私の記憶はどこですか? ~高町なのはの幼なじみは幸せでいたい~ 作:siitake64
「なのは!そっちいった!」
「う、うん!」
なのはのレイジングハートでの一撃をかいくぐり、白い浮遊物が所狭しと駆け回る。……いや、浮いてるんだから飛び回る、か。
「ええぃ。アース・ドロウ!」
『ダメです、マスター。外れました』
「きぃぃぃぃ」
舞台はなんと深夜の学校だった。潜入するまでにも色々とひと悶着あったのだがここでは割愛。とにかく、新たに発動したジュエルシードを追って私達は夜の学校で追いかけっこをしている。
今回のジュエルシード暴走体は白いふわふわした浮遊物。ところがこれが思ったよりもすばしっこくて、追い詰めたと思ったらすぐにひらりと逃げられてしまい、苦戦中。狭い廊下の遮蔽物に隠れたり、なかなか頭も回る敵は予想以上に厄介だった。なんでそんなに賢いのよ、ジュエルシードなのに。
「落ち着いて、二人とも。そんなに闇雲に攻撃しても当たらないと意味ないよ」
「ぐぬぬぬ……悔しい!」
『ユーノ様の仰る通り、お二人の連携が必要です。マスター』
「わかってるけど!」
白楼の言う通りである。敵は一体、こっちは二人と一匹。数的には有利なはずなんだけど。
「えぇい、ちょろちょろと!白楼。連続で軽いやつ!」
『承知しました』
魔力を少しだけ込めた光る矢をつがえ、連続して放つことで逃げ場をなくし、ジュエルシードをなのはの方に追い詰めていく。
「なのは、今!」
「え。ちょっと待ってー!」
「え。こっちくる。うわぁぁぁ」
なのはが封印用の桃色の光を収束させている間に、白い塊は方向転換し、ユーノくんの脇を通り過ぎて逃げていく。
端的に言うと、私達三人の急造チームの連携は控えめに言ってもボロボロだった。
「でも惜しかったよ。二人とも目標を追いかけるのはやめよう。雪菜が誘導して、できれば足止め。なのはが仕留める。どうかな?」
「うん。わかった、ありがとうユーノくん」
「了解。ユーノ参謀!」
「参謀って……。ちょっとかっこいいかも」
「次逃げられたら、ユーノ偵察員に格下げだから」
「なんでさ!?」
それでも、私の前でも遠慮せずに話せるようになってきたユーノ参謀……ユーノくんを見ると、少しは打ち解けられてきたかな、という気はする。
巻き込んだことを気にしてか、それとも警戒されてたのか、ずっと口数少なくて遠慮がちだったし。
「狭い所は遮蔽物が多くて向こうの思う壺だと思う。校庭に誘導しよう」
「なるほど!」
白楼を構えて、薄い光の矢を生成する。さっきよりも少しだけ魔力量の多い、魔力の流れを変えるための実体弾だ。
「アース・ドロウ!」
白い塊が跳躍した瞬間を狙い、窓に向かって矢を放つ。
窓枠に刺さった矢は魔力の流れを引き寄せる楔となる。付近を浮いていた白い塊もそれに引っ張られ――。
「えい!」
ユーノくんの見事なフェレットアタック、もとい体当たりで窓の外に突き落とされた。参謀兼、鉄砲玉でもやっていけるのでは?
「ナイス!なのは、行くわよ」
「……う、うん!」
「なのは?」
ほんの一瞬だけ、間があった気がする。それにちょっと息が荒いような。
「大丈夫。行こう、雪菜ちゃん」
気のせい……かな?でも。
「雪菜ちゃん。いこっ」
「あ。ちょっ、なのは」
先頭で階段を下りていくなのはに続いて慌てて駆け下り、私たちは校庭で浮遊している白い塊を前に立ち止まる。
「白楼」
『承知いたしました』
私の意図を汲んだ白楼が茜色の魔力光を纏って輝き出す。生成される矢は、さっきとは違う、高密度の実体弾だ。
「グラウンド・アンカー!」
鎖のような魔力線を伴った光の矢は、白い塊を校庭の地面へと縫い付けた。
「なのは!」
「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル20。封印!」
すかさず桃色の光があふれ出し、白い塊は青い宝石へと姿を変え、なのはのレイジングハートへと吸い込まれていった。
「やった!」
「なのは、雪菜、お疲れ様」
封印完了。変身を解いて、なのはとハイタッチ。しゃがんでユーノくんともハイタッチ。……このフェレット、器用すぎない?
