孤高の黒槍   作:特性 Suisui

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4.愉悦

第一節.玩具

 

 ドレスローザの空は、いつでも不自然なほどに青い。 その青さを最も美しく見下ろせる場所――コリーダコロシアムを見下ろす高台にそびえ立つ王宮のテラスに、その男はいた。

 ドフラミンゴファミリー最高幹部であり、コロシアムの興行を全て取り仕切る英雄、ディアマンテ。 彼はひらひらと風に舞うマントを揺らしながら、手元の分厚い「囚人管理名簿」を眺めていた。そこには、コロシアムの地下で死を待つだけのはずの囚人たちの名と、その勝敗、そしてファミリーにとっての「残存価値」が冷酷な数字として刻まれている。

 

「フフ……また生き残りやがったな、あのガキが」

 

 ディアマンテの口から漏れたのは、苦々しさと、わずかな愉悦が混ざり合った笑みだった。 名簿の1ページ。そこには『クーフラン・アルバーン(12)』と記され、その横には狂ったような戦績が並んでいた。

 

【通算戦績:二百十四戦、百五十七勝、五十七敗】

 

 新世界の猛者が集うコリーダコロシアムにおいて、十二歳のガキが二百選以上を重ねていること自体が異常だ。だが、ディアマンテの目を引いたのは、前半期に積み重なった「五十七」という敗北の数だった。

 

「んねーんねー、ディアマンテ。何をそんなに難しい顔をしてるんだい? たかが地下のモルモット一匹に手を焼いているように見えるぜ?」

 

 背後から声をかけたのは、粘液を滴らせながら歩く不気味な男、同じく最高幹部のトレーボルだった。彼は長い鼻水をすすりながら、ディアマンテの肩越しに名簿を覗き込む。

 

「んねえ、ディアマンテ! これ、あの『十六本の線』のガキだろ? 三年前に、一千勝したら自由にしてやるってドフィが適当に言った、あの哀れなガキの生き残りだろー!? まだ生きてたのかい? べへへへ!」

 

「……ああ、生きてるさ」

 

ディアマンテは忌々しそうに葉巻に火をつけた。

 

「だが、ただ生き延びているだけじゃねえ。最初の二年間、このガキは肉体も未熟で、技もなかった。だから骨を砕かれ、肉を裂かれ、無様にリングへ沈み続けた。その敗北の数は五十を超えている。……そしてお前も知っての通り、あいつが負けるたびに、檻のガキどもが『身代わり』として引きずり出され、処分されていった」

「ああ、覚えてるよ! 壁の『線』が削られるたびに、泣き叫ぶガキどもが連れて行かれたっけねぇ! べへへ、あの時のアイツの絶望した顔ときたら、極上の見世物だったよ!」

「そうだ。普通の人間のガキなら、それほど無残に負け続け、自分の弱さのせいで六人もの家族を殺されれば、心が完全に死ぬか、あるいは恐怖で狂うはずだ」

 

 ディアマンテの目が、冷酷な武人のそれへと変わる。

 

「だが、あのガキは違った。度重なる敗北の痛みと、失った家族の命……その地獄のすべてを、あいつは自らの『肉』とし『骨』としやがった。ここ一年、あいつの敗北数は『ゼロ』だ。それどころか、こちらの用意した死神どもを完全に喰らい尽くしていやがる」

 

 三年前、アルバーンが九歳で初めてリングに上がった時、ファミリーの認識は「ただの見世物」だった。

 最初の頃、アルバーンが負け、見せしめとして弟の命が奪われ、絶望に顔を歪める少年剣闘士の姿は、観客にとってもファミリーにとっても、ただの消費される娯楽でしかなかった。

 だが、ある時期を境に、何かが完全に狂い始めた。 敗北のカウントはぴたりと止まり、そこからアルバーンの身体は爆発的な急成長を遂げた。

 

「ここ数日、あいつの肉体を完全に磨り潰すために、こちらの息のかかった『新世界の猛者』をぶつけ続けた」

 

 ディアマンテは、手元のグラスの酒を喉に流し込む。

 

