孤高の黒槍   作:特性 Suisui

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27.勝者の名は

第一節:神(悪魔)

 

パリァァァァァァン……ッ!!

 

 ドレスローザの天を覆い尽くしていた無数の鋼鉄の糸が、まるでガラス細工のように儚く弾け飛ぶ。 王宮最上階から解き放たれたアルバーンの一槍『暴嵐の破壊槍』。それがドンキホーテ・ドフラミンゴを穿ち、鳥カゴを穿ち、外縁の岩山ごと大海原へと砕き落とした瞬間の光景であった。

 

「鳥カゴが……消えた……!?」

「消えたぞ! 糸が……糸が消えたんだぁぁぁぁっ!!」

 

 街の各所で、収縮する糸を命がけで押し止めていたゾロ、錦えもん、フランキー、そしてトンタッタ族たちがその手の手応えを失い、天を見上げた。 そこには、十年間この国を覆い尽くしていた悪夢の檻はなく、ただどこまでもどこまでも澄み渡る、美しい大空が広がっていた。

 

「勝った……! 奇跡が起きたんだ……!!」

「リク王様! 勝ちました! 戦士たちが……ドフラミンゴを倒してくれたんだぁぁぁっ!!」

 

 泣き崩れる民衆。互いの無事を確かめ合い、抱き合って歓喜の叫びを上げる家族たち。 旧・王の台地で電伝虫を握るリク・ドルド3世もまた、溢れ出る涙を拭おうともせず、震える手で膝をついた。長い、あまりにも長い十年間という暗黒の地獄が、いまついに終わりを迎えたのだと、この国の誰もが信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

――しかし。

 

 

 

 

 

ドクン……ッ!!

 

 ドレスローザ近海。漆黒の海の底。 アルバーンの一槍によって肉体を破砕され、海へと没したドフラミンゴの胸の内で、絶望的な跳動が鳴り響いた。

 

(……許さん……許さんぞ……ゴミ屑どもが……っ!! 俺は……天竜人……神の血を引く男だ……ッ!! こんな場所で……俺が……落ちるはずがない……ッ!!全てを、…全てを破壊するまで‥‥‥俺はッ‥‥‥!!!)

 

 ドフラミンゴの深層意識の中に残された糸が、海底の微かな暗流を捉える。

 それは、彼が不測の事態への保険として懐に忍ばせていた、トンタッタ族の姫・マンシェリーの『治癒ポポ』。奇跡的な治癒の力を秘めたその綿毛が、ドフラミンゴのボロボロの肉体へと吸い寄せられるように触れた。

 

ブワッ……ッ!!!!

 

 超常的な治癒の光が、ドフラミンゴの全身を包み込む。

だが――それは傷を完全に癒やす魔法ではない。超絶的な回復を約束する代わりに、命を前払いし、僅かなの延命と限界を超えた肉体運動を強制的に可能にする、悪魔のドーピング。引き裂かれた内臓は修復され、砕けた骨が繋がっていく。たった数十分の活動時間の延長。しかし、全てを破壊することを誓った神が、ここに確かな復活を遂げた。

 

「フ……フッフッフ……ッ!!」

 

ズババババババババッッ!!!!

 

 海面が爆発した。

 水柱を叩き割り、天空へと飛び出したのは、ピンクの羽織を血で黒く染め上げた、悪鬼のごとき姿のドフラミンゴ。

 

「な……なんだぁぁぁぁっ!?」

「空から……何か降ってくる……嘘だろ……生きているのか……!?」

 

 歓喜に沸き立っていた民衆の悲鳴が、一瞬で引き裂かれた。

 宙を蹴り、ドレスローザの上空へ舞い戻ったドフラミンゴの姿を見た瞬間、国中の人間が息を呑み、全身の血が凍りついた。

 

「フッフッフッフッ! 喜ぶのは早えぞォ、ゴミ屑ども!! ゲームはまだ終わっていないッ……!!」

 

 ドフラミンゴのサングラスはひび割れ、その奥にある瞳は血走り、正気を完全に失った狂気だけに染まっていた。

 彼は残された僅かな生命力をすべて擦り潰し、右手を天へと掲げる。

 

「『海原白糸』っ!! 全員……この国ごと……根こそぎ消えてなくなれぇぇぇっ!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!

 

 国中のがれき、家、街が糸へと変わり、周囲にいた民衆たちが再び切り刻まれていく。

 

「いやぁぁぁぁっ! 助けて! 助けてくれぇぇぇっ!」

「嘘だ……! あれだけの攻撃を受けて、なぜ生きているんだ!?」

「もうダメだ……誰もあの悪魔を止められない……!!」

 

 歓喜の絶頂から、一瞬にして絶望の深淵へと叩き落とされた民衆の叫び。ドレスローザ全域が、先ほど以上の激しい恐怖と絶望の悲鳴に包み込まれていく。

 

 

 

第二節:絶望

 

ドォォォォォォォンッ……!!

