病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き)   作:池崎

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元老院(王弟)「息子は病弱だと言っていたが、病名は? 折角生まれた長男なのだから、当然治療法を探るのだろう?」

父上「あっ、いえ、多少体は弱いのですが……その、それを言い訳にして遊び呆けていたり、従者に暴力を振るっていたりと大変で……」

元老院(王弟)「ふむ、それは本当か? 一度会って貴族としての心構えを説く必要があるかもしれん」

父上「あっ、えっ、ひ、必要ありません。うちの面汚しを殿下に会わせるなどとても……。幸い次男も生まれましたので、長男は自宅学習を終えた後に家名を剥奪し、次男を跡継ぎにしようかなと……」

元老院(王弟)「……その言葉に嘘は無いな?」

父上「はい、もちろんです」

元老院(王弟)「……少しシステムを見直すか(小声)」

↑このようなことが流布され、今に至る。
尾びれは付いてるが、そこまで違いはない模様


流布されすぎた悪評について

「……噂で人を判断するのは良くないですよ!」

「そんなことはお前に言われないでも分かっている。だが、私はお前の自己紹介の時に、噂通りの人物であることを確信した」

「あのダイナミック吐血スプラッシュの時に!?」

 

 アストルと呼ばれた少女は微妙な表情をした。

 どうやら俺の吐血芸(※芸ではない)に物申したい様子。

 

「大方()()も注目を浴びる演出なのだろう? 巷の恋……ごほん、書物で読んだことがあるが、人は第一印象で全てが決まるという。そして、それは目立てば目立つほど良いらしい。……ふん、病弱を装い吐血して注目を浴び、あわよくば近寄ってきた女子生徒を食い物にするつもりだったのだろう……汚らわしい」

 

「浴びるのは注目じゃなくて血だよ。汚いのは事実だけど」

 

 人は第一印象で全てが決まる。まあ正しくはある。

 その場合俺は教室で盛大に血反吐を吐いたやべーやつ、って認識になってるから何もかも失敗してるんよ。実際誰も寄ってこないし。

 

 ……なんかこの人知識偏ってんな。

 何か言いかけてたけど、ひょっとして恋愛小説から学んでたりしてねーか? ……いやいや流石に現実と二次元の区別も付かないなんてそんなわけが……ちょっと試してみるか。

 

「『死にたがり公爵令嬢は恋もしたい』『偽物皇子と言えないカンケイ』『薔薇に恋せよ毒を飲め』」

「…………んっ……ごほん!」

 

 俺が巷で流行ってる恋愛小説のタイトルを羅列すると、全ての作品でアストルの耳がピクリと動き、口角がグググと持ち上がっていった。

 ビンゴじゃねーか!

 

「現実で恋愛小説みたいなことをすると、大抵は"悪目立ち"になってドン引きされるよ。つまり僕は皆からドン引きされてるってわけ。女を漁りに学院に来てるなら、そもそも従者を一緒に入学させないし」

「ぐ、ぐぅ……」

「ぐぅの音くらいは出るのね」

 

 この一瞬でアストルが正義感に溢れた直情的な性格であることは理解した。

 そして、恋愛小説に夢を見ているちょっと可愛らしい貴族子女みたいな一面もあることを。

 

 まあ、俺が噂通りの人物なら、そりゃボコボコにぶん殴って学院から追い出そうとするのも……無理はない……か? もっと穏当な方法はありそうだし、正義感だけで公爵家の長男に喧嘩を売るのは中々できることではないけど。

 

「だがお父様が嘘をついてるとも思えない……!! 適当に煙に巻こうとしても無駄だ!! 少なくともお前が周りに悪感情を持たれているのは、初日の自己紹介ではなく流布された噂が原因だからな!!」

「うーん、まあそんな気はしてた。病弱ってところ以外何一つも合ってないけどさ」

  

 アストルは難しい表情で腕を組みながら唸った。

 思いっきり決めつけから入った会話だったが、問答無用で殴りかかって来ない辺り一考の余地はあるらしい。

  

 だが何かを払うような頭を横に振ると、ビシッと俺に向かって指をさして言った。

 