「水分を奪い、不良品の槍を渡し、魚人空手の達人を。休息を与えず、巨人の怪力を。重い黒鉄の槍で、ミンク族の雷撃を。最後には、無敗の槍使いギルバートを、刃のない鉄の棒でな。……だが、全員返り討ちだ」

「ほう……! ギルバートも落としたのかい。あいつは確か、懸賞金数千万クラスの海賊とも渡り合う実力者だったはずだがねぇ」

「落とした、どころの話じゃない。あいつは、戦った相手の力をその場で『盗んで』いるんだ」

 

 ディアマンテは、手元にある試合の映像記録(映像電伝虫の録画)をトレーボルに突きつけた。

 

「魚人からは衝撃の流し方を盗み、巨人からは自重のコントロールを盗み、ミンク族からは速度を盗んだ。そして最後のギルバート戦だ……。あいつは、ギルバートの十八番である『流星突き』の技術を、ただ数発喰らっただけで完璧に模倣してみせた。……それに、この黒い拳だ」

 

 ディアマンテは、映像の中でアルバーンの拳が漆黒に染まった瞬間を指差した。

 

「べへへ……! 間違いないねぇ、これは『武装色』だ! 誰に教わるでもなく、泥をすすり、身内の死を見届けてきた絶望の中だけで、自力で覇気に目覚めやがったか!」

 

 トレーボルの顔から笑みが消え、ねっとりとした不快な沈黙がテラスを支配した。

 独学での覇気の覚醒。それは、どれほどの怨念と執念があれば可能になるのか。ファミリーの幹部たちのように、生まれ持った素質や組織のサポートがあって手に入れるものとは訳が違う。度重なる敗北の痛みと、「もう誰も死なせない」という飢餓感だけを燃料にして燃え盛る、歪で、恐ろしい才能の結晶だった。

 

「ただの見世物が、いつの間にか檻の『バグ』になっちまった」 ディアマンテは吐き捨てた。

 

「一千勝まで、あいつはもう足を止めないだろう。このままいけば、ファミリーは本当に『囚人に自由を与える』という、お笑い種な約束を守らなきゃならくなる」

「フッフッフッ……! 面白いじゃねえか。何が不満なんだ、ディアマンテ」

 

 地を這うような、低い、けれど圧倒的な覇気を孕んだ声が、テラスの入り口から響いた。 その場にいたディアマンテとトレーボルが、咄嗟に背筋を伸ばし、深い敬意の礼を取る。

ピンクの羽毛をまとったコート、派手なサングラス、柔軟な足取りで――ドンキホーテ・ドフラミンゴが、ゆっくりとテラスへ歩を進めてきた。

 

「ドフィ!」

「 聞いていたのかい?」

 

 ドフラミンゴは二人の間を通り抜け、テラスの手すりに寄りかかると、遥か下方にあるコリーダコロシアムを眺めた。彼のサングラスの奥の瞳は、地下監獄の最深部にいる、一人の少年の存在を確かに捉えているようだった。

 

「クーフラン・アルバーン。……三年前、俺の前に引きずり出された時のあいつは、ただの飢えた野良犬の目をしていた。ミナとかいう妹を守るためだけに、俺の靴に噛みつこうとしていたな」

 

ドフラミンゴは、かつて自分が気まぐれで下した「一千勝」の命令をクッキリと記憶していた。

 

「あの時の俺は、あいつが十戦も持たずに死ぬ方に、一億ベリー賭けてもよかった。……だが、何十回も負けて骨を折られ、目の前で身内のガキを六人も殺されながら、あいつは化けた。絶望の底で心が折れるどころか、その六人の死を自分の血肉にして、俺の用意したリングを完全に利用しやがったんだ。皮肉なもんだな、ディアマンテ。あいつをここまで狂暴な狂犬に育て上げたのは、お前たちの小細工と、散っていったガキどもの命だ」

「ドフィ、それは……」

 

