを見回し、明確な戦況を言い放つ。
「幹部、最高幹部……ドレスローザを脅かしていたドンキホーテファミリーの戦力は、たったいま全滅したわ!」
「「「な……なにッ!?」」」
「現在、残されている敵戦力は……『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』。そして、百獣海賊団からの客将である大看板『旱害』のジャック……! あと、たったの二人!!」
その言葉が持つ意味の大きさに、民たちは息を呑んだ。 幹部たちが一人、また一人と倒され、かつて絶対的だったドフラミンゴの王国の威容は、いまや完全に崩壊していたのだ。
「さらに……王宮に囚われていたトンタッタ族のマンシェリー姫も、先ほどレオたちによって無事救出されたわ! もう姫の能力がドフラミンゴたちに利用されることもない!」
「レオたちがやったのか!!」
ウソップが叫び、トンタッタ族の戦士たちが「やったぞーっ!」と万歳三唱を叫び上げた。
最高幹部の全滅。 姫の救出。 そして、残る敵はあと二人――。
長い、あまりにも長い十年の地獄。 どれほど願っても届かなかった「希望」の二文字が、いまやはっきりと、全員の目の前に姿を現していた。
「勝てる……! 勝てるぞ……!!」
「あいつらを倒せば……本当にこの国に平和が戻ってくるんだ!!」
恐怖に引きつっていた民たちの顔に、自然と笑みがこぼれ出す。涙を拭い、拳を握りしめ、誰もが上空の王宮最上階を見上げた。
ゾロはフッと口元を緩めると、腕を組んで王宮を見つめた。
「あとは……王宮のあいつら次第だ」
男たちの意地と絆が繋いだバトンは、ついに最終決戦の地へ。 ドレスローザの命運をかけた最後の戦いが、いよいよ王宮最上階で幕を開けようとしていた。
第二節:虐殺
――王宮最上階
ズドォォォォォォン……ッ!!!!
重厚なる大理石の床が、凄まじい衝撃波とともに内側から打ち砕かれた。 飛び散る瓦礫と黒煙の隙間から、一人の男が足をもつれさせながら踏み出してくる。
麦わらの一味船長――モンキー・D・ルフィ。
その拳は自身の血と痛みに濡れ、肩は激しく上下していた。表情は苦痛と、胸をかき乱す激しい葛藤に深く歪んでいる。友であり、ドフラミンゴという悪魔の駒として踊らされ続けた男、ベラミー。彼の命を賭した覚悟を受け止め、己の手でその息の根を止めるかのごとく一撃を打ち叩き込んできたルフィの胸中には、黒く煮え立つような激昂が渦巻いていた。
「ハぁ……ハぁ……ッ!! ドフラミンゴォォォォッ!!」
裂けるような怒号を上げ、ルフィが血走った目を上げたその時――。
ドォォォォォォォォン……ッ!!
最上階の広間を丸ごと揺るがす地響きとともに、目の前の光景がルフィの視界を覆い尽くした。
そこに立ち聳えていたのは、見上げるほどの巨躯を誇る超巨大な「マンモス」の姿であった。
百獣海賊団の大看板『旱害』のジャック。古代種の猛威を体現した巨獣。太く巨大な二本の象牙が陽光を浴びて鈍く輝き、その太い足先と長い鼻の先からは、生々しい滑落の跡のような血煙が立ち上っている。
そして――その巨獣の足元、打ち砕かれた石畳の血の海の中に、力なく横たわっていた男がいた。
「トラ男……ッ!?」
ルフィの目が限界まで大きく見開かれた。
トラファルガー・ロー。 その姿はあまりにも凄惨を極めていた。
トレードマークである帽子は無残に吹き飛ばされ、漆黒のコートはズタズタに引き裂かれている。右腕は関節があらぬ方向へとひしゃげ、折りたたまれたような惨状を呈していた。『鬼哭』を握る指先からはすでに完全に生気が失われ、胸からはドクドクと鮮血が溢れ出し、石畳の隙間に漆黒の血だまりを作っている。
薄く開かれた瞳からは光が消えかけており、喉を鳴らして血を吐き出すことすら苦痛に喘ぐ、まさに死の淵の惨状。
ルフィが下層でベラミーによって分断されていた間、ローはこの圧倒的な暴力を体現したような怪物相手に、たった一人で立ち向かっていたのだ。
だが大看板ジャックが誇る無尽蔵のタフネスと壊滅的な破壊力は、あまりにも絶望的で苛烈な暴威であった。ローはしゃべることすら叶わず、ただ荒い血吐く呼吸をくり返すのが精々だった。
ズバァァァァァンッッッ!!!!
