「超かぐや姫!」 If 〜もしも彩葉に弟がいたら〜 作:剣が好きな人
お久しぶりです。期間が長く空いてしまい、申し訳ありません。今回は(多分)このシリーズ最初で最後の前後編構成です。
勢いで書き始めたシリーズなのでキャラ崩壊などが酷いと思いますが、ぜひ今回も楽しんでいただけますと幸いです。
後編については大分完成しているので、近いうちに投稿できると思います。
俺は朝の光で目を覚ました。周囲を見渡し、ある違和感に気がついた。そう、俺たちをハッピーエンドに連れて行くと宣言した少女がいない。
「おはよう、姉ちゃん。 早速だけど、あの子は?」
「さぁ? 月にでも帰ったんじゃない?」
「んなわけ… って言いたいけどあの子の成長速度を考えると否定しきれないな…」
「ココダヨ〜」
まるでこの会話に返事をするかのようにそう言う素っ頓狂な声が流しの下の引き出しから聞こえた。よかった?と言っていいかはわからないが、月に帰ったわけではないらしい。
その後いつもより学校に行く準備を済ませ、姉ちゃんが少女へあるものを作るのを手伝っていたら、
「ねーねー、彩葉がいっつも見てるこの人誰? 好きなの?」
そう質問を投げかけられた。
「月見ヤチヨっていうAIライバー。推し。」
「えー、AI?ロボットってこと? ヴェー、おもろー!」 そう言う少女は朝から盛り上がっていた。
「そうだね。君の言うとおりこの子は本当に面白いんだよ。歌って踊れる上に分身までできちゃう八千歳っていう設定なんだ。」
そんな会話を交わしていたら、もう学校に行く時間になった。
「んじゃ、行ってきます」
姉ちゃんがそう言って部屋を出ようとすると、
「えー! やだやだ! 一緒いて!」と少女が縋る。
というかこの子、またデカくなったな。
「無理。学校休めない。 家から出ないで。 ご飯はそこね。」
姉ちゃんが畳み掛けるように拒否の意思を示した。
「なにこれ?」
そう少女が尋ねた。流石に初見でこれわかる人いないでしょ。
「パンケーキ…らしい」
そう答えたが、この料理… そもそも料理と言っていいのかわからんが。 は小麦粉の焼生物みたいな見た目をしている。
少女は目を輝かせてソレを食べた。だが、次第に苦悶の表情を浮かべるようになる。そうしてなんとも不貞腐れた顔を浮かべながらこう言った。
「うぇ〜… クソまじぃ」
おいおいこんなん姉ちゃんバチギレもんだろ。まぁ気持ちはわからんでもないけど。栄養面終わりきってるんだよこれ。 そんなことを考えていたら、
「やだやだ〜! 学校ってそんなに大事なわけ!?」と縋る少女の悲痛な叫び。
「命より大事!」
そう姉ちゃんは返した。いやいや極端すぎだろ。流石にフォローしとくか。
「流石に命の方が大事だけど、それでも大事なものであることに変わりはないよ。学校では将来社会で生きていくために必要なことを勉強するんだ。だから大切なんだよ。」
上手く言えたかはわからないが、流石にこの子に極端な知識を学習させるわけにはいかないからな。
「そういうことだから。 あんたと関わったのは私たちの責任だけど、もう全部元に戻すから。 早く月への帰り方思い出して。」
といってドアを閉めた。なんかあの子が不満そうだったような気がするな。
ん?ってかさっき'私達'って… しれっと俺も含まれてるな。当然だけど。
その後学校の授業が終わり、帰り道でのこと。
「ねぇ、彩葉って進路どこにするの?」
桜色の髪をしている女性がそう姉ちゃんに問いかけた。この人の名前は
「音楽系でしょう? それかeスポーツとか」
こうゆったりと言い放った黄色髪の女性は
苗字で呼ぶ理由?単純明快。姉ちゃんと母さん以外の女性と話そうとすると緊張するからだ。特にこの人たちは美人すぎるし尚更。
「そんな才能ないよ」
姉ちゃんはこう返した。いやいや余裕であるでしょ。保証人は俺だ… 頼りないだろうけど。
「朔久くんも同じようなこと言ってたよね? やっぱり姉弟だと似るのかな?」
いきなり振られた。心臓に悪いのでやめてほしいんですけど。
「アハハ。そ、そうですね綾紬さん」
あぶねー、乗り切った。
「あ、じゃあさっくーは進路どうするつもりなの?」
ねぇ試練終わった後にまた試練出すのは話が違うよね?
