第一節:激震する世界
ドンキホーテ・ドフラミンゴ失墜の報せは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
海軍本部大将『藤虎』イッショウが、世界政府の過ちと七武海制度の弊害を認め、ドレスローザの王宮前で大地に頭を擦り付けた映像――いわゆる「藤虎の土下座」は、映像電伝虫を通じて全世界へと同時配信されたのである。
世界政府の隠蔽工作は完全に潰え、世界は激震した。
新世界の闇を支配していた『ジョーカー』の失墜により、裏社会の交易ルートは崩壊。武器の供給を絶たれた各地の戦争は瞬く間に収束へ向かい、百獣のカイドウをはじめとする新世界の猛者たちの間に巨大な亀裂と怒りが走った。
そして、悪夢の十年間から解き放たれたドレスローザ。
国民たちの熱烈な声援、そして盟友であるプロデンス王国エリザベロー二世をはじめとする近隣諸国の後押しを受け、リク・ドルド3世が王位へと復権を果たした。
国のために命を賭して戦ったコロシアムの戦士たちや海賊たちは王宮へと手厚く護衛・匿われ、束の間の休息と治療の時間を享受していた。
そんな狂乱と歓喜が渦巻く街から遠く離れた、ドレスローザ東部――『カルタの丘』。
花々が咲き誇るその小高い丘に立つ小さな家で、レベッカは王女としての華やかなドレスではなく、かつて父と暮らしたような質素な服を身に纏っていた。
リク王の復権に伴い、本来であれば『王女』として王宮で暮らすはずだったレベッカ。 だが彼女は、迷うことなくその地位を捨てたのだった。
「私は……キュロスの子だよ…!!一緒に暮らそうよ……!!」
十年間、『片足の兵隊』として自分を守り続けてくれた実の父親――キュロスとともに。 かつて母と三人で暮らしたあの温かな記憶の場所で、親子として静かに、しかし誇らしく生きていくこと。それが、血塗られたコロシアムで剣を振り続け、最後に『自由』を手に入れた少女の、たった一つの願いだった。
第二節:小さなお墓
ドレスローザの街並みを一望できる、風の渡る小高い丘の上。 かつてそこには、身寄りのない子供たちが身を寄せ合い、アルバーンやミナが「家族」として笑い合っていた孤児院が存在していた。
しかし、今そこにあるのは、寂しげな風の音と、静かに立ついくつもの『小さな木の墓標』であった。
「……みんな……ごめんね……」
ミナが墓標の前に膝をつき、摘んできた花をそっと供えた。 その目から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。
シュガーの『ホビホビの実』の能力。 それは人間をおもちゃに変え、その存在を世界中の人間の記憶から完全に消し去るという、悪魔の如き力であった。
ドフラミンゴが倒れ、契約が解けたことで、国中のすべてのおもちゃたちが元の人間の姿へと戻り、家族との再会を果たした。
だが――数年前、シュガーによっておもちゃに変えられた孤児院の他の子供たちは、ミナを除いて、誰一人として戻ってこなかった。
おもちゃの姿に変えられ、地下交易所や工場で、昼夜を問わず奴隷として酷使された小さな身体。
人間の記憶から消され、名前を呼ばれることもなく、メンテナンスもされないまま過酷な労働に晒された脆弱なおもちゃの体は――当然のように壊れ、壊れたゴミとして、とっくの昔に廃棄されて海へ捨てられていたのだ。
能力が解けて記憶が戻った瞬間、アルバーンとミナの脳裏に蘇ったのは、愛おしい弟や妹たちの笑顔……そして、二度と戻らないという残酷な事実であった。
「……。」
アルバーンは黒槍の柄をぎちぎちと音を立てて握り締めた。 傷だらけの身体のまま、目隠しの包帯を巻き直したアルバーンは、弟妹たちの墓標を見つめ、静かに膝を折った。
「‥‥‥守れなかった……。俺が……弱かったから……」
