天赤二次 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
太陽が一番高いところへ登る頃、カチャリとドアの開く音がして、ザナンザが温かい昼食を抱えて帰ってきた。
器に盛られた料理の傍らには、干した果実――鉄分がたっぷり入った甘いプルーンがちょこんと添えられている。
「アイラ、体調はどうだ? 痛みは引いたか?」
心配そうに駆け寄ってくるザナンザに、私はベッドの上から微笑みかけた。
「うん、今は大丈夫だよ。アシュナが来てくれてね、ずっとお喋りしてたの。すごく楽しかった!アシュナに声をかけてくれてありがとうね」
「そうか、それは良かった」
ザナンザはホッとしたように表情を緩め、私の隣に腰掛けた。二人で並んで仲良くお昼ごはんを食べる。
ザナンザが剥いてくれたプルーンの優しい甘みが、身体にしみ渡るようだった。
「ねえ、ザナンザ。『月のもの』ってね、元々は赤ちゃんを授かるために必要な女の子の体の仕組みでしょ? 今までの私にとっては、子供を産むつもりなんてなかったから、毎月やってくるただの邪魔で鬱陶しい生理現象でしかなかったんだよ。……でもね」
私はプルーンを一口噛みしめながら、少し照れくさそうにザナンザを見上げた。
「こうやって、ザナンザが甲斐甲斐しく心配してくれて、甘やかしてくれるなら……ほんのちょっとだけ、悪くないかもって思っちゃった」
「……アイラ」
ザナンザは一瞬目を丸くしたあと、愛おしさに耐えかねたように私の頭を優しく撫でた。
「お前が健やかでいてくれるなら、私はいくらでも甘やかすぞ。
……さて、名残り惜しいが、午後からの仕事に戻らねばな。何かあったらすぐに周りの者を頼るんだぞ」
「うん、いってらっしゃい!」
ザナンザはもう一度私の額に優しく唇を落とすと、夕方までの仕事へと向かっていった。
私はいつの間にかすうすうと寝息を立てていた。
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夕方になり、仕事を終えたザナンザが帰ってきた。
ふたりで静かに夕食を済ませた後、ザナンザは「先に身体を流してくる」と村の温泉へと向かい、しばらくしてさっぱりとした様子で戻ってきた。
「アイラ、湯加減も丁度よかったぞ。お前も温泉に行けそうか? 身体を温めれば、お腹の痛みも和らぐと思うのだが」
「うーん……行きたいんだけど、なんだかまだお腹が重くて身体がだるくて……起き上がるのもしんどい……。でも体は流したい」
ベッドの上でぐったりと横になっている私を見て、ザナンザはフッと優しく微笑んだ。
「よし、なら私が背負っていこう」
ちょうど、女性専用の入浴時間が終わる頃合いを見計らい、ザナンザは私をそっとおんぶして外へと連れ出してくれた。彼の広くて温かな背中に揺られていると、それだけで痛みが和らいでいく気がする。
温泉に着くと、ザナンザは入口に『家族風呂(貸切)』の看板をぽんと立てかけた。
「よし、これで誰も入ってこない。ゆっくり入るといい」
「ありがと、ザナンザ」
私は脱衣所に入り、ゆっくりと服を脱いで洗い場へと足を踏み入れた。けれど、一日中のだるさと重みで、桶を持つ手すらしんどく、はぁ…と息を吐いた。
「アイラ、大丈夫か?溺れてないか?」
と、ザナンザの声が聞こえる。
「体を流すのもしんどい……助けてぇ……」
私は壁に寄りかかった。
「ええっと、……やはり女性を連れてくるべきだったか?」
扉越しに聞こえるザナンザの声は、あきらかに狼狽していた。
「いいよ、ザナンザ。入ってきても大丈夫。……お湯をかけてくれればいいから」
脱衣所側で、ザナンザが猛烈に葛藤している気配が伝わってくる。
(見たいわけではない、だが弱っているアイラを放っておくわけにはいかない……しかし私は男で……)
そんな思考がぐるぐると渦巻いているのが目に見えるようだ。
けれど数秒の後、意を決したように重い扉がスッと開いた。腰に手ぬぐいをきっちりと巻き付けたザナンザが、目をどこに向けていいか分からないといった様子で洗い場へと入ってくる。
私は手ぬぐいで体を隠しながら、少し申し訳ない気持ちになって呟いた。
「ごめんね、ザナンザ……汚いと思う。血も出てるし……」
