私の記憶はどこですか? ~高町なのはの幼なじみは幸せでいたい~ 作:siitake64
私、兵守雪菜は平凡な小学三年生。まぁ、ちょっと転生者だったり、龍脈の流れを見守る一族の当代当主だったり、魔法少女だったりするけれど。
そんな私が親友のなのはと共に、異世界の魔法使いフェレットであるユーノくんのジュエルシード探しを手伝い始めて一週間になる。さすがに疲労も溜まってくるけれど、なのはに置いて行かれないように頑張らないと。
でも今日は日曜日!学校もお休みだし、ゆっくり最高の二度寝日和。なんだか布団がふかふかだし、柔らかくて気持ち良い抱き枕も最高。すっごく安心できる良い匂いもする。うーん。最高の日曜日……。
「うにゃあああああ」
腕の中のぬくもりが去っていく。待って待って。
「びっくりした。おはよう、なのは」
「おはよう、ユーノくん。じゃなくて!なんで雪菜ちゃんがいるの!?」
「あぁ。覚えてない?昨日なんだけど……」
「ひゃっ。雪菜ちゃん待って。くすぐったいよぉ……!」
騒がしいなぁ。うっすら目を開けると、目の前には真っ赤になった可愛い顔があって、満足して目を閉じる。ふふ。可愛い。さすがなのは。
頭の中はまだふわふわしたままで、二度寝するにはちょうど良い感じ。ぎゅっと目の前の柔らかいものに抱き着いて。
「にゃぁぁぁぁぁっ」
「いったぁぁぁっ」
身体が宙に浮いたと思ったら、どすん。という音と共に目が覚めた。
「あ……あれ?」
「ご、ごめんなさい。雪菜ちゃん!大丈夫?」
目が覚めて初めて見えたのは、綺麗な木目の天井と、心配そうに見守る親友の顔でした。なにこれ。
「あ。雪菜もおはよう。二人とも、日曜日だからって寝すぎだよ」
「もーう。ちょっとくらいいいじゃない。ね、なのは」
「う……うん。私もゆっくりしよっかなぁ……って思ってたところ……あれ?なんで雪菜ちゃんがいるんだっけ」
ユーノくんがこっちを見て、ぱちぱちとウィンクしてきてる。寝起きでぼんやりしてた頭が徐々に働き出してきた。
「覚えてないの?ほら。昨日、学校でジュエルシードを封印して遅くなったから、一緒になのはの家まで帰ってきたんだよ。ね?」
「そ、そう!ユーノくん、まさにそれ」
「そうだっけ~?ふぁぁぁ、まだ眠たいや……」
私がいる理由にとりあえず納得がいったのか、そのまま力が抜けたみたいに、またベッドにうつ伏せになっちゃうなのは。やっぱりまだちょっと疲れが残ってるみたい。
『寝起きにごめんね。本当のことを言っちゃうと、なのはが気にしすぎちゃうかと思って……』
『ううん。私もなのはには必要以上に気にしてほしくないからちょうど良かった』
さすがユーノくん。この短い間でも、なのはの優しすぎる性格と遠慮しすぎるところをよくわかってる。あと、同じことを言ったであろう私の性格も。
「なのは。今日はとりあえずゆっくり休んだ方がいいよ」
「でも……」
「今日はジュエルシード探しはお休み。もう五つも集めて貰ったんだから。少しは休まないと持たないよ」
「うん……」
ユーノくんの説得に、なのはが弱々しく頷く。
「私もユーノくんに賛成。それに今日は私と『デート』でしょ」
「デ……デートじゃないよ!?」
「えー?でも私的にはデートなんだけどなぁ」
「ち、違うってば……!」
ぶんぶんと首を振るなのは。白い肌が耳まで赤く染まっていて、すっごく可愛い。
「だって……みんなでサッカー見に行くだけだもん……」
そう。今日はなのはのお父さん、士郎お父さんがコーチ兼オーナーを務める「翠屋JFC」の試合が行われる日。アリサやすずか、私もお呼ばれして、一緒に応援しに行く約束をしていたのだ。
「だって雪菜ちゃんと、二人きりじゃないし……」
「……っ」
油断させたタイミングで急所に一撃。いきなりなんてことを言ってくるのだこの子は。
「ふーん。……二人きりだったらいいんだ」
「ち、違う違う違う!そういう意味じゃなくて!」
ぼふん。と顔を真っ赤にして布団に顔を埋めるなのは。かわいい。そして。
「もうっ……雪菜ちゃんのいじわる……」
「はうっ」
私は死んだ。死因は可愛い因子の過剰摂取。ノックアウトされた私は、ユーノくんに叩き起こされるまで、布団の中で転がり続けることになったのだった。
ということで。結局、朝ごはんまで高町家でご馳走になった私は、一度家に帰って着替えてからサッカーの試合が行われるグラウンドで再度集合することになった。
「あ、雪菜~。こっちこっち!」
「おはよう。雪菜ちゃん」
「おはよ~」
グラウンドのベンチに座ってこちらに手を振るアリサとすずか、そしてなのはに手を振り返す。勿論、ユーノくんもなのはの肩に乗っている。
「もう試合始まっちゃうわよ」
「雪菜ちゃんがギリギリなんて、ちょっと珍しいね」
「ごめんごめん。なのはが可愛すぎて朝からHPを削られちゃって」
「ふぇっ!?」
「朝から何言ってんのよ、あんたは」
本当のことを言っただけなのに何故か呆れられてしまった。解せぬ。
サッカー観戦と言っても、プロの試合みたいな大掛かりなものではない。近所のグラウンドでやっている少年サッカーの試合で、選手も私達と同年代か少し上くらいの男の子たちだ。
応援も規模は大きくなくて、他のベンチに男の子二人と女の子一人が座っているくらい。ちなみに女の子はお淑やかそうな可愛い子だった。マネージャーさんかも……んん。いまキーパーの子と何か意味深なアイコンタクトしてたような!?
