天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」   作:ブドゥヘパ

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隠されし楽園の異邦人②

「この村では、私達が全力であなたを守るから、傷が治ってもこの村で暮らしてもらいたい。それがあなたのためだと思う。

けれど…、それでも命懸けで会いたい人がいるなら元の国に返すよ」

 

お椀を綺麗に空にしたザナンザへ向けて、私は静かに、けれど揺るぎない声で告げた。

空になった器を預かり、手ぬぐいで彼の口元を軽く拭う。

その言葉を聞いた瞬間、ザナンザの手がピタリと止まり、彼の瞳に強い動揺の色が走った。

そして固く唇を噛み締め、じっと自分の手のひらを見つめていた。

 

「……命懸けで、会いたい人、か……」

 

かすれた声で呟くザナンザ。

 

私は知る由もないが、彼の脳裏にあったのは、尊敬する兄であるカイル皇子の顔。かつて仄かな想いを寄せ、今は兄の側で光を放っている愛しいユーリの姿。

そして、己を追いつめたヒッタイトの暗煙だった。

 

彼が本気で望むなら、私は彼をヒッタイトへ送り返すつもりだ。それがどれほど危険な賭けになろうとも。

けれど、ザナンザはゆっくりと首を横に振った。

 

「……いや。私には……もう、戻るべき場所はない」

 

彼の声は静かだったが、そこには悲痛な決意が込められていた。

 

「私が生きて戻れば、兄上たちを再び窮地に陥れることになる。私が生きてヒッタイトにいることこそが、内部の裏切り者を加速させ、更なる血を流すことになるのだ……」

 

ザナンザは自嘲気味に目を伏せ、切なく微笑んだ。

 

「私が『死んだ皇子』となることで、守られる平和がある。……それに、何より」

 

彼は顔を上げ、まっすぐに私を見つめた。

その漆黒の瞳には、熱によるものではない、力強く温かな光が宿っている。

 

「私を救い、こうして命を繋ぎ止めてくれた君たちの平和を、私の我が儘で壊すわけにはいかない。……アイラ。君が許してくれるのなら……私はこの村で、ただの『ザナンザ』として生きていきたい」

 

「……そっか」

 

私は小さく頷き、お盆をしっかりと抱え直した。

 

「決まりだね。じゃあ今日からあなたは、この『病の村』の新しい仲間だ」

 

「病の村……?」

 

首を傾げるザナンザに、背後で腕を組んでいたシュワルトが「へへっ」と自慢げに鼻を鳴らした。

 

「おうよ! 表向きは『恐ろしい疫病が蔓延する呪われた村』ってことにして、他国の兵や盗賊を追い払ってんだ。全部、このアイラの知恵さ! 安心して身体を休めろよ、新入り!」

 

「疫病の偽装……。君のような少女が、これほどの集落を陰から護り、導いているというのか……」

 

ザナンザは感嘆の息を漏らし、どこか愛おしそうに、そして尊ぶような目で私を見つめた。

 

「アイラ……君は本当に、不思議で……素晴らしい女性だな」

 

「……変な褒め方しないでよ。さ、話はおしまい。薬が効いてくる頃だから、大人しく横になって休んで」

 

私が少し素っ気なく言って毛布をかけてやると、ザナンザは「あぁ……ありがとう、アイラ」と素直に目を閉じた。

 

規則正しい寝息が聞こえ始めるのを確認し、私とシュワルトは静かに部屋を抜け出した。

パタンと扉を閉めた廊下で、シュワルトが小さく息を吐き出す。

 

「……なあアイラ。あいつ、マジでここに骨を埋める覚悟みたいだぞ」

 

「……そうだね」

 

「まあ、あんな綺麗すぎる顔した軍人が村に居着くとなると、これから色々賑やかになりそうだけどな!」

 

ニシシと笑うシュワルトに苦笑しつつ、私は手に残るおかゆの温もりと、ザナンザのまっすぐな瞳を思い出していた。

 

ヒッタイトの歴史から消えた第四皇子。

彼と過ごすこの小さな村での日々が、これからどんな物語を紡いでいくのか――。

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