 

 ドフラミンゴの狂気的な覇気によって、再び恐怖の糸が、ドレスローザ全域を埋め尽くす。 先ほどまでの大歓声は嘘のように吹き飛び、街は再び血と悲鳴が渦巻く地獄へと変貌していた。

 

「いやぁぁぁぁっ! 来ないで!糸が……また襲ってくる!!」

「嘘だろ……!ドフラミンゴは……倒れたんじゃなかったのかよぉぉっ!?」

 

 逃げ惑う民衆の悲鳴。抱き合って震える親子。天を仰ぎ、ただ涙を流すことしかできない老人たち。 ほんの一瞬だけ差し込んだ希望の光が強ければ強いほど、再び訪れたこの 「絶望」の闇は、国民の心を完膚なきまでに打ち砕いていた。

 

――その崩壊した街道の瓦礫の上。

 

「ハぁ……! ハぁ……! くそ……っ!!」

 

 身体中の関節が悲鳴を上げ、全身の皮膚から蒸気が吹き出す。 ルフィは膝をガクガクと震わせながら、どうにか立ち上がろうと必死に地面を這っていた。 ジャックを空の彼方へ吹き飛ばした代償――『ギア4』の解除に伴う、完全なる「覇気切れ」。

 指一本動かすことすら途絶えるほどの極限状態の中で、ルフィは血走った眼で上空のドフラミンゴを睨みつけていた。

 

「待て……ドフラミンゴ……っ! 俺が……俺がぶっ飛ばす……!!」

 

 無理に力を込めようとし、前傾姿勢のまま崩れ落ちそうになるルフィ。 その激しく上下する腕を、ガシッと強く掴み上げる手があった。

 

「――麦わらッ!!」

「……誰だ……?」

 

 ルフィの手を固く握りしめたのは、血と汗で顔を汚したコロシアムの名実況者・ギャッツであった。 ギャッツの瞳には、恐れと、それ以上に熱い決意の炎が燃え上がっていた。

 

「ダメだ、立てねぇだろ! その身体で今向かったって、あの怪物に殺されるだけだ!! 一体どうなってやがる……! もう一度あの巨人の姿(バウンドマン)になれねぇのか!?」

「ハぁ……ハぁ……ダメだ……っ。一回解除したら……10分間……覇気を溜め直さねえと……動けねぇ……っ!!」

「10分……! 10分だと!?」

 

 ギャッツは息を呑んだ。 上空で狂い咲くドフラミンゴが操る覚醒の糸、そして奴自身が撒き散らす圧倒的な殺意。10分という時間は、今のドレスローザにとっては国が全滅するのに十分すぎる時間であった。

 だが、ギャッツはルフィの眼を見た。 傷だらけになろうとも、どれほど打たれようとも、決して折れることのない「英雄」の瞳。この男達が、あの怪物二人を追い詰めてくれたのだ。

 

「……10分だな。分かった!」

 

 ギャッツはぐっと唇を噛み締め、背後に待機していた男たちへと向き直った。 そこにいたのは、かつてコロシアムでルフィと争い、あるいはドフラミンゴの恐怖に怯えて静観していた戦士たち、そしてギャッツが引き連れてきた実況スタッフや警備兵たちであった。

 

「野郎ども……聞けッ!!」

 

 ギャッツの声が、瓦礫の街に響き渡る。

 

「あの麦わらは今、すべてを使い果たして動けねぇ! だが、奴が言った……『10分待てば、必ずあのドフラミンゴをぶっ飛ばす』とな!!」

 

 戦士たちがざわめく。ギャッツは拳を強く握り締め、声を限りに叫び続けた。

 

「今まで俺たちは何をしてきた!? このドレスローザで、オモチャにされ、ドンキホーテファミリーに怯えて生きてきただけじゃねぇか!! だが……あの麦わらやアルバーンは、命を懸けて俺たちのために戦ってくれたんだぞ!! 今度は……今度は俺たちが命を懸ける番だろうがぁぁぁっ!!」

「ギャッツさん……!!」

「この10分間……! どんな無様に泥を舐めてもいい! 骨が折れても構わん! 命を懸けて、ドフラミンゴを麦わらに近づけさせるなァァァッ!!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」」」」

 

 ギャッツの熱い魂の演説が、恐怖に震えていた戦士たちの胸に火をつけた。 傷ついた体を引きずり、武器を掲げ、コロシアムの戦士たちが一斉にドフラミンゴの元へと走り出す。

 

「フ……フッフッフッ……! 虫ケラどもが群がってきたか……!!」

 

 上空で血を流しながら宙を蹴るドフラミンゴの眼に、迫り来る戦士たちの姿が映る。 その瞳には、すでに人間の理性など残っていなかった。治癒ポポによって無理やり繋ぎ止められた肉体は、あと数十分で動かなくなる。その残された時間の中で、すべてを道連れに破壊し尽くすという狂気だけがドフラミンゴを突き動かしていた。

 

「失せろ……ゴミ屑どもがぁぁぁっ!! 『海原白糸』ッ!!」

 

ズババババババババッッ!!!!