十年前、国を奪われ、孤児院を守れず、コロシアムに連れてこられ、最後には弟妹たちの存在すら忘れて戦っていた。
その絶望的な罪悪感が、アルバーンの胸を鋭く抉りつける。
「……、アル……。」
ミナがそっと寄り添い、アルの包帯の巻かれた大きな手に、自分の小さな手を重ねた。
「アルは……私を守ってくれたよ。アルが諦めないで戦ってくれたから……私はここにいられるんだよ。みんなも……きっと天国で、アルに感謝してるよ……」
アルは返事をせず、ただ深く、深く頭を下げ、弟妹たちが安らかに眠れるようにと、静かに祈りを捧げ続けた。
第三節:冷めない怒り
「――ここにいたのか、アルバーン」
静かな丘の上に、重厚な足音が近づいてきた。
振り返ると、そこにはリク王家の面々――リク王、ヴィオラ、そしてカルタの丘から駆けつけたレベッカとキュロスの姿があった。
「リク王さま……!」
ミナが驚いて立ち上がる。 リク王は、全身に痛々しい包帯を巻き、それでもなお、覇気をまとうアルバーンの姿を見て、深々と頭を下げた。
「アルバーン……ミナちゃん。この国を救ってくれたこと、言葉では言い尽くせぬほど感謝している。君たちがいてくれなければ、ドレスローザは本当の終焉を迎えていた。……どうか王宮へ来てくれないか。君たちのこれからの生活も、安全も、このリク一族が一生を賭けて保証する」
リク王の誠実な言葉。 ヴィオラやキュロスもまた、感謝と尊敬の眼差しでアルバーンを見つめていた。
しかし――。
「……断る」
アルバーンの口から漏れたのは、氷のように冷たく、昏い声であった。
「アル……?」
レベッカが息を呑む。 アルバーンは立ち上がり、静かに振り返ると、丘の下に広がるドレスローザの街並みを見下ろした。そこでは今も、ドフラミンゴの恐怖から解放された民衆たちが、歌い、踊り、リク王の復権を祝う歓声を上げている。
「俺は……この国が大嫌いだ」
アルバーンの静かな言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「十年前……ドフラミンゴの手品に引っかかり、アンタを悪魔だと罵って石を投げたのは奴らだ。レベッカを『幻の王女』などと囃し立て、コロシアムで血を流す姿を見て嘲笑っていたのも奴らだ」
アルバーンの声に、抑えきれない怒りと憎しみが滲み出る。
「自分たちは何一つ戦わず、ただ流され、たった数時間『鳥カゴ』の恐怖を味わっただけで……ドフラミンゴが倒れれば、あっさりと手のひらを返して被害者面をし、あんたらリク王家を仰いでいる」
アルバーンはぎりっと奥歯を噛み締めた。
「身勝手で、愚かで、事が過ぎれば熱さを忘れる……。そんな奴らのために、俺の弟や妹たちはゴミのように捨てられて死んだ。……こんな国、好きになれるはずがない‥‥‥」
痛烈な、しかし紛れもない真実。
十年間、囚人剣闘士としてコロシアムの最底辺で観客の悪意と欲望を浴び続けてきたアルバーンだからこそ吐き出せる、吐き気を催すような国への絶望。
リク王は反論することなく、ただ胸を痛めて目を伏せた。キュロスもまた、拳を強く握り締め、アルバーンの言葉を黙って受け止めた。
最終節:一緒に、幸せになろう
重苦しい静寂が、丘の上を包み込む。
その静寂を破ったのは――軽やかな足音だった。
「――私もね、アル」
レベッカが、一歩前へ踏み出した。 彼女の顔には、かつてコロシアムで見せていた怯えや哀しみはなかった。その澄んだ瞳で、まっすぐにアルバーンを見つめている。
「私も……まだ、この国が怖く感じることがあるの」
「レベッカ……」
「コロシアムで投げつけられた罵声も、手のひらを返して喜ぶ街の人たちの声も……ふとした瞬間に、すごく怖くなる。この国が、またいつか変わってしまうんじゃないかって……」
レベッカはそっと微笑み、アルバーンの元へと歩み寄った。
