境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー 作:女にだって二言はないぜ?
思っていたよりたくさんの方に見てもらえているようで嬉しいです。
「…話さなければいけないこと?」
父さんの言葉を復唱する。
私は唾をのみ込み、父さんを静かに見つめた。
「あぁ、お前にとって大切なことだ。本来なら3歳児に話すようなことじゃないが、お前なら理解してくれる気がしてな。…聞いてくれるか?」
もちろん、と伝わるように私は力強く頷く。
父さんは優しい声色で話し出すが、真剣に言っていることが伝わってくる。
どんと話してみるといいさ。覚えてないからわからないけれどもしかしたら私の方が年上だったりしちゃうかもしれないしね!
「……まずは、俺の話をしよう。アリス、俺は__約400年以上生きているんだが__」
「……?」
前言撤回。突然なにを言い出した?この人は……?
私が前世で100歳ぐらいまで生きてたお婆ちゃんとかだったとしても全然足りんやん。年下やん。てか父さん人間じゃない感じ?
明らかに思考が止まっている私に気がつき父さんの口が止まる。
「…驚くのも無理はない。まぁその、理由があってな。それは長くなるからまた今度話そうか。今日話したいのはお前の体のことだ」
「ここ最近で、何か体について気がついたことはないか?」と、父さんが私に尋ねる。これは今話した方がよさげな感じだな。
「父さん、私前盛大に転んで足に怪我した時ね、傷口がぶわー!って赤く光ってみるみるうちに治ったの。本で指を切っちゃったときも、一瞬で。これっておかしいよね…?それと、なんだか体が…心が重い感じがするの」
父さんの顔が曇っていく。「あぁ、やはり…」と小声で呟きながら、心底申し訳なさそうな顔で私をまっすぐと見た。
「すまないアリス、俺のせいで…!」
「お父さん…?」
「アリス、お前は私と同じ__
「???」
いやガチ目に。この人何言ってんの?
賢者の石って、錬金術の本に書いてあったやつ?なんか、等価交換の原則を無視できるみたいな…。私が…?
またまたクエスチョンマークになっている私に父さんは続ける。
「賢者の石はな、生きた人間の魂を抽出して凝縮した実体化エネルギーのことだ。つまり、俺と__お前の体には幾万もの魂が植え付けられている。……人間じゃないんだ。」
父さんの口から出たその言葉は、私の頭を鈍器で殴りつけるには十分すぎる破壊力を持っていた。
(……??? いや、ちょっと待って。人間じゃないって、じゃあ私はなんなのさ。新種のUMAか何かってこと!?)
脳内がパニックで大爆発を起こしている私を置いてけぼりにして、父さんはどこか遠くを見るような目で、さらに信じられない説明を続けた。
「本来、賢者の石は人工的に造られるものだ。だがお前の場合は違う。お前は、俺の……『賢者の石』としての濃すぎる血と遺伝子を引いて生まれてきた。普通なら、そんな規格外のエネルギーを注がれた赤ん坊の肉体は、中身の魂が耐えきれずに壊れてしまう。……だが、お前の中にある『もう一つの強力な魂』が、その膨大なエネルギーを奇跡的に全て押さえ込んで、自分の肉体として定着させてしまったんだ」
「もうひとつの、たましい……」
それって、完全に前世の私のことじゃん。 生まれつき体が弱くて、病室のベッドの上でずっと死ぬのを待つだけだった、あのちっぽけな私の魂。
あの孤独な前世の魂が、まさか異世界に来て何万人分ものエネルギーをねじ伏せるほどの「ストッパー」になってただなんて、どんなジャンプの主人公だよ。
「お前の傷が一瞬で治ったのは、お前の中にある幾万もの魂が、お前の肉体を維持するためにエネルギーを消費して、細胞を強制的に再生させたからだ。……そして、アリス。お前がエドやアルと手を繋いだ時に感じる『重み』……。それは気のせいじゃない。お前の魂の質量そのものが、実際に何万人分もの重さを持っているからなんだ」
繋がった。全部繋がってしまった。 体重計の数字は普通なのに、内側だけがズッシリと重かったあの不気味な違和感。傷口が赤く光って一瞬で消えたあの超常現象。
父さんの言葉が、容赦なく私の「人間でいたい」という願いを粉々に砕いていく。
病気にならないのは、前世の私からすれば正直めちゃくちゃありがたい。吐血もしないし、ベッドの上で苦しまなくていいなら最高だ。
だけど、エドやアルは、これからちゃんと時を重ねて大きくなって、大人になっていく。なのに、私だけがいつか成長を止められて、一人だけ「違う生き物」としてエルリック家に残される……?