ディアマンテが冷や汗を流す。ファミリーの嫌がらせと身代わりの処刑が、結果としてアルバーンに「覇気」を覚醒させ、絶対に負けられない修羅へと進化させる引き金になったと言われれば、返す言葉もなかった。

 

「責めているわけじゃねえさ」

 

 ドフラミンゴはフフフと肩を揺らして笑った。

 

「俺が興味を抱いているのはな、あいつの『乾き』の正体だ。失ったものの大きさに比例して、人間の底力ってやつは計算を大きく狂わせる。……あいつは今、残されたガキどもをこれ以上一人も失わないためだけに、あの修羅の道を突き進んでいる」

 

 ドフラミンゴは、かつて自分が全てを失い、世界の底辺でのたうち回っていた頃の記憶を、アルバーンの姿に重ね合わせていたのかもしれない。だが、ドフラミンゴが選んだのは「世界の全てを破壊する悪への道」であり、アルバーンが選んでいるのは「大切なものを守り抜くための道」だった。 その本質的な違いが、ドフラミンゴのサディスティックな好奇心を刺激していた。

 

「ドフィ、どうする?」

 

ディアマンテが神妙な面持ちで尋ねる。

「このまま一千勝を達成させるわけにはいかねぇ。いっそのこと、次の試合で最高幹部の誰かを、あるいは俺自身がリングに上がり、あのガキの息の根を完全に止めようか?」

 

しかし、ドフラミンゴは退屈そうに首を振った。

 

「馬鹿を言え、ディアマンテ。それでは興行として面白くねえだろう。観客どもは今、『檻の神童』がどこまで勝ち進むか、熱狂しながら金を賭けている。せっかく育った極上の見世物を、身内の都合で簡単に潰すのは三流のやることだ」

「では……約束通り、一千勝したら自由にする、と?」

 

 トレーボルが驚いたように尋ねる。

 

「自由? フッフッフッフッ!」

 

 ドフラミンゴは天を仰いで爆笑した。その笑い声には、ドレスローザのすべての闇を統べる王としての、絶対的な悪意が満ちていた。

 

「この俺の掌から、ただの一千勝ごときで逃げ出せると思ったか? 自由などという安っぽい幻想は、あのガキには似合わねえ。数多の敗北を乗り越え、家族の死を背負って積み上げた一千勝のその瞬間に、すべてを絶望に変えてやるのが、このドレスローザの『ルール』だろ?」

 

 ドフラミンゴのサングラスの奥で、冷酷な光がギラリと輝いた。

 

「泳がせろ。あいつがどこまで強くなるか、俺に見せてみろ。あいつが手に入れる覇気が、あいつが盗み取る技術が、どれほど俺たちを愉しませてくれるか……。一千勝の直前、最も希望が膨んだその時に、極上の絶望を用意してやる」

 

「……了解」

 

 ディアマンテは静かにうなずいた。若の意図を理解した。ただ殺すのではない。アルバーンの「守りたい」という意志そのものを、一千勝というゴール直前で完全に粉砕し、ファミリーの忠実な猟犬にするか、あるいは生涯這い上がれないオモチャに変えてしまうのだ。

 

 

 

第二節.幹部たちの焦燥

 

 ドフラミンゴがテラスを去った後も、ディアマンテとトレーボルの間には重苦しい空気が残っていた。 若は「泳がせろ」と言った。しかし、それは同時に、ファミリーが常に「いつ破裂するか分からないバグ」を抱え続けるリスクを意味していた。

 

「ねえ、ディアマンテ……ドフィはああ言っているけどさぁ、本当に大丈夫かい?」

 

トレーボルが粘液を揺らしながら、不安げに呟く。

 

「あのガキの見聞色の覇気……ガウル戦の映像を見たろ? ミンク族の最高速度の突進を、目をつぶったまま見切っていやがった。あれはもう、かつてボコボコにされて磨かれた、本物の『見聞色』の使い手のそれだぜ?」

「わかっている」

 

 ディアマンテは奥歯を噛み締めた。

 