 

 大地から生え出た膨大な糸の波が、迫り来る戦士たちを容赦なく呑み込んでいく。

 

「グアァァァァッ!?」

「ひ、糸が……硬すぎる……っ!!」

 

 覚醒したドフラミンゴの糸は、肉体だけでなく、戦士たちの手にした武器や鎧ごと一瞬で微塵に切り刻んでいく。血飛沫が舞い、絶叫が上がる。それでも、戦士たちは一歩も引かず、ルフィに時間を稼ぐために自らの肉体を壁にして立ち塞がり続けた。

 

 

一方、ドレスローザ市街――。

 

「ハぁ……ハぁ……ッ! アル……どこなの……!?」

 

 レベッカは、崩壊した市街の瓦礫を一人走り抜けていた。 実の父親であるキュロスと再会を果たし、一度は彼とともにいたレベッカであったが、どうしても胸の騒ぎを抑えることができなかった。自分をコロシアムの地獄から守り抜き、ドフラミンゴという巨悪に立ち向かっていった黒槍の剣闘士――アルバーン。

 彼がドフラミンゴと共に鳥カゴの外へ消えていったのを見たレベッカは、いても立ってもいられず、無我夢中で彼の元へ向かおうとしていたのだ。

 だが、彼が戦っていたはずのドフラミンゴのもとに辿り着いたレベッカの視界に飛び込んできたのは、思いもよらぬ光景であった。

 

「……そこまでよ、ドフラミンゴ」

「な……ッ!?」

 

 広場の中心。血を流し、息を荒らげながら立つ一人の美しい女性。 十年間、ドンキホーテファミリーの幹部『ヴァイオレット』として、殺意と絶望を隠しながらドフラミンゴの傍らに仕え続けてきた王女――ヴィオラであった。

ヴィオラは手に短刀を握り締め、凄絶な覚悟を瞳に宿してドフラミンゴを見据えていた。

 

「ヴィオラさん……!?」

「来ちゃダメ、レベッカ!!」

 

 ヴィオラは振り返らずに叫んだ。 彼女の胸には、この十年間、家族を奪われ、国を奪われ、憎き敵に笑顔を振り撒き続けなければならなかった深い苦肉の痛みが渦巻いていた。

 

(ファミリーの幹部だったものとして、私が引導を渡すわ!!ドフィッ!!)

「ハァッ!!」

 

 ヴィオラが意を決し、ドレスの裾を翻して鋭い蹴りをドフラミンゴへ放つ。決して戦闘向きとは言えない能力を持つ彼女であったが、本質はリク一族の王女。自衛のため学んだ命を賭した一撃は、鋭い旋風となってドフラミンゴの首元を襲う。

 

――だが。

 

ガシッ……!

 

「……哀れだな、ヴァイオレット」

「っ……!?」

 

 ドフラミンゴの血塗られた手が、あまりにも易々とヴィオラの足首を掴み取った。 能力の限界、そして命の終わりが迫っているドフラミンゴであったが、元幹部であるヴィオラの攻撃など、見切るまでもない子供の戯れに過ぎなかった。

 

「十年間、ファミリーとして共に過ごしたからと言って、裏切り者の貴様を殺さねえとでも思ったか……?」

「くっ……離しなさ……あぁぁぁっ!?」

 

シュンッ……!

 

 ドフラミンゴの手から伸びた『寄生糸』が、ヴィオラの全身の神経を瞬時に支配する。 ヴィオラの動きが完全に凍りつき、その手から短刀がカラリと音を立てて崩れ落ちた。

 

「ヴィオラさんっ!!」

 

 レベッカが叫び、剣を抜いて駆け寄ろうとする。 しかし、ドフラミンゴの視線がレベッカを捕らえた瞬間、レベッカの身体もまた、見えない透明な糸によってぴたりと動きを止められた。

 

「な……身体が……動かない……っ!?」

「フッ……フッフッフ。ちょうどいい……。」

 

 ドフラミンゴは指先をかすかに動かし、操り人形のようにヴィオラとレベッカの身体をコントロールし始めた。 ヴィオラの身体が無理やり引き起こされ、レベッカの手には、彼女がずっと握り続けていた剣が握らされる。

 

「なに……!? 身体が……勝手に……!」

「やめなさい……ドフラミンゴォッ! レベッカに何をする気っ!!?」

 

