天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
賑やかな宴が静まり返り、夜の静寂が村を優しく包み込む頃。広場の後片付けを終えた男たちは、疲れと酒の火照りを癒やすため、村の奥深くに湧き出る天然温泉へと向かっていた。
夜のこの時間帯は、男性専用の入浴時間と定められている。
湯気が立ち上る石造りの大浴場。ほのかな硫黄の香りと、湧き出るお湯の心地よい揺らぎの中に、男たちが肩まで浸かって溜め息を漏らしていた。
そこへ、脱衣所で衣服を脱いだザナンザが静かに足を踏み入れた。
――その瞬間、湯船にいた男たちの視線が一斉に彼へと集まった。
「……おいおい、マジかよ」
誰かがぽつりと呟いた言葉に、その場の全員が深く頷いた。
素朴な麻の衣の下に隠されていた彼の身体は、まさに「究極の造形美」と呼ぶにふさわしいものだった。
長年の過酷な戦闘と鍛錬によって極限まで無駄を削ぎ落とされた肉体。引き締まった胸板、見事に割れた腹筋、そしてしなやかな力強さを宿した背筋のライン。滑らかな肌の上に幾筋か刻まれた戦傷すらも、彼の男としての威厳と壮絶な生き様を物語る勲章のように神々しく映っていた。
「……なにか、私の身体におかしなところでもあるだろうか?」
皆からの熱い視線に気付き、ザナンザが少し首を傾げると、シュワルトが湯船からザバッと顔を上げて笑い出した。
「お前なぁ! その顔でそんな体つきしてたら、男の俺たちでも見惚れるっつーの! さすが『最高の軍人』様だぜ!」
「いや……恥ずかしいな。ただ鍛錬を重ねてきただけなのだが」
照れくさそうに頬を掻きながら湯船に入ってくるザナンザに、村の男たちは「うらやましい筋肉だなあ」「傷もだいぶ綺麗になったじゃないか」と口々に声をかけ、あっという間に彼を温かく迎え入れたのだった。
湯上がりの心地よい火照りを纏い、さっぱりとした顔で部屋へと戻ってきたザナンザを、私は温かなあずき茶を用意して待っていた。
「おかえりなさい。お風呂、気持ちよかった?」
「あぁ……本当に素晴らしい湯だった。一日の疲れも、体の中に残っていた傷の痛みも、すべてお湯に溶けていったようだ」
ザナンザは髪を乾かしながら、心底さっぱりした様子で微笑んだ。
さて寝よう…となったとき、はたと気づいた。
この数日間、重傷だった彼は私の家で寝たきりの状態が続いていた。唯一のベッドを彼に譲り、私は床に柔らかな敷物を敷き、クッションを幾重にも重ねてそこで眠っていたのだ。
「体が動くようになったし、ザナンザ専用の家を建てようか? 大工の当番の人たちに頼めば、すぐ作ってくれるよ」
私がそう提案すると、ザナンザは慌てて首を横に振った。
「滅相もない……! 助けていただいた上に、私のために家まで建てさせるなど申し訳なさすぎる。私なら、外の納屋かどこか雨風を凌げる場所があればそれで十分だ」
「そんなところに寝かせるわけないでしょ。病み上がりなんだから」
心底恐縮する彼に苦笑しつつ、私は部屋の隅にある小さめのベッドに視線を向けた。
「家を建てるにしても少し時間がかかるし……しばらくはここを使ってもらうことになるんだけど、見ての通り、ベッドが一つしかないんだ」
私はザナンザをまっすぐ見つめ、淡々と告げた。
「だから……一緒に寝るけどいい? 床で寝るのもそろそろ腰が痛くなっちゃってさ」
「――っ!?」
その瞬間、ザナンザの顔が一気に沸騰したかのように真っ赤に染まった。
湯上がりの火照りなど比べものにならないほど紅潮し、彼の漆黒の瞳が泳ぐ。皇子としての威厳も、凄腕の軍人としての冷静さも一瞬で吹き飛び、純情な青年そのものの狼狽ぶりだった。
「い、一緒に……っ!? いや、しかし! 君は未婚の女性であり、私は男だ……! 恩義を感じている身な上、そのような不作法を許すわけには――!」
身振り手振りを交えて必死に固辞しようとするザナンザの姿に、私は小さく吹き出した。
「何をそんなに焦ってるの? 別に変な意味じゃないよ。このベッド、大人二人なら横になれる広さはあるし、背中を向けて大人しく寝るだけだから」
ザナンザは言葉を詰まらせ、言葉にならない溜め息を漏らしながら降参するように目を伏せた。
「……君には、本当に敵わないな」
照れくささを隠すように手ぬぐいで顔を覆いながらも、彼の口元には温かな笑みが浮かんでいたのだった。
「大丈夫だよ。ザナンザに指一本触れないから安心して」
私が当たり前のことのようにそう言って、さっさとベッドの壁側に潜り込むと、ザナンザは「それは……女の君が言うことなのか……?」と、蚊の鳴くような声で呟き、彼は参ったというように頬をポリポリと掻いていた。
「……お休み、ザナンザ」
そう言って背を向け、毛布をかぶる疲れもあったのか、私の規則正しい寝息はあっという間に部屋に響き始めた。
あまりにも無防備で隙だらけな寝顔を隣でしばらく見つめていたザナンザは、苦笑混じりの深々と重い溜め息を吐き出した。
(……これでは、毒気が抜かれてしまうな)
彼は自分に言い聞かせるように心を落ち着かせると、ベッドの端の端、今にも床に落ちそうなほどギリギリの隙間に、小さくなって体を横たえた。
アイラに触れて驚かせないよう、細心の注意を払いながら遠慮がちに距離を取り、そっと目を閉じるのだった。