その傍らでは、激しい漆黒の衝撃波が弾け飛んでいた。 アルバーンが解き放つ狂気的なまでの黒槍の猛攻を、ドフラミンゴは周囲の建造物を糸に変える『覚醒』の能力をもって辛うじて受け流し、凌ぎ続けている。ずっとアルバーンとの死闘に神経を削がれていたドフラミンゴであったが、ジャックの足元で力尽き、血の海に沈んだローの存在を視界の端で察知すると、その口元を歪で冷酷な笑みへと吊り上げた。
「フッフッフッフッ! 見ろ、麦わら! 無様極まりないな、ローのその姿は!!」
高らかな、狂気を含んだ高笑いが王宮最上階に響き渡る。 ピンクの羽織を風になびかせ、ドフラミンゴが血に沈んだローを嘲笑いながら見下ろしていた。そのサングラスの奥の瞳には、血も涙もない冷酷な悪意だけが宿っている。
「わざわざ13年前のバカな弟の無念でも晴らしに来たか!? コラソンの意志を継いだと宣い、この俺の首を取るために乗り込んできたんだろうが……フッフッフッ! 俺には届かなかった! 残念だったなぁ、ロー!!」
「が……ッ……ハ……っ……」
ローの口から重い血の塊が吹き出す。もはやドフラミンゴを睨みつける力すら残っておらず、虚ろな視線が虚空を彷徨うのみ。
「フッフッフッ! お前が命をかけて描いた13年越しの『本懐』とやらも、その怪物の足元で踏みつぶされる虫ケラ同然の死で終わりだ!!」
ドフラミンゴの嘲笑に応えるように、マンモスと化したジャックがブォォォォンと耳を刺すような重低音の雄叫びを上げた。ジャックの太い鼻が蛇のようにのたうち、血まみれで右腕のひしゃげたローの体躯を強引に巻き上げると、見せつけるように宙へと吊り上げる。
「……終わりだ」
ジャックの低い重低音が響く。その声には感情など欠片もなく、ただ邪魔な石ころを排除したかのような淡々とした暴力の響きがあった。
「……トラ男から……!!離れろっ!!」
ルフィの全身の血が逆流し、前へ踏み出そうとしたその瞬間――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!
ドレスローザ全域を底揺らしする、不気味で巨大な地鳴りが轟いた。
ふと空を見上げれば、国全体を覆い尽くしていた『鳥かご』の無数の鋼鉄の糸が、怪しい銀色の光を放ちながら、ギチギチと音を立てて蠢き始めている。
「な……なんだ!?鳥カゴが……!?」
「フッフッフッフッフッ……! 余興の時間だ、てめえら。ゲームの時間を繰り上げてやる」
ドフラミンゴが両手を広げ、王宮の端から見下ろすように邪悪な笑みを深めた。
「この国を覆う『鳥カゴ』は、今この瞬間からここに向かって『収縮』を開始した。あと1時間もすれば……この国の人間は一人残らず切り刻まれ、建物も、歴史も、お前たちの足掻きも、ドレスローザ全体が一粒の血煙となって消滅する!!」
「なっ……!?」
「フッフッフッ! 当たり前だ!! オモチャの秘密、SMILEの工場……この国の地下で繰り広げられていた真実を知ったゴミ屑どもを、生かして返すとでも思ったか!?
人形劇のマリオネットにすぎん屑が、舞台の上で全員等しく血の舞踏を踊り、死に絶えるんだ!!」
ドフラミンゴの狙いは残忍極まりなかった。 オモチャやSMILEをはじめとした数々の秘密を知ったドレスローザの民を、誰一人逃がさず『鳥カゴ』の収縮によって一気に全虐殺すること。そして、その絶対的なタイムリミットを突きつけることで、ルフィやアルバーンたちに焦りを生み出し、冷静な判断力を奪い、死の隙を作り出すこと。己を討伐しようとする者の心を折り、混乱の渦へと叩き落とす狡猾で冷酷な策。
「ほら……仲間が死ぬぞ!俺を討ちに来い、ゴミ屑どもッ!!」
高らかに笑うドフラミンゴ。だが――。
ズバァァァァァン!!!!
次の瞬間、ドフラミンゴの鼻先を、極大の黒い閃光が掠め飛んだ。
「……だれが……焦るだと……?」
最上階の影から一歩踏み出した男――アルバーン。 彼の全身からは、凄まじいまでの漆黒の覇気が暴風となって吹き荒れていた。その手にある黒槍は、周囲の空気を歪ませるほどの高密度の殺気を放っている。5年前の敗戦、そしてドレスローザの地獄を生み出した元凶への怒りが、彼を純粋な破壊の修羅へと変貌させていた。
「お前の手口など、百も承知だ……ドフラミンゴォッ!!」
「アルバーン……! まだそれほどの威力を絞り出せるか!」
「黙れッ!! タイムリミットなど関係ない……!! お前のその腐りきった首を落とすのに……時間なんていらねえ!!」
ドガァァァァンッ!!