 ヴィオラが絶叫する。

 ドフラミンゴの糸は、レベッカの身体を強引に動かし、操られたヴィオラの首元へと剣先を向けさせたのだ。

 

「フッフッフ……!殺し合え。それが……お前らが織りなす最高の余興だ!」

「やめて……! お願い、やめてドフラミンゴ!! ヴィオラさんを斬りたくない……!!」

 

 レベッカの目から、大粒の涙が次々と溢れ出す。 抗おうと腕に力を込めるが、ドフラミンゴの強靭な糸は彼女の幼い腕の力を容易く押し潰し、ゆっくりと、確実にヴィオラの首元へと剣を押し進めていく。

 絶望に震えながら、レベッカは血吐くような思いで問いかけた。

 

「あ……アルは……!? アルはどこなの!? アルが……あなたを倒してくれたんじゃないの!?」

 

 その問いを聞いた瞬間、ドフラミンゴの口元が、狂気に満ちた歪んだ笑みを浮かべた。

 

「アルバーン……?」

 

ドフラミンゴは、どこか哀れむような、そして同時に苦々しい眼つきで空を見上げた。

 

「……あいつは……、俺への最後の一撃とともに……海の底へと消えていったさ」

「ぇ……?」

 

 レベッカの思考が、一瞬停止した。

 

「覇気を使い果たし、肉体は崩壊し……深海の水底へと沈んでいった。……あの状態で生きていられる人間など、この世に存在しねえ。もう……死んでいるだろうよ」

「嘘……ウソ……!!」

「‥‥‥業腹だが、‥‥‥認めよう!」

 

 ドフラミンゴの低く冷酷な声が、レベッカの胸を深く抉る。

 

「あいつの執念……、あの黒い槍の一撃は、確かにこの俺を上回っていた。……あいつは俺より強かったよ」

 

 ドフラミンゴの言葉は、嘘偽りのない事実としての重みを持っていた。

 あの圧倒的な天夜叉・ドフラミンゴに「俺より強かった」と言わしめた男。だが、その代償として……彼は海の底へと没し、命を落としたのだと。

 

「そんな……うそ……うそよ……ッ!!」

 

 レベッカの頭の中が、真っ白な闇に染め上げられた。

 

 コロシアムの薄暗い控え室で、一人孤独に槍を研いでいた男。

ぶっきらぼうで、冷たく見えて、それでも温かく自分を守り続けてくれた男。

 ドレスローザの奴隷として、誰よりも傷つき、誰よりも地獄を背負いながら戦い抜いた、彼女の「希望」。

 

(アルが……死んだ……?)

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 レベッカの絶叫が、崩壊した街中に虚しく響き渡る。

 目の前が涙で激しく滲み、息が上手く吸えない。胸が引きちぎられるような激痛と絶望が、レベッカの心を完全に打ち砕いた。

 勝てるわけがない。助かるわけがない。 自分を守ってくれた英雄は、もうどこにもいない。

 

「さぁ……引導を渡してやれ‥‥!」

 

 ドフラミンゴの指が、冷酷に動く。 希望を完全に失い、虚無の絶望の底へと落とされたレベッカの腕が、涙で濡れた顔のまま、愛する肉親・ヴィオラの首元に向かって、ゆっくりと剣を振りかぶられたのであった。

 

 

 

第三節:再会と復活

 

――ドレスローザ近海、暗く冷たい海の底。

 

 アルバーンの身体は、重力に従ってゆったりと、しかし確実に深海の闇へと沈んでいた。

 ドフラミンゴを『暴嵐の破壊槍』で轢き裂いた瞬間、アルの体内で張り詰めていた生命の糸は完全に断ち切られていたのだ。

 骨は砕け、肉は裂け、流れ出る鮮血が漆黒の海水へと赤黒く溶け出していく。 手にした漆黒の長槍だけが、まるで意志を持つかのようにその指に強く固着し、離れることはなかった。

 視界は濁り、感覚は麻痺し、意識の端々から冷たい闇が侵食してくる。

 

(……ここまで……か……)

 

 ドフラミンゴを貫いた強烈な手応え。 十年間、胸の奥底で燃え続けていた復讐の炎は、確かにあの一撃にすべてを注ぎ込んだ。

 自らの命の灯火が、静かに、そして確実に消え去ろうとしているのを感じる。 包み込んでくる深海の冷たい水は、傷ついた肉体にとってあまりにも優しく、甘美な「死の安らぎ」として引き寄せられていた。

 

(‥‥‥‥‥。)

 

まぶたが閉じ合わさり、思考が永遠の静寂へと沈み込もうとした――その時。

 

ボシュゥゥゥゥンッッ!!!!

