天赤二次 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
翌朝、私は目を覚ましたものの、なかなかベッドから起き上がることができずにいた。
……お腹が痛い。アレが来たのだ。
小さく体を丸め、両手でお腹を静かに押さえている私に気づいたザナンザが、心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうした、アイラ。体調が悪いのか……? 」
「ううん、大丈夫……。女の子の日……『月のもの』が来ただけだから」
安心させるように笑顔を作る私を見て、ザナンザはハッと察した表情を浮かべた。
「あ、あぁ、そうだったか……。いつもより、つらいのか?」
「うん……。月によって、痛みの波があるの」
事情を理解したザナンザは、手際よく動き始めた。
「今日は無理をせず、家でゆっくり休んでいるといい。薬湯はここだな」
ザナンザは私の体をそっと優しく抱き起こすと、あらかじめ煎じておいた温かい薬湯と、身体を温める生姜湯を一口ずつ丁寧に飲ませてくれた。
さらに、食欲がなくても喉を通りやすいうどんを手早く作り、ふうふうと息を吹きかけて冷ましながら、無理のないペースで食べさせてくれる。
一通り世話を終えると、ザナンザは私の額に優しく手を当てた。
「これから私は仕事に行ってくるが、女性が一人居たほうが良いな。確か君と一番仲が良いアシュナが休みだったと思うから、声をかけてみるよ。
私も昼に一度、必ず様子を見に帰ってくるからな」
「大げさだなぁ。皆毎日頑張ってくれてるんだから無理に呼ばなくても大丈夫だからね。
でもありがとう。いってらっしゃい、ザナンザ」
家を出たザナンザは、そのまま村の当番表がある広場へと向かった。
(アイラを一人にしておくのは忍びないが、病気でないなら私は仕事を休むわけにもいかない上、男の私では力になれない部分もある……)
ザナンザは当番表を確認すると、体術の達人でもあるアシュナが今日は休日であることを確かめた。すぐさまアシュナの元へ足を運び、事情をそっと話して「アイラの様子を見てやってほしい」と頭を下げた。
「もちろんです、ザナンザ様。お任せください」
アシュナは快く引き受けると、お腹を温めるための動物の革で作った特製の湯たんぽと、気分が少しでも和らぐような甘いお菓子を手に、すぐさま私の家へと向かってくれた。
コンコンとドアを叩いて部屋に入ってきたアシュナを見て、私は申し訳なさそうに表情を緩めた。
「アシュナ、ありがとう……
せっかくの休みなのにごめんね。大分痛みは引いてきたんだけど……ひたすらだるい……
ザナンザも大げさだよね。寝てればいいだけなのにさ…」
「ふふ、愛されている証拠ですよ、アイラさん。さあ、この湯たんぽでお腹を温めて、甘いものでも食べてゆっくり過ごしましょう」
頼もしい友人の存在とアシュナとザナンザの細やかな気遣いに包まれ、私のだるさも大分和らいでいくようだった。
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アシュナが持ってきてくれた甘いお菓子をつまみながら、私たちはベッドの脇で賑やかに女の子同士のトークに花を咲かせていた。
「でね、聞いてよアシュナ。
この前シュワルトが『この村にふさわしい世界一美しい女神を!!』なんて大層なこと言って召喚の儀をしたんだけどさ……。例のピンクのレース着た屈強なオカマがまた出てきちゃってさぁ! もう本当にいい加減、神官やめろって感じじゃない!?」
ケラケラと笑いながら話しかけたけれど、隣でアシュナは急に静かになり、膝の上で握りしめた手に視線を落としていた。
「……あれ、アシュナ? 黙っちゃってどうしたの?」
私が顔を覗き込むと、アシュナはぽつりと、どこか寂しげな声で呟いた。
「……そういえば、シュワルト様はまだ……お嫁様を探していらっしゃるのでしょうか……」
「…………」
その切なそうな横顔と、耳まで少し赤くなっている様子を見て、私の脳内にピンと電球が光った。
「…ちょっと待って、まさか……」
「な、内緒にしておいてくださいっ!!」
私の意地悪な笑みに気づいたアシュナは、真っ赤になって両手で顔を覆った。
「も、もしシュワルト様が召喚の儀でお嫁様を探していらっしゃるのだとしたら……私のことなんて、何とも思っていらっしゃらないということですから……っ!」
「うーーん、そっかぁ……! だからアシュナ、あの前の武術大会でもあんなに必死に頑張ってたんだね!」
合点がいって膝を打つ私。
「アシュナが優勝した時、シュワルトったら私たちの前でも『アシュナは本当にすげぇなぁ!』ってめちゃくちゃ褒めてたよ?
