天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
道場の建設と競技大会の開催案は、すぐさま村長のもとへ持ち込まれた。
「おお……! 雨の日でも体を鍛えられる場所とな! それは実に見事な考えじゃ!」
村長は木図面を広げながら、目を輝かせて膝を打った。
「体を動かせん日が続くとどうにも腰が重くなってのう。よし、わしも一番に道場へ通って、若い頃のキレを取り戻すとしよう!」
「おいおい、父さん! 張り切るのはいいけど自分の歳を考えてくれよな! 無理して腰でも言わせたらどうすんだよ」
呆れ顔で突っ込むシュワルトに、村長はハッハと豪快に笑い飛ばした。
「何を言っておるか! わしも昔はなぁ、村一の暴れ馬を素手で叩き伏せたほどの猛者なんじゃぞ! ザナンザの体術を受ければ、あと二十年は若返るわい!」
「昔の自慢話はいいって……」
頭を抱えるシュワルトの横で、私とザナンザは思わずクスクスと声を殺して笑い合った。
「して、シュワルト。お前が言っておった『競技大会』の件じゃが、それも実に素晴らしい催しじゃな! 日常の練修の成果を試す場があれば、村人たちの士気も高まる。早速日時を決めるとしよう」
村長は羊皮紙と木炭を手に取り、ノリノリで種目を書き連ねていく。
「種目は……『剣術の部』『槍術の部』『弓術の部』そしてこれから教わる『体術の部』……よし、これでいくか!」
「うん、すごく盛り上がりそうだね!」
盛り上がる二人を見ながら、私はふと隣に立つザナンザの凛々しい横顔を見上げた。
「……でもさ、ちょっと心配なことがあるんだよね」
「ん? なにがだ、アイラ」
「競技大会はすごく楽しみだけど……普通にやったらザナンザが無双しちゃうんじゃない?
『最強の軍人』に素人の村民が勝てるわけないし、最初から優勝が決まってたらみんなのやる気が出ないかも」
私の言葉に、村長も「む……確かに、それでは大会の趣旨である『村人たちの士気を高める』という目的から外れてしまうのう」と困ったように眉をひそめた。
「シュワルト、何かいい案ないかな? ザナンザも楽しめて、村人のハンデにもなるような面白いルール!」
首を捻る私とザナンザの視線を受けて、シュワルトはニシシと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ふふん、そんなの簡単じゃねぇか!」
シュワルトは胸を張り、自信満々に人差し指を立ててみせた。
「ザナンザは『選手』じゃなくて『ラスボス』にすりゃいいんだよ! 各種目の予選から決勝までは村民同士で戦ってもらってさ。見事優勝した奴だけが、最後に『特別組手』としてザナンザに挑戦できる権利を得る!
それなら村人同士の真剣勝負も盛り上がるし、優勝者は最強の軍人に挑めるってわけだ!」
「ラスボス……!」
思いがけない発想に、私とザナンザは思わず顔を見合わせた。
「さらにだ! ザナンザと戦う時は、優勝者に『3つのハンデ選択権』を与える! 例えば『ザナンザは刀を持たず素手』とか『目隠しをして挑む』とか『一本取ったら優勝者の勝ち(ザナンザは三本取る必要あり)』みたいな感じでな!」
「なるほど……! それならザナンザの圧倒的な強さはそのままに、挑戦者にも勝機が生まれて面白そうだね!」
私が手を叩いて喜ぶと、ザナンザも「ふふ、見事な知恵だなシュワルト」と深く感服したように頷いた。
「ただ圧倒するだけでは指導にならん。様々な制限を受けた状態での立ち回りは、私にとっても実戦に即した良い鍛錬になる。そのルール、ぜひ採用させてほしい」
「よし決まりじゃ!」
村長が満足そうに羊皮紙へ大きく『ラスボス:ザナンザ』と書き込んだ。
「大会は来月の満月の夜、場所は訓練場と、新しく建てた道場で行うとしよう!