 

 静寂の深海を突き破り、水面を叩き破る激しい水音が鼓膜を打った。 闇の中に差し込んだ僅かな水光。そこを切り裂いて落ちてきたのは、一人の小さな影であった。

華奢な腕で必死に海水をかき分け、水圧に押し潰されそうになりながらも、まっすぐにアルへと手を伸ばす小さな少女。

 地下交易所でオモチャとして使役され続け、元に戻った後は革命軍のコアラに保護されていた孤児院の妹――ミナであった

 

「アルっっ!!!!」

 

 声にならない悲鳴のような泡が、ミナの口から弾け飛ぶ。

 

(……ミ……ナ……? なぜ……お前が……ここに……)

 

 濁る意識の中で、アルの瞳がわずかに開かれた。幻覚ではない。かつて自身が命を賭して守り抜いた妹の、最後に見たときと変わらない姿がそこにあった。

 

(アル! 死んじゃ嫌だ! 起きてよ……っ! お願いだから、起きてぇぇぇっ!!)

 

 ミナは必死の思いが、アルバーンのボロボロの手を力強く握りしめた小さな手を通して流れ込んでくる。水中で溢れ出す彼女の涙は海水と混ざり合い、熱を帯びてアルの冷え切った皮膚へと伝わっていく。

 革命軍のコアラの手を借りて地下から脱出したミナは、兄であるアルバーンがドフラミンゴを轢砕し、そのまま海へと沈んだことを目撃した。 制止する声を振り切り、自分を命がけで守ってくれた「大切な家族」を救うため、自らの危険も顧みずに躊躇なく大海原へと飛び込んできたのだ。

 

(私……ずっと待ってたんだよ!? アルが帰ってくるのを!おもちゃになっても、何年もずっとアルを待ってたんだよ!!)

 

 握りしめられた小さな手のぬくもり。 泣き叫び、自分を呼ぶ声が、アルの途絶えかけていた深層意識の底を激しく揺さぶる。

 

(ミナ……お前……)

 

 脳裏に爆発的に蘇るのは、数年前のあの日。ずっと一緒だった牢を引き離され、泣きながら自分の名を呼ぶ弟妹達の叫び声。かつて自分が敗北してしまったせいで守れなかった家族たちの悲鳴。奪われた温かな日常。

 己の無力さを呪い、冷酷な仮面をかぶり、血塗られた囚人剣闘士として地獄を這いずり回った十年間の日々。

 だが――目の前にいるこの少女は。 自分がどれほど傷つこうとも、どれほど泥を舐めようとも、信じて生き抜いてくれた、かけがえのない「家族」そのもの。

 

(……死ねるか……ッ! こんな所で……!! ミナを……家族を泣かせたまま……俺が死んでたまるかァァッ!!)

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!

 

 死に瀕していた肉体の深層から、咆哮のごとき凄絶な覇気の炎が噴き出した。

全身の血液が激しく逆流し、停止しかけた心臓が再び暴暴たる鼓動を打ち始める。深海の水圧を跳ね返すほどの漆黒の圧力がアルの全身を駆け巡り、死にかけていた細胞一つ一つに生命力の炎を再点火させていく。

 アルはミナの小さな身体を左腕で優しく、しかし絶対に離さぬよう抱き寄せると、右手に握りしめた黒槍の柄を握り直した。

 

(……捕まっていろ、ミナッ!!)

 

 残された足のすべての筋繊維を極限まで硬化させ、海底の巨大な岩盤を全力で踏み抜く。

 

ドドンッッ!!!!

 

 ――岩盤が爆砕した。 その反動を利用し、深海の闇を切り裂く一筋の黒き弾丸となって、二人の身体は海面に向かって超音速で浮上していく。

 

ズバァァァァァンッッ!!!!

 

 海水が爆発的な水柱となって天高く吹き上がった。

太陽が照らす大空へ飛び出したのは、手に漆黒の長槍を携え、大切な妹をその胸に強く抱きかかえた黒き剣闘士――クーフラン・アルバーン。

 

「ハぁ……っ! ハぁ……ッ!!」

「キャアァァッ……! アル……! アルぅぅぅっ!!」

 

 海岸の岩場に着地したアルバーンとミナを、必死の形相で駆け寄ってきたコアラが迎え入れる。

 

「ミナちゃん……ッ! 無事だったのね……!?」

「あんた、コアラって言ったか?……ミナを頼む……!」

 

 アルバーンはミナを地面へとそっと降ろし、コアラの腕の中へと委ねた。 息を荒らしながらも、アルバーンはその身体をゆっくりと反らし、遥か先――ドレスローザの街の中心を見上げた。

 そこには、命を削りながら覚醒した糸を撒き散らす狂気のドフラミンゴ。 そして、操り人形のように剣を握らされ、ヴィオラへ刃を向けさせられているレベッカの絶望的な光景が広がっていた。

 

「あなた、その無茶苦茶な身体で……まだ戦う気なの!?」

 

