病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:池崎
「……私はずっと修行に明け暮れていたから、人との関わり方をあまり知らないんだ。結果的に、病弱のお前を矢面に立たせて戦うことになった。申し訳ないと思う」
二人並んで格技場の端っこに座っていると、アストルは酷く沈んだ表情で俺に謝罪をしてきた。
……うーん……別にアストルは悪くない気がする。
元を辿れば悪評を流布しまくってるカス父上が悪いってなるしな……情報のソースがバリバリに顔の広い公爵家当主とかどないなっとんねん。
いやまあ分からなくは無いぞ?
魔毒症がバレちゃいけない最たる理由は宗教的なアレだ。
うちの国教は、全世界の人々は神から寵愛を受けている──という宗義なのだが、魔毒症は未来で神に背信行為を行うものが発症する……と言われている。
未来の行いを神が事前に処罰したことで、地獄の苦しみを味わう……的なね。当事者からするとふざけんなと言いたいが。
だからこそ、自分の家から魔毒症を排出することは政治的にも宗教的にもアカンのである。
にしたって誤魔化し方がカスのソレなので擁護はできんけど。
「……謝罪は受け取るね。でも僕は気にしてないから平気だよ。むしろ驚かしちゃった上に、変に気を遣わせてしまって申し訳ない気分だし」
とりあえず謝罪を受け取ると、アストルはホッと安堵の息を吐く。変に抱え込んでしまうタイプには、擁護するよりも一回受け止めてあげたほうが効く。
「優しいんだな……まるで恋愛小説のヒーローみたいだ」
もう隠す気は無いらしい。あそこまでバレバレだとな。
……おっ、というかコレは友達になる流れいけるか?
俺はワクワクしながらアストルの次のアクションを待っていると、彼女は不意にワナワナと頭を抱えながら震えて言った。
「くっ……腹を貫いた感触が気持ち悪すぎるのと……なんか殺してしまったんじゃないか、って疑問がまだ渦巻いてて……うっ、素直に受け止めれない……!!」
「あぁぁあ!! ごめんほんっとうにごめん!! 僕なら生きてるから!! ほら、お腹触る!? ほら!! あるよ!! 綺麗なお腹だよ!! 傷一つ無いよ!!」
吐きそうな表情をするアストルの手を掴んで、俺のお腹にあてがう。
丁度良く服が裂けているので、傷一つないことを証明しやすくて良かった。
「あぁ、あぁ……本当だ……良かった……」
アストルは虚ろの目で俺のお腹をサワサワした。
端から見るとレイプ目で男のお腹を触るという、謎の特殊プレイをしているみたいである。……でも全然笑い事じゃないし、必要な儀式なんだよな。
「えっと……落ち着いた?」
「あ、あぁ、今度こそ大丈夫だ。
「……? まあ、この件に関しては僕が悪いし気にしないでよ」
色々な意味とはどういうことだろうか。
アストルが自分で言ったことが全てではないのか。
「傷と自己治癒の件はともかくとして、私が噂で決めつけていたことは事実だ。判定上は私の勝利になってしまったが、謝罪と噂の払拭には協力しよう」
彼女は俺に向き直ると真剣な表情でそう言った。
その瞳には、一度決めたことは曲げないと書いてあるようだった。
「どっちもいいよ。その代わりとは言ってはなんだけどさ、僕と友達になってくれないかな? 病気のせいで友達が一人もいないんだ。学院で話せる人がいるとすごい助かるんだけど……ダメかな?」
アストルは目を点にしてパチパチと瞳を瞬かせた。
どうやらそんなことを言われてると思っていなかったらしい。
「そ、それは別に構わないが……良いのか? 普通に考えて腹をぶち抜かれた人間と友達になろうなんて思考が湧くわけが無いと思うが……」
「それくらい君自身に魅力があるってことだよ」
「ふぇっ!? い、いやそんなわけが……こんな仏頂面の戦いに明け暮れた喪女に何を……!」
凄まじく自己評価が低いなおい。
ちょっと褒めただけですぐ顔が赤くなる感じといい、本当に人とのコミュニケーションに慣れていないようだ。