「いや、構わない。……体も、なるべく見ないようにする」
真面目で誠実な彼らしい言葉に、私は胸がキュッと温かくなるのを感じながら、そっと笑いかけた。
「いいよ、ザナンザになら」
そう言って、私は彼に背を向けた。
ザナンザは本当に私の体を直視しないよう気を配りながら、手際よく、けれど痛ませないようこの上なく優しく、桶で温かいお湯を汲んでは私の体を洗い流してくれた。
湯気が立ち込める中、丁寧にお湯をかけてもらう心地よさに、体からすーっと力が抜けていく。
髪を洗い、手ぬぐいで体を綺麗にし終えると、ザナンザは私を抱き上げて湯へと浸かり、背後から私を包み込むようにして湯の中へと引き入れてくれた。
「……あたたかい」
ザナンザの広くて温かな胸に背中を預けると、お腹の重だるさが不思議と和らいでいく。
彼は持参していたハーブを湯に浮かべてくれた。
途端に、甘く爽やかなハーブの良い香りが湯気とともにふわりと広がる。
私は湯の中でゆっくりと身体を反転させ、ザナンザの後ろ側に回った。
彼の滑らかな背中に残る、大きな傷跡。
「……背中は、もう痛まない?」
「あぁ、全く。痛みなど微塵もないよ」
指先でその傷跡に触れながら、私は静かに語り始めた。
「これね、私が縫ったんだよ。針と、糸の代わりに私の髪の毛を消毒してね……」
「髪の毛を……?」
驚いたように振り返ろうとするザナンザの背中に寄り添いながら、私は遠い昔の記憶を辿るように言葉を紡いだ。
「昔、孤児院にいた頃ね。私よりだいぶ年上の男の子がいたんだけど……その子が成長して、孤児院を出た後、ヤクザ……えっと、ならず者になっちゃったんだ」
「ならず者、か」
「うん。それでね、抗争に巻き込まれて日本刀で斬られたらしくて……病院に行ったら色々と警察に理由を聞かれて困るからって、血まみれで孤児院に逃げ込んできたの。
先生は彼を叱る間もなく、慌てて針と糸で傷口を縫合したんだけど……途中で縫合用の糸が切れちゃってね。とっさに私の髪の毛を抜いて、代わりに縫合したの。私も必死でそれをお手伝いして……」
ザナンザは黙って私の話に耳を傾けてくれていた。
「彼はね、泣きながら『先生、ごめんなさい』って謝って……縫合が済んでから数日後にちゃんと自首したの。今はもう刑期を終えて、どこかで真っ当に暮らしてると思う。
……こんな物騒な経験が、巡り巡ってザナンザの命を助ける一端になったなんてね」
ふふ、と自嘲気味に笑いながら、私はザナンザの背中にある傷跡を、愛おしさを込めて指先でそっと撫でた。
「ザナンザ……生きててくれて、ありがとう」
(っ……!!)
耳元で囁かれたその言葉と、背中の傷痕をそっと撫でる滑らかな指先の感触に、ザナンザの顔は一瞬で耳まで真っ赤に染まった。
あまりの照れくささと動揺に、彼は慌てて湯船から立ち上がる。
「れ、礼を言うのは私の方だ……! 今度は私が君を守るからな……生涯をかけて。
体は、温まったか?のぼせる前に出よう…」
そう言って裏返った声で宣言するザナンザに、私はクスクスと笑いを漏らした。
湯から上がり、脱衣所で服を着て外へ出る。
夜風が火照った身体にとても心地いい。
「ザナンザ、帰りは背負わなくても大丈夫だよ。だいぶお腹も落ち着いたから、歩いて帰る」
「あ、あぁ……そうか。無理はするなよ」
並んで夜道を歩きながらも、ザナンザの顔はどこか赤いままだった。
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家に帰り着き、身支度を整えてベッドに入る。
ザナンザは私に背を向けたまま、毛布を頭まで被る勢いで丸くなっていた。
(……あ、アイラの身体……すべらかで、とても柔らかかった……。あの華奢な背中で村を守っているとは………
い、いや! 私は何も見ていない! 決して変な目では見ていないぞ……っ!)
(ザナンザの胸板、硬くて、逞しかったな。また一緒にお風呂に入りたい……。
って!何考えてるの私!今日はあくまで介護してもらっただけだから!
そ、それより……お腹の痛みも引いたし、明日のアシュナとシュワルトの『作戦』を完璧に仕上げなきゃ)
私は何度かシミュレーションをしたあと、(よし、完璧!)と両手を合わせた後、寝息を立てるザナンザの背を抱き締めながら眠りについた。