「さ。さっさと帰りましょ。げ。もう夜の十一時じゃない。ね、なのは」
「うん……」
私の言葉にぼーっとした様子で頷くなのはは、やっぱりどこか元気がない。それに、いつまで経ってもまだ呼吸だって荒いままな気がする。足元だって少しふらついていて頼りない。
「なのはー?」
「……ふぇっ、だいじょうぶだよ。だいじょうぶ……」
「全然大丈夫じゃなさそうなんですけど、ちょっ」
くたりと力の抜けた細い身体が、私の腕の中へ倒れこんでくる。ぼーっとしたまま目は閉じかけているし、顔色も良くない。
「なのは!なのは大丈夫!?」
「ちょっと……疲れた……」
その一言を最後に、何を話しかけても反応が無く、支えきれなくなった私はついに地面に膝をついてしまう。
『心拍を確認しました。眠っていますが、正常値です。原因は過労でしょうね』
「寝てる……だけ?」
「安心して力が抜けちゃったのかな。最近、ずっと夜も遅くて疲れが溜まっていたのかも」
慌ててなのはの顔を覗き込む。確かに安らかな顔で寝息を立てていた。良かった……。寝てるだけで。
「雪菜は大丈夫なの?始めたての頃はなのはより消耗していたようだけれど」
「私は反省して授業中に全力で休憩してるから!」
ブイ。とブイサインしたらユーノくんに呆れたように溜息をつかれた。解せぬ。しょうがないじゃん、転生者だから勉強は全部わかるんだから……。
「君はなんというか、時々すごく大人びているよね。……良くない意味で」
「心外!」
仲良くなったユーノくんは常識人ゆえ、時々毒舌である。まぁ、アリサほどじゃないけどね。
「さて。私達も帰ろっか。……よいしょっと!」
「え。雪菜がなのはを背負うの?」
「……ほかに誰がいるのよ」
いても譲らないけどね。完全に睡眠モードに入っているなのはを背中に背負って立ち上がる。
「……う。なのは、軽くないんだけど……!」
「力の抜けた人間の身体は意外と重たいからね……」
どうしてフェレットがそんな事まで知っているのだろうか。博学すぎるぞ、このフェレット。
一歩、足を踏み出すと、背中にぐっと体重がかかる。大丈夫。大丈夫、私はやれる子……!
見た目は同年代で比べても、小柄で華奢ななのはだけど、やはり眠っているからか、想定以上に重く感じる。というか、私の力が無い……。
「おっとと……!」
数歩よたよたと歩いて、ふらついて立ち止まる。転生とか記憶喪失の影響が大きくて忘れていたけど、私だって見た目は同年代の女の子より小さいくらいだし、線は細くてどう考えても力は無い方だった。くそ。儚げ美少女な自分が憎い……!
『マスター。自己の容姿礼賛はこの場面では不要かと』
「なんで心読むのかな!?」
さっきまで出てこなかったくせに、こういう時だけ指摘を入れてくる。全く主人想いじゃない相棒である。
『仕方がありません。わたしが手を貸しましょう』
胸元の白楼が薄く光ると、ふわりと少しだけ、背中の重みが軽くなった気がした。
『自動で組み込まれている強化術式です。ただし、マスターの苦手分野のため、出力はかなり限定的ですが』
「できる相棒!」
どうやら苦戦している私を見て、自動で身体強化の魔法を発動してくれたらしい。さすが主人想いの相棒である!