 コアラが悲痛な声を上げる。アルの身体は今なお各所から血が噴き出し、立っていることすら奇跡と言える状態だった。

だが、アルの瞳に宿る黒き炎は、何一つ衰えてはいなかった。

 

「……ミナ」

 

 アルは膝をつき、小さく震える妹の頭の上に、血で汚れた大きな手をそっと置いた。

 

「少し待っていろ。片を付けてくる!」

 

 ミナは溢れ出る涙をゴシゴシと袖で拭うと、ニッと弾けるような、力強い笑顔を見せた。

 

「うん……! いってらっしゃい、アル!!」

 

 妹のその言葉、そして真っ直ぐな信条を受け止めた瞬間――。

 

ドォォォォォォォンッッ!!!!

 

 アルの全身から、凄絶なる漆黒の覇気が暴風となって吹き荒れる。 大気を震わせ、周囲の海面を波立たせるほどの威圧感。アルは一足の下に大地を粉砕すると、一筋の黒き彗星となって、絶望の待つ市街へ向けて跳躍したのであった。

 

 

 

第四節:ラストバトル

 

「さぁ……引導を渡してやれ、レベッカ」

 

 ドフラミンゴの邪悪な指先が不気味に蠢く。 希望の光を完全に奪われ、瞳から生気を失ったレベッカの腕が、ドフラミンゴの透明な糸によって強引に引き絞られていく。

 

「やめて……! お願い!……やめてドフラミンゴ!!」

 

 涙で視界が激しく歪む。どれほど全身の筋肉に力を込めようと、その小さな抵抗はドフラミンゴの絶対的な糸の前に虚しく散った。 手に握られた鉄の剣が、身動きの取れないヴィオラの首元に向かって、死の軌道を描きながら振り下ろされる――

 

「逃げて……ヴィオラさんっ! 逃げてぇぇぇぇっ!!」

 

「レベッカ……! いいの、目をつぶりなさい……! あなたのせいじゃないわ……!!」

 

 ヴィオラは瞳を固く閉じ、受け入れる覚悟を決めた。 ドレスローザの地獄、十年間重ねてきた偽りの罪。そのすべてが、この悲劇の刃によって終わろうとしていた。

刃が首筋の皮膚に触れる、まさにその瞬間――。

 

ズバァァァァァァァンッッ!!!!

 

 空を切り裂き、大気を爆砕する極大の衝撃波が広場を突風となって駆け抜ける。

 

「「――っ!?」」

 

 次の瞬間、レベッカとヴィオラの腕を縛り上げていたドフラミンゴの『寄生糸』が、まるで目に見えぬ刃で一瞬にして叩き切られたかのように弾け飛んだ。

 

「な……ッ!?」

 

 ドフラミンゴが目を見開いた、その微かな隙。

 天空から落雷のごとく降り立った一筋の漆黒の光が、二人の目の前の石畳を豪快に粉砕した。

 

ドドンッッ!!!!

 

 舞い上がる土煙と散らばる瓦礫。 その中心にたたずんでいたのは――全身から赤と黒の覇気を暴風のごとく噴出させ、漆黒の長槍を低く構えた一人の男。

 

「……遅くなったな、レベッカ」

 

 背中で語られたその低く重々しい声。 血塗られた肉体、生々しい傷跡、そして決して折れることのない孤高の背影。

 レベッカの思考が止まった。 涙で濡れた瞳が、大きく見開かれる。

 

「あ……アル……!?」

 

 死んだと聞かされていた男。海の底へ沈み、二度と戻らないと諦めさせられていた、彼女の『希望』。

 その男が今、自分とヴィオラの目の前に、威風堂々と立ち塞がっていた。

 

「生きてる……! アルが……生きてる……っ!!」

 

 レベッカの目から、先ほどの絶望とは違う、あふれんばかりの涙がボロボロと溢れ出した。胸の奥底から込み上げる感情の波に耐えきれず、膝から崩れ落ちそうになる彼女に、 アルは振り返ることなく、静かに、しかし絶対的な言葉を投げかける。

 

「レベッカ。もう泣くな」

 

 黒槍をゆっくりとドフラミンゴへ向け直すアル。

 

「お前が生き抜いた十年間は……絶対に無駄にはしない!……この勝負、必ず勝つ!!」

「フッ……フッフッフッフッ……!! 驚いたな……!!」

 

 上空で糸に吊られたドフラミンゴが、正気を失った眼光でアルを見下ろし、歪んだ高笑いを上げた。

 

「深海へ沈んだはずの虫ケラが、わざわざ這い上がってきたか! だが……そのボロボロの体で何ができる!? 貴様の覇気も、命も……すでに底をついているはずだァッ!!」

「俺一人ではないぞ……ドフラミンゴ!!」

 

ドドドォォォォォンッッ!!!!