アルバーンが床を蹴った衝撃で、王宮のテラスが半分爆砕した。
黒槍から解き放たれるのは、空間すら歪める狂気的なまでの凄絶な突き。ドフラミンゴは焦りを見せながらも『覚醒』の能力を発動させ、王宮の床や壁を真っ白な巨大な糸の束へと変貌させ、防壁として立ち塞がせる。
「『荒波白糸』ッ!!」
バゴォォォォンッ!!
だが、アルバーンの放つ怒りの黒槍は、覚醒した糸の防壁をも容易く貫通し、破砕していく。
「ちっ……!狂犬が……ッ!」
ドフラミンゴは顔を歪ませ、空中を糸で蹴りながら後方へと跳躍する。タイムリミットで焦らせようとしたドフラミンゴの目論見は、アルバーンの怒りの絶対的熱量によって完全に破砕されていた。アルバーンはドフラミンゴを逃さぬよう、黒槍を連撃で繰り出しながら彼を最上階の奥へと追い詰めていく。
第三節:ギア4
ドフラミンゴとアルバーンの死闘が奥にて繰り広げられる中、ルフィは静かに、血まみれで横たわるローの前へと歩み寄った。
ジャックの太い鼻から解き放たれ、床に崩れ落ちたロー。ルフィはローの脇にしゃがみ込むと、静かに彼の手から離れていたキャスケット帽を拾い上げ、ボロボロになったローの胸元にそっと置いた。
「トラ男……!あとは……俺に任せろ!」
ローは喋ることすら苦痛な危険な状態でありながら、微かに唇を震わせた。言葉にならない掠れた吐息が、血とともに漏れ出る。片腕は完全にひしゃげ、全身の骨が砕けているその姿は、痛々しい悲壮感に満ち溢れていた。
(……勝て……麦わら屋……)
声にはならなかったが、その目がしっかりとルフィを見つめていた。 ルフィはローの思いをすべて受け止め、力強く頷いた。
「おう!」
ルフィは立ち上がり、ゆっくりと向き直った。 その目の前には、見上げるような巨躯を誇る古代種マンモス・ジャックが立ち塞がっている。
「今度はお前か?小僧」
ジャックの長い鼻が、鞭のようにしなり、周囲の空気と大理石の床を容易く打ち砕く。
ドガァァァァンッ!!
「……俺には勝てん」
ジャックが前脚を一歩踏み出す。それだけで、最上階の床に巨大な亀裂が走り、重低音の衝撃波がルフィを襲う。
「失せろ、小僧。」
圧倒的な暴力。理不尽なまでの肉体スペック。それが『旱害』のジャックという男の真価であった。普通の攻撃など傷一つ負わせることはできず、反撃の一撃で相手を圧死させる。まさに歩く災厄。
しかし、その圧倒的な威圧感を全身に浴びながらも、ルフィは一歩も引かなかった。 むしろ、その瞳の奥には、猛獣のようなギラついた光が宿っていく。
「退かねぇ……!! この国も、仲間も、お前らなんかに死なせねえ!!」
ルフィは両腕を胸の前で交差させ、静かに、しかし深く息を吸い込んだ。
かつて修業の地・ルスカイナにおいて。 巨大で強力な猛獣たちが闊歩するあの苛烈な島で、ただ人間としての力では到底太刀打ちできない怪物たちを相手に叩き伏せるために、己の限界を越えて編み出した新たな強化形態――。
「『ギア……4』!!」
ドクン……ッッ!!
ルフィが右腕の武装色の覇気を強固に纏わせた皮膚に、直接噛み付く。
ブゥゥゥゥゥゥッッ!!
ルフィの筋肉に膨大な量の空気を一気に吹き込まれ、瞬く間にその身体が二倍、三倍、四倍へと膨れ上がっていく。
腕から胸、背中へと、漆黒の武装色の覇気が複雑な模様を描きながら全身を包み込んでいく。その体躯は巨大化し、丸みを帯びながらも、内側には圧縮された凄まじい密度の弾力と覇気が充填される。
ドゴォォォォォンッッ!!
足元から爆発的な衝撃波が吹き荒れ、最上階の瓦礫がすべて天へと吹き飛ばされた。
「『弾む男(バウンドマン)』!!」
ボッ!! ボッ!! ボッ!!
