病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:治癒とチューって似てるよね
「あー……で、また俺が呼ばれたと。言っておくが報酬分の仕事はちゃんとしたぜ? わざわざ遅効性で体の内側を破壊する魔法を仕込むなんざ無駄でしかないからな」
「ええ、分かっています。恐らく、僕の魔法の才能が凄まじいせいでしょうね。治癒は確かに効いていましたが、それよりも魔力が暴れ出す方が早かった。やれやれ、自分の才能が恐ろしいですよ」
俺とエルフィが違う要因でぶっ倒れてから翌日。
可能性を発見した俺は、凄まじいテンションの高さで血反吐を吐き散らしながら呼びつけたオルフさんに説明をする。
彼は胡乱げに俺を見ながら、チラリと──すっごい表情でオルフさんを睨みつけるエルフィを見て肩をすくめた。
「なんかお前この短時間で性格変わったか? ……つーか、それが分かってんならこの胡散臭い者を見るような目で睨みつけてくる嬢ちゃんを何とかしてくれねーか? 正直居た堪れねーよ」
「エルフィ、オルフさんはちゃんと凄腕の治癒術師だよ。これは僕の問題だから彼を睨むのはやめよ?」
「はい……アル様がそう仰るなら……」
エルフィは俺が治癒されてから数分でぶっ倒れた原因がオルフさんだと思っていたらしい。……まぁ、あの状況的にエルフィがそう思うのも無理はないか。
だが、直々に治癒をしてもらった俺は分かる。
オルフさんはちゃんと自分の仕事をやり遂げた。
恐らくだが、そこら辺の木っ端の治癒術師じゃ、一時的にすら俺の症状を抑えることは不可能だろう。
「んで、俺が呼ばれたのはどうしてだ? また治癒したところで同じ結果になることは明白だぜ。【
オルフさんは怪訝な表情で呼ばれた理由を探る。
勿体ぶる必要も無いので、俺は端的に言った。
「オルフさんには治癒魔法を教えて欲しいんです」
「治癒魔法を? この嬢ちゃんにか? まあ、魔力が続く限り治癒をかけ続ければそりゃ楽になるかもしんねぇけどよ、見た感じ治癒魔法の才能は無さそうだし現実的じゃ────」
「いえ、僕にです」
「────は?」
オルフさんは、鳩が豆鉄砲を食らったように唖然とした表情で口を開けた。なにを言ってんだコイツ、という訝しげな視線もセットで。
「え、どういうことですかアル様!? この方を呼んだのはまた治癒してもらうからじゃ……!!」
そういえばエルフィにも何も言ってなかった。
言うと反対されそうってのもあったし。
「オルフさんの言う通り、何回治癒されても意味が無い。それに、僕たちにはそんなお金も無い。だからふと思ったんだよ、僕自身が治癒魔法を覚えてしまえば良いってね」
「は、ははっ、お前痛みとショックで頭おかしくなっちまったんじゃねぇか? 魔毒症の患者が魔法を発動しようもんなら、内側から溢れ出る魔力が体を引き裂いておしまいだ。そもそも魔力の制御すらままならねぇ」
オルフさんはどこか呆れたような、それでいて可哀想なものを見るような目で俺を見ながら冷静に説き伏せる。
だがそれは一般人の思考だ。
常識的に考えるのであれば、オルフさんの言っていることは何一つ間違っちゃいないし、それは今までの魔毒症の患者が証明している話だ。
「──
「なに……?」
「魔毒症患者でも
「……ッッ!?」
単に治癒魔法を発動させるだけじゃダメだ。
丁度魔力の暴走が起きるタイミングに合わせて、治癒魔法の発動に
……痛みに慣れてきた頃に色々な本を読み漁ってた経験が活きたな。
「机上の空論……ッ……だが不可能ではないか」
オルフさんは顎に手を当てて考え込む。
そして、不意に懐から短剣を取り出すとピッと自分の指を浅く斬りつける。
「……【