「あいつの成長速度は、俺たちの想像の枠を超えている。実戦だけでしか磨かれていないからこそ、無駄な贅肉が一切ない。生きるか死ぬか、その二択だけで洗練された槍術だ」

 

 二人が恐れていたのは、アルバーンの「技術」そのものよりも、その裏にある「底知れなさ」だった。 通常、独学で戦う剣闘士には、必ずどこかに「癖」や「流派の限界」が生まれる。しかし、アルバーンにはそれがない。なぜなら、彼は出会ったすべての強敵を「師」とし、その技を自分のものにしてしまうからだ。

 

 魚人の怪力をいなし、巨人の重さを利用し、ミンク族の速度を模倣し、槍使いの洗練を奪う。 これまでにアルバーンが戦ってきた二百以上の戦い。そのすべての対戦相手の「強さの断片」が、十二歳の小さな身体の中に凝縮されている。いわば、クーフラン・アルバーンという一人の少年は、コリーダコロシアムという地獄が産み落とした『最強の混血児』になりつつあった。

 

「それに、あの檻のガキどもの存在だ……」

 

 ディアマンテは、名簿の別のページにある、アルバーンと共に収容されている残された子供たちのリストを睨みつけた。

 

「あいつにとって、六人の喪失は消えない傷だが、残された子供たちはあいつの『リミッター』であり、『動力源』でもある。もう誰も死なせないというあいつの執念が、覇気をより禍々しく、より強力に跳ね上げている。……正直に言えば、俺はあのガキの目が気に入らない」

 

 ディアマンテは、数日前に通路ですれ違った際の、アルバーンの瞳を思い出していた。 十二歳の子供の目ではなかった。幾度もの敗北で血を流し、五人の家族を失った深淵のような黒い瞳。そこには、ドンキホーテファミリーに対する、静かで、決して消えることのない「殺意の炎」が宿っていた。

 

「ドフィは愉しんでいるが……あのガキは、いつかこのコロシアムの檻を食い破るぞ」

 

 ディアマンテの予感は、武人としての本能的な警告だった。

 

「べへへ……なら、一千勝のその日まで、せいぜい過酷な環境を維持してやろうじゃねえか。飢えさせ、孤立させ、精神をゴリゴリと削る。いくら技を盗もうが、肉体が限界を迎えれば、一千勝の前に自滅するさ」

 

 トレーボルはそう言うと、不気味な笑い声を残して、粘液と共に闇へと消えていった。

ディアマンテは一人、テラスに残り、再び名簿に目を落とした。

 

「クーフラン・アルバーン……。お前がただのモルモットか、それともファミリーを脅かす本物の『死神』か……。一千勝の舞台で、この俺が直々に確かめてやる」

 

 葉巻の煙が、ドレスローザの青い空に溶けて消えていく。王宮の悪魔たちは、地下の檻で牙を研ぎ続ける少年の存在に、確実に、そして深く囚われ始めていた。

 

 

 

第三節.見張りたちの恐怖

 

 王宮の華やかなテラスから遥か下、太陽の光も届かない地下監獄の通路。 そこには、アルバーンたちの檻を見張る、ファミリーの下っ端兵士たちの姿があった。

 

「おい……聞いたか? あのガキ、ここ最近の四連戦、全部勝っちまったらしいぞ」

 

一人の見張りの男が、怯えた声で同僚に話しかける。その手にある銃は、わずかに震えていた。

 

「ああ、聞いた。ギルバートの旦那までやられたってな……。信じられるか? あの旦那の槍を、刃のないただの鉄棒で叩き折ったんだぞ。あのガキ、本当に人間かよ」

 

 見張りたちにとって、アルバーンはもはや「生意気な囚人のガキ」ではなかった。 彼らが日常的に行っている嫌がらせ――食事を減らす、水を汚す、不良品の武器を渡す――それらすべてが、アルバーンをさらに狂暴な怪物へと進化させるための「栄養」にしかなっていないことに、彼らは薄々気づき始めていた。

 

「最近さ……あいつの檻の前に立つだけで、肌がピリピリするんだよ。なんて言うか、見られてる気がするんだ。あいつ、目を閉じて寝ているはずなのに、俺たちが近づくだけで、じっとこっちの動きを『察知』してやがる」

