お気に入りも4……!!
大変ありがとうございやす……へへ…。
「はぁ……」
魔王の玉座で1人、静かにため息が出る。
息を吐くと同時に赤と紫の髪が揺れ、鼻腔をくすぐり更に億劫な気分になった。
退屈。
その一言に尽きた。
魔王。それはこの魔の者たちを統べ、祖先の悲願を叶える
私は歴代魔王の中でも随一と言われる才があり、実力もあった。
現在は北にあるこの魔領域と人間領域で戦争が起こっているが、私が出ればすぐに肩がつくだろう。
ただの脆い土塊に触る、ただそれだけでこの戦争の全てが終わるのだ。
だが、私はそれをしない。
何故なら私個人にそれをする理由がないのだからだ。
だけど私は何もしない訳ではない。
数年から数十年に一度、勇者と言う称号を持つ物が生えてくるらしい。
その人物は人類の希望などと比喩され、強い正義感と実力で魔を取り除くために、この私の元へ来るのだと伝承されている。
私はこの勇者を倒す為に動く。
両者の希望が一騎打ちで戦う、それが圧倒的な実力を持つ私の責任であり、この世界の輪郭を壊さない唯一の行動なのだ。
圧倒的な実力を持った責任を果たすため、私は無意な戦闘を避け、勇者という私と同じ境遇の者としか戦わないと決めた。
この私を倒してくれる奴が数十年に一度やってくる。
この私を倒せる奴が!
……と、数十年前の私はそんな強者への出会いに想いを募らせていた。
結論から言う。そんなのは幻想で、リアルはとてもつまらなく、フィクションである事だと分かった。
1人、自らを勇者と名乗る男が来た。
私の小手調べの軽い拳で死んだ。
1人、自らを勇者と名乗る聖剣を持った男が来た。
今度は実力がある者だと期待した。
勇者は聖剣を振りかぶり、私に攻撃をした。
この肉体に血が出るのに期待し、私は無抵抗にその攻撃を受けた。
が、聖剣を握った男の攻撃は血どころか痛みすらなく、またも軽い拳で死んだ。
今度は前線まで身を動かし、準備ができている勇者と戦おうとした。
今までは敵前線で疲労していたのだと思い込んだからだ。
が、私の放つ瘴気に耐えられず、またもや勇者は死んだ。
どんなに正義感が強くても、
どんなに魔を払う剣を持っていても、
どんなに準備が万全でも、
誰も私に傷をつけれなかった。
絶望した。
なんの意味があって私はこの世に生を受けたのかと。
ただなんの意味もなくこの世界に暴力を振るうためだけに存在したのかと。
私は人間に対して憎悪を感じない、ただ魔として生まれたから敵対しているだけであり、大して敵意はないのだ。
ある意味人類の技術や文化、協調力の高さには目に見張る物があり、尊敬すらしている。
だが人間はあまりにも脆く儚い。
私が触れれば死ぬ、私がそばに近寄れば瘴気に侵され死ぬ。
周りの魔族も私の圧倒的な強さに怯え、近づくものすら少なかった。
すでに私が思う人や魔物の気持ちは、同族が同族に抱くモノではなく、花や虫なんかに抱くそれに近かった。
理解はできず誰も私に共感もできない。
そんな圧倒的な差の感覚だった。
私はそれ以来、勇者に期待することはなく、魔王の席で静かにただ小さい平穏の中過ごした。
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——ある日、化け物と会った。
ガコンと、
久しぶりにこの玉座の前に
見るからに人間、それも二十代半ばの青年だ。
サラついた黒髪に、髪の一部が三つ編みになって掛かっている。
男性で見ない髪型だ……流行っているのだろうか?
瞳は緑色。
足元付近が霞んで見えずらいが、多分精霊あたりの何かだろう。
私は精霊を見る才能がなかった。
右手にナイフよりも長く、普通の剣よりは短い独特な短剣。
この王室まで辿り着いたのはこいつが初めて……いやよそう、期待してもどうせ無駄だ。
男はなぜか周りを見渡し、少し疑心を孕んだ瞳で私に言ってきた。
「魔王って女……しかもこんなちっさかったのかよ」
「勝手に入った割には不躾だな人間、ここに来たという事は勇者という認識で問題ないのだな?」
「あぁうん、勇者勇者、にしても魔王がこんな可愛いとは思わなかったよな?」
男は足元付近の精霊にそう喋りかける。
なんだこの男は?