「う、うーん…正直全く、ですね。逆に諌山さんはどうなんですか?」
「私も全くだねぇ〜。」
これは正直驚いた。てっきり食べるのが好きだから食関連の道に進むのかと思ってた。綾紬さんはどうなんだろ?と思ったけど、聞くのは今でなくてもいいだろう。それより、
「あの、確か元々の話題は姉ちゃんの進路についてでしたよね。」
「「あ、そうだった。ごめんね。」」
やっぱ綾紬さんたちめっちゃ礼儀正しいな。多分俺がもうちょっと子供の時に出会ってたらマジで惚れてたんだろうな… ってこれもどうでもいい。
「えっと、姉ちゃん。俺から話すべきかな?」
一応確認を取ろう。この話は少しばかり厄介なのでね。
「大丈夫だよ朔久、ありがと」
「そ」
「私の場合は、多分東大とか行かないと親が認めてくれないんだよね」
「最低がそこ? 厳しい〜!」
「私なんかデロデロに甘やかされてるな〜」
うん、本当に俺たちの親は厳しい。でも
過去を回想していたためか、俺は姉ちゃんたちの話し声と背後にあった尾行の気配の正体を完全には感じ取れなかった。
気がついたら俺はカフェにいた。 あぁ、この感じは、恐らくーー
「彩葉ノートで赤点回避記念」
「お礼の品で〜す」
「「ご査収くださ〜い」」
やはりそうだよな。奢りパターンだ。
「あ、ありがとう」という感謝の言葉と共に姉ちゃんがパンケーキを食べようとしたその矢先。
俺の左の眼が超速で放たれる銀色の残像を捉えた。 何だ?と一瞬困惑したが、その残像の正体はすぐにわかった。 そう、フォークだ。あの少女が勝手に家を脱走しここに来ていたのだ。尾行の気配の正体はこの子だったのかよ。
「うま〜!」
次に耳に入ったのはやかましいまでの美味しさへの感激の声。
その反応を受けた姉ちゃんの顔はさながらどこかの奇妙な冒険をする漫画に出てきそうなものだった。
「よっ、彩葉!」
おいおいこの子は俺の脳に休みというものをくれないらしいな。これ多分姉ちゃん卒倒もんだろ。
「え〜かわいい! 彩葉の友達?」
綾紬さんやめてくれ。それは姉ちゃんに尋常じゃないくらい効く。
「彩葉の服着てる〜」
これは失態。あまりにも情報量が多すぎて忘れていた。
「パンケーキ好き? はい、これもどうぞ」
しかもあろうことか綾紬さんが自分のパンケーキを差し出したではないか。さらにこのお転婆娘はそれをも食べてしまいました。
「パンケーキ? これが? 彩葉のと全然違う!」
あ終わったなこの子。多分後で月までぶっ飛ばされんじゃないのマジで。
この状況には流石の姉ちゃんも意識がトンでしまう。 しかしそこは超人。最速で復活しフォローを入れようとする。
「いや! 友達っていうか… えっと… あの…」
だが、
「月から来たの!」
その努力も虚しく、むしろさらに負担が増えてしまった。
「つ、築地だよね! 私のいとこ!」
おいおいそれは無理があるだろ。
「わぁ〜、おいしいお寿司屋さん教えて〜」
スゲェな諌山さん。この状況でもグルメ脳。
「お名前は?」
綾紬さんがそう聞いてきた。常識的でよかった?のか?
ーーん?名前? やべ、そういえばそれ忘れてた!!灯台下暗しがすぎる!!
