天赤二次小説 「ザナンザ生存if 夢小説」 作:ブドゥヘパ
ザナンザがシュワルトの召喚陣から姿を現し、この村へとやってきてから、早くも数日が過ぎていた。
最初の数こそぎこちなかったものの、驚異的な呑み込みの早さと誠実な人柄で、彼はあっという間に村のあらゆる業務を習得していった。
朝礼が終わるやいなや、各現場の当番たちが口々に彼の元へ押し寄せる始末だ。
「おいザナンザ! 今日の網引きも頼むぞ! お前が引くと魚の入りが違うんだ!」
「待て待て、今日は大工当番だ! 丸太の切り出しはあいつの筋力がないと始まらん!」
「いやいや、羊たちの毛刈りも手伝ってもらわないと! ほら、羊もザナンザに懐いてるんだから!」
指導にあたっていた村のベテランたちが、呆れ顔と誇らしげな笑顔が入り混じった溜め息をつく。
シュワルトも素直にザナンザの働きを賞賛する。
「……ハッ、まったく大したものだよ。力仕事は一人で三人分の働きをするし、手先も器用で畑の仕事も完璧。おまけに教えたことは一度で全部覚えるときた。ザナンザ、お前にもう俺たちが教えられることは何一つねぇよ!」
「そんなことは……。みなさんの丁寧なご指導があってこそだよ」
村人たちの絶賛に、ザナンザは泥のついた手ぬぐいで汗を拭いながら、どこか照れくさそうに頭を下げていた。
その日の夕方。仕事の合間の休憩時間、私は麦茶を入れた木コップを手に、広場のベンチで風に当たっていたザナンザの隣へと腰を下ろした。
「みんなに大絶賛だったね、ザナンザ」
「あぁ……君や村のみなさんが温かく迎えてくれたおかげだ。誰かの役に立てているという実感が、これほど心地よいものだとは思わなかった」
照れくさそうに笑う彼の横顔を見つめながら、私はふと思いついた提案を口にした。
「ねえ、ザナンザ。明後日、お互いに当番が休みの『巡航日』が重なってるでしょ?」
「あぁ、そうだな。どうかしたのか?」
「もしよかったら……馬に乗って、ここから少し離れた『秘密のオアシス』まで出かけてみない? 村の外の風に当たるのも、良い気分転換になると思うんだ」
「オアシスへ……二人でか?」
ザナンザの瞳が驚きに丸くなる。そして、ふっと目尻が下がった。
「あぁ、願ってもないお誘いだ。君と二人で遠出ができるのなら、喜んで――」
「待った待った待ったぁーーーっ!!」
突如として、背後の物陰からシュワルトが勢いよく飛び出してきた。
「ちょっと待てアイラ! なんで俺を差し置いて二人だけで出かけようとしてんだよ! 俺も行く! 当然俺も連れて行くに決まってるだろ!!」
必死の形相で手足をバタつかせるシュワルトに、私は冷ややかな視線を一差し送った。
「あんた、明後日は南の用水路の清掃当番と、夕方の祈祷の担当でしょ。休めるわけないじゃない」
「ぐっ……! そ、そこをなんとか魔力で影武者を……!」
「ダメに決まってるでしょ。サボったら来週の食事、全部激辛ハーブスープにするからね」
「容赦ねぇぇぇ!!」
ガックリと膝を折って崩れ落ちるシュワルトを放置し、私とザナンザは顔を見合わせてクスクスと声を殺して笑い合ったのだった。
遠出の日が決まってからの二日間、私は夜の空き時間を使って、二人分の「他所着(よそぎ)」作りに没頭していた。
村の中では動きやすい作業着ばかりだが、オアシスへの遠乗りとなると、強い日差しや砂風を防ぎつつ、風通しの良い特別な衣装が必要になる。
「……うん、いい感じに縫えてるかな」
私が自分用に仕立てたのは、風になびく軽やかな薄桃色の布を重ねた、裾がひらひらと揺れるシフォン地のドレス風衣装だった。日差しを遮る大きなフードと、動きやすさを損なわない軽快さを両立させている。
そしてもう一着。ザナンザのために縫い上げたのは、彼の体躯に合わせた上質な深緑と白の男性用旅装だ。
肩から胸元にかけては軽く補強を施しつつ、彼の鍛え上げられたしなやかなラインが美しく映えるよう、幾重もの布地を丁寧に裁縫で組み合わせた。
「あの凛々しい姿に、この深緑はきっと似合うはず……」
出来上がった二着の衣を愛おしく撫でながら、私は明後日の晴れやかな空と、二人で駆け抜ける風の心地よさに想いを馳せるのだった。