私の記憶はどこですか? ~高町なのはの幼なじみは幸せでいたい~ 作:siitake64
アンケートへのご協力もありがとうございました。基本的には金曜19:00、月曜7:00のどちらかに定時更新、もう少し進めたいときは月・金の投稿にする予定です。
第13話 知っているはずのない言葉
「うわ、でっか。ほんと何度来ても慣れないわね……」
『マスター。口が開きっぱなしです。由緒正しき、兵守家の当主としてふさわしくないかと』
「しょうがないでしょ。こっちは小心者の庶民なんだから」
今日はすずかのお家……月村家にお呼ばれしてのお茶会があるのだ。メンバーはすずか、アリサ、なのは、そして私のいつもの四人組。
すずかに並ぶお嬢様で、付き合いも長いアリサは豪邸訪問もお手の物なので、一人で訪問するらしい。一方、庶民で小心者の私は一人で豪邸のインターホンなんて押せないので、こうして門の前で月村家の豪邸を白楼と眺めているという訳だ。
『月村様との友人付き合いも短くはないでしょう。お宅訪問も初めてではないでしょうに』
胸元から待機状態で勾玉モードになっている白楼が述べてくる。感情のない平坦な口調なのに、なぜだか呆れているような様子が伝わってきた。なにこの無駄な高性能。
「それでも緊張するものは緊張するのよ。まぁ、お友達が私しかいない白楼にはわからないでしょうけどねぇ~」
『勝手に友達認定しないでください、マスター。わたしは一介のデバイスにすぎません』
「あーあ、そんなこと言っちゃうんだ。せっかく、白楼が友達ゼロだから私がなってあげるって言ってるのに」
『必要ありません。それ以上言うのであれば、寝ているときに目の前で五分おきに発光しますよ』
「地味に嫌な嫌がらせ!」
さて、なのははまだだろうか。確か、お兄ちゃんの恭也さんと一緒に来るって言ってたはずなんだけど……。
「雪菜ちゃーん!」
聞き慣れた声に振り向くと、なのはがこちらへ小さく手を振りながら駆けてくるところだった。肩にはユーノくんが乗っている。
それにしても、黄色い上着に赤いスカートが今日もキュートに似合ってる。二つの大きなリボンで結ばれた髪が、歩くたびにふわふわ揺れていて最高にかわいい。特等席で天使を拝めて、今日も私は幸せです。
「雪菜ちゃん……?なんで私に向かって無言で手を合わせてるのかな……?」
「拝まないと。無料で会えるうちに」
「私、会うのに有料にならないよ!?」
なのはの後ろからは、背の高い男の人がゆっくり歩いてくる。高町恭也さん。なのはのお兄ちゃんで、物静かで礼儀正しい大人のお兄さんだ。口数は少ないけど、お姉さんの美由希さん同様、私のことも実の妹のように可愛がってくれている、すごく良い人だったりする。あと、すごく強い。物理的に。
「おはよう、雪菜ちゃん」
「お、おはようございます。恭也さん」
『マスター、声が上ずっていますが』
(白楼は黙ってて!恭也さんの前であんたと話せないんだから!)
恭也さんが良い人なのは分かっているんだけれども。私だって、これでもおじいちゃんに一応真剣に弓を教えてもらっている武道家の端くれ……の端っこくらいとして、本能が理解してしまっているのだ。この人には絶対に勝てない、逆らってはいけない、と。結果、私の方がいつも勝手に緊張してしまうのだ。
「毎回そんなに緊張しなくてもいいよ」
「いえ、これは兵守家当主としての礼儀礼節です」
「そうなのか」
「そうなのです」
『虚偽です。単に怯えているにすぎません』
(白楼!)
うるさい胸元の勾玉を、指先でこつんと叩いて大人しくさせる。こいつ、聞こえてないからって……。
「あれ?雪菜ちゃん、その紙袋は?」
「うえっ!?こ、これはその、あれよあれ」
「あれ?」
ダメダメ。心の準備をしてないところに、いきなり踏み込まれて動揺しかけてしまった……。大丈夫、私は転生者。大人のレディ、冷静に。
「せっかくお友達の家にお招きされてお茶会だっていうから一応ね!一応!そんにゃ……そんな、気合の入ったものじゃないんだけども!」
『マスターの言語発音速度が通常時の二倍を超えています。合わせて心拍数の急激な上昇を確認。もしやマスター、照れて……』
(うるさい!)
