天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
夕闇が深まり、村の入口に掲げられた松明のあかりがゆらゆらと揺れる頃。
私とザナンザを乗せた馬がゆっくりと村へ戻ってくると、記録所の前でウロウロと行き来していた人影が、猛スピードでこちらへ駆け寄ってきた。
「おーい! アイラ! ザナンザ!! やっと戻ってきたかぁぁーっ!」
案の定、用水路掃除と祈祷を終えたシュワルトが、必死の形相で出迎えてくれた。
「ちょっとアイラ! 帰る予定の時間より三十分も遅いじゃねぇか! 俺がどれだけ心配したか分かってんのか!? まさか途中で魔物に襲われたんじゃ、とか、ザナンザの奴が変な気を起こして……とか気が気じゃなくてさぁ!」
「はいはい、騒がないの。途中で馬を休ませてたら遅くなっちゃっただけだよ。ちゃんと記録の予定時間内だし」
私が馬から下りながら呆れ顔で手綱を渡すと、シュワルトはザナンザの顔をじーっと覗き込んだ。
「……おいザナンザ。お前、なんか行きと顔つき違わねぇか? なんかこう……妙に顔が晴れやかというか、憑き物が落ちたみたいな顔して……まさかアイラに何かしたんじゃ――」
「な、ななな何をおかしなことを言っているんだシュワルト……っ! 私はただ、オアシスの風が心地よかったと……っ!」
シュワルトの鋭い(?)指摘に、ザナンザはわかりやすく挙動不審になり、顔を真っ赤にして狼狽した。
「ほら、無駄口叩いてないで馬を厩舎に戻してきて。お腹空いたからご飯にしよう」
「あっ、逃げたなアイラ! 絶対なんかあっただろ! 聞かせろよなーっ!」
叫びながら馬を引いていくシュワルトを横目に、私とザナンザは顔を見合わせ、照れくささを隠すように小さく笑い合ったのだった。
賑やかな夕食を終え、シュワルトを自分の部屋へ追い返した後の夜。
いつも通りの私の部屋。いつも通りのあずき茶の湯気。
けれど、部屋に漂う空気は、昨日までとはまるで違っていた。
オアシスで互いの想いを確かめ合い、甘い誓いを交わした二人。
言葉にして「特別な存在」だと認め合ったからこそ、二人きりの空間に流れる静寂が、どこか息苦しいほどに甘く、熱を帯びて感じられた。
「あ、あの……アイラ。お茶、美味しかったよ。……器、洗ってこようか?」
「あ、ううん、大丈夫! 私がやっておくから、ザナンザは先に横になってて!」
「あぁ……そうか。では、失礼して……」
会話の端々に、どうしても不自然な間が生まれてしまう。
ザナンザはぎこちない足取りでベッドへ向かうと、いつもと同じようにベッドの端の端、落ちそうなほどのギリギリの場所に腰を下ろした。
私は器を片付け、灯りを小さく落とすと、そっとベッドの反対側に潜り込んだ。
背中合わせの距離。
昨日までは「ザナンザは何もしてこない」と無防備に眠れていたのに、今夜は背中越しに伝わってくる彼の体温と、ほんの少し早い呼吸の音が気になって仕方がない。
(……なんか、緊張して眠れない…)
毛布をギュッと握りしめ、心臓の鼓動が届いてしまわないか心配になるほど胸が強く鳴っている。
その時、背後でカサリと毛布が擦れる音がして、ザナンザの低く固い声が静けさを破った。
「……アイラ」
「へっ!? ……な、なに?」
変な声が出たのを隠そうと慌てて振り返ると、ザナンザもこちらに背を向けたまま、耳たぶを真っ赤に染めてじっと固まっていた。
「す、すまない……驚かせるつもりはなかったのだ。ただ……君の髪から、昼間のオアシスの花と同じ香りがして……」
「……っ」
「昼間の……あの誓いは、夢ではなかったのだなと思ってな。君が私を選んでくれたことが……まだ、信じられないほどに嬉しいのだ」
ポツリポツリと、溢れ出す愛おしさを噛み締めるように語るザナンザ。
その素直すぎる言葉に、私の胸の緊張は一気に温かな甘さへと変わっていった。
私は毛布の中で少しだけ身体を寄せ、彼の深緑の衣服の袖口を、指先でそっとつまんだ。
「夢じゃないよ、ザナンザ。……私も、ザナンザの隣にいられて嬉しい」
「……アイラ」
ザナンザがゆっくりと振り向き、暗がりの中で私の顔をじっと見つめた。
彼は躊躇いながらも、そっと大きな温かい手を重ね、私の指先を優しく包み込んでくれた。
「……今夜は、このまま手を繋いで眠ってもいいだろうか? 君に触れていないと、明日目覚めた時にすべてが消えてしまいそうで……」
「……うん。いいよ」
つないだ手から、彼の誠実でまっすぐな熱が伝わってくる。
ベッドの端で小さくなっていた彼の緊張もゆっくりと解け、やがて規則正しい温かな息遣いが部屋に満ちていった。
繋いだ手のぬくもりに守られながら、私は今までにない深い幸福感に包まれて、静かに目を閉じるのだった。