賞品には我が家秘伝の極上干し肉と、アイラ特製のハーブティーセットじゃ!」
「わあ、豪華! 私も体術の部で優勝目指して頑張らなきゃ!」
「アイラ、君が出場するなら私も手加減はできんぞ? 容赦なく『ラスボス』として立ちはだかるからな」
「もうっ、ザナンザってば真面目なんだから!」
賑やかな笑い声が部屋を満たし、大会に向けた熱気とワクワク感が、早くも村全体へと広がり始めていくのだった。
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「みなのもの、静かに! 本日は重大な発表がある!」
村長が声を張り上げると、ガヤガヤとしていた村人たちが一斉にこちらへ視線を注いだ。
「来月の満月の夜、村初の『競技大会』を開催する! 種目は『剣術の部』『槍術の部』『弓術の部』、そしてこれから学ぶ『体術の部』の四つじゃ!」
村長の発言に、村人たちから「おおーっ!」と歓声が上がった。
「なお、各種目で優勝した者には、我が家特製の極上干し肉とアイラ特製のハーブティーセットが贈られる!
さらに……優勝者は『特別組手』として、ラスボスであるザナンザに挑戦する権利を得るぞ!」
「ラスボス……!? ザナンザに挑めるのか!」
「燃えてきたぞ! 弓なら負けないぜ!」
大盛り上がりする村人たちに、私は一歩前に出て微笑みかけた。
「そして、新しく始まる体術の部のうち『柔道』という投げ技の技術は、私がみんなに指導します!」
その瞬間、ざわ……と村人たちの間に困惑が広がった。
「えっ、アイラちゃんが……?」
「大丈夫か? 小柄だし、怪我でもしたら大変だぞ……」
心配そうに顔を見合わせる村人たちに、私は「大丈夫だよ。見ればわかるから」と、ふふんと笑ってみせた。
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数日後。村人たちの総出の作業によって、木漏れ日が差し込む立派な道場が完成した。
床には衝撃を和らげる木枠としっかりと編まれた厚手の藁マットが敷き詰められている。
「よし、まずは基本の『受け身』から! 投げられた瞬間に思い切り息を吐いて、手のひらでお尻の横の床を強く叩く!」
私が手本を見せ、村人たちが順番に藁マットの上でパァン、パァンと音を立てて受け身の練習を重ねる。呑み込みの早い村人たちの受け身がしっかりと形になってきたのを見届けると、私は腕を捲り上げた。
「よし、受け身ができるようになった人から、私に突っ込んできて!」
「本当にいいのか、アイラちゃん……?」
大柄な大工の男性が遠慮がちに手を伸ばしてきた瞬間、私はすっと相手の懐へ潜り込み、重心を奪って腰を支点に鮮やかに担ぎ上げた。
『ドスンッ!!』
「ぶはっ……!?」
見事な背負い投げが決まり、道場内に「おおおおっ!?」と大歓声が巻き起こる。
「はい次! 遠慮しないでどんどん来て!」
体払いに大外刈り、小内刈り……次々と大柄な男たちを投げ飛ばしていく私の姿に、さっきまでの心配顔は完全に吹き飛んでいた。
「すごすぎる……! アイラちゃん、まるで魔法みたいだ!」
「私を投げに来てもいいよ! コツを掴んでみて!」
村民たちが交代で私を投げようと挑んでくるが、重心の崩し方が分からず苦戦している。
私は相手の手を取りながら「ここで相手の力を利用して、引き出すの」「足の位置はここ」と、あらゆる投げ技の型を丁寧に叩き込んでいった。
しかし、激しい組み合いが続いたところで、ビリッと嫌な音が響いた。
「あっ……服の袖が破けちゃった」
激しい引き付けに普通の作業着では耐えきれず、村人たちの服の布地が悲鳴を上げ始めている。
「うーん……激しく引っ張り合うから、服がすぐ破けちゃうね。厚手の布で頑丈に縫った専用の『道着』が必要だなあ……」
私がぽつりと呟くと、ザナンザが手帳を取り出し「道着、だな。裁縫当番と相談して布地を補強しよう」と真面目な顔でメモを取っていた。
一方、空手のような打撃や蹴り技の指導は、ザナンザが担当した。
村民たちには木製の防具と厚手の拳当てを装着させ、基本の突きや蹴りを叩き込んでいく。
「相手の打撃を恐れるな。軸をブレさせず、打たれる前に踏み込むのだ」