青髪青目から一見クールそうに見えるが、案外可愛げがある。
普通に人気出るタイプだと思うけどな。モテるだろうし。
「質実剛健で、義理堅い。それでいて、自分の失敗を認める柔軟性もある。謝罪と協力の代わりになんて言ったけど、僕は普通に君と友達になりたいなって思うんだ」
ニコッと笑うと彼女は全身が発火するほど頬を赤く染めた。
これで断られたら……まあ仕方ない。無理やり構築した友人関係なんてすぐに破綻するに決まってるし、そんな偽物の関係は俺がそもそも望んじゃいない。
「わ、分かった。褒められると……顔が緩むからもうやめてくれ。……ハァ、学院で最初にできた友が、こんな破天荒でイカれた人間になるなんてな……」
「個性って言ってね!」
「限度がある!」
こうして俺はアストル・エイニールと友達になった。
☆☆☆
Side アストル
おかしい……どうしてなんだ。
こんなこと一度も無かった。
エイニール家の特訓は苛烈で過酷だ。
修行の最中に、一回り体も年齢も大きい男性を怪我させることだって日常茶飯時だった。
決して故意ではないが、拳を血で染めることも少なくなかった。
──アルライト・ヴァイルー。
初めて見た時、少しドキッとしてしまった。
金髪碧眼の美少年。
その線の細さと中性的な顔立ちは、まるで読んでいた恋愛小説の王子様みたいだったからだ。
病弱ゆえか、少し儚げな雰囲気があるのも良かった。
だが私は知っていた。
公爵家当主が直々に長男について苦労していると言っていたことを。
病弱を言い訳にして遊び回り、女遊びや暴力に明け暮れている人間のクズのような存在だと。
だから私は正義感から彼に勝負を挑んだ。
けれど交わした会話から、彼がそのような噂通りの人物であるようには見えなかった。ただただお調子者の美少年にしか見えなかった。
そして、その後の教授との会話で、私は自身の失態を悟った。
だが一度申し込んだ決闘を破棄することはできないし、まだよく分からないことが多いこの少年のことを、拳を交わせば理解できると思っていたのもある。
「まずは……様子見か」
私は試合が始まったと同時に身体強化を発動させる。
情報が無い状態で自身から攻めるのは悪手だと、彼のアクションを待っていると──その線の細さからは想像できない速さと力強さで殴りかかってきた。
「……当たるとマズイ。私の身体強化が貫通される」
大怪我にはならずとも怪我は免れない。
だが素人同然のテレフォンパンチだったため、避けることはあまりにも簡単だった。
喧嘩してる人間特有の殺意も感じない。
私は彼が完全な素人であることを悟った。
ただ、身体強化魔法は優れているから──少し、ほんの少し威力を上げてダメージを与えに行こう、と隙だらけの腹部を殴った瞬間。
──ぐしゅり、と嫌な音を立てて拳が肉を貫いた。
「──ブベラボベブロォォオオ!!!」
「うぇっ!?」
過ったのは驚愕、動揺。
しかしそれだけでは無かった。
「あっ、ぐっ……」
見てしまった。視界に入れてしまった。
たった一瞬の出来事だった。次の瞬間には傷も
だが私は見てしまった。
感じてしまった。
彼が痛みに顔を歪めるその表情に──
──どうしようもない興奮を抱いてしまった事実を。
☆☆☆
「こんな私が彼の友人になっても良いのか……?」
彼と並んだ時に出てしまった震えは、彼を傷つけてしまったことだけが理由じゃない。それだけであれば、武人としてまだ冷静に謝罪をすることができた。
痛みに歪む彼の表情に興奮した自分。
なんて浅ましく、醜い欲望なのだと。
知らない。こんな感情は知らない。
どんな人間が相手でもこんなことにはならなかった。
おかしい。
おかしい。
私は、おかしくなってしまった。
武家の当主候補に一番持たせちゃいけねぇ性癖を目覚めさせるな
ランキング上がりたいのでお気に入り高評価などなどよろしくお願いしますです。
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