「かつて無様に負けてた頃が懐かしいぜ。あの頃は、負けるたびにガキを引きずり出して処分すれば、この檻の中でワンワン泣いてやがったのに……。今のあいつは、ガキを引きずり出そうとするだけで、檻の中から『殺気』だけで俺たちを気絶させかねねえ」

「なぁ、もうあいつの檻への嫌がらせ、少し手加減しないか? もし、あの一千勝の約束が本当で、あいつが外に出るようなことがあったら……真っ先に殺されるのは、俺たちだぞ」

「馬鹿野郎、上に見つかったら俺たちがオモチャにされるぞ! 嫌がらせは続けろ。ただし……」

 

もう一人の見張りが、声を潜める。

 

「あいつの妹や、他のガキどもに直接手を出すのは絶対にやめとけ。あいつの逆鱗にだけは、絶対に触れるな」

 

 地下監獄の見張りたちの間でも、アルバーン・クーフランという存在は、触れてはならない「生ける爆弾」として扱われ始めていた。彼らはファミリーの命令に従いながらも、その心の底では、十二歳の少年剣闘士に完全に気圧されていたのだ。

 

 

 

第四節.二百の泥と、一の希望

 

 地下監獄の最深部。 王宮の悪魔たちの焦燥も、見張りたちの恐怖も、アルバーンの耳には届かない。

 

 アルバーンは、ミナに巻いてもらった包帯の痛みに耐えながら、檻の壁に背中を預けていた。 薄暗い闇の中、彼の頭の中では、今日戦った四人の強敵たちの動きが、何度も、何度もスローモーションで再生されていた。

 

 ジャークの魚人空手。 オロの巨人族の重心移動。 ガウルの踏み込み。 ギルバートの流星突き。

 

 それだけではない。彼の脳裏には、自分がかつて這いつくばった多くの敗北の光景が、鮮血の記憶とともに蘇る。 動かない身体。見張りたちの嘲笑。そして、自分が弱かったせいで檻から連れ去られていった、六人の弟や妹たちの泣き叫ぶ声。

 

(……すまない。俺が、弱かったせいで)

 

 アルバーンは、暗闇の中で己の手のひらを強く握りしめた。 壁から消されてしまった、戻らない五本の線。その傷跡は、今も彼の魂を毎夜激しく抉り続けている。だが、だからこそ、今の彼の拳には「絶対に負けられない」という狂気的なまでの武装色の覇気が宿り、敵の技を何が何でも毟り取る飢餓感が生まれていた。

 ファミリーが自分を泳がせ、一千勝のその瞬間に「最大の絶望」をぶち込んでくるであろうことなど、アルバーンには百も承知だった。あのドフラミンゴという男が、素直に囚人を解放するはずがない。

 だが、それでも。 アルバーンには、足を止めるという選択肢は存在しなかった。

 

「アルにいちゃん……痛む?」

 

 隣で眠っていたはずの小さな弟が、アルバーンのシャツの裾をそっと引っ張る。

 

「……いや、痛まないさ。大丈夫だ、早く寝ろ」

 

 アルバーン・クーフランは優しい声で言い、弟の小さな身体を抱き寄せた。

これまでの戦いで流した血、失った六人の命。それはすべて、今ここにいる子供たちの命を繋ぐための重すぎる代償だった。自分がもう一度でも負ければ、今度こそ全員が死ぬ。その極限の恐怖と、それ以上の深い愛だけが、十二歳の少年を「新世界の怪物」へと押し上げていた。

 




補足
コロシアムに連れてこられた孤児院の子供たちはアルバーン以外に全部で16人います。
そのうち見せしめで1人、アルバーンとアルベルト先生が負けて5人殺されてます。


・孤児院の子供たちの名前
ミナ イスカ ジョン アン リアーナ ライ マクス ロイ ジョゼット ユウリ クリス クレア マリュー レクター エレン ランド

特に覚えなくても結構です。
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