……まあ、その後に『ただ、夫婦喧嘩したら俺の肋骨だけでなく家ごごと吹き飛びそうで怖い……』って一人で勝手に怯えてたっけ」
「……っ!!」
それを聞いたアシュナは、顔から火が出そうなほど真っ赤になって両手で頭を抱えた。
「が、頑張ったのは……逆効果、だったでしょうか……ッ!?」
「あはは、そんなことないない! だってね……」
私はアシュナの肩をぽんぽんと叩き、悪戯っぽく身を乗り出した。
「シュワルトが『嫁の召喚』をしたのって、その武術大会の日が最後で、それ以来ぴたりとやめたんだよ。
しかもね……この前シュワルトにコソッと呼び出されてさ、『アイラ、お前アシュナと一番仲良かっただろ。あいつって何が好きなのか知らねぇか?』って聞かれたの」
「え……っ!?」
「だから私が『甘いものだよ』って教えてあげたらさ、シュワルトがデザートを作る当番の日、めちゃくちゃ気合入れて作ってたんだ。 ……あー、これは完全にそういうことだな、って察したよね~!
でもさ、アシュナにそれを伝えたら『きもっ!』なんて言ってシュワルトの肋骨が全損しそうだから内緒にしてたけど。ふふふ、そういうことなら……ねぇ」
アシュナは目を丸くして完全にフリーズしている。私はニヤニヤと笑いを噛み殺しながら、頭の中で企み始めた。
「これはもう、あっちからデートのお誘いが来るように私が一肌脱ごうかな。」
ベッドの中でニヤニヤと笑みを浮かべる私を見て、アシュナは「あ、アイラさん、なんだかすごく楽しそうですけど……」と一歩引いたように苦笑いした。
「だってアシュナ、自分からシュワルトに『好きです!』なんて言い出せるタイプじゃないでしょ?」
「うぐっ……それは……はい。武術なら幾らでも前に出られますが、そういうことに関してはさっぱりで……」
「でしょ? だからね、明日にでもシュワルトをちょっと揺さぶる『作戦』を実行しようかなって。シュワルトの方から行動を起こさざるを得ないような、ほんの少しのきっかけを作ってあげる!
あ、でも、迷惑だったらやめるよ?」
「め、迷惑ではありません。私一人では何もできないのでとても嬉しいです……。けど、きっかけって、一体どんなことをするつもりなんですか……!?」
アシュナは不安と期待が半々といった様子で身を乗り出し、私は人差し指を口元に当てて、小さくウィザードっぽくウィンクしてみせた。
「ふふ、今日は秘密。教えてあげない! だってアシュナ、事前に知ってたら顔に出ちゃってシュワルトに勘づかれちゃうでしょ?」
「も、もう! アイラさんたら意地悪です……!」
顔を真っ赤にしてぷくーっと頬を膨らませるアシュナが可愛くて、私は思わずクスクスと声を上げて笑ってしまった。
「ごめんごめん。でもね、アシュナ。シュワルトは絶対にアシュナのこと意識してるから、安心して。今日はこの湯たんぽで温まって、ゆっくり作戦を練っておくね。
あ、お昼の鐘…。そろそろザナンザが一旦戻ってくるかな」
「……あ、はい! アイラさん、お腹、早く良くなるといいですね。今日は無理せず横になっていてください。
それと…作戦、よろしくお願いします」
「うん、ありがとう!」
照れくさそうに、でも少し期待に胸を膨らませた表情でアシュナは私の部屋を後にした。
一人になった部屋で、私は毛布をしっかりと掛け直し、手作りの湯たんぽをお腹に当てる。じんわりとした心地よい温もりが伝わってきて、体の緊張が解けていくのが分かった。
(さてと……明日はどんな風にシュワルトを焚きつけてあげようかな……)
そろそろ、約束通りザナンザが様子を見に帰ってくる。
優しくて大好きな恋人と、大切な友人の甘酸っぱい恋模様。
胸の中に広がる小さくて温かな幸せを噛み締めながら、私は静かに天井を見上げて体を休めるのだった。