「でもね……この国には、お父様がいる。ヴィオラさんがいる。おじい様がいる。そして……私を命がけで守ってくれた、アルがいる」
レベッカは、アルバーンの包帯に巻かれた手を、両手でしっかりと包み込んだ。
「嫌いなままでもいい。怖いままでもいいよ。……だから、私たちのことを好きになってよ‥‥‥!そしていつか、一緒に好きなものを沢山見つけていこう? 私たちと一緒に、みんなで……平和に暮らそうよ、アル‥‥‥!」
「っ……」
アルバーンの息が止まった。
逃げたいほどの憎しみ。消えない過去の傷。
それらをすべて知った上で、レベッカは自分を拒絶するのではなく、「一緒に歩もう」と手を差し伸べてくれたのだ。
隣にいたミナもまた、アルバーンの反対側の手をギュッと強く握り締めた。
ミナは溢れ出る涙を拭いながら、心の底からの太陽のような笑顔を浮かべた。
「そうだよ、アル! 私たち、生きてるんだよ!?先生やアンたちの分も……みんなで、幸せになろうよ!!」
「‥‥‥ミナ……レベッカ……。」
キュロスが、力強くアルバーンの肩に手を置いた。
「剣闘士『アルバーン』の戦いは、もう終わったんだ。これからは……一人の人間として、生きていいんだ。‥‥‥そして、何度でも言わせてほしい。‥‥‥レベッカを守ってくれて、ありがとう……!」
「……っ……ぁ……」
包帯の奥から、ポロポロと大きな涙が溢れ出した。
復讐のために生きてきた。 守れなかった悔しさと、世界への絶望だけを胸に、血を流し続けてきた。 だが――今、自分の手の中には、確かに守り抜いた大切な「家族」の温もりがあった。
「あ……ぁぁぁぁっ……!!」
アルバーンは子供のように声を上げて泣いた。
膝をつき、二人の少女の手を握り返しながら、溢れ出る涙を止めることができなかった。
十年間の地獄、閉ざされていた暗闇、失った家族たち。それらすべての闇を払うには、途方もない時間が必要となるだろう。しかし、その果てしない旅を一緒に歩もうと言ってくれた、かけがえのない大切な人たちの言葉。
アルバーンは、何度も、何度も、深く頷いた。
「……あぁ……っ! あぁ…………!!」
風が吹き抜け、丘の上の小さな墓標たちと、供えられた花を優しく揺らした。 天国で見守る弟や妹たちも、きっと今、この温かな光景を笑顔で見つめているはずだった。
ドレスローザの長い、長い夜が明け――。
孤高の黒槍と呼ばれた剣闘士は、ついに本当の『平和』と『自由』を取り戻したのであった。
完結です。お読み頂き誠にありがとうございました。
初めての投稿ということもあり、至らない点もあったかと思いますが、沢山のお気に入り登録、感想、評価等を頂き誠にありがとうございました。
今後、本作品を思い出していただけましたら、その時はまたお時間を使って読んでいただけると幸いです。
最後にオリ主のプロフィールを載せて終わりとします。
・プロフィール
氏名 クーフラン・アルバーン
異名 黒槍 檻の死神
年齢 19歳
身長 187cm
所属 元コリーダコロシア厶 《囚人剣闘士》
覇気 武装色 見聞色 覇王色(無意識)
出身地 ドレスローザ王国
誕生日 1月4日 (一緒(1)に、幸(4)せになろう)
星座 山羊座
血液型 S型
好物 闘魚のステーキ かぼちゃのシチュー(孤児院の定番料理)
・技
暴嵐の破壊槍(デスト・ラファーガ)
溜め込んだ覇気を暴風のように吹き荒らし、その推進力で敵へと突貫する破壊の一槍。
滅神の槍(ゲイボルグ)
自身の全覇気を込めて放つ投槍。
見聞色の覇気を込め、意識した標的へ一直線に飛ばす必中の槍。
・武器
黒槍
アルバーンの武装色の覇気によって『黒化』した、ただの長槍。
『黒化』した後、ドンキホーテファミリーに没収されそうになったが、槍に触れた瞬間その兵士が尋常じゃない痛みを訴えて誰も触れなかったので、そのままアルバーンの所有物になった経緯がある。