天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
無事に生まれた新しい命を祝うため、神官であるシュワルトを中心に、村総出での賑やかなお祝いが催されていた。
広場からは楽しげな歌声や笑い声、太鼓の音が響いてくる。
私とザナンザはその歓声から少し離れた木陰に立ち、笑顔で拍手を送っていた。
私が出産を手伝ったあの子が、シイとイエーフに愛おしそうに抱かれ、村人たちから温かな祝福を受けている。
その輝かしい光景を遠くから見つめる私を、私の生い立ちを知るザナンザは優しく、そしてどこか気遣うような眼差しで見つめていた。
「……アイラ、少し歩かないか?」
彼は私の心情を察してくれたのか、そっと私の手を引き、お祝いの喧騒から早めに連れ出してくれた。
ふたりで静かな小道へ歩き出すと、私は繋いだ手に少しだけ力を込め、苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
「変に生い立ちのことなんか話して気遣わせちゃってごめんね。
出産の手伝いをしていたときは必死だったから何も考えずただ出来るだけのことをしてたけど、……何だか、嬉しいのにあの子が羨ましくて、複雑で……。寂しい顔してたよね、私」
正直な気持ちを口に出した瞬間、昨夜のシイたちの眩しさと自分の幼い頃の記憶が重なり、胸の奥から押し寄せてきた感情を抑えきれなくなってしまった。
「……っ……ふ、ぐっ……」
視界が歪み、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出して止まらなくなる。
ザナンザは何も言わず、ただ優しく私を抱き寄せ、涙が枯れるまで背中を撫で続けてくれた。
――そんな二人の姿を、遠くの物陰からシュワルトがじっと見つめていることには、気づかないまま。
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翌日の朝。
シュワルトは浮かない顔でザナンザを演習場の裏手へと呼び出した。
「おい、ザナンザ」
普段のひょうきんな雰囲気は一切なく、シュワルトの表情は恐ろしいほど真剣だった。
「昨日のお祝いのあと、お前、アイラを連れ出しただろ。……遠目だったが、あいつがボロボロ泣いてるのが見えたぞ。あれ、嬉し涙じゃねぇよな」
ザナンザは一瞬目を見開いたが、すぐに苦しげに唇を噛み締めた。
「お前が皇子だか軍人だか知らねぇがな……俺の大事な相棒で、この村の宝であるアイラを傷つけるのは絶対に許さねぇ!!
俺の相棒を愛するのはお前の勝手だ!けど、泣かせるような真似だけはすんな!!」
珍しく怒声を張り上げるシュワルト。
だが、ザナンザは私の過去という秘密を守るため、弁解することすらできない。
「……すまない、シュワルト。私に……すべての責任がある」
拳を固く握りしめ、ただただ静かに俯くザナンザ。
そこへ――村の狭さゆえに、二人を捜していた私が通りかかった。
「ちょっと! なに大きな声出してるの二人とも……って、シュワルト!?」
殺気立った空気と、悲痛な顔で俯くザナンザの姿を見て、私はすぐさま駆け寄った。
「もしかして、昨日泣かせたのはザナンザだと思ってる!?
