私の記憶はどこですか? ~高町なのはの幼なじみは幸せでいたい~ 作:siitake64
戦闘回はいつも悩みます笑
「同系の魔導師と見慣れない術式の魔導師……。ロストロギアの探索者か」
木の上に立つ、金髪の女の子が口を開いた。ロストロギア……つまり、この子もジュエルシードを追っているということか。
「間違いない。彼女は僕と同じ世界の住人だ。しかも、ジュエルシードの正体を知っている」
ユーノくんが驚く気持ちもわかる。私だって、自分たちの他にジュエルシードを集めている勢力がいるなんて思ってもみなかった。
「バルディッシュ」
『Scythe Form Set up.』
女の子がそう声をかけると、彼女の持っているデバイスの先端が姿を変え、武骨な戦斧の形状へと変化した。
「申し訳ないけど、ジュエルシードはいただいていきます」
来る。そう感じた時、ユーノくんが叫んだ。
「二人とも危ない!」
「くっ……。アース・ドロウ!」
戦斧を構え、こちらに向かって急降下してくる女の子の進路上の地面を狙い、矢を突き立てる。飛んでいる対象の体内魔力を矢に引き寄せて地面に落下させる、ジュエルシードとの初めての遭遇でも使用した技だ。
「ん」
女の子は一瞬、不快そうに目を細めると、落下することなく途中で地面に降り立ち、すぐに体勢を立て直した。地面に引っ張られるのに気づき、瞬時に着地することで落下を防いだんだ。この子、私たちより圧倒的に戦い慣れてる……!
「雪菜ちゃん!」
「くっ……なのは。そっち行った!」
間合いを詰めてきた彼女はそのまま戦斧を一閃。無様に地面に転がってなんとか回避した私には目も向けず、空中へと退避したなのはを追って、そのまま飛び立った。
『Arc Saber.』
金色の光がブーメランのようになのはに襲い掛かる。魔力斬撃用に魔力を圧縮した攻撃魔法だろう。なのはのプロテクションに防がれているものの、激しい爆発が、攻撃の威力を物語っている。
それに、あの精度と速度を見るに、なのはと同等か、もしかしたらそれ以上の魔力量とセンスを持っていることがわかってしまう。それこそ、私の実力では太刀打ちできないほどに。
「……くっ」
悔しくて、思わず白楼を持つ手に力が入る。上空では激しい撃ち合いが続いているのに、全くそこについていけないもどかしさ。
アース・ドロウもディフレクト・アローも、どちらも矢が刺さる地面がないと力が満足に発揮することができない。
「はああああっ」
「ダメ!」
いくつかの流れ弾が逸れ、巨大猫に迫る。
それでも金色の斬撃を全て防ぎきったなのはは、猫を守るように地上に降り、かばうように立ち塞がった。
『Shooting Mode. Divine Buster, stand by.』
なのははレイジングハートをシューティングモードに変え、黒衣の少女に向ける。ディバインバスター。あの巨大木も一撃で封印した、なのはの主砲だ。
一方、向こうの女の子も杖形態にデバイスを変え、応戦の構えを取っている。
その均衡が破れるきっかけは転倒したまま意識を失っていた、巨大猫だった。
「にゃ……」
緊迫した空間に、意識を取り戻した巨大猫の弱々しい鳴き声が響き、私となのはの意識がそちらに一瞬、持っていかれてしまう。
たった一瞬の隙だったけれど、戦い慣れているあの子には十分な隙だった。
「ごめんね」
「……え?」
小さな声が聞こえ、意識を少女に戻した時には、既に黒衣の少女が持つデバイスの先端に、金色の魔力が収束していた。
『Photon Lancer.』
ディフレクト・アローで軌道を!
だがそう思った時にはもう遅く、金色の魔力弾は、一直線になのはへ向かって走っていた。
「なのは!」
金色の光が弾ける。フォトンランサーが直撃したなのはの身体が、金色の光に押し飛ばされるように宙を舞った。
「なのは!なのは!」
「雪菜、落ち着いて。まずは受け止めないと」
「でも!」
「僕が足場を作って受け止める!」
ユーノくんがなのはの落下地点に走りだす。そうだ、私がしっかりしないと。一緒にやるって決めたんだから!
「白楼、アース・ドロウでユーノくんを引っ張って加速させる。いける?」
『お任せください。完璧な出力調整でエスコートいたします』
茜色の魔力をまとった実体矢をなのはの落下地点の地面に向けて突き立てる。
「アース・ドロウ!ユーノくんの加速を補助!」
矢が地面に突き立った瞬間、ユーノくんの小さな身体がぐん、と前へ引っ張られた。
「うわっ、速っ!」
「お願い、ユーノくん!」
「うん。任せて」
ユーノくんは体勢を崩しかけながらも、すぐに四肢で地面を蹴った。
私の魔法で引っ張られる力に、自分の走る力を合わせて、落下地点へ一直線に駆け抜ける。
「間に合え……!フローターフィールド」
ユーノくんの足元に魔法陣が広がり、淡い光の膜が、なのはの落下地点に三段重ねで展開された。
落下したなのはの身体は光の膜で減速され、地面まで到達する前に膜に受け止められた。間に合った……!