あと噛んだし。恥ずかしい。
「あ。クッキーだー!おいしそう」
「ああ」
動揺しすぎて自分でも気が付かないままに突き出していた紙袋の中身を見たなのはが嬉しそうな声を上げてくれる。あと恭也さんが後ろで頷いている。
「これもしかして手作り?」
「ちょっとだけね。ちょっとだけ!味は知らないわよ!」
『これはマスターが二時間十三分かけて焼いた手作りクッキーでは?そもそも、クッキーを少しだけ手作りする方はおりません。市販品か手作りか、ゼロか百かと』
(冷静に指摘しないで!)
このポンコツAI、あとで絶対燃やしてやる……!
「すごいね、お兄ちゃん」
「ああ」
なのはが笑顔をくれたのでちょっと減刑とする。あと恭也さんが、ああBOTになって、後ろで満足そうに頷いている。なんなの……。
後方で腕組みをしつつの笑顔は、私が弓の稽古で三連続で的に命中させたのを見守るおじいちゃんの顔をなぜか思い起こさせた。弟子だったのか、私。
「ぐぬぬ」
「きゅ、きゅう……」
なかなか頬が熱いのが収まらなかったけど、なのはの肩に乗っているフェレット、ユーノくんを撫でていたらちょっと収まってきた。さすが参謀、こんな時も頼りになるわね。
「ふふ。じゃあ押すね~」
なのはがインターホンを押すと、ピンポーンという軽い音に反応してドアが開き、クラシカルなメイド服を身に着けた、紫髪の美人なお姉さんが迎えてくれた。
お姉さんはノエルさん、という名前の方で月村家のメイド長だ。無口だけど、美人ですごくかっこいい!とは、なのは評。
「恭也様、なのはお嬢様、そして雪菜お嬢様。いらっしゃいませ」
「お招きに預かったよ」
「こんにちは~」
「お、お邪魔しま~す……」
「はい。こちらへどうぞ」
なのはの後ろに続いて、恐る恐る中に入る。このお嬢様扱い、何度されても慣れないのよね……。そして、相変わらずこの大きい玄関ホール!私は友人の家じゃなくて実はホテルに来ていたのかもしれない。
「あの!ノエルさん。実はこれ……」
「あら。お土産ですか。お気遣いありがとうございます、お嬢様にお渡しいたしますね」
一を聞いて十を知る。スーパーメイドのノエルさんは、緊張から紙袋を抱えたまま、右往左往していた私の様子からすべてを察し、そっと流れるような動作で受け取ってくれた。か、かっこいい!
「ちょっとなのは。ノエルさん、できるメイドすぎない!?」
「うん。かっこいいよね~」
ノエルさんを見るなのはの目がちょっとキラキラしてる気がする!悔しい。私だって十年後には、「雪菜ちゃんかっこいいよね~」となのはに言われる人間になれるはず……!
『マスター、人には向き不向きというものがあります』
(それは、私には向いてるって解釈でいいのよね?)
『……。』
(ちょっと、なんとか言いなさいよ!)
「こちらの部屋になります」
「うわぁ!」
「おおぉぉ……」
ノエルさんに案内されたのは、お屋敷の中でもひときわ明るい部屋だった。壁一面はガラス張りの大きな窓になっており、太陽光がやわらかく差し込んでいる。窓際には背の高い観葉植物が並び、丸いテーブルを囲むようにして、高級そうな赤い座面の椅子が置かれていた。
すっごい綺麗……!おじいちゃんの家が伝統的な古い日本家屋の分、こういった西洋風のお嬢様部屋は正直すごくテンションが上がる!
「なのは~雪菜~。こっちこっち~」
「いらっしゃい、なのはちゃん、雪菜ちゃん、恭也さん」
既に到着していたアリサと家主のすずかが椅子に座ったまま、手を振ってくれる。いつもの見慣れた二人の顔を見て、ようやく少しホッとして落ち着いてきた。
「いらっしゃい!なのはちゃん、雪菜ちゃん」
部屋にはいつもの二人以外の人もいて、今声をかけてくれたのが、すずかの専属メイドのファリンさん。こちらもメイド服が似合う、美人さんで、口数が少ないノエルさんとは対照的な、明るくて優しいお姉さんだ。
「恭也、いらっしゃい」
「あぁ」
もう一人。大人っぽい、背の高いロングヘアのお姉さんが月村忍さん、つまり、すずかのお姉さん。スタイル抜群の美女で、恭也師匠……じゃない、恭也さんと並んでもすっごくお似合いで、噂では二人は高校生の時からの仲だとか……。
「かわいい~」
「にゃぁ」
そして、猫である。椅子の上で丸まったり、日当たりのいい場所で我が物顔にくつろいでいる子だったり、数えたら五匹以上はいるんじゃないだろうか。
何度か来るうちにもう慣れたけれど、最初に来たときは、お嬢様の家すごっ!?とさすがに驚いたのも良い思い出である。
床に座って猫と戯れるなのはを見ると、ぴょこぴょこと、猫とともにツインテールが揺れている。か、かわいい、癒される……。
「お茶をご用意いたしましょう。何がよろしいですか」
しばらく可愛い猫と戯れながら過ごしていると、ノエルさんがちょうど良いタイミングで飲み物を聞いてくれた。できるメイドさんだ……!