「我がエイニール家は武家の一族。拳を交わせば、その人の人となりは大体分かる……。噂通りの人物でないことを証明したいなら──私と戦え、アルライト・ヴァイルー!!」

「良いけど……もしも僕が勝ったら?」

 

 アストルは鼻で笑うことも冷笑することも嘲笑することもなく、至極真面目で決意の灯った瞳で答えた。

 

 

「その時は──誠心誠意謝罪し、噂の払拭に協力しよう。エイニール家に誓って、この言葉を違えることは無いと約束する」

「……そういうちゃんとした感じの人ね。良いね、好きだ」

「ひぇっ……!!」

 

 好きという言葉に反応して、アストルが顔を真っ赤にして後退った。

 

「な、なんだ! 私を狙ってるのか!? た、確かに拳を交わして友情だけでなく恋情を募らせることもあると()()()が……いやいやいや、噂通りの阿呆であれば大した修行もしていないはず……!! 私が負ける道理などない……はず!!!」

 

 そこは自信を持って言い切ろうよ。

 なんでちょっと脈アリみたいなテンションで話すんだこいつは。

 頭の中が完全に恋愛脳なのは置いておくとして、俺はそういう意味で好きって言ったわけじゃないんだけど。

 文脈的に考えて普通に人間として好きって意味だろ。

 

「先生、ではアストルとペアを組んでもいいですか?」

「……私も噂は聞いていたが、君の魔力の流れを読んで一瞬で考えを改めたよ。──ズタズタじゃないか。生まれつきなのかは分からないが、まともに動ける体じゃないだろう? 彼女とペアを組むのは構わないが、君はそれで良いのか?」

 

 教授は酷く同情めいた視線を俺に寄越した。

 やはり一定の強さを持った人間は、俺の体の状態をある程度把握することができるらしい。

 ……まあ、こうして動いてる以上は魔毒症だと疑われることは無いものの、生まれつき魔力回路に障害を持っていると判断されることには違いない。

 

 その上で構わないかと聞いてきた教授に、俺は頷く。

 

「……言いたいことはあるが、今は拳を交わそう」

 

 アストルは俺と教授のやり取りを聞いてもどかしそうな表情を見せたが、何よりも自分の判断基準となる"拳での対話"を信じて堂に入った構えを見せる。

 

 俺は武術の指南書で見たそれっぽい動きを再現しつつ──

 

 

 

 ──やべー、これ普通にワンチャン負けるなー、と内心で白目を剥いた。

 

 

 

☆☆☆

 

 俺の体の状態をおさらいしようか。

 

 治癒魔法の行使→魔力暴走→治癒魔法の発動→暴走時に残った魔力の消費(身体強化魔法の発動)という工程をエンドレスで踏み続けてる状態が現在の俺だ。

 

 魔力量がバケモンみたいに多いせいで、この工程で魔力が切れることは無いにしろ、残念ながら常時身体強化魔法を発動できているわけではないという課題がある。

 

 身体強化魔法は魔法と名は付いてるものの、魔力操作の技術の一種であるため、他の魔法と並行して発動することができる。

 だが、俺は未だに治癒魔法の行使中に身体強化魔法を発動させることができなかった。

 

 なにせミスれば爆散確定の治癒魔法だぜ?

 別々の魔力操作を同時に行うとか無理オブザ無理。

 いつかできるのかもしれんけど、少なくとも今は無理。

 

 

 

 ──何が言いたいか。

 

 俺は──戦ってる最中に身体強化魔法が切れた生身の時間が少しだけあるということだ。

 

 

 当然その間に身体強化魔法による拳を食らうと──やべーことになる。

 

 

 

「──ブベラボベブロォォオオ!!!!」

 

「うぇっ!?!?」

 

 はい、このようにお腹が貫通してしまったので、じゃけん治癒魔法しましょうね〜。

 あ〜^^治癒魔法の音〜。

 

「さぁ……続きをしようか」

「え、今私の拳がお腹を……ってか血だらけ……え……」

 

 アストルは真っ赤な血に染まった拳をふるふると震わせながら、俺と拳を交互に見て動揺をあらわにしていた。

 当然そんな隙を見逃すわけもなく、俺は魔毒症の症状が発症するまでの僅かな身体強化魔法の時間を使って殴りかかった。

 

「隙ありぃ!!」

「た、単純に卑怯!!」

 

 身体強化の精度を高めて放った一撃は、動揺しながらもしっかり片手で防がれる。

 ……くっ……汚いとかそんなん言ってられるかよ!!