「なのは、大丈夫!?」
「大丈夫。気を失ってるだけだ」
地面に仰向けに倒れたままのなのはを抱き起こし、胸が上下に動いているのを見て、正直心の底からホッとした。
「白楼、体内魔力の流れは?」
『異常ありません。バリアジャケットがかなりのダメージを防いでくれたのでしょう。私の分析では気絶以外の身体的な異常は見受けられません』
「よかった……」
改めて外傷がないか確認し、力の抜けたその華奢な身体を抱きしめる。その時だった。
「しまった。雪菜、ジュエルシードが!」
ユーノくんの言葉に反応して振り向けば、ちょうどあの女の子が放った金色の光が巨大猫に命中したところだった。
「にゃぁぁぁぁ……」
巨大だった猫の身体が、ふっと輪郭を失うように縮んでいく。気が付けば、さっきまで十メートル近くあった姿が、元の小さな猫へと戻っていた。
「ジュエルシード、シリアル14。封印完了」
ジュエルシードを回収した女の子は、用事は済んだとばかりに、私たちに背を向ける。
「待ちなさい!」
私の声に反応して、黒衣の少女が振り向く。多分、私の顔は汗とか涙とかですごいことになっていたと思うけど、彼女はそんな私を見ても表情一つ変えることはない。
その静かすぎる表情からは、何も読み取ることができなかったけど、少なくとも敵意や悪意が感じられなかったのは確かだった。
「貴女、何者なの?」
私の問いかけに、彼女は何も答えない。ただ静かにこちらを見返すだけだった。
「……答える必要はない」
少女は私の腕の中で眠るなのはを一瞥し、僅かに表情を動かしたが、結局何も言うことなく、そのまま金色の光をまとい、空へ浮かび上がる。
「ちょっと!」
彼女がそれ以上振り返ることはなく、金色の光は空の彼方へと消えていった。
「帰ったの?」
『はい。反応、消失しています。我々のことは眼中にない。といった感じでしたね』
「そうね……」
白楼を待機状態に戻し、変身を解除する。
「とりあえず、アリサとすずかへの言い訳を考えないといけないわね。……怒ると思う?」
「うん。多分ね……」
「そうよねー……よいしょっ」
急に逃げ出したユーノくんを二人で追いかけていたら、足を滑らせて転倒。木に当たって意識を失ってしまった。とりあえずはこんなところだろうか……。
頭の中でストーリーを組み立てながら、いつかのように、またなのはを背中に背負って立ち上がる。
「雪菜、いけそう?」
「だいじょうぶ。このくらい」
なのははきっと皆に心配かけたことに、すごく落ち込むだろうけれど。その自責の念を少しでも減らしてあげたくて、私は一歩ずつお屋敷への道を頭を悩ませながら歩いていった。
「ユーノくん、さっきの子だけど」
「うん。あの杖、衣装、魔法の使い方……。彼女は間違いなく僕と同じ世界の住人だと思う」
「そして、ジュエルシードを集めている」
持ち主の願いをかなえる青い石。暴走すれば危ないというユーノくんの話だったけれど、彼女はどこで存在を知って、どうして集めようとしているのだろう。
まだまだ情報が少なすぎてわからないけれど、ジュエルシード集めを続ける限り、今後も彼女はきっと私たちの前に現れ続ける。
「……強かったわね」
「そうだね。それに、戦い慣れていた気がする。誰かに教えを受けていたのかも」
私と彼女では根本的な魔力量に差がありすぎて、今日の戦いだって完敗どころか、まともに相手にもされなかった。もしまた彼女が現れた時、私は一体なにができるのだろうか。
「ダメダメ。弱気になってちゃ」
彼女の隣で守ると決めたのだから。相手が誰であろうと関係ない。力が足りないなら、少しでも近づけるように努力するのみだ。
胸元で勾玉の待機状態に戻った白楼が、何かを訴えるように淡く輝く。励ましてくれてるんだと思うけど、普段あれだけ私に不敬な態度で話しかけてくるくせに、こういう時だけ無駄に意味深な態度をとるときがあるのだ、この相棒は。大方、言葉にするのが恥ずかしいとかそんなところだろうけど。人間かっての。
「……ん」
そのとき、背中で小さな声がした気がした。
「なのは?」
「雪菜、なのはが!」
背負っていた華奢な身体が、ほんの少しだけ身じろぎするのを感じて、私は慌てて足を止めた。
「雪菜……ちゃん……?」
「なのは!よかった、気がついたのね」
意識を取り戻したなのはは、まだぼんやりしているのか、私の肩口に顔を預けたまま、ゆっくりと瞬きをしている。
「私……どうなって……」
「撃たれて気を失ったの。ユーノくんが受け止めてくれたから、怪我も無し」
「ユーノくんが……?あ!猫さんとジュエルシードはっ」
こうしてすぐに他人の心配をできるのは、なのはの良いところだけど、正直もう少し自分を大切にしてほしいなって思ってしまう。
まぁ、それがなのはだから仕方ないんだけどね。
「ジュエルシードは金色の女の子が持って行ったわ。猫さんは元気よ。ちょっと気を失ってたけど、すぐに回復して走っていった」
「そっか……。私が、もっとちゃんとしていれば……」
「違う」
暗くなったなのはの声を聞きたくなくて、思わず遮ってしまう。
「前に言ってくれたでしょ。今度から一緒にやろうって。だから責任も半分こ。……というか、なのはは互角に戦ってたんだから、責められるなら私のほうでしょ」
「そんな!雪菜ちゃんは……!」
「だから半分こ。ね?」
そう言うと、しばらくして、うん。と弱々しい声が返ってきた。まぁ納得してないんでしょうけど、今は仕方ない。
「それよりも、アリサとすずかへの言い訳が大変よね。とりあえず全てはユーノくんのせいにするとして……」
「ちょっ、ちょっと雪菜!?」
「冗談よ。参謀も一緒に考えて~」
ふふ、と少しだけ小さな笑い声が背中から聞こえてホッとする。
私に何ができるかはまだ考え付いていないけど、それでも、この小さな笑い声だけは守りたいと、そう願った。