月の帳と番兵君   作:〇坊主

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出発点と発展途上

  

 

 複合型アミューズメント施設【レイズ・ムーン】

 

 

 現在老若男女問わずに様々な客層が訪れるだけではなく、様々な業種を巻き込んだ大型施設に変化しているが、原点はどこにでもありそうな物件の一角を借りて始まった小さなカードショップだった。

 2つのショーケースにダイスなどの小物類。マナーは良くはないが時折道端に捨てられてしまうぐらい人気の無いカード達が収められているストレージボックスは一つか二つ。

 対戦するスペースは長机が二台だけ置かれただけの簡素なもの。

 店員を雇わずとも一人でやりくりできるレベルであり、他企業が本気になれば吹けば飛んでしまいそうな小さなカードショップだ。

 

 それでもそこは彼女がこの世界に来て初めて持った自分の店(己の城)

 細かい所にも気を配り、興味本位でやってきた初見客相手には彼女なりのサービスを見せ、地域の暮らしに根付いていくように信頼を積み上げていった。

 バイトと称して時折ヘルプを頼まれた事も今となっては良い思い出だ。

 

 話は少し変わるがこの世界における遊戯王カードと言うのは非常に価値を持つ存在である。

 どんなに小さなカードショップと言ってもその店内()に有している総資産は相応のモノ。

 となればセキュリティが厳しく扱われている大きな店舗を襲って一攫千金を狙うよりも、個人商店に狙いを定めて小判を大量に集めた方が効率的なんじゃないかと考える輩も多少は居る。

 そんな背景がここ最近目立ってきている為か、窃盗団(グールズ)被害もより大きめに社会問題視されてきている状況だ。

 

『ち…ちくしょう…』

『こんな…一方…的に…』

 

『私の城を攻めに来る判断は褒められたものではないが、筋は悪くなかったよ』

 

 まぁこの店に関してはそこまで気にするほどではなかったのだが。

 なにせカードショップの店長を担っていたのは“レイズ・ムーンの(とばり) シエロ”。

 カードの精霊である彼女は一般市民達と比べてもカードそのものとの親和性が極めて高く、手札事故を起こす確率が極めて低い。

 それどころかカードパックから彼女に合ったカードを引き抜く確率がとても高いので適宜強化されているようなものだ。

 ちなみによくある話だが、この世界の遊戯王カードのパックは闇鍋仕様でシングル価格がインフレしている。

 

 そうしてやってくる犯罪者を打ちのめしては警察に引き渡すことを繰り返すこと数か月。

 幾度となく強盗を追う払っている強い店長が経営しているカードショップがあると噂が少しずつ広がっていき、更には店長が美女であることも広まっていけばあれよあれよと売り上げが伸びていった。

 

『あぁ、そうそう。これから事業拡大を目指しているからそろそろこの場所から離れようと思っているよ』

『…わかった。頑張れよ』

『――随分と簡素な返事じゃないか。もっと疑問の言葉をかけても良いんだよ?』

『事業拡大に関しては俺は全くと言っていいほど関わってないから、変な事言えないしな…。まぁ変な縁を持った身だ。何時でも不安になったら帰ってきていいよ』

『ふふっ、素直じゃないな君は』

 

 そうして居候からカードショップ(己の城)を持つようになった彼女とそんなやり取りをしながら出かけて行った。

 初めて会った時は世間知らずな状態だったものの、今では立派な経営者。

 SNSなども多数に使いこなしており、自分よりも遥かに情報戦にも強いだろう。

 シエロ(彼女)との共同生活を振り返ればだいぶ賑やかだったなと思いながら、久しぶりの静寂に包まれた自室は何故か寂しく感じた。

 

 

 

 まぁその後一切連絡を取らなかったわけでもなく、自分とデュエルするために定期的に帰ってきては事業進捗などを聞いていたのでそこまで心配はしていなかった。 

 定期的に会う機会を設けて交流を続けて応援を続け、そして自分はいつも通り自宅と職場を行き来して一日を終える。

 そんな生活を続けていたのだが、ある日突然黒服たちが自宅へやって来たと思えばそのまま連れていかれ、あれよあれよとカードショップの警備員へとクラスチェンジを果たしたのである。俺の自由意志は何処へ行ったのやら。

 労働時間と内容に対して受け取る給料がかなり上がったので文句を言うのも(はばか)られるのは俺の意志が弱いからではないのである。

 

 そんなやり取りがあったことを思い出しながら俺こと月浪(つきなみ) 浩瀬(ひろせ)は事前に決められた衣装*1を身に着けて大観衆の視線を受けるステージに両足でしっかりと立っている。なんでこのチョイスなのかは知らん。

 冷暖房完備の施設内であるにも関わらず歓声と熱意が衝撃となって全身を叩いているようだ。

 

  わあああぁぁぁああ!!

