境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー 作:女にだって二言はないぜ?
続きが読みたいのならお気に入りを…!
意識がハッキリした瞬間、私は心の中で盛大にツッコミを入れていた。
(いや、どこだよここ!!!)
手足は自分の意志で全然動かないし、言葉を発しようとしても「あぶー」とかしか言えない。赤ちゃん…だよな?何これ、これが噂に聞く異世界転生ってやつ? マジで言ってる?
先に言っておくけど、居眠り運転してたトラックに跳ねられそうになってた猫を庇っただとか、通り魔に刺されたとか、目が覚めたら神様的存在に異世界に行くように言われたとか、そういうことはなかった。
最後の記憶に残っているのは、いつも通り病室のベッドの上で漫画を読んでいたことと、耳をつんざくような…体の異常事態を知らせる機械の音。
なんで死んだのかって言われたらそりゃ、病気のせいだろう。生まれながらに体が弱く、吐血だって何回もしたことがあったし。
…まぁ今は前世の死因なんでどうでもいいか。
パニックになりかけて全霊で「オギャア!」と叫んだ瞬間、視界のモヤが晴れて、すぐ目の前にものすごい美人の顔が飛び込んできた。
「生まれてきてくれてありがとう…!本当に、本当によかった…!」
え、めちゃくちゃ泣いてる。しかも、世界中の何よりも優しそうな、綺麗な声。 豊かな亜麻色の髪に、吸い込まれそうな深い緑色の瞳。その美人が、私を壊れ物みたいに両腕で抱きしめて、大粒の涙をボロボロ流している。
驚きはこれだけじゃ終わらない。 母さん(恐らく)の腕の中で、私のすぐ隣から、もう一つの小さな泣き声が聞こえてきたのだ。
「オギャア! オギャア!」
え、何? と思って視線を巡らせると、そこには生まれたての産毛みたいな金髪を揺らし、顔を真っ赤にして泣き喚いているもう一人の赤ん坊がいた。
その小さな手は、空中を泳ぎ、切実に温もりを求めるように__私の小さな手のひらを、ぎゅっと、壊れないほどの強さで握りしめてきた。
(か、…かわいい…!!!)
私は絶句していた。一人っ子だった上に病室暮らしだった私はほとんど初めて赤ん坊を見た。赤ちゃんってこんなにかわいいんだ…。
私が赤ん坊を見つめ返していると、赤ん坊に母さんが言う。
「エドワード、この子はアリス。貴方の双子の妹よ。」
なるほど。この子が双子の兄で、名前は『エドワード』で、私が『アリス』か。まさか有名な童話の女の子の名前を授かってしまうとは。
☆
そんなわけで、私の新しい人生が華々しく(?)スタートした。 生まれ育ったリゼンブールっていう田舎町は、前世の病院の天井とは比べものにならないくらい、びっくりするほど綺麗だった。
ハイデリッヒの丘に広がる青々とした草原とか、吹き抜ける爽やかな風とか、建造物と言えば羊の柵くらいしかないのどかすぎる場所だけど、元・病室暮らしの私からすれば、外の空気を吸って五感で世界を楽しめるだけで、毎日がディズニーランド状態なわけ。まぁ行ったことないですけど。
何より、母さんはめちゃくちゃ優しいし、父さんは…あんまりわかんないけど、双子の兄のエドは生まれたあの日からずっと私にベタベタのシスコンだし。私が後ろをついてきてなかっただけで泣き出すんだよ?
これも反抗期になったらなくなるのかなぁ…。
一人っ子だった反動もあって、私は毎日「私の家族、最高すぎでは……?」と限界オタクみたいに悶絶していた。
…だけど、1歳、2歳、と成長するにつれて、私はある「かなり焦る事態」に直面することになる。
(……あれ? 私、前世でなんて名前だっけ……?)