「……見た?アリサ」
「ええ。ばっちり」
私とアリサは、ほぼ同時に小さく頷いた。何だかんだ言っても年頃の女の子。彼女もやはりラブの気配には敏感なのだ。
「今の、完全に彼氏彼女のアイコンタクトじゃない?」
「分かるわ。あれはもう通じ合ってるやつね」
「だよね。『もっとライン上げてサイド走らせろ』とかじゃないわよね!?」
「どんな敏腕マネージャーよ、それ」
というか、あんたサッカー詳しいの?とアリサが聞いてくる。いや、詳しいわけじゃないんだけどね、おじいちゃんがいつも愚痴りながらテレビ見てるから……。
「ふふ。二人とも、そういうの好きなんだね」
「好きというか、発見したら見守るのが礼儀でしょ。胸キュン、ラブ、逃すべからず」
「そんな礼儀初めて聞いたわよ」
「え。アリサは興味ないの?」
「ないとは言ってないでしょ!」
「あはは……」
そんな私達の横で、なのはが困ったように笑う。
「じゃあ、なのははどう思う?」
「えっ、私?」
急に話を振られて、なのはがわかりやすく背筋を伸ばす。
「えっと……。仲良しなのは、いいことだと思うよ?」
「模範解答!でももう一声。ずばり、ラブの波動を感じるかどうか!」
「ラ、ラブの波動!?」
なのはの頬が、少し赤く染まる。
「なのはにそういうの聞いても無理でしょ」
「アリサちゃん!?」
「だってなのは、そういうの疎そうだもの」
赤くなったなのはは、う~と唸っている。可愛い。
「えー。なのはだって、いつか分かる日が来るかもしれないじゃない。ラブとか、『デート』とか」
「……っ」
その瞬間、なのはの肩がぴくりと揺れた。あれ。なんか、さっきより顔赤くない?
「なのは?」
「な、なんでもないよ!」
私が顔を覗き込んだら、なのはは慌ててのけぞって、ぶんぶんと首を振る。んん??
「もう。雪菜ちゃんが悪いんだからね」
「え。私!?」
そう言って、なのはは拗ねたようにグラウンドへ顔を向ける。でも、耳の先はまだ赤いままだった。
「ねぇ、なのは……」
「あ。サイド上がったよ。雪菜ちゃん」
「え。ほんとに!?」
それからも、近くで見るサッカーの試合は思ってた以上に迫力があって面白くて。夢中で応援していたら、試合終了の笛が鳴っていた。結果は二対ゼロで翠屋JFCの勝ち!強い!
隣を見たら、なのはも嬉しそうに笑ってて、ちょっとホッとする。良い気分転換になったみたい。
「みんな、応援ありがとうな。アリサちゃんもすずかちゃんも、雪菜ちゃんも来てくれてありがとう」
試合後、選手達に声をかけ終えた士郎お父さんが、こちらへ歩いてきた。士郎お父さんは、爽やかな笑顔の優しい、なのはのお父さんだ。
「お父さん!」
「いえ!こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございました」
「試合、かっこよかったです」
「大迫力で夢中で応援しちゃいました」
ユーノくんもなのはの肩でうんうん。と頷いている。どうやら、異世界フェレットのユーノくんも楽しめたようだった。
「このあと翠屋でケーキでもどうかな。応援のお礼にごちそうするよ」
「ケーキ!」
「ふふ。雪菜ちゃん、翠屋さんのケーキ大好きだもんね」
「ありがとうございます!士郎お父さん、神……!」
「はは。大げさだなぁ。でも、そんなに喜んでくれるなら、父さんも嬉しいよ」
全然大げさではない。何を隠そう、私は翠屋のケーキが大好きなのだ。本気でこの世界で一番、なんなら前世含めても一番だと思ってる。記憶ないけど!
「今日の午後は皆どうするの?私はパパとお買い物の予定が入ってるけど」
「そうなんだ~。私もお姉ちゃんとお出かけ」
どうやらアリサとすずかの二人は午後から家族と予定があるらしかった。もうちょっと遊びたかったけど、しょうがないか。
「なのはは?」
「うーん。私はおうちでゆっくりしようかなぁ」
「あー。それがいいかもしれないわね」
ちょっとは元気になったなのはだけど、まだ少し顔色も良くないし、お疲れモードに見える。となると私も一人……一人かぁ。
「あれ?」
「なのは?」
「今、何か……」
なのはが少し首を傾げる。私は何も感じなかったけど、もしかしたらジュエルシード関係だろうか?
首から下げた勾玉……待機モードの白楼に意識を向ける。
『白楼。なにかわかる?』
『申し訳ありません、マスター。少なくとも、継続した反応は感知できておりません』
『そっか……』
「気のせい、かな」
なのはが少しだけ困ったように笑う。なのはもお疲れで、ちょっと敏感になっているのかもしれない。
まぁ、何もないなら、それに越したことはないしね。今日はジュエルシード探しはお休みの日なのだ。
「雪菜、早く行くわよ。遅れたらあんたの分、食べちゃうから。にしし」
「あ。ちょっとアリサ!私のケーキ!」
胸元の白楼も、あれから何も言わない。やっぱり気のせいかな。
アリサの声に引っ張られるように、私達は皆で翠屋に歩き出した。