 こちとら武術の特訓はできていないし、身体的面でディスアドバンテージあるのに、武家の一族相手にあっちの土俵で戦ってるんだぞ!!

 

「……【清潔(クリーン)】。な、なんなんだお前は! 弱いかと思ったら一瞬で傷治ってるし、動揺してる隙に攻撃してくるし……わ、私の負けで良い!! 訳は分からんが病弱は嘘ではないようだし……」

 

 ……ここで敗北宣言されると途端に惨めになる。

 こんなんじゃまた俺は血をぶち撒けてドン引きさせて勝っただけになるじゃないか。……いやお腹貫通したのは普通にアストルが強かったのが要因だからわざとじゃねぇんだけどさ……。

 

 俺はとりあえず彼女に頭を下げた。

 

「……アストルさん。実は僕ってまだ武術の類を一切習ったことが無いんだ。ふざけてるつもりもないし一生懸命戦ったんだけど、結果的に血液ぶち撒けちゃってごめん……」

 

「……私こそ噂を信じて言いがかりをつけてすまなかった。戦い方から素人なのは分かっていたが、その割にはやけに身体強化魔法が優れていたから手加減できなくて……。……というか私、お前のお腹ぶち抜かなかったか……?」

 

「あぁ、うん。自己治癒だけは得意だから気にしないで。それよりもあれだけの血を一瞬で消しちゃうなんてすごい【清潔】の精度だね」

 

「武家である以上、汗や血で床が汚れるのは日常茶飯時だからな。一族皆【清潔】の練度は高い……というかそういう話じゃないというか……自己治癒の範疇を超えているというか……」

 

 アストルはブツブツと混乱した瞳で呟く。

 何もかも整理できていないような表情だが、俺はこれだけ優しくて強くて【清潔】の練度が高いなら……ぜひ友達になって欲しいなぁ……なんてことを考えていた。

 

 ……流石にドン引きされてるから無理か?

 いや……ワンチャン何とかできないか……?

 

「あー……とりあえず、アストル、アルライトペアはアストルの勝利だ。次の組み合わせに移るから、二人は近くで休んでいなさい」

「分かりました。ほら、アストルさん行きましょうか」

「あぁ、うん……」

 

 俺はアストルの手を引っ張って格技場の端っこに移る。

 何か言われるかと思ったが、彼女は未だに思考の海にいるようだ。適当に顔の前で手を振っても何も反応してくれない。

 

 ……ふむ。

 

「『私があなたを好きだと言えるのは、あなたが未だに恋を知らないからでしょう?』」

「違う、正しくは未だに恋、ではなく真実の愛だ」

 

 試しに流行ってる恋愛小説のセリフをわざと間違えて諳んじると、アストルはハイライトの消えた青色の瞳で俺を睨みながら訂正した。

 

「ようやく戻ってきたね」

「ハッ、いや……色々と衝撃的で……」

 

 まあ殺したかと思ったら動揺するよな……すまん。

 こっから友達になるとか無理かな。

 

 入れる保険ある?

 

 

 




あるわけ(ないです)

>こんなんじゃまた俺は血をぶち撒けてドン引きさせて勝っただけになるじゃないか。

→そうだよ

アルライト被害者の会1号です。
魔力にぶん任せた身体強化があるとはいえ、武術の武の文字も知らねぇやつが武家の()()()()に敵うわけもなく。

結果的にお腹に穴を空けて血をぶち撒けて無理やり勝利をもぎ取りました。

主人公のやることか?

どっちがヒロインだと思いますか?

  • オルフ
  • エルフィ
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