考えろ… 考えろ… あの子は…
ーーあ、そうだ。
「'かぐや'。 それがこの子の名前です」
(推定)かぐや姫なので、安直ながらこう名付けさせてもらった。とっさにこうしちゃったけど、ホントはもっとちゃんと考えたかったな… それこそ、この子がちゃんと家にいてくれれば、俺たちが帰った後にでも決めようと思ってたのに。 まぁそんなこと言ったって今更どうしようもないけど。
「かぐや? かわよ〜」
よし諌山さんは攻略。綾紬さんについてはまた後日なんとかしようか。と思ったその時、
「ね?かぐや?」
姉ちゃんがかぐやちゃんを呼ぶ声が聞こえた。まるで圧をかけてるかのようだ。
「かぐや? かぐや かぁ〜 エヘヘヘ〜」
嬉しそう。本当に良かった。
その後姉ちゃんが爆速でパンケーキを食べ、かぐやちゃんを引っ張りながら店を出た。
「…会計、済ませましょうか」
ひとまずこの凍り切った空気を変えよう。
「「…そうだね」」
綾紬さんたちは困りながらもそう言った。
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※彩葉視点
私はとりあえずこの子ーーかぐやを連れて店を出た。当の本人はというと、
「いや〜 さっきの建物の中涼しかったね。あれ彩葉の家でできないの?」
などとふざけたことを抜かしている。
フーッ。さて…
「正気!? 正体バレたらどうすんの! 何で家から出てくんの!?」
お説教だ。だがかぐやは、
「だってつまんないんだもん」の一言であしらいやがった。
「あのね、そんな風に生きてると自滅するよ? 時には我慢ってもんも必要で…」
言いかけたところで口が止まる。
その時、こちらに向かって走る人の姿が映った。
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※朔久視点に戻る
俺は素早く会計を済ませ、姉ちゃんの元に向かった。綾紬さんたちとは会計を終わらせたあと爆速で別れた。
「姉ちゃん! 大丈夫!?」
開口一番こう問う。
「うーん、大丈夫ではないかな…」
まぁそうだよな。その時、
「ねぇねぇ、これどうやって使うの?」
と『スマコン』を手に握りながらかぐやが尋ねた。
『スマコン』とは"スマートコンタクト"の略称であり、『ツクヨミ』という昨今人気が爆発している仮想空間にアクセスするために必要なモノだ。AR機能などを初め多数の機能が搭載されていて、文字の通り便利だ。だが、便利は有料とはよく言ったものだ。やはり高価。
「ん? 私の『スマコン』?持ってきた?」
そりゃそうだろと思っていたが、返答はーー
「彩葉のノートPCで買えた!」
ーーは??? はぁ?? いやいや待て。予想外がすぎるぞ。
姉ちゃんが焦ってスマホを確認すると、ウォレットの預金残高が十二万四千四百(124400)円減っていた。その時の表情は絶望の一言だった。
さっき『スマコン』は高価だと言ったが、コレは下手な家具より高い。
「死ぬ気で貯めたんですけど… 死ぬ気で貯めたんですけど!」
姉ちゃんは絞り出すような声でそう言った。
これには流石のかぐやちゃんも大焦り。
「えっと、なんか銀行?のデータ書き換えればウォレットの数字増やせるっぽかったよ? やる?」
おいそれって、サイバー犯罪…だよな?
「ダメに決まってるでしょ! 絶対、しないでよ!」
本当に
その後帰宅したら、
「じゃーん!」
と言った後かぐやちゃんがちゃぶ台の上に置いてある料理の説明を始めた。
曰く、生のとうもろこしから作ったポタージュ・新ごぼうとアスパラのサラダ・ズッキーニのソテー・そしてメインにトマト煮込みハンバーグ とのことらしい。
ハンバーグ… テンション上がるなぁ!!楽しみ〜。
あ、ちなみにこの食費も姉ちゃんのウォレットからイカれた。後でこの分は払っとこっと。姉ちゃんには悪いけど、流石に今スマコン代を払えと言われたらキツイ。
「どや!」
とかぐやがピースサインと笑顔を浮かべる。ホント勝手にウォレット使った"以外"全て完璧だな。
そんな中、姉ちゃんはあまりの衝撃に凍りついていた。かぐやちゃんが無理やり食べさせた。結果、
「お金がないのよ… 貧乏なのよ…」
「こちとら必死に学費稼いでんのよ…」
姉ちゃんはおかしくなった。
もう一口放り込んだら、
「何なのよ、うまいじゃないのよ。 何なのよあんた」
「久しぶりの美味しいご飯で体が喜びに満ちていくじゃないのよ…」
こうなった。
あれ?最後に美味しいご飯食べたのっていつだったっけ… もう忘れちゃったな。多分上京前なのは確かだが。
さて、話を戻そう。 姉ちゃんはいつぶりかわからない美味しいご飯を食べ、無事とろけて、こう吐き捨てるように言いました。
「悪魔」と。
「悪魔じゃないよ、かぐやだよ!」
このかわい子ぶってる感じーー本当にこの子は本質的にはまだ子供だな。見た目はもう中高生くらいっぽいけど。
「ムカつく… クソッ、ムカうまい」
結果、無事姉ちゃんは負けました。
ちなみに俺もこの光景を見届けた後頂いたけど、めっっっちゃうまかった。この子がいれば料理は問題ないな。
「あのさ、マジでここでは匿えないよ? ただでさえ親に無理言って一人暮らししてるんだし」
膨れたお腹をさすりながら姉ちゃんはそう言う。
だが、かぐやちゃんはその言葉を意に介さず目を光らせながらパソコンをいじっている。なんかこの姿、昔ピアノ弾いてた姉ちゃんと重なるな…ってそんな場合じゃない。 今はかぐやちゃんがなんかヤバいことしようとしてないかの監視をしないと。
彼女がパソコンで何をしているか正確には把握できないが、これは…恐らくサイバー犯罪とかの類ではないな。なら最早パソコン壊さなければ何でもいい。
おもむろに、「できた〜!」というかぐやちゃんの声がした。
「まさか、サイバー犯罪とかじゃないですよね!?」 姉ちゃんもやはりその可能性を危惧しているか。
「携帯ゲームキット買ったんだ! これで犬
なんかそれ、名前に っち がついてるあの世話しないと死ぬ地球外生命体と似てない?
