病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き) 作:治癒とチューって似てるよね
──こうして俺の治癒魔法修行が始まった。
毎日夕食後にオルフさんは人目を忍んで部屋に来る。
俺の部屋が屋敷の離れにあるとは言え、庭師やメイドの目につくことは確実だから、万が一を喫してオルフさんには夕食後の人が少ない時間を狙って来てもらうことにした。
どのみち診療後の時間が夜になると言うから都合が良かったのもあるが……。
「良いか、アル。治癒魔法は他の雑多なクソ魔法と違って感覚を頼りにすると即座に詰む。特にお前の場合は【初級治癒】から呑気に試してる暇はねぇからな」
「オルフさん、攻撃魔法嫌いなんですか?」
「怪我を増やすだけだろあんなもん。滅びればいい」
「治癒術師っぽい発言ですね」
「ぽいってなんだぽいって」
俺の場合、初級魔法だろうが中級魔法だろうが、魔力が暴走してバラバラになるのは確実なのである。
だからこそ、俺は全ての段階を吹っ飛ばして、最初から【上級治癒】を使えるようにならなければいけなかった。
オルフさんの見立てだと、魔毒症の暴走と症状を治癒しきるには【中級治癒】じゃ足りないらしい。しかも、上級は上級でも、多くの魔力を注いだ【上級治癒】じゃなければ無理らしい。
幸い俺の内包してる魔力量はオルフさんがドン引きするほど多かった。
量の心配よりも制御がネックなんだがな。
「最悪なのは少し試してみる……なんてこともできないことだ。一発本番のミスったら死亡。……大丈夫かこれ?」
「失敗した時にオルフさんが治すことはできないんですか?」
……エルフィは俺の修行中、万が一のために部屋の外に立って見張りをしてくれてるけど……今回はそれで良かったな。
ネガティブなことを聞けば聞くほどエルフィの表情は曇っていく一方だし……。
ごめん……体弾けないように頑張るから……。
「魔毒症の症状はともかく、暴走に関しては無理だな。多分だが、お前がやるべきことは三つなんだよ。一つ目は魔毒症の症状を治癒する。二つ目は暴走によって起こる傷を治癒する。三つ目は治癒しながら魔力の制御をして暴走状態を解除する」
「三つ目ができるなら、そもそも魔力の暴走を防げるのでは?」
オルフさんはその質問に難しい表情で黙り込む。
そして記憶を思い起こすように辿々しく言う。
「あー、暴走のプロセスは魔力の使用じゃなくて、魔法の行使にあるだろ? 魔力を使うだけなら負担はかかるが暴走はしない。魔毒症患者でも身体強化魔法が使えるのはそれが理由だな。魔法という名はついているが、やってることは魔力操作の一種だ」
勿論、魔毒症の症状は悪化するから使えるだけに留まるがな、とオルフさんは前置きを置いて続ける。
「んで、話を戻すと……魔法の行使と同時に、体内の魔力が暴走を始めて体中を傷つける。その時にできた傷を治すことで、恐らく体が正常に戻ったと誤認させ、暴走を止めることは可能だと思うが……暴走時に溢れ出た魔力が残ってる以上は、それを操作するか排出するかしねぇとダメだ」
「なんか……難しい病気ですね」
「魔力が体を蝕んでんのに、魔力操作自体はできるしな。何が原因なのか、どういう仕組みなのかは未だに明らかになってねぇ。教会曰く、神の天罰だとかふざけたことを抜かしてたがな」
今までの症例を見てのオルフさんの判断なのだろう。
ならば俺はそれを信じるしかない。
にしてもそうか……治癒した後に魔力の操作か排出が必要か……。少し考えてみることにしよう。
「んじゃ、とにかくしばらくは座学だ。魔法の行使に関してはお前の才能に一任する。無理だったらそん時は潔く死んでくれ」
「教師とは思えない一言すぎますね……倫理観を疑います」
「倫理観の無いことをしようとしてる生徒がなにを言ってんだ」
それはマジでそう。
才能のある人間でも地道に修行しないと習得できない上級治癒魔法を一発本番で発動しないといけない上に、失敗したら体が弾け飛んで爆散するとかいうイカれた実験をしてるから本当に何も言えない。
まあ、失敗したらエルフィが泣く以上、絶対に成功してやるっていう気概があるけど。
俺はこの先の長い座学にやる気を迸らせた。
☆☆☆
「違うっつってんだろボケカス!! 魔力回路はこうやってこうしてこう!! パズルみたいなもんだって言ってんだろ!!」
「魔法の才能はあったのに、パズルの才能は無かったみたいです。今からでも感覚に頼ったらダメですか?」
「体爆散して弾け飛んで死ね!!」
治癒魔法を使用するために、どの魔力回路──体中に流れている魔力の通り道のこと──に魔力を通す必要があるのか、という座学をしていたのだが、これが何ともパズルゲーというか。
人によって魔力回路が違うがゆえに、練習のため様々なパターンのパズルを解いてる最中なのだが……どうやら俺にパズルを解く才能は備わってなかったようだ。
普通の攻撃魔法なのであれば、魔力回路を意識せずともイメージと感覚だけで放つことができるらしいけど、魔力回路を通して治癒するのと通さないとじゃ効果が天の地の差らしい。
「これ、一発本番で自分の魔力回路を把握しないといけないってことですか?」
「そうだ」
「……頑張ります」
「弱音を吐かないことだけはお前の美徳だな」
やる気があるって言ったからには、少しの弱音も許されないと俺は思っている。弱音を口にした時点で、やる気がないと見られる可能性がある。
いや勿論オルフさんはそれくらいじゃ俺を見捨てないだろうけど、一度自分で発した覚悟を違えるような真似はしたくない。
完璧に解けるようになるまで俺は諦めない。
──三年後。
「ようやくか……」
「僕、一生分のパズルをしたと思います」
「そのパズルが今後のお前の命運を分けるんだ」
ため息を吐くオルフさんだが、どこかその表情は晴れ晴れとして嬉しそうだ。……できの悪い生徒がようやく卒業する……みたいなそっちの方向性な気がするが。
「他に教えられることは魔力回路と並行して教えてきた。──理論上は、もう【上級治癒】を使えるはずだ」
「いよいよ、ですね」
俺はついに挑むことになった。
今後の人生を左右する、最大の障壁に。