境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー 作:女にだって二言はないぜ?
これからもがんばります。
気がつけばアリスは、どこまでも白く、何もない、底の知れない空間の中にぽつんと一人で立っていた。
荒野の風の音も、化け物たちの不気味な声も、父親の叫びも、すべてが消失した完全なる静寂の世界。目の前に鎮座する、圧倒的な威圧感を放つ巨大な扉。
その扉の前に、実体を持たない白い影のようなシルエットが、ゆらりと座っていた。
「ようこそ、小さな旅人。いや、異世界からの迷子、と言った方が正しいかな?」
真理の、顔も性別もわからない境界線だけの口が、ニヤリと歪んで嘲笑うような声を出す。その声は、アリスの頭の中に直接響いてきた。
「あなたは……誰?」
アリスは恐怖で震える身体を、前世の荒波をくぐり抜けた大人の理性を総動員して必死に抑えつけ、白い影を正面から見据えた。
「私はお前が世界と呼ぶもの。あるいは宇宙、あるいは神、あるいは真理、あるいは全、あるいは一。そして__私はお前だ」
真理は立ち上がり、アリスに向かって一歩、歩み寄る。
「面白いね。人間離れした膨大な質量を持ちながら、前世の知恵をフル回転させて、自らの意志で世界の境界線を錬成してここまで来るとは。だが、等価交換の法則は絶対だ。神の領域に自ら足を踏み入れたからには、しかるべき『対価』を支払ってもらわねばならない」
「対価……?」
「お前が自発的に行い、目醒めさせた術は、世界を切り裂く『境界の力』。ならば、お前自身からも、世界を認識するための境界を一つ、貰い受けよう」
真理が不気味に指を差した瞬間、ガギィッ、と重苦しい音を立てて、彼女の背後の巨大な扉がゆっくりと開き始めた。中から伸びてくる、ドロドロとした無数の黒い影の手。それらが、アリスの小さな身体を掴み、容赦なく扉の奥の深淵へと引きずり込んでいく。
「う……あ、ああああああッ!!!」
凄まじい激痛が彼女を襲った。ただの肉体の痛みではない。アリスの身体から、世界を形付けるための『光(視界)』が、強引にベリベリと剥ぎ取られていくような、おぞましい感覚。
叫び声は、扉の向こうから溢れ出す圧倒的な情報量の渦にかき消された。脳内に直接、世界の理、宇宙の真理、そしてこの世界の膨大な構造の知識が、肉体の許容量を遥かに超えた
「フハハハハハ! 良い対価だ! お前が望んだ世界の知識と能力だ、たっぷりと持っていけ!!」
真理の狂ったような笑い声を最後に、アリスの意識は深い、深い暗闇の底へと転落していった。
☆
どれほどの時間が経ったのか。世界の真理から引き剥がされ、地下のアジトの冷たい床の上に転がされたとき、アリスは消えゆく意識のなかで、静かに呼吸を再開させていた。目を開けようとしても、何も見えない。世界のすべてが、完全な『漆黒』に染まっている。
(見え…ない、?)
情報の過負荷と能力の真の覚醒を経た彼女の髪は、絹のように滑らかで、つやつやとした、極上の手触りをした白髪。
地下のわずかな明かりを浴びて、キラキラと神秘的に輝く、まるでどこかの神話の『女神』のような、圧倒的に美しくつややかなシルバーヘアへと変貌を遂げていたのだ。
左手にはエンヴィーが奪ったはずのリボンがしっかりと握られていた。
鏡写しだった双子の兄エドワードの面影は、これで完全に消え去ってしまった。
真理が扉への対価として彼女から奪ったのは、世界を認識するための「視力」。
だが、等価交換の天秤はそれだけでは釣り合わなかった。アリスがその場から身を起こそうとした瞬間、右半身に悍ましいほどの喪失感と激痛が走る。
彼女の『右腕』が、肩の根元から丸ごと消滅していたのだ。 体内に宿る無数の魂__『賢者の石』が、主の欠損を埋めようと赤紫の光を放ち、肉体をウニウニと蠢かせようとする。しかし、どれほどエネルギーを消費しても、消えた右腕は微塵も再生の兆候を見せなかった。
ホムンクルスの再生能力をもってしても、世界の理である『真理の扉』に直接没収された肉体だけは、等価交換の絶対ルールの前に、二度と復元することは許されないのだ。
「あ゛あぁぁぁっ」
電撃のように痛みが走る。アリスはその場に蹲り、叫ぶ。耐えるように。長い銀髪に、血がつく。
「まさか、扉を開けたのか!?」
「そのようね。まさか
「……はは、こいつはとんでもない逸材だ」
静かにその場を見ていたエンヴィーとラストが話し出す。そして、エンヴィーがアリスに近づいてきた。
「おーい、聞こえてる?おチビちゃん。あ、見えてない感じ?対価に視力と右腕か。残酷だね~」
「そうねぇ。……貴方、名前は?」
アリスは小さく答える。右手の切断部はすでに修復されていた。痛みはない。あるのは、喪失感だけだった。
「……アリス」
「かわいい名前じゃないの。私はラストよ」
「俺はエンヴィーで、こっちの丸いのがグラトニーだ」
先程まで容赦なく襲いかかってきていたというのに、彼らは随分と親しげに接してくる。 視力を失ったアリスの『
腕を切り落とされたはずの黒緑色の髪の男__エンヴィーは、激怒するどころか、むしろ新しく手に入れた珍しい玩具を眺めるような、歪んだ好奇心の視線をアリスに向けている。
「さ、行きましょう。お父様が首を長くして待っていらっしゃるわ」
ラストが優しく、しかし拒絶を許さない絶対的な拒絶の響きを含んだ手つきで、アリスの残された左手をそっと握った。その指先は驚くほど冷たく、人間のそれとは明らかに違っていた。
「安心しろよ、取って食ったりはしないさ。お前は俺たちの末の妹みたいなもんだからな」
「妹…?」
「ホーエンハイムから聞いただろ?お前は生きる賢者の石だと」
「私たちもなのよ。お父様から作られた、という点は貴方と違うけれどね」
「いもうと、いもうとー!」
(私は、エドの妹でアルの姉だもん__)
アリスはそう言い返したい気持ちを心の奥に閉まった。自身が生きる賢者の石だということが本当ならば、この人たちが言っていることも本当だから。
抵抗したところで勝ち目はないだろう。まだこの状況を把握しきれていないが、本能的に悟ったアリスは大人しく従う。
「ここだ」
エンヴィーが大きな扉を開けた先には、広い空間と__その真ん中に立つ、一人の男がいた。
能力:境界について
・視力を対価にもっていかれた後目覚めた、アリス固有のホムンクルス能力。
・世界の線がはっきりと見えており、星の純粋な流れを読み取り、死角なしで周囲を完璧に把握できる。
※つまり(以前より)見えてます。色はないです。
後々色々発覚させていくので、またアリスのステータスのようなものを出す予定です。今しばらくお待ちください。
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