 

 ドフラミンゴの頭上から、ドレスローザ全体を揺るがすほどの重厚な足音が響き渡った。

 街の瓦礫の山から、無数の人々の歓声とともに飛び出してきた男。 コロシアムの実況者ギャッツが、血吐くような叫び声を国中へ響かせる。

 

『カウントダウンだぁぁぁぁっ! 立ち上がれドレスローザ!! 英雄は……いま完全に目覚めたぞぉぉぉっ!!』

 

「「「3……2……1……!!」」」

 

 国中の全住民の叫びが合わさった瞬間――。

 

シューーーーッッ!!!!

 

 ルフィの体内から膨大な蒸気が噴き出し、一度は失われた赤い覇気が、全身の細胞一つ一つに爆発的な勢いで充満していく!

 

「――ドフラミンゴォォッ!!」

 

 空中へ弾むように飛び出したルフィの身体が、再び膨れ上がる! 筋肉に空気を送り込み、武装色の覇気で限界まで硬化させた姿――『ギア4(バウンドマン)』

 

「麦わらァァァァッ!!」

「ドフラミンゴォ……! この国から……友達の笑顔を奪ったお前を……俺は絶対に許さねぇぇぇっ!!」

 

 ルフィとアルバーン。 ドレスローザの絶望を打ち破る二人の勇士が、天夜叉・ドフラミンゴと相対した。

 

 

 

第五節:銃と槍

 

ドンッッ!!!!!

 

 ルフィが復活させたわずかな覇気を全開にし『ギア4』を発動させ、天高くへと跳躍する。

 

「フッ……フッフッフッ! 面白い……麦わらぁぁッ!!」

 

 死に体のドフラミンゴは、空中へと飛んだルフィを追い、最後の数分間という残された命のすべてを燃やし尽くすべく、己の『覚醒』の能力を極限まで暴走させた。

ドレスローザの大地、建造物、瓦礫……そのすべてが真っ白な巨線と化し、天へと昇り詰めていく。

 

「神が放つ聖なる凶弾……ッ! 受け止めてみろ、ゴミ屑どもォッ!!」

 

 天空を覆い尽くす白糸の群れが、高密度の武装色の覇気を纏い、上(ルフィ)と下(アルバーン)、神の放つ計三十二本の巨大な漆黒の矢へと姿を変える。 山をも一瞬で穿ち、粉砕する悪魔の処刑陣。

 

 対するルフィもまた、空中で巨大なバウンドマンの体躯をさらに膨張させていた。

右腕の筋肉へ限界を超えた空気を極限まで注入し、城塞のごとき圧倒的な巨拳を作り上げていく。

 

「『ゴムゴムの~~~~』……!!」

 

 極限まで圧縮された弾力と、満身創痍の体から絞り出された全ての覇気。 ルフィの右拳は、まるで世界を粉砕する巨人の鉄球のごとき凄まじい圧力を纏っていた。

 

「『大猿王銃』ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

「『神誅殺』っっ!!!!

 

ドドドドドドドドドォォォォォンッッ!!!!

 

 天地を裂く、極限の激突! ドフラミンゴの『神誅殺』と、ルフィの『大猿王銃』が真っ向から激突した。

 

バリバリバリバリババババッッッ!!!!

 

 天が割れ、地が揺れる。 黒と赤の雷光が全方位へ散らばり、その衝撃波だけで街の残骸が爆風となって吹き荒れる。

 

「ぐ……ぬぬぬぬっ!!」

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 押し引きは互角。 死に瀕したドフラミンゴの執念と、ルフィの全身全霊の一撃。圧倒的なエネルギーとエネルギーが空中で交錯し、凄まじい摩擦火花を散らしながら拮抗していた。

 

「押し切れぇぇぇっ、麦わらァッ!!」

 

 民衆が、戦士たちが、息を呑んで空を見上げる。 押し負ければ、ルフィの拳が貫かれ、ドレスローザは虐殺の舞台と化す。

 

――その激突の真下。

 

ズバァァァァァァンッッ!!!!

 

 大地を揺るがす重低音とともに、一筋の漆黒のオーラが天に向かって直立した。

アルバーンが、両足を崩壊しかける石畳へと深く穿ち、仁王立ちとなっていた。 その手に握られた漆黒の長槍。刃先に集約されていくのは、十年間の奴隷生活の屈辱、家族たちとの約束、レベッカへの想い、そしてドレスローザの未来を背負う、全存在を掛けた覇気。

 槍先が、空間を歪ませるほどの赤黒の極光を放ち始める。

 

「ウオオオオオオオオオッ……!!」

 

 アルの全身の筋繊維が悲鳴を上げ、皮膚から血が噴き出す。だが、その眼光はドフラミンゴの『背中』を寸分狂わず捉えていた。

 

「『滅神の槍(ゲイボルグ)』……!!」

 

 全身の溜めを解き放ち、アルが天空へ向けて黒槍を突貫の如く投擲する。

 

ズガァァァァァァァァァァンッッッ!!!!