 

 そうやって始まるデュエルリーグ《俺より強い奴出てこいや杯》。

 名前はともかく地方で開かれるリーグとしては規模はかなり大きい方だと思っている。

 基本は都心部で行われ、事前に情報伝達や大規模な移動規制などを設けて行われるのが一般的だが、そういったイベント事を大前提に組んで作られたこの施設にとっては寧ろ本来の役目を果たすかのように濁流の如く押し寄せてくる客足を滑らかに誘導している。

 

 大広間に集っているが、当然この映像は中継を通して各所に配置されている液晶から放映されているので最悪フードコートで食事をしながら盛り上がれる形になっている。

 ただ盛り上がりすぎて床に食事をぶちまける輩などが出れば即座にK9(ケーナイン)警備隊*2による身柄確保や食事提供元の店員等*3からリンチするかの如くボコボコにされるので比較的問題視されていない(これに関しては事前にパンフレットなどで周知されている)。

 微かにレストランエリアから賑やかな音と歓声が聞こえてきているので、誰かが“ハングリーバーガー”*4辺りと格闘戦を始めたのだろう。

 

 そんな規模の大会となっているが先行を取ったら実質勝利と言われていた環境とは大きく異なっている。

 上記でも記載している通り闇鍋仕様のカードの影響で狙ったカードを引けないことは当然のこと、ステータスが高いカードは軒並み値が張っており手を出すにはなかなかの勇気がいる。

 それに加えてレアカードを狙ったアンティルール*5犯罪者(グールズ)から狙われるリスクなども考えると実際にデュエルで使用するよりも資産として保有する者が出ても仕方がない状態だろう。

 

「オレは“ファイヤー・ウイング・ペガサス”*6を召喚!」

 

「魔法カード“融合”を発動!来い我がエース!“迷宮の魔戦車”*7!!」

 

「行け!“ギアギアギアXG(クロスギガント)*8!!」

 

 故に高レベルタイプで打点が高いモンスターは重宝され、こうして大会にも顔を出している。

 最もこれが当たり前という訳ではなく一般レベルの話だ。プロを目指して常に鎬を削っている者や文字通り命を掛けて修行を行っている者達は当然ながらより強力なカードを有して戦っている事が多いことは覚えておいて欲しい。

 

「これで決めます!“幻煌龍(げんおうりゅう)スパイラル”*9に装備魔法“幻煌龍の螺旋突(スパイラルクラッシュ)*10を装備します!」

「装備したところでそのモンスターの攻撃力は上昇していない!我の“インヴェルズ・ホーン”*11が有する攻撃力3000を超えることは出来ない!」

 

 そんな流れを進めつつ、デュエルリーグも進んできた。

 現在舞台には【幻煌龍】を握っている少女と【インヴェルズ】で大会を勝ち上がってきたキメたファッションをしている男性が相対していた。

 互いのライフは残り1100と2600となっており、ライフ差だけ見れば【インヴェルズ】側が優勢と言ったところか。

 

「確かにこの装備魔法は攻撃力を上げる効果はありません!ですが貫通効果を付与できる装備魔法です!」

「何!?それは…」

「そう!貴方の“インヴェルズ・ホーン”の隣にいる“インヴェルズの斥候(せっこう)*12を狙わせてもらいます!」

「斥候の守備力は0…!おのれ…おのれおのれおのれェ!!」

「スパイラルクラッシュ!!」

「ぐわぁあぁあああああ!!!」

 

 しかしライフ差だけでは勝敗はわからないのが遊戯王。

 “インヴェルズ・ホーン”が戦闘や効果で突破された場合の壁として置いていた“インヴェルズの斥候”を貫通効果で仕留めきった【幻煌龍】を握った少女が見事に勝利を収めた。

 

 彼女が立っている後方のゲートから盛大な爆炎と祝砲が放たれ、その衝撃で近くにいたスタッフが吹き飛んだがそんな些細な事を気にする観客はいない。

 