(嫌だ……。そんなの、絶対に嫌だ……!)
私の小さな手が、恐怖でガタガタと震え出す。エドと全く同じ身長で、同じ目線で笑い合える今のこの幸せが、私の身体のせいでいつか壊れてしまうかもしれない恐怖。
そんな私を見て、父さんはさらに酷く曇った顔で、心底申し訳なさそうに私の小さな両肩に手を置いた。
「アリス。さらに、お前に伝えておかなければいけない、最も危険な話があるんだ」
父さんのトーンが、さっきよりさらに一段、重く暗いものに変わる。
(え、ちょっと待って父さん。賢者の石です、人間じゃないです、将来成長止まります、のコンボだけでもお腹いっぱいなんだけど。これ以上まだヘビーな情報残ってんの!?)
脳内で悲鳴をあげる私をまっすぐ見つめたまま、父さんは私の小さな両肩を、まるで諭すようにしっかりと掴んだ。
「お前の中にあるその『質量』……強大な賢者の石の気配は、いつか必ず、俺と同じ姿をした……あるいは俺と同じ血を持つ『奴ら』に気づかれる」
「奴ら……?」
「あぁ。俺の片割れであり、この世界の裏で暗躍する
あまりにも理不尽なその宣告に、一瞬で頭に血が上りそうになる。だけど、父さんの眼鏡の奥の瞳が、恐怖とかじゃなくて「本当に申し訳ない」という、押し潰されそうな罪悪感で濡れているのを見て、言葉が詰まった。
「奴らにとって、お前は最高の
繋がった。またしても、最悪な形でピースがハマってしまった。 私の存在そのものが、大好きなエルリック家にとっての最大の『時限爆弾』だったのだ。 私がこの家で普通に笑って、普通に人間としてエドやアルと過ごしているだけで、いつかあの可愛い2人が、優しい母さんが、私のせいで化け物に惨殺されるかもしれない。
どれだけ心の中で叫んでも、父さんの言う未来が現実味を帯びて脳裏にチラつく。
ガタガタと震えが止まらない私の小さな身体を、父さんは大きな腕でぎゅっと、壊れ物を抱くように強く抱きしめてくれた。不器用で、感情表現が苦手なはずの父さんの目から、大粒の涙がこぼれ落ちて、私の肩の衣類をじんわりと濡らす。
「すまない、アリス……。俺の呪われた血のせいで、お前にこんな過酷な運命を背負わせてしまって……本当に、すまない……!」
大の大人が、3歳児の私を抱きしめてガチ泣きしている。 その涙の温かさに触れた瞬間、私の中で、何か吹っ切れるような音がした。
パパは私のことを、化け物じゃなくて、ちゃんと「娘」だって思ってくれてる。母さんは私を愛してくれている。エドは生まれたあの日に、私の手をぎゅっと握ってくれた。アルはいつも私の後ろを楽しそうについてくる。
__答えはひとつだ。
「わかった。父さん、私も行くよ」
もっかい言うぞ!
等価交換だ!お気に入りを……!!
追記:ルーキーランキングに載りました!見てくださってる皆様のおかげです。ありがとうございますm(*_ _)m