「俺は任せるよ。なのはは?」
「私もお任せしまーす」
「かしこまりました。雪菜お嬢様は?」
「私もお任せでお願いします!」
「ふふ。かしこまりました」
こういうできるメイドさんには全てお任せするのが一番おいしいものが出てくるのである。兵守雪菜、何度かの訪問で学びました。好みも全部、把握されております。
「じゃあ、私と恭也は部屋にいるから」
そう言い残すと、忍さんと恭也さんは二人で扉の向こうに消えていったのだった。
「ラブの香りね。アリサ」
「あったりまえよ。香りどころか、ラブラブでしょう、あれは。すずかもそう思わない?」
「ら、ラブラブ……うん、そうかも」
すずかが少し照れたように笑う。そうよね、すずかのお姉さんは恭也さんと知り合ってからずっと幸せそうで。
そんな他愛ない会話のはずなのに、なぜか胸の奥で何かが小さく引っかかった気がした。
……あれ?私、すずかのお姉さんのことに詳しかったっけ。
「うん。お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってからずっと幸せそうだよ」
すずかの声が少し遠くに聞こえた気がした。なんだか頭の中がふわふわして、慌てて目の前のテーブルの角をつかむ。
『マスター?』
大丈夫、白楼。ちょっと頭がぼんやりするだけだから。
「うちのお兄ちゃんはどうかなぁ」
ぼーっとしたまま、困ったように笑いながらなのはが話すのをなんとなく眺める。頭の中が霞がかかったみたいにふわふわしていて、何も考えられないのに、なぜだか次になのはが話す言葉がわかる気がした。
『でも、昔に比べてなんだか優しくなったかな』
頭の中でなのはの声が妙にクリアに再現された。なんで。どうして私は、一度聞いたことがあるような気がするんだろう。
「でも、昔に比べてなんだか優しくなったかな」
目の前でなのはがさっき頭に浮かんだ言葉と一言一句同じ台詞を口にする。
会話に参加もできず、アリサとすずか、なのはが話しているのをただ俯瞰で見ているみたい。なに、これ。こわい。私……!
『マスター。マスター!』
「雪菜ちゃん!」
「……え?」
はっと、急に頭の中がクリアになり、目の前でなのはが私の肩を掴んで心配そうに覗き込んでいる。あれ。私、今なにを考えていたんだっけ……?
「雪菜ちゃん、大丈夫?顔色悪いよ」
「だ、大丈夫よ。ちょっと寝不足なだけ」
「本当に?」
「本当よ。ほら、私は繊細な美少女だから?豪邸の空気に当てられたのかも」
「あんた、すずかの家来るの何回目よ。いい加減慣れなさいってば」
「あはは……」
アリサのツッコミに曖昧に笑い返して、白楼にそっと問いかける。
(今の、わかった?多分、前の眩暈とかと一緒だと思うんだけど……)
『……決めつけるのは早計かと。龍脈修正による疲労残存の可能性もあります』
(そっか……)
デジャブ、というものがあるらしい。初めて経験する事柄や場所に対して、既にどこかで体験したことがあるように感じる既視感のことだとか。原因は昔の自分が体験した、よく似た出来事に起因していると言われている。私には二年前以前の記憶が無い。ここ最近、よく起きている眩暈は忘れてしまっている私の記憶が何か関わっているのだろうか。
不安になることはあるけれど、例の眩暈の波が過ぎちゃえばこうして元気いっぱいなんだけどね。
「雪菜ちゃん、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって言ってるでしょ。何なら元気いっぱいよ」
「そっか。何かあったらすぐ言ってね!」
そう言って、なのはが私の手をぎゅっと握る。
その華奢な手があたたかくて、さっきまで遠くに聞こえていた声が、ようやくちゃんと目の前に戻ってきた気がした。
「ほら。そこもいちゃついてないで、早くお茶会の続きをするわよ」
「「いちゃついてないし(もん)!」」
アリサがにやにやと私たちをからかい、すずかが微笑みながら合いの手を入れる。ファリンさんがお茶とお菓子を持ってきてくれるまで、私たちはいじられ続けたのだった。