そうなのだ。赤ん坊の脳が成長して、この世界の言葉(アメストリス語)をどんどん覚えるのと引き換えに、前世の記憶が恐ろしいスピードで消え始めていた。
最初はハッキリ思い出せたはずの、前世の自分の顔、年齢、通っていた学校、日本の街並み、病室で読んでいた漫画のタイトル……そういった「向こうの世界の記憶」が、まるで指の隙間からこぼれ落ちる砂みたいに、サラサラと消えていく。
必死に思い出そうとしても、霧がかかったみたいに何も見えない。
気づけば、私の頭の中に残された前世の遺産は、『私は一度違う世界で病死して転生した』という事実と、ちょっと冷めた現代人としての思考のノリ、それから病院のベッドで叩き込まれた「勉強のやり方」のコツだけになっていた。
普通なら大パニックになるところだけど、不思議と絶望はなかった。 だって、その消えゆく古い記憶の代わりに、私の頭の中は「母さんやエドたちへの愛」で、とっくに120%満たされていたから。前世の名前なんて忘れても、今の私はエルリック家のアリス。それで十分でしょ?
「あっち! ありす、あっち!」
1歳を過ぎて、よちよち歩きができるようになったエドが、短い手を一生懸命に伸ばして草原を指差す。そして案の定、豪快にすっ転んで鼻の頭に泥をつけた。
……あーーー、もう! 片言で私の名前呼びつつ泥だらけになるとか、我が兄ながら犯罪級に可愛いなチクショウ!!
私はクスッと笑いながら駆け寄り、自分の小さな袖口で彼の手や顔の泥を優しく拭ってあげる。
「まぁ、エドワード!泥だらけじゃない。また転んだのね?」
母さん__トリシャ・エルリックが洗濯かごを置いて、微笑みながら草原まで歩いてきた。母さんは今妊娠中で、私とエドは弟なのか妹なのか毎日ソワソワしている。
家事を手伝ってあげたいところだけれど、こんな赤ん坊が何か出きるわけもなく。とりあえずエドの世話を見ている。
「もー、えどはもっとしんちょーにうごかなきゃめっ!だよ?」
「しんちょー?」
「アリス、難しい言葉を知っているのね。どこで覚えてきたのかしら…?」
心底不思議そうな顔で頬に手を当てて考えている母さん。
なんででしょうね。まぁ、転生者だから!とか口が裂けても言えないからなぁ。
舌足らずだけどしゃべれるようになってきて、危なっかしいエドに注意してたら、母さんとか近所の人に天才だと言われるようになってしまった。照れちゃうなぁ…
☆
それから、私とエドが1歳になった頃、新しい家族が増えた。ひとつ年下の弟、アルフォンスの誕生だ。
私とエドが2歳、アルが1歳になった頃のエルリック家が、どれだけお祭り騒ぎの戦場になったかは、想像に難くないだろう。アルがよちよちとハイハイを始めると、エドのわんぱくっぷりもさらに加速した。
「ねーちゃ、あーんちて!」
「おいアル!アリスは俺のだ!!」
「やー!ねーちゃ、ぼくの!」
「私はアルのものでもエドのものでもないよ…」
わんぱく男子どもから引っ張りダコにされる日々。
2歳児アリスちゃん、まさかのモテモテで困ってます。甘えん坊なアルに嫉妬したエドが大人げなく(兄気なく?)対抗している。かわいいなおい。
幼なじみのウィンリーとも仲良く、四人で元気に遊び回る。エドとアルのしょーもない喧嘩にウィンリーと呆れながらも、毎日楽しく過ごす。
母さんはいつも嬉しそうに「元気ねぇ」と見守ってくれていた。前世でずっと孤独な病室にいた私にとって、こんなに温かくて騒がしい日常は一生続いてほしいと願うレベルの宝物だった。
__だけど、神様はどこまでも意地悪だ。
私とエドが3歳、アルが2歳になり、エドたちも少しずつ言葉がハッキリしてきた頃。私はどうしても、「
最初の何話かはテンポ早めです。早く山場が書きたくて…。