「雪菜、大丈夫そう?」
「ありがとう、ユーノくん。まだきついけど……なんとかする。白楼もありがとね」
『礼には及びません。仕事ですから』
ツンデレ台詞まで完璧な人工知能のこの子は一体どこでどんな学習をしたのだろうか。私は君が怖いよ。
眠るなのはを背負い直し、またよろよろと立ち上がる。
「家の近くまでなんとかお願い。あとは僕がうまくやるから」
「ううん。家まで送るわよ。なのはんちの家族とも知らない仲じゃないしね」
「え。そうなの?」
暗い夜道をユーノくんと二人、いや一人と一匹だけど、なのはの家までゆっくりと歩く。思えばユーノくんとここまで二人きりで話すのも初めてだった。
「そ。小学校一年生からの幼馴染なの。私、その時期の事故で両親を亡くしてて、ちょっとナーバス気味で周りを拒絶してた時期があって……。その時かな、偶々知り合ったなのはが諦めずに友達になろうってアタックしてくれて。だから私の友達第一号はなのは。そこから、なのはのご両親も、身寄りがお祖父ちゃんしかいない私を気にかけてくれてて、今では家族ぐるみのお付き合いをする仲なのよ。今年の初詣とかも一緒にいったしね」
「そうだったんだ……」
なのはがいなければ、私はきっと誰とも話せないままだった。アリサやすずかと仲良くなることもなかったし、『笑って生きる』なんて約束も、きっと守れていなかっただろう。
「というか、そろそろユーノくんの話も聞きたいんですけど。古代遺産冒険家の部族なんでしょ?これまでに集めた面白いガジェットの話とか!」
「えぇ~。そんなに面白いのあるかなぁ……」
私がこれまでのなのは達との思い出を話したり、ユーノくんがジュエルシード以外の他の古代遺産の話を聞かせてくれたり。ユーノくんの話はとても面白くて、きっとこれまで色んな場所を旅したんだろうなと思うと、覚えている記憶が二年くらいしかない私にはちょっとだけ眩しかった。でも色んな話をして距離が縮まったのは確かで、新しい友達ができたみたいで、ちょっと嬉しい。
なのはの家も近づいてきて、あとはなのはのご家族に送り届けて帰るだけ。のつもりだったんだけど。
「はい、雪菜ちゃん。暖かいココア。ごめんなさいね、わざわざ」
「い……いえ!全然!おかまいなく!」
なぜか私はなのはの家のリビングでソファに座っていて、目の前には暖かそうなココアが湯気を立てている。そして隣りには桃子お母さんがニコニコして座っているときた。ナゼデショウカ。
「ごめんなさいね。なのはが迷惑かけて」
「とんでもない!」
インターフォンを鳴らして、桃子お母さんに、なのはが私と遊んでる途中で寝ちゃって……と苦しい言い訳をしてたんだけど、そのままあれよあれよと言う間にリビングまで通されて、気が付いたらこの状況だった。恐るべし、これがお母さんパワー!
でも一つだけ問題があって。
『私、なのはがなんて言って出てきてたか知らないんだけど、ユーノくん知ってる!?』
『ごめん。僕もそのとき、リビングにいなくて……』
ユーノくんに念話で聞いたけど、彼も知らないみたいで、私の横で並んで固まっている。
遊んでる途中って言ったのがマズかったのかな!?ちらりと桃子お母さんの顔色をうかがうも、ただニコニコしているだけで全く内心がわからない。
「あの」
「ん?」
うわぁぁぁぁ。なんだかとっても空気が重い!
『怒られるのかな。私達、これ怒られるのかな、ユーノくん!?』
『わ、わからないよ。でもいつもは、なのはも出掛けてくるとしか言ってなかったような……』
『でもそれはこんな夜中じゃないときじゃん!?』
ちらりともう一度顔を上げると、桃子お母さんと目線があった気がした。こわい。ここはとりあえず、初手謝罪が良いのでは!?
「雪菜ちゃん。ココア、冷めないうちに飲んじゃってね」
「は、はいっ。あの、ごめんなさい。夜遅くに誘っちゃって……」
「あら。私はなのはから誘ったって聞いたけど?」
しまったぁぁぁぁ。私ったら、焦って余計なことを!
「ふふ。冗談よ」
「え?」
恐る恐る顔を上げると、桃子お母さんの雰囲気が変わっていた。
「別に怒ってないわ。それに、言いたくないことまで聞くつもりもないの」
さっきまでの重苦しい雰囲気はどこへやら。桃子お母さんはほっとするような優しい笑顔でユーノくんを撫でている。
「でもちょっと心配しちゃったから、意地悪しちゃった」
「あ……えっと……」
「雪菜ちゃんも。あんまり無理しちゃダメよ」
ポンポンと優しく頭を撫でられて、ホッとしたのか、嬉しいのか、ちょっとだけうるっと来ちゃって、慌てて目を閉じる。
やめて。あんまり撫でないで。慣れてないから、こういうの!
「今日は送ってくれてありがとう。もう遅いし泊まっていきなさい」
「えっ、でも……」
「こんな時間に、そんな顔の雪菜ちゃんを帰せると思う?お祖父ちゃんには電話しておいてあげるから」
「はい……」
優しい声なのに、どこか有無を言わさない決定力がある。気が付いたら、何も考えられないまま、ただ素直に頷いていた。やっぱり、お母さんってすごい。
「今はまだ聞かないわ。でも、危ないことだけはダメよ。それに、こんな時間になるなら、今度からはちゃんと連絡すること」
「えっと。あの……」
「ふふ。もう少しお話しましょうか」
多分、この人には全部バレてる。それでも桃子お母さんは私達を甘やかしてくれている。
ユーノくんと一緒に、桃子お母さんに頭を撫でられながら色々お話していたら、暖かいココアと桃子お母さんの包容力に安心したのか、なんだかぼーっとしてきて。
そのまま暖かさに包まれるようにして、私の長い夜は、静かに終わりを迎えたのだった。