天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
私の溢れ出た呟きを受け止め、村長は静かに目を閉じた。
「命……か」
村長は深々と息を吐き出すと、近くの丸太に腰を下ろし、空を見上げながら静かに語り始めた。
「アイラ、この村がどうやって出来上がったか、話したことはなかったのう。
……わしがまだ若かった頃、世は大きな戦の渦中にあった。この場所はな、その戦火から必死で逃げ延びてきた者たちが寄り添い合って作った、小さな集落だったのじゃ」
村長の声は優しく、懐かしむように響く。
「国籍も、肌の色も、老若男女も関係ない。着の身着のままで逃げてきた者なら、誰であっても受け入れた。
そんな中で、わしは悟ったのだよ。血筋や立場がどうあれ、人間生きているだけで『命の重さは等しく平等なのだ』とな。
……そして、その避難民の中にいた一人の愛する女性と出会い、結婚して生まれたのが、このシュワルトじゃ」
「父さん……」
シュワルトが静かに父を見つめる。村長は少し目を細め、どこか遠くを見るような表情になった。
「じゃがな、その最愛の伴侶……シュワルトの母が病で亡くなった時、わしの心は完全に折れてしまってな。
……情けない話じゃが、後を追ってしまいたいと、そんなトチ狂ったことまで考えてしまったのだよ」
村長は苦笑しながら、自分の大きな胸に手を当てた。
「だがな、ハッと気づいたんじゃ。皆の命が尊いように、わし自身の命もまた、等しく尊い。
そして何より、残されたこの幼い子に……シュワルトに、そして路頭に迷う村民たちに、わしの命が必要とされているのだと。
それに気づいてからは、自分の命をもっと大事にしようと心に決め、健康に気をつけ、体を鍛え抜いて、今日まで村を守ってきたのじゃ」
自分の過去を優しく語り聞かせてくれた村長は、ゆっくりと立ち上がり、私の正面へと歩み寄ってきた。
その大きな両手が、私の両肩を温かく包み込む。
「アイラ。もし……いつか時が流れて、お前に子供ができたとして、どうしても愛せないかもしれないと怖くなったとしてもな……何も心配はいらん」
村長は力強く、私の目をまっすぐに見つめた。
「その時は、わしが、シュワルトが、そしてこの村の全員が、お前の子を命懸けで愛し、守ると約束する。お前は一人で親にならなくていい。この村全体が、お前と、お前の子の家族なんじゃからな」
「村長……」
その言葉は、私の胸の奥にずっとこびりついていた「親になる自信がない」という重い呪縛を、少しずつ溶かしてくれた。
隣でザナンザが、感極まったように深く、深く頭を下げている。シュワルトも力強く頷き、「そうだぞアイラ! 俺が最強の伯父さんになってやるからな!」と鼻を鳴らした。
温かな涙が、今度はポロポロと、胸の奥からの感謝とともに溢れ出していたのだった。
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村長やシュワルトの温かい言葉に包まれた、あの感情的な昼間が過ぎ――。
夜、静まり返った部屋で、私とザナンザはベッドの上に隣り合って座り、静かに語り合っていた。
窓からは柔らかい月光が差し込み、二人の影を優しく床に落としている。
「本当に……私たちがこの村で出会えたのって、奇跡みたいなことだよね」
膝を抱えながらぽつりと呟くと、ザナンザは私の手元へそっと自分の手を重ねてくれた。異世界からこの村へ流れ着いた私と、古代ヒッタイトの刺客の刃から命からがら生き延びてこの地に辿り着いたザナンザ。幾重もの偶然と奇跡が重ならなければ、私たちは決して巡り会うことはなかった。
「あぁ……この上ない幸運だった。君と出会えたことが、私の人生で最高の奇跡だ」
ザナンザは優しく微笑み、真摯な眼差しで私を見つめた。そして、少し言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「アイラ……君にとっては辛い過去であり、申し訳ない言い方になってしまうかもしれないのだが……。私は、君のご両親が君を産んでくれた……その『事実』だけは、深く感謝しているのだ」
「……感謝?」
「あぁ。もし君が生まれていなければ、私はこの世界で君という存在に出会うことも、救われることもなかった。
君を存在せしめてくれたこと……それだけは、感謝せずにはいられない」
彼の真っ直ぐな言葉が、じんわりと胸に染み渡っていく。
私は小さく息を吐き出すと、今まで考えもしなかった新しい想いが、不思議と口から零れ落ちていくのを感じた。
「……うん。そうだね。確かに、私の親にも……どうしようもない事情があったのかもしれない。
……それにね、あんな親だったからこそ、私はこの村に留まることを選べたんだと思う」
「アイラ……」
「もし私が元の世界で、すごく愛してくれる大切な家族に囲まれて育っていたら……未練でいっぱいで、シュワルトに頼んで元の世界に帰ってたよ。そうしたら……この村のみんなや、ザナンザと出会うことはなかった」
膝に顔を寄せながら、私はひとつひとつ、想いを噛みしめるように前向きな言葉を紡いでいった。
「寂しい思いもしたけれど、そのおかげで私はいま、こんなにも温かい家族と、大好きなザナンザの隣にいられる。そう思ったら……自分の歩んできた道のりも、悪くなかったのかなって思えるんだ」
過去の痛みを乗り越え、前を向こうとする私の姿に、ザナンザは胸を打たれたように瞳を揺らした。
「アイラ……君は本当に、強くて優しい人だな」
彼の手が私の背中に回り、ゆっくりと愛おしそうに抱き寄せられる。
「……今日はもう、辛い過去も難しいことも全部忘れて……ただ抱き合って寝よう」
「うん……」
二人でベッドに横たわり、私はザナンザの広くて温かい胸の中にすっぽりと収まった。
トクトクと聞こえる彼の力強い心拍と、衣服から漂う心地よい香りが、私を深い安心感で満たしていく。
ザナンザの腕の中でしっかりと抱きしめられながら、私はゆっくりと目を閉じた。
今日という日を越えて、またひとつ心が軽くなった私を、心地よい睡魔が優しく包み込んでいった。