 

 ルフィだけでなく、アルにもめがけて飛んできた十六発の聖なる凶弾を破壊し、音速を超えて天を穿つ一筋の黒き流星 。

 必殺の威力を宿した『滅神の槍』は、今、最も脅威と認識したルフィへ意識を注いでいたドフラミンゴの無防備な背中――その心臓の真裏へと、深々と突き刺さった。

 

「ガ……ッ!!???」

 

 ドフラミンゴの目が、裏返るほどの激痛に大きく見開かれた。

 背後から穿たれたアルの黒槍。その槍先から炸裂した暴風のごとき覇気が、ドフラミンゴの体内に残されていた僅かな糸と器官を一瞬で微塵に粉砕する。

 

「アル……バーン……ッ! お前……がぁぁぁぁっ!!」

 

 背後からの絶望的な激痛により、ドフラミンゴの集中力が完全に途絶えた。ルフィに迫っていた、もう一方の十六本の『神誅殺』に明確な『亀裂』が走る。

 

「隙が……できたぞぉぉぉぉっ!!」

 

 ルフィの魂の咆哮が、ドレスローザの天へと轟いた。

 均衡は、完全に破られた。

 

「ぶっ飛ばす……ッ!ウオオオオオッッッ!!!!」

 

バギャァァァァァァァァァンッッッ!!!!

 

 ルフィの超巨大な拳が、ひび割れた『神誅殺』を正面から破砕。そのままダイレクトに押し切られた大猿王銃の絶対的な破壊力が、ドフラミンゴの顔面と全身へ、全エネルギーをもって叩きつけられた。

 

「グガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

 ドフラミンゴのサングラスが跡形もなく粉砕され、その肉体が折れ曲がる。アルの『滅神の槍』に背を貫かれ、ルフィの『大猿王銃』に正面から粉砕された天夜叉・ドフラミンゴの身体は、彗星のごとき速度で地上へと撃墜されていった。

 

ドドドドドドドドドドガァァァァァンッッッ!!!!

 

 ドレスローザの大地、地下交易所をも突き破る深々とした巨大な陥没穴が穿たれ、大量の土砂と衝撃波が天高く舞い上がる。

 地中深くへと没したドフラミンゴの瞳から完全な闇が訪れ、その肉体は二度と動くことはなかった。

 悪夢の支配者、完全なる失脚。 ドレスローザの長き戦いに、ついに幕が下りたのだ。

 

 

 

第六節:真の夜明け

 

 静寂が、訪れた。

 舞い上がる土煙が、冷たい夜風に吹かれてゆっくりと晴れていく。 空中からゆっくりと地に降り立ったルフィは、ギア4が解除されるとともに、満足そうな笑みを浮かべてその場に倒れ込んだ。

 

「ハぁ……ハぁ……勝ったぞ……ッ!」

 

――街の各所で息を呑んでいた民衆たちが、一人、また一人と立ち上がり、地中深く沈んだドフラミンゴの跡を見つめた。

 

 国中で蠢いていた糸が消滅し、ギャッツの鳴き声が響き渡る。

 その鳴き声を必死に噛み殺し、最後の試合の勝者の名前を告げる。

 

「ドレスローザッ!!最終戦ッ!!勝者はああッ!!ルーシー&アルバーン!!!!!! 」

 

「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」

 

 地鳴りのような、国全体を揺るがす大歓声が爆発した!

 

「勝ったぁぁぁぁっ! 麦わらが……アルバーンが勝ったぞぁぁぁっ!」

「自由だ! 俺たちは……本当に自由になったんだぁぁぁっ!」

 

 そして、槍を投げ切り、肩を揺らして膝をついていたアルの元へ、聞きなじみのある足音が駆け寄ってくる。

 

「アルッ!!」

 

 レベッカが、溢れ出る涙をそのままにアルの胸へと飛び込んだ。 アルは大きな手で、優しく、愛おしそうにレベッカの頭を抱きしめた。

 

「終わったぞ……」

「うん……! うんっ!!」

 

 崩壊した市街の広場で、レベッカは声を上げて泣いた。

ヴィオラは膝をつき、溢れ出る涙を拭おうともせず天を見上げた。

 

 泣きながら抱き合う人々。傷ついた手を取り合う戦士たち。

 十年間この国を縛り続けていた悪夢の糸は完全に消え去り、ドレスローザの空には、暗闇を切り裂く眩しい光

――真の「夜明け」が、温かく差し込み始めていた。

 

 傷つきながらも立ち続けた英雄たちの戦いは終わり、ドレスローザに、永遠に続く平和と歓喜の太陽が訪れたのであった。

 

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