違うのシュワルト! ザナンザは何も悪くないんだよ!!」
「アイラ……!? けどお前、昨日――」
「私が、勝手に泣いただけなの!……ザナンザは私をずっと守ってくれてたの!」
二人の間に割って入った私は、意を決して息を吸い込んだ。
これ以上、私のためにザナンザが責められるのは耐えられない。私は今まで誰にも言えなかった自分の生い立ちのすべてを、シュワルトに話した。
親から言われた「あんたさえいなければ」という冷たい言葉。
自分が孤児院で育った「捨て子」であること。
愛された記憶がないからこそ、親になるのが怖くて涙が流れてしまったこと――。
すべてを語り終えると、演習場の裏手に静寂が訪れた。
シュワルトは口を固く結び、ポロポロと大きな涙を目から零していた。
「……なんだよ、それ……っ」
シュワルトは震える声で呟くと、ガバッと両腕を広げ、私とザナンザの二人をまとめて力いっぱい抱きしめた。
「なんだよ……そんな大変なこと、一人で抱え込んでたのかよ……っ! 辛かったな……なぁ、アイラ、辛かったろ……っ!」
彼のあたたかい涙が、私の肩にぽたぽたと落ちる。
「ザナンザもごめんな! お前、アイラの傷を一人で受け止めようとしてたんだな……っ! 悪かった! 俺が馬鹿だった!!」
シュワルトの大きな腕の温もりと、隣にいるザナンザの確かな存在。
二人に抱きしめられながら、私は「うん……うん……っ」と頷き、ずっと胸の奥に支えていた冷たいしこりが、少しずつ溶けて消えていくのを感じていた。
「子供を作らない夫婦になったっていいじゃねぇか!」
私とザナンザを抱きしめたまま、シュワルトは涙でグシャグシャの顔を上げて力強く叫んだ。
「形なんかどうだっていいんだよ。お前らが一緒にいて笑っていられるなら、それが一番だ! 二人が望むなら、結婚式なら神官の俺がいつでも取り仕切ってやる! 村民だって全員、自分のことみたいに大喜びで祝ってくれるに決まってんだろ!」
「シュワルト……」
彼の真っ直ぐすぎる温かな言葉に胸が熱くなった、その時だった。
「……すまん、話が聞こえてしまった」
演習場の影から、気まずそうに、けれど深く沈んだ表情をした村長が姿を現した。
「父さん!? いつからそこに……っ」
「最初からじゃ。
……難しい話じゃのう、アイラ。
しかしな、少なくともこの村にはお前を『生まれて来なければよかった』なんて思う人間は一人もおらん。それはこのわしが保証する」
村長はゆっくりと歩み寄ると、私の頭に大きな温かい手をそっと乗せてくれた。
「じゃが……どんな事情があろうと、絶対に親が子供に言ってはいけない言葉というものがある。
……わしもな、昔、このクソ馬鹿息子のシュワルトを怒った時に勢いで『お前なんかわしの子じゃない!』なんて言ってしまったことがある。
今でも激しく後悔しておるよ」
そう言って、村長はシュワルトの頭を愛おしそうにポンポンと叩いた。シュワルトは照れくさそうに鼻をすすりながら、遠い目をして首を振った。
「あれは……俺がまだ小さい頃、亡くなった母さんが生前に大切にしてた花壇を、俺がちゃんばらごっこに夢中になってめちゃくちゃに荒らしちまった時だろ。
母さんの形見みたいな場所だったから……父さんだって頭に血が上って当然だ。父さんは悪くねぇよ。
……けどな、何の罪もねぇ幼いアイラにそんな残酷な言葉を吐いた親だけは、俺は絶対に許せねぇ……!」
シュワルトが悔しそうに拳を握りしめる。
その傍らで、ザナンザは私の肩を優しく抱き寄せ、静かで、けれど揺るぎない眼差しでシュワルトと村長を見つめた。
「どんな傷であろうと、私はアイラのすべてを受け止める覚悟はしている。……だが、一歩間違えれば私の愛が空回りして、逆にアイラを追いつめ、傷つけてしまうことだってある。
だから……私はどこまでもアイラのペースに合わせる。子供のことも、夫婦のあり方も、アイラの意思を一番に尊重するつもりだ」
自分自身の過去や傷よりも、どこまでも私を思いやり、守ろうとしてくれるザナンザ。
私は彼の衣服の袖をぎゅっと握りしめ、申し訳なさと愛おしさで胸を詰まらせた。
「……ごめんね、ザナンザ。……ザナンザだって、同族に謀略で殺されかけた経験まであるのに。
そうだよ、あなたは自分の命すら奪われそうになったのに……私、甘えてばかりで……」
昨夜生まれた赤ん坊の眩しい輝き、私を捨てた親の冷たい言葉、そしてザナンザが辿ってきた壮絶な運命。
様々な人の生と死が胸の中で交錯し、私はぽつりと溢れ出た言葉を呟いた。
「命って……何なんだろうね……」