境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー 作:女にだって二言はないぜ?
ラストという女性に手を引かれ、大人しくついていく。
右腕を失った悍ましい激痛と、真理の扉で脳内に直接流し込まれた世界の理の過負荷で、私の意識は朦朧としていた。だけど、完全に眠ってしまうことだけは本能が許さなかった。
ガギィィ……と重々しい鉄の扉が開く音が、冷徹な静寂のなかに響き渡る。目を開けても、網膜が捉える景色は完全な黒一色。真理に持っていかれた「視力」は、どれだけ待っても戻らない。
だけど、絶望している暇はなかった。
私が息を整えた瞬間、脳裏には、周囲の空間のカタチが淡く光り輝く白い「線」となってバチバチと鮮明に映し出されたのだ。
世界のあらゆる事象のあいだを支配する、これが私の手に入れた異能らしい。その心眼が、ここが途方もなく広大な地下ドーム空間であること。そして、目の前にそびえ立つ不気味な「玉座」の輪郭を正確に捉えていた。
「お父様、ホーエンハイムの娘を連れてきました」
「おぉ、こやつが…」
広い地下空間の中心にいる男は、父さんに似いてた。
この人が、父さんが言っていたフラスコの中の小人。ホムンクルス達の生みの親……。
ホムンクルス達は私の横で跪いていて、既にラストは私から手を離していた。
フラスコの中の小人は私に近づき観察するようにこちらを見ている。
「……そうか。真理の扉をくぐり、視力と右腕を対価に差し引かれたか。ホムンクルスの肉体を持ちながら自ら世界の理に触れるとは、実に興味深い個体だ。……それに、ホーエンハイムが子供なんぞ作っておったとは」
乾いた笑い声を上げるフラスコの中の小人。父さんと同じ顔なのに、全然違う。この人はたぶん、私のことを__いや、全ての者を駒だとしか思っていないのだろう。そんな雰囲気をまとっていた。
「お前たち、この個体を地下で管理しろ。刻が来るまで、壊さぬよう丁寧に扱え。右腕の欠損は計画の支障となる。軍の技師を拉致させ、計画に狂いが出ぬよう『義手』を装着させろ」
「畏まりました」
彼らは深々と頭を下げる。お父様の前において、彼らは甘えた子供ではなく、ただの忠実なチェスの駒であった。
フラスコの中の小人が静かにその場を去り、絶対的な重圧が消え去った瞬間、張り詰めていた空間の空気が一気に弛緩した。
★
「はい、ここがお前の部屋だよ」
「え……?」
ホムンクルス達が私のための部屋だと案内してきた部屋は、地下空間とは思えないほど豪華なものだった。
天井にはシャンデリア。床には高級そうなカーペット。大きなふかふかのベッドに机に椅子に…まるで中世ヨーロッパの世界のお姫様のお部屋みたいだった。
「ここを、使っていいの?」
「もちろんさ」
「その前に、まずは体を洗いなさいな。ボロボロじゃないの」
ラストが私の手を引いて、お風呂へ連れていってくれた。
ラストに髪の毛を洗われながら話しかける。先ほどまでと別人のように、その手つきは優しかった。
「…ラストさんたちは、人間の敵ですか?」
「えぇ、そうね。お父様がそうするのであれば、私たちもそうなるわ」
「そう、ですか…」
「それよりアリス。私のことは呼び捨てでいいし、敬語もなしよ」
「え、でも」
「いいから。ホムンクルスの中で女は私一人だったから、あなたが来て嬉しいのよ」
境界の視界は、人の大まかな感情も読み取れるらしい。ラストからは本心だということが伝わってきた。父さんを傷つけたのは許せないけど、私に害をなす気はないようだ。
「わかった、ラストって呼ぶね」
「えぇ、よろしくねアリス」
お風呂から出て用意されていた服に着替える。今まではワンピースだったけれど、用意されていた服は胸元に上品な大きなリボンがあしらわれ、肩口がフリルのようになっている長袖のブラウスに、サスペンダーのようなストラップのついたコルセット風のハイウエストのショートパンツ。
右腕が無いためよれよれとぶらさがっている袖に喪失感を覚えながらも、今まで旅をしていたため、ボロボロだったワンピースだったから少し嬉しくもある。
「似合ってるじゃない。アリス」
「ありがとう」
「あれ、すっかり仲良しかよお二人さん」
声がした方向__ドアの方を見ると、エンヴィーが立っていた。『嫉妬』と『興味』の感情が見える。嫉妬…?私なんかしたっけ?
「メシだよおチビちゃん」
「あ、ありがとうございます」
「え、俺には敬語なの?なんかイヤなんだけど」
「えぇ……」
ラストに対抗心でも燃やしているのか、タメ口を要求してくる。年上には敬語がいいもんだと思ってたけれど人によって違うらしい。
「わかった、敬語はなしにする」
「それでヨシ!ほら、た~んと食いなよ。アリスはまだ一応成長するっぽいしね」
エンヴィーが持ってきてくれたご飯を食べながら話を聞く。お父様とやらの計画についてと、私のこれからについて。
「お父様の計画……この国全体を使ったとんでもない計画にはさ、どうしてもお前みたいな『真理の扉』を開けた人柱ってやつが必要なんだよ。お前が今日ここに来たのも、そのための『スペア』としてお父様に認められたからさ」
エンヴィーは皿の上の不格好な肉にフォークを突き刺しながら、ぶっきらぼうに言った。私の『
「お前の仕事は…まぁ、後々決まるだろうさ」
「ほら、さっさと食って寝なよ。明日はラースが『軍の
「……」
エンヴィーが空になった皿をまとめて立ち上がるのを、私は心眼の白い線だけで見送った。
お腹がいっぱいになったせいか、それとも激動の一日の疲労が一気に押し寄せてきたのか。
今更ながら、強烈な眠気がしてきた。
私は豪華すぎる天蓋付きのベッドに小さな身体を沈め、残された左手で、胸元の上品な大きなリボンをそっと確かめる。
明日、私の右肩に、お父様が言っていた「金属の義手」が埋め込まれる。 その未知の義手の鈍い重みを想像しながら、私は地底の冷たい暗闇のなかで、静かに深い眠りへと落ちていった。
お父様とホムンクルスたちの口調がイマイチ…
また改変するかもです。アドバイス頂けると助かります。
本当に早く山場が書きたくてうずうずしているので足早なのはお許しを(-_-;)
夏休みも終わりが近づきリアルが忙しくなってきたので、更新は何日かおきになります。できる限り早めに更新していこうと思っておりますので待っていただけると幸いです。