巨大な体躯。太く強固に引き締められた腕と脚。そして、地面を打つたびに重厚な音を響かせて跳ねる、異様な姿。
ジャックの小さな瞳が一瞬、大きく見開かれた。
「なんだ……その妙な姿は……。 身体を膨らませた程度で、この俺に勝てると思っているのか?」
「お前がどれだけデカくても……どれだけタフでも……ぶっ飛ばす!!!!」
ボォォォォンッッ!!
地面を叩く反動とともに、ルフィの身体が弾丸のような速度で空中へと跳ね上がった。
バウンドマンの驚異的な弾力は、空気を蹴ることで「飛行」すら可能にする。空中を自在に跳ね回り、一瞬でジャックの至近距離、その頭上へと肉薄するルフィ。
「!?」
ジャックが巨大な頭部を持ち上げた瞬間、ルフィは右拳を己の肩の肉体の中へと「強引に押し込み」始めた。
ギチギチと音を立てて、拳が体内に圧縮されていく。極限まで溜め込まれる、高反動の弾力エネルギー。
「『ゴムゴムの~~~』……!!」
「小僧ッ!!」
ジャックもまた、その巨大な象の鼻に漆黒の武装色の覇気を全身全霊で集中させた。 マンモスの巨躯から繰り出されるその一撃は、城郭をも一瞬で粉砕する絶対的な破壊力を秘めている。
「叩き潰してやるッ!!」
振り下ろされる、数十トンに相当する巨獣の鼻。
それに対し、空中から振り抜かれるルフィの圧縮された拳。
「『猿王銃』ッッ!!!!」
バギィィィィィィィィィンッッッ!!!!
重なり合う凄絶な覇気と覇気。 王宮最上階全体が吹き飛ぶほどの、天地を揺るがす衝撃波が巻き起こった。
激突の瞬間、ジャックの瞳に信じられないという驚愕が走った。 自身が誇る絶対的なタフネスと重量。それが、ルフィの一撃の前に「押し返されて」いたのだ。バウンドマンの弾力によって解き放たれた拳は、一度の激突にとどまらない。空中で角度を変えながら、逃げ場のない追撃となってジャックの巨躯を捉える。
ドドドドドドドドドカァァァンッッッ!!!!
「グガァァァァァッ!?」
ジャックの巨大な鼻がへし折れ、その数十トンを超えるマンモスの巨躯が浮き上がり、そのまま王宮の外壁をぶち破った。
ドドドドドカァァァァァンッッッ!!!!
王宮の巨大な壁面が派手に砕け散り、巨大な影が一直線にドレスローザの街頭へと墜落していく。
「な……なんだあぁぁぁぁっ!?」
「空から……何か降ってくるぞーっ!! 逃げろぉぉぉっ!!」
『鳥カゴ』の迫る街中では、逃げ惑う民衆たちがパニックに陥っていた。悲鳴と叫び声が飛び交う中、王宮の高さからたたきつけられたのは、巨大な岩塊――ではなく、圧倒的な存在感を放つ怪獣、マンモスのジャックであった。
ズドォォォォォォンッッッ!!!!
街の石畳や建物が何軒も押し潰され、激しい煙幕と土砂が雨のように降り注ぐ。 逃げ惑っていた住民たちが立ち止まり、恐る恐るその煙幕の奥を見つめた。
「ひ……ヒィィィッ!マンモス……!?」
「王宮から……怪物が落ちてきたぞっ! 逃げろ、踏み潰される!!」
民衆が悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑う中、瓦礫の山となった街の中心で、ジャックの巨大な体が緩やかに蠢いた。
巨大な鼻からは血が垂れ落ち、頭部からは激しい土煙が立ち上っている。 立ち上がりかけたジャックの目は、見開かれたまま硬直していた。言葉少なく、ただその鋭い眼光の奥に、圧倒的な驚愕が色濃く宿っている。
(……バカな……。この俺が……吹き飛ばされただと……!?)
己の誇る絶対の肉体が、一瞬で街まで叩き落とされた事実。 ジャックは口内に溜まった血を吐き出すと、凄まじい地響きとともに立ち上がり、街中から上空の王宮を見上げた。
「……小僧……ッ!!」
ジャックの低い激怒の重低音が、逃げ惑う民衆の悲鳴をかき消すようにドレスローザの街に轟いた。
王宮の破片を背に、空中に浮遊するバウンドマン・ルフィ。 そして、街の瓦礫の中からルフィを睨み上げる大看板ジャック。
ドレスローザの街を舞台に、極限の暴力と弾力が激突する、壮絶なる肉弾戦が加速していく。