「決まったァ!見事な機転を利かしてライフを削り切りました!勝者 新海(しんかい) 遊美(ゆみ)!!」

 

「~~っ、…やったぁあああ!!」

 

 勝利したことの嬉しさからなのか、両手を挙げて喜ぶ彼女の元へ駆けていくのは彼女の友達か。

 思いっきりもみくちゃにしながらも、自分の事のように喜ぶのを見ていると主催した側のこちらも自然と嬉しくなっていくというもの。

 大会主催者(シエロ)もクールな笑みを浮かべているが、あれは内心満面の笑みを浮かべていることが声音が一段階上がっている事からわかった。

 

 彼女が心から喜べているのであれば、今回のリーグ戦は大成功と言って良いだろう。

 優勝者があまりの喜びで具現化した“幻煌龍スパイラル”が思いっきりステージで飛び跳ね、それを観客達が笑いながら各々のエースを召喚して混ざる混沌とした現場を眺めながら浩瀬(ひろせ)は流れ弾を喰らって吹き飛んでいくのだった。

 

  

*1
“岩石の巨兵”をデフォルメしたキグルミ

*2
「警察」と様々な「怪物・妖怪」の伝承をモチーフとするエクシーズ主体のテーマ。

展開能力に優れており、大会環境でも顔を見せたこともある。

*3
一例)ヌーベルズ

*4
儀式モンスター

星6/闇属性/戦士族/攻2000/守1850

「ハンバーガーのレシピ」により降臨

*5
賭けデュエル

*6
通常モンスター

星6/炎属性/獣族/攻2250/守1800

*7
融合モンスター

星7/闇属性/機械族/攻2400/守2400

「ギガテック・ウルフ」+「キャノン・ソルジャー」

*8
エクシーズ・効果モンスター

ランク3/地属性/機械族/攻2500/守1300

レベル3モンスター×3

自分フィールド上の機械族モンスターが戦闘を行うバトルステップ時、

このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

相手フィールド上に表側表示で存在するカードの効果は

そのダメージステップ終了時まで無効になり、

そのダメージステップ終了時まで

相手は魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない。

また、このカードがフィールド上から離れた時、

自分の墓地からこのカード以外の

「ギアギア」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える事ができる。

*9
通常モンスター

星8/水属性/幻竜族/攻2900/守2900

*10
装備魔法

通常モンスターにのみ装備可能。

「幻煌龍の螺旋突」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、

その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。

(2):装備モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。

自分の手札・デッキ・墓地から「幻煌龍 スパイラル」1体を選んで特殊召喚し、

このカードをそのモンスターに装備する。

その後、相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を選んで守備表示にできる。

*11
効果モンスター

星9/闇属性/悪魔族/攻3000/守 0

「インヴェルズ」と名のついたモンスターをリリースして

このカードが表側表示でアドバンス召喚に成功した場合、

このカードは以下の効果を得る。

1ターンに1度、1000ライフポイントを払う事で、

フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

*12
効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻 200/守 0

自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、

自分のメインフェイズ1の開始時にのみ発動できる。

このカードを墓地から特殊召喚する。

この効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。

このカードは「インヴェルズ」と名のついたモンスターの

アドバンス召喚以外のためにはリリースできず、シンクロ素材にもできない。




 
 
 
 
・カードショップ【レイズ・ムーン】
 “レイズ・ムーンの(とばり) シエロ”が自分で初めて作り上げた小さなカードショップ。
 今では店舗拡大や各イベントに奔走している為に閉まっている事が多い店舗ではあるが、極稀に開店して小規模イベントを開催しているとの噂がある。
 店舗が立つ土地もシエロが所有している。

・デュエルリーグ《俺より強い奴出てこいや杯》
 アミューズメント施設【レイズ・ムーン】で開催されたリーグで記念すべき第一回。
 基本的に都会中心で大規模大会が行われるが、それに負けないぐらいの規模を目指して行われた地方リーグ。参加年齢は制限無しだが、ジュニア層の大会も最初に行われていた。
 今回の優勝者には【幻煌龍】とのシナジーのあるカードが贈られた。

・新海 遊美
 幻竜族を用いる女子高生。身長157cm。
 薄水色の長髪をツインテールに纏めているイメージ。
 “幻煌龍スパイラル”にカードの精霊が憑いている。
 出番が今後あるかは未定。
 
 
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