境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー 作:女にだって二言はないぜ?
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●月△日、国家錬金術師試験会場
「受験番号42番」
呼び出された声に、周囲の大人たちが一斉にざわついた。
現れたのは、彼らの腰ほどまでしか背のない、わずか9歳の少女だったからだ。少女の顔の上半分は、深い闇のような黒い目隠しで覆われている。
まだあどけない雰囲気を発しつつ、年にそぐわぬ静かな表情。美しいシルバーヘアに黒いリボンがつけられ、ふわりふわりと揺れる。
そして、ブラウスの袖から覗く右腕は、鈍い銀色の光を放つ
「おいおい、軍部もついに焼きが回ったか?まだ子供じゃないか…… 」
「しっ!お前、今の発言はヤバイぞ…」
「はぁ?なにがだよ」
「あの子、ブラッドレイ大総統が推薦したって噂だからな」
「大総統が!?」
このように小声で色々な推測が飛び交う中、少女は表情一つ変えずに歩を進める。そして、指定された場所__キング・ブラッドレイ大総統の前に立った。
「何か錬成陣を描くものは持っていますか?」
「いえ、必要ありません」
横にいる試験管が頭にクエスチョンマークを浮かべているのもお構い無しに、少女は大総統の「始めたまえ」という言葉で一歩前に踏み出した。
瞬間、会場が目映い光に覆われる。
そしてその場にいた皆が目を開けたとき、そこにあったのは__
「鉄の薔薇…?」
「錬成陣も無しに!?」
鉄の薔薇の花束だった。細部まで再現されており、一目で術者の技量が理解できるほど、洗練された錬金術。試験管の言う通り錬成陣も描かず、爆発音もない。静寂と光の中、現れた錬成物。
「……見事だ」
騒音を切り裂くように、ブラッドレイ大総統の拍手が響いた。彼はゆっくりと立ち上がり、少女を見下ろす。その唇は、愉悦に歪んでいた。
ブラッドレイは手元の書類に、力強く新たな二つ名を書き込む。
「アイリス。君に国家錬金術師の資格と、二つ名を与えよう」
少女、アイリス・ブラッドレイに与えられた二つ名は『境界の錬金術師』。
後に
☆
無事に国家錬金術師試験に合格し、『境界の錬金術師』という二つ名と国家錬金術師の証である銀時計を授かった私、アイリス・ブラッドレイことアリスは地下に戻りお父様達に報告する。
ちなみに『アイリス・ブラッドレイ』というのは偽名である。本名だと動きにくいし、大総統夫人にはラース…大総統と親戚ってことにしちゃってるから。
夫人はアリスちゃんって読んでるじゃんって?それは愛称ってことにしました。
「お前なら余裕だろうと思っていたよ」
「当然です。お父様」
当然余裕なんてなかったし、大分緊張したよね。ラースが見ててくれたから安心したけど、錬成陣無しで錬成って怪しすぎ!とか言われて解剖されたらとか考えちゃったもん。
まぁその時はお父様がなんとかするだろうけど。
お父様と話し終わった後、他のホムンクルス達が駆け寄ってくる。犬かなコレ。うん、みんな犬だ。
「お疲れ様アリス。最年少記録更新だってラースが言っていたわ。おめでとう」
「ありがとう、ラスト」
「やるじゃん。どう?国家錬金術師になった気分は」
「重いよエンヴィー…そうだなぁ、嬉しい…のかも?」
しがみついてくるエンヴィーを引き剥がしながら答えるも、正直微妙な気持ちだ。軍の犬になったからには戦場にも出なければいけない。私に、人の命を奪う覚悟があるのか。
あるのかどうかじゃなく、やるしかないんだけどね。お父様の命令は絶対。それが私たちのルールだから。
国家錬金術師のなんたるかみたいな説明書を読む。
国家錬金術師の禁則。人を作るべからず、金を作るべからず、軍に忠誠を誓うべし……か。
人を作るなんて怖いこと、誰がするのかね。心理のヤローにいっぱい持ってかれそうな案件である。金に関しては今までも問題なかったけど国家錬金術師になった今はガッポガッポ(言い方)だし。
忠誠心がなくても反逆心もないし、まぁ大丈夫でしょ。
☆
夜、またまたDinnerに誘われた私はブラッドレイ大総統の邸宅に訪れていた。夫人に国家錬金術師になったことを報告すると、また今度お祝いしなくちゃね、と言ってくれた。
「あぁそうだ、夫人」
「なぁに?アリスちゃん」
「これ…」
私が差し出したのは試験で錬成した鉄の薔薇。日頃の感謝も込めてね。地下でほぼ監禁状態(勉強と戦闘のルーティーン)だった中、普通の子供として接してくれる夫人は私の心のよりどころだったから。
夫人は嬉しそうに受け取ってくれた。
「ぼくにはないんですか…?」
と、セリム君ことプライド。あんたもいるんか?取り敢えず薔薇を1本差し上げちゃう。夫人の前だから、仲の良い従姉弟みたいになってるんだよなぁ。
色が欲しいと頼まれたので赤にした。ついでに夫人の方も赤く染め上げた。やっぱり薔薇は赤が綺麗だよね。私はもう見えないけど、色の染め方を『理解』していればお手の物ですよ。
豪華な食事も食べ終わり、すっかり外も真っ暗になった。
ラースとプライド、夫人の3人に見送られながら地下に帰る。
自室にはもう軍服が置いてあり、明日から勤務。明日は何やら知らせがあるらしく、朝早くから出勤して集合ってさ。一応初日なんですけど。
朝弱いんだよな私……、エンヴィーに起こしてもらおっと。
※ホムンクルス達からの愛され表現が上手くいかない件について。