今まであったどの勇者よりも実体が掴みずらい。
まあ、そんな事はどうでもいいか、どうせ死ぬんだ。
私はジャラついた玉座から立ち上がり、小綺麗にされている動き辛そうな服のまま、男の前に立つ。
「おい人間、お前、私の瘴気が平気なのか…?」
「ああ、これぐらいなら全然。それより、早く来いよ待ってんだからさ」
少しカチンときてしまった。
今まで一度も私の願望を叶えられなかった癖に!
そのせいでつい、力の制御を間違えた。
本当ならいつもの通り小手調べの一撃を放つのだが、今放っているのは本当に殺す為の一撃。
絶対に耐えられない、というか、避けても風圧で死ぬだろう。
そんな一撃。
パシュッ
……は?
私が放った拳は、ただ軽く殴ったかのように男に左手に受け止められた。
「なんだ、魔王ってこのレベルか」
この時、私は人生で初めて怖じけた。
左手で拳を受け止められ身動きが取れぬまま、右手に持っていた剣で首を軽く跳ねられる。そんな死のイメージが……湧いた。
瞬間的に距離を取り、そのような状態になは幸いならずに済んだが、強烈な死のイメージのせいか、一度、首筋を摩る。
……血?
切れていた。
あの一瞬で?
人生で初めての出血だった。
一度視線を男に向けると、なんとまあ楽しそうなことか、和かに笑顔を浮かべ、この世の物とは思えぬ地獄を精霊を使って具現化させていた。
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「いやー強いなお前! こんなに強い奴とやったのは初めてだ、ははっ!」
「……」
あれから数分、訳も分からず
敗北した? のだと思う。
気づいたら地面に大の字で倒されており、体は傷だらけだった。
多分頭に攻撃でも喰らって意識が混濁している所為だ。
「ま、負けた……?」
謎の余韻に浸り終わり、意識が正常に戻る。
負けた?
この私が?
初めて……体に傷も……。
気づくと、目から大粒の涙が溢れていた。
「ふっふぐっ……」
「ど、どうした急に!? そんなに負けたのが悔しいのか?」
「いや…違う…違くはないけど……その…とりあえず、今まで生きててよかった……!」
生きててよかった。
諦めなくてよかった。
私に、生きる意味があった。
ただ無作為に生まれた、意味のないものじゃなかった。
その事実に、私は涙が溢れた。
悲しかったんじゃない、嬉しかったんだ。
ずっと孤独だった中、共感者が現れた。それがただ、嬉しかった。
その後無我夢中で泣き続け、泣き終わるまでに数十分を有した。
「まあ。あんまり掛ける言葉がないんだけど……取り敢えず元気出せよ」
気づいたら、私は勇者の男に背中を摩られ、慰められていた。
「あー孤独ねぇ、まあ、そういう時は変に肩肘張らずに身の丈にあった生活するのが一番だと思うぜ、どうせいつかは死ぬんだから」
「身の丈……よく分からん」
「まあそんなすぐわかるものでもないしな、っと、俺はもう帰るから」
男はそのまま何もせずに帰ろうと、王室の扉を開けて帰ろうとした。
私はその奇天烈な行動に驚き、素で話しかける。
「お、おい!? お前、私を殺さないのか?」
「……別に? 話聞いた感じ悪い奴じゃなさそうだし。じゃあな」
そのまま、男は姿を消した。
少し、頭を冷やすためにボーとする。
何分経ったんだろう。
数分、数十分、もしかしたら数日が経っていたかも。
思考が纏まり最初に思いついたのは、また会いたいだった。
人生で初めてのリベンジができると思ったから。
と、その時はそういう都合の良い言い訳を考えてその男の家に向かった。
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「配下の情報だとここか……」
草原、周りは猫じゃらしのような草が生え茂っていた。
だが、その真ん中だけは刈られており、丸太を駆使した木造の家がポツンとあった。
ここは人間領域と魔族領域の間、唯一の中間地点だ。
「……なんて話そう」
ここに来て悩む。
なんと話しかけて開ければいいのだろう。
魔道具の鈴を鳴らすか?
いや、私は魔王だぞ?
そうだ、私は魔王なのだ。魔王なら魔王らしくドアを蹴破ろう。
そう思い立ち、私は強く、ドアを蹴破る。
ガシャンと響き渡る音を立て、破片状になってドアは消えた。
「人間、この私自ら来てやったぞ、次は負けない。さあ私と勝負し………」
土煙から出るように家に入り、声を掛けようとした。
が、殴り飛ばされた。
「こんのクソ野郎!! この家作んのに何時間掛かったと思ってんだァアァ!!」
私はその時、初めて痛みで気絶した。
ほっぺが痛い。
魔王。常識人枠、ダウナー系の顔。普通と言うものに憧れてる。