そしてこの感じ… かぐやちゃん、ここに一生住む気か?
その後少し話を聞いたが、どうやら実際そうらしい。
うーむ、困ったな。一生は流石にキツイぞ?だが万が一今この子を放り出して誰かに捕まったらどうなる? …おそらく解剖コースだな。
などと思考を巡らせていたら、姉ちゃんが観念したように
「迎えが来るまででいいのね?」
といった。 あれ、意外とすんなりいったな。
「いいの!?」
かぐやちゃんもこの反応である。だが、やはり世の中タダはない。
姉ちゃんが指で数字を刻みながらこう言った。
「目立たない、許可なく外でない、私の邪魔しない」
「これ守れるなら家いていいよ」
なるほど、やっぱりそう来るよな。かぐやちゃんは色んな意味で危険な存在だ。だったら外に放り出さない方が何事も起こらず済む。
それは確かにそうだ。でも、いつこの子に迎えが来るかわからない。その上、恐らくそのやり方はーー
「じゃあかぐやはどこにも行けず楽しみもなく、ずっとこのままってこと〜?」
当然この子の負担にしかならない。この子がそういう状態をよしとする子ならもしかしたら可能だったかもしれないが、生憎この子はそうじゃないからな… どうしたものか。
「自分でハッピーエンドにするんでしょ?巻き込まないで」
あれま、姉ちゃんの返答はコレか。となると姉ちゃんの協力は望めないかな。
だが姉ちゃんはかぐやちゃんのおねだりに弱いらしく、
「彩葉、一緒にハッピーエンドいこ? おねがい」
とあからさまに'かわいく'言われたら姉ちゃんは口笛を拭いて誤魔化すしかできない。
「ちょっとー! 無視するの禁止!」
その時、不意に午後七時半を告げるアラームの音が聞こえた。あれ?これってーー
「あー! この時間までに予習やるつもりが…」
…やはりかぐやちゃんの存在は俺たちの生活に良くも悪くも変化をもたらすだろうな。
「何!? またかぐやを置いてくの? この映えないつまんない家で、かぐやは一人で…」
悪かったな、映えなくて。
「マジで迎えが来るまでだからね、いい?」
「そうだ、食費は定額制!」
うわ、増えた。
「それとかぐやちゃん。姉ちゃんは『ツクヨミ』に行くだけだよ。かぐやちゃんもスマコンを持ってるわけだし、一緒に行ったら?」
「あー、そうじゃん… じゃあ準備しよっか」
その後俺含め全員スマコンを装着し終えた。
「いくよ。せーの」
姉ちゃんの合図を聞いて俺も目を閉じる。その瞬間、宇宙を模したようなモーションが視界に広がった。
それを抜けると、限りなく続く浅い湖に行き着いた。数多の灯籠が水面上にあり、大きな赤い鳥居も目につく。 そんな景色が広がる夕焼けの空の下で、ヤチヨさんの声がした。
補足:
かぐやを名前呼びしてる理由: 実質苗字がないから。
通常運転の朔久視点の地の文での彩葉の呼び方はこの回から「姉ちゃん」に統一します。
小説だとアラームは午後八時半になっていますが、ここは映画に合わせました。(ヤチヨのミニライブが午後九時からなことを考えるとこっちの方が妥当と判断。あと映画寄りに作る方がやりやすいと考えたのもある)
さっくー: 真美考案の朔久くんのニックネーム、シンプルオブシンプル。