鋭く美しいザナンザの組手に、村人たちは汗だくになりながら喰らいついていく。
「よし、アイラ。君も入ってみるか?」
ザナンザに促され、私も防具をつけて彼の前に立った。
ザナンザが踏み込み、手加減しつつも鋭い上段突きを繰り出してくる。
私はそれを腕でガードしたり、打撃技で返すのではなく、すっと身体を半身に躱し、彼の伸ばした腕の手首と肘をぬるりと引っかけるように巻き込んだ。
「むっ……!?」
ザナンザの攻撃の威力がそのまま前方へと受け流され、彼の体勢が大きく崩れる。すかさず関節を極める形に入ると、ザナンザは驚いたように目を丸くした。
「素晴らしい……! 打撃を腕で受け止めるのではなく、相手の運動エネルギーをそのまま殺さずに旋回させ、関節を制したな……。これは先ほどの柔道とはまた違う技か?」
「ふふ、よく分かったね! これは『合気柔術』っていうんだよ。相手の力と自分の力を『合気(一体化)』させて、無力化する体術なの」
「合気柔術……! 力を力でねじ伏せない、実に深遠な武術だな。君の身を護る術として、これほど心強いものはない」
ザナンザは感心しきった様子で私の手を取り、その技の構造を嬉しそうに分析し始めるのだった。
合気柔術の関節技から手を離し、私は汗を拭いながらザナンザに笑いかけた。
「体術の部は、ルールを細かく分けずに『異種格闘技戦』にするのがいいと思うんだよね」
「異種格闘技戦?」
ザナンザが深緑の袖で汗を拭いながら首を傾げると、私は防具の紐を緩めながら頷いた。
「うん。実戦では相手がどんな攻撃で来るか分からないから、打撃も投げも関節技もアリにした方がちょうどいい練習になるでしょ?
何より、純粋な打撃技だけだと、どうしても男女や体格の威力差が出ちゃうからね。……もちろん、私だって打撃や蹴り技も使うけどさ」
「なるほどな。打撃に対して投げや関節で対処できるなら、小柄な者や女性であっても大柄な男を制することができる。実戦を見据えた実に理にかなった形式だ」
ザナンザが感心したように深く頷くのを見て、私は道場を見渡しながらさらにアイデアを思いついた。
「そうだ! キックボクシングみたいに激しい打撃や蹴りを極めたい人のために、自主練用の『サンドバッグ』も作ろう。
頑丈な革袋に砂や籾殻をぎゅうぎゅうに詰めて、天井から吊るすの。それから……フォームを確認できるように、大きな鏡か磨いた金属板を壁に置くのもいいかも。ただし、蹴り飛ばして割らないように注意だけどね」
「素晴らしい発想だ。己の構えを客観的に見るのは上達の近道だな。すぐに手配しよう」
ザナンザが嬉しそうにメモを走らせていた、その時だった。
『おおおおっ!?』
道場の奥から、割れんばかりの大歓声とどよめきが湧き上がった。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
私とザナンザが顔を見合わせて慌てて駆け寄ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
防具をつけた大柄な男が、藁マットの上に派手に転がり、目を白黒させて呆然と天井を仰いでいる。
そしてその前に立っていたのは――普段は畑仕事や裁縫をおとなしくこなし、声も小さくて華奢な村の若い女性だった。
彼女は少し照れくさそうに頬を染めながら、綺麗なフォームで上げていた足をゆっくりと下ろしたところだった。ザナンザ直伝の基本の踏み込みから、見事な上段回し蹴りを叩き込んで男を吹き飛ばしたらしい。
「あ、あの……ご、ごめんなさい! ザナンザさんに教わった通り、軸を意識して思い切り足を伸ばしたら……」
おずおずと謝る彼女と、豪快に吹き飛ばされた男の姿を見比べ、ザナンザは固まったまま琥珀色の瞳を限界まで丸くした。
「……龍が、目覚めるとは……このことか……?」
ぽつりと漏れたザナンザのつぶやきに、私は思わず噴き出してしまった。
「ふふっ、ザナンザ! 素晴らしい指導者のおかげで、村の隠れた才能がどんどん開花してるんだよ!」
「あ、あぁ……! 素晴らしい……実に素晴らしいぞ……!」
衝撃から立ち直ったザナンザは、目を輝かせながら彼女のもとへ駆け寄り、「今のは完璧な軸移動だった! もう一度見せてくれ!」と興奮気味に指導を始めるのだった。