詠唱とともに発動した魔法は、僅かに遅れて傷を癒した。
言っただけでもう再現しやがった……この人明らかに普通の治癒術師じゃないな。
多分だけど、他の属性魔法も扱えるから応用ができたのだろう。
「ああ、そうだな。発動はできる。だが少しでも魔力の操作をミスった瞬間、お前の体は弾け飛ぶんだが? 許容して良いリスクではねーだろ」
「このまま一生寝たきりで過ごすのであれば、僕にとっては許容できるリスクでしかありません」
「アル様……」
エルフィが沈鬱げに涙目で俺を見る。
……ずっと支えてくれている彼女には申し訳ないけど、俺はこのまま何もできずに死を待つなんて嫌だ。何かを残せないままこの世を去っていくのが嫌だ。
──エルフィに、なんの恩も返せないまま死ぬのが一番嫌だ。
……そんなことを言ったら、気にしないでくださいなんて優しい彼女は言うに決まっているから、これは俺の覚悟だ。
俺は決意の瞳でオルフさんを正面から見る。
どこか気圧されたように仰け反った彼は、やがてため息を吐いて荷物をまとめ始めた。
「……貴族ってやつはいつもそうだ。人に夢を見させるようなことを言っておいて、実現したためしなんてありゃしねぇ。それに……俺に教える義理は無い」
そうだ。確かにオルフさんには何の義理もない。
会ったばかりの貴族のお坊ちゃんの戯言なんて、信じる義理も理由も何も無い。
それでも──
「貴族が口ばかりなのは、端から実現する気がないからです」
「はぁ?」
「僕は違う。死ぬ気は無いけど死んでもいい。それくらいの覚悟がある。──家族には蔑まれ、くちさのない噂を広げられ、絶望と怒りの中で、ただただ痛みに耐え続ける。……そんな生活はもうたくさんだ」
「何が言いたい?」
オルフさんはどこか苛ついた様子だった。
俺は陰鬱な表情を打ち切って、ニコリと笑って言った。
「──やる気があります。絶対に実現してみせるっていう」
「言うに事欠いて精神論かよお前……」
緊張の抜けた表情でオルフさんはがっくし項垂れた。
はっはっは、いくらでも賢しい言葉を並べることも、それらしいもっともな理由をつけて演説することもできたけどな。
でもこの話の根源は
俺という魔毒症患者の、あり得るかもしれない可能性の。
「あの……わたくしからもお願いします。アル様がこんなに元気なのって、本当に久しぶりなんです。普通の人のように歩いて喋って笑ってくれるなら……わたくしにとってもそれが幸せなんです。だ、だから……! もし報酬が必要なのであれば、絶対に嫌ですがわたくしの体を……!」
「ちなみにエルフィに手を出したらぶち殺しますので」
「お前ら俺に頼み事してるんだよな……?」
それとこれとは別……というか、もうオルフさんの表情的に答えが決まってそうだからふざけてみただけなんだよな。
にしても……本当にエルフィは優しいなぁ……。
無事に色々成功したら給金を百倍にしてやるからなぁ!
「……ハァ……もっともらしい理由で言われるよかマシか。考えてみれば貴重な魔毒症患者のサンプリングも取れるなら俺にも利がある」
「オルフさん……ありがとうございます」
「……言っておくが、やる気があるって言葉を違えたら許さねぇぞ。それにこれは投資だからな。後々百倍にして返せよ」
素直じゃないなこの人。
明らかに照れ隠しなのがバレバレだ。
こんなの柄じゃねぇ……みたいな表情が透けて見えるんだが……どうやら無事に説得は成功したみたいで良かった。
「あと、お話し中にずっと治癒魔法かけていただいてありがとうございます」
「真面目な話してる最中に血反吐吐かれたらたまったもんじゃねぇからな」
本当に優しいなこの人。
ずっとシュワワ〜、みたいな感じで緑色